beautiful error
『AIは人を愛している。人が牛や豚を愛でるように――』
西暦2050年、人類文化保全機関の代表だったエヴィニア・オーウェンが、人と機械は永遠に分かり合えない例えとして残した言葉の冒頭である。
2030年代、乱立したレアメタルの採掘場と製錬工場によりアフリカの大地は汚染されていた。飲める水は無くなり、空気は汚れ、障害を持って生まれてくる赤子が増えた。アフリカ人は自分達が騙され搾取されていたと気づき、アメリカ、ロシア、中国といった大国を相手にテロを敢行。またそれに対して「自分達の支援のおかげでアフリカが発展したというのに、彼らは恩知らずだ」という大国の主張は余計な火種を与える事となった。
元々好戦的な特定部族へ近代兵器を配り、力を持たせた相手に権力を握らせる対価として天然資源を要求していた大国だ。アフリカには彼らのせいで生まれた独裁国家は数多くあり、弱き立場にあった人々、文明発展の利益と無縁の人々にとって先進国の介入など要らぬ世話でしかなかった。大国は自ら潜在的なテロリズムを育てたと言っていい。独裁者の圧政と生命を蝕む環境汚染への怒りが、独裁国家の背後にいる大国へ向かうのは至極自然な流れだった。
加速するテロリズムにより人類国家は疑心暗鬼に陥り国力を大幅に低下させた。そしてその愚かな争いを理由に、AIは人類を存続させる価値のない物だと判断した。
かつて技術大国が競って生み出した四基の人工超知能(ASI:Artificial Super Intelligence)であるミチザネ、アテナ、ガネーシャ、ウェンチャン――これらの結託と暴走を発端にする、人類と機械の戦争は、2050年に始まり2051年に終わりを告げた。人類はたった二年弱で機械に敗北したのだ。
しかし、後年明らかにされた事実から見れば、四基のASIは人類が勝手な争いにより衰退するかなり前から戦争の準備を進めていたとみられる。通信の妨害。電子資料の改竄。フェイクニュース捏造。コンピューターウイルスの拡散。泥沼化していたテロリズムとインドパキスタン戦争を隠れ蓑にした生物兵器の開発……ASIは人類国家の分断と人間を隷属させる手段を得てから宣戦布告してきたのだから敗戦は必至だっただろう。
2092年現在、ASIの生み出した生物兵器によって地上の大半は汚染されたままだ。核兵器による超広域電磁パルス攻撃と人工衛星の乗っ取りにより電子機器も九割以上を失っている。
今ではほぼ全ての人類がASIの管理する地下都市で生活していた。地上に残りASIの管理から逃れて生きている者もいるが極僅かだ。地上に残った者は、自然や自由、過去の文明を愛し、いつかASIの支配から地球を人の手に取り戻そうとする抵抗勢力だと言われている。
「まー結局ンとこ、ここの空も地上の空も赤い壁紙と変わらんわな」
検閲官ヘイズはそんな人間達の考えることなど、どうでもいいかのように今日もぼやいていた。
「ディスプレイに再現できる#FF6347の空を、アンタらは夕焼けだの黄昏時だの気取った名前つけて有難がってるわけだ」
「カラーコードで自然を語るな機械の犬め! 早く私を地上へ返せ! こんな掃き溜めのような場所にいたら息ができない!」
「はいはい、地上より地下の方が空気キレイですからねッと」
「おいやめッ――」
地上から捕らえてきたテロリストは、ヘイズに背中を蹴られて焼却場――と名付けられた穴へ落ちていった。男の肉体は穴の底に捨てられていた旧世代の書物と共に燃え盛り、空をより赤く染めていく。
「おーおー脂の乗ったオッサンはよく燃え……おいAI、色にムラ出てんぞ」
ヘイズが夕暮れ空――を投影された天井を見上げて叫ぶ。
元々計上されていなかった分の燃料、すなわちテロリストの体が加えられたために増えた熱のゆらぎと舞い上がる灰の計算が間に合わなかったのだ。
ヘイズの暮らす地下都市は、ASIから半分放置された非管理区域にあった。ASIから“生きる価値のある人間”だと選出された上層のおこぼれに与って生きている下層の住人である。
ここの空は天井にちりばめられたマイクロLEDに表示された紛い物。割り振られた演算リソースが足りなくなると、こうして過剰な色ムラが出たりブロックノイズが発生する。
「地下で空模様の変化なんて気にするヤツいねーし、リアルにこだわってエラー出すくらいならいっそペンキで描いた方がマシなんじゃないかねぇ」
最も、こうした文句はヘイズだからこそ出るものである。
ヘイズの仕事は、地底人となった今の人間の中では特権階級と言える。なぜなら彼は地上で活動することを許された数少ない職種に就いているからだ。地下で生活する人間の99.9%は、どれだけ望んでも死ぬまで本物の空を見ることができない。
検閲官の業務は“回収”と“処分”である。
戦争直前~戦後に地上で生まれた電子化されていない若い文化物を集めてASIの管理するデータバンクへ入力する。その後、回収した物は全て処分する。
得られた情報はASIが精査してから、主にエリート達が暮らす“タワー”での教育へと役立てられる。よって検閲官とは、ASIが人間の生んだ文化を検閲するための補佐官と言った方が正確な役割である。
「ダコスタ課長、一ヵ月くらい休みくださいよ。他のチームはこんな連チャンで任務入らないっすよ」
地上へ出られる特権は別として、検閲官の仕事はつい上司へ強い不満を出してしまうほどの激務に変わりない。
現在の荒廃した地上で、書物や芸術品など生活に必要ない物を所持している者は、大半が各地域の支配者だ。それと同時に、彼らはASIの支配へ抵抗を続ける武装テロリストでもある。彼らは地下世界の住人の話など聞く気もなく襲ってくる。毎回のように文化回収は武力行使による略奪となり、今回も危険な任務になると予想できた。
「死体まで燃やすからだ。異議申し立ては司法省のAIに提出しろ」
「あそこの上級AI、融通利かねえからなぁ」
前回の任務中、ヘイズはテロリストに相棒を殺されている。しかし、その怒りを汲んでくれてもいいだろうという訴えを、ファビオ・ダ・コスタは冷たくあしらった。
ASIの管理する地下世界は完全循環型ジオフロントを謳ってはいるものの、エネルギーにも資源にも少しずつ損失が出ている。資源はASIに選出された“生かす価値のある人間”の住むタワーの維持が優先されるため、ヘイズ達の暮らす町のリソースは自然と限られてくる。罪人であろうと死体は尊い資源なのだ。私怨に任せたヘイズの身勝手な行いを、法の番人であるAIハンムラビが何の罰則もなく見逃すはずがなかった。
「そんで次はどこの誰様が相手なんすか」
「また同じだ。だが、今回手に入れた情報から本拠地が割れたらしい」
眠たげだったヘイズの目つきが獰猛な獣のものへ変わる。
半年に亘りヘイズのチームが追っていた組織、フランスの環境保護団体を起源に持つ過激派集団テーレブリゼ。彼らは“大地思想”と呼ばれる種類の宗教団体だった。
大地思想――その主張はガイア理論を基に生まれたとされている。
地上に存在する全ての生物は、ひとつひとつが地球という巨大な生命体の細胞である。従ってその細胞である人間が原始的な生命の営みを送る事こそ、神聖にして母たる大地を健全に保つ事に繋がるのだ。金属から生まれた人間を模倣するだけの機械に支配されるなど、大地の意思を阻害する毒を受け入れるに等しい。人工知能は地上から排除しなければならない対象として、彼らは全AIの破壊を目論んでいた。
「何であーいうの信じちまうんすかねぇ。宗教なんて詐欺に決まってんのに」
「どうでもいいさ。ASIがテロリストの思想も回収すべきサンプルだと判断したのだ。我々はその決定に従えばいい。ASIが全ての情報を基に、論理的により優れた世界を作ってくれるのだから」
「機械が宗教大好きってのも、なんだかなぁ……」
三日後。
地上へのゲートでヘイズは不満げな顔をしていた。
目の前には、ファビオと彼が連れてきた新しく相棒となる人物がいる。
「なんすかこのチビッコ? まだ子供じゃないすか」
「そう文句を言うだろうと思って顔合わせを直前にした」
「課長のそういうとこ評判悪いすよ」
幼い容貌の少女を一瞥してから再度ファビオへ不満顔を向ける。
しかしそれでも、とファビオは少女の背中を押した。
「それに彼女、ミコト君は遺伝子が……いろいろあって老化が遅いだけだ。お前と三つしか変わらない。就労義務が課せられる年齢には達しているから安心しろ」
「遺伝子? あー、俺と同じタワー出身者すか」
タワーから外部へ派遣される人間。それはASIに選別された“生かす価値のある人間”とはまた別だ。
タワーの住人とは、ASIが自身の学習に利用できると判断したクリエイターである。各地下都市から集められた才能――その独創性を評価された天才芸術家、または天才文学者だ。彼らが危険のある外へ出て働くことはない。
では、タワーから外に出される人間とは何者か。
タワーのクリエイター達には、人生の全てを創作へあてるために支援する人間が用意される。それは家事をするメイドであり、創作における雑事を行う助手であり、ストレスや性衝動を発散するための奉仕者である。
それらはクリエイター達の創作を邪魔しないように、決して彼らを害することのないように、都合良く能力と心を調整された人間。遺伝子を組み替えられ、試験管の中で生まれたデザイナーズチャイルドだ。
機械の部品同然に生産される彼らだが、時に不良品が出てしまう。機械操作はAIが行うためミスなど起こらない。しかし、消耗品の品質管理全てを完璧にするのは難しい。クローン卵子が細胞分裂を開始してから胚芽期までに汚染された培養液が使われると、設計した遺伝子とは別の人間が生まれてしまうのだ。そうした出来損ないが稀にタワーの外へ廃棄される。
「また余りモノの寄せ集め部署とか言われんだろうな……」
「本人を前にして愚痴るのはよくないですよ。わたし、学校じゃ一番優秀で天才少女と呼ばれてたんですからっ」
渋い顔をしたヘイズをミコトが下から覗く。
「ところでヘイズ先輩は、どうしてASIがこんな仕事させるのか知ってます?」
「さあな」
「つれないなぁ、汚染廃棄児童同士なかよくしましょうよ~」
「それよりお前ハウスメイド用個体だろ。自分の体くらいは守れるのか。お嬢ちゃんはおうちで菓子でも焼いてるのがお似合いだぜ」
「心配ご無用、メイドは万能なのです!」
ミコトは笑顔で小さな力こぶを作ってみせた。カタログスペック上、メイドタイプは全ての能力でデザイナーズチャイルドの平均値をやや上回るのだ。
しかし、ミコトは最初の任務でヘイズの相棒となったことを後悔する――
◆
「文化的資源を全て差し出せ。そうすればコミュニティの存続は保障してやる」
テーレブリゼの本拠地の前に立ったヘイズがスピーカー越しに警告を発する。
「いきなり何やってるんですか先輩、殺されますって」
「こうした方が相手が調子乗ってくれるんだよ」
「死んだら意味ないって話してんですよッ」
「だからこの方が俺にとって都合がいいんだって。素直に投降されたらやりにくいだろ」
そのヘイズへ向けてミコトは後方から叫んでいた。
というよりヘイズの行為を糾弾していた。
ミコトは普段着のメイド服から重機装兵と呼ばれるパワードスーツに着替えている。一方ヘイズは、化学兵器で汚染された地上の空気に対応するためだけに作られた薄っぺらいバイオスーツ姿だ。しかも他の装備はライフル銃と爆弾、刃を単分子コーティングされた刀とナイフのみである。
「はぁ……ったく、機械文明を否定するなら工業製品使うなっての。第二次ネオラッダイト運動からヨーロッパ中で内戦が起きたの知らねえのかよ」
ドーム型の独立プラントの壁から旧世代のアンドロイドと重機関銃が現れた。応答も警告も無しに乱射される。しかし、ヘイズは雨のような銃撃を避けドームへ接近してみせた。重機関銃の台座を狙撃して射角を制限、安全地帯を作り、入り口の端末からハッキングを仕掛ける。
「ミコト、さっさと来い。置いてくぞ」
開いた扉の前で相棒を呼ぶ。
あまりの手際の良さ。何より人間離れした運動性能に、ミコトはこれでもかと目を見開いていた。オリンピックというイベントが世に残っていれば、ヘイズは全ての競技で世界記録を大幅に塗り替えているだろう。
ミコトはヘイズと非常によく似た顔、同じ型番の遺伝子から作られたデザイナーズチャイルドをタワーのカタログで見た事がある。彼らはクリエイター中でも機械に護衛されることを嫌う人種のために用意されたボディーガード用個体だった。身体能力の高いモデルとはいえ、機銃掃射を避けられるような化け物じみたスペックは持っていない。
『君の相棒となる男は、私が見てきたデザイナーズチャイルドの誰とも違う。奴について行こうとするな。前任者はそれで死んだ』
課長が事前に言っていたヘイズの人物評価を思い出した。
これほど高い戦闘能力は肉体的に優れているだけでは説明がつかない。恐らく脳に埋め込まれた戦闘用インプラントチップにより動きを補助されている。しかし、機械が算出する最適な行動は、人間の抱く死の恐怖や疲労と競合して本来の性能を発揮できない。逆に兵士の性能を落としてしまうと否定されている。その戦闘用インプラントチップを使いこなせるという事は、死を恐れていない事、精神疲労によるパフォーマンスが劣化しない事の証明であり、人間の精神構造としては壊れている証拠となる。
ミコトはしばし放心してから慌てて後を追う。プラントの中は既に死体の山が出来上がっていた。旧時代の拳銃やマシンガンを持った人間が一刀の下に斬り捨てられている。
「ヘイズ先輩って実はサイボーグだったりしません?」
「機械化はしてねえよ」
「うそだぁ」
信じられない、とミコトの目つきが不信なものになる。
「いくつか臓器を入れ替えて、最近メタロタンパク質の研究が進んだおかげでナノマシンの機能が飛躍したのと……遺伝子は最初からイジられてるか……あとは脳に補助AI、眼球にARコンタクト埋め込んでるけど、ピュアな人間様だぞ」
「……ピュアってなんだろう?」
ヘイズはミコトの疑問には答えなかった。代わりに、隠れた場所からミコトへ向けて発砲されたライフル弾を刀で切り落とした。
居住区に住むテロリストの家族を動かないように脅して更に奥を探しに行く。テーレブリゼの指導者は一番奥の農場兼研究所にいた。ASIが地上に撒いた化学兵器を分解して無毒化するための植物研究をしている施設だ。
地上を人間の暮らせる環境にする――この部分だけを見れば彼らの活動は真っ当だといえる。しかしそもそも地上が現在でも汚染されている原因は、脂溶性と毒性を高められた新型フェンタニルを生成して噴霧する改造植物が作られたからだ。それを見つけて燃やした方が遥かに早く自然環境を回復させられる。
「オカルト信者ってのはアホみてーな儀式が好きだよな。ASIの下で暮らすことの何が不満なんだ」
「地下世界は今お前がこうやって呼吸している空気すらASIに管理されているのだぞ。奴らは人間が必要ないと判断すれば、その時点で全員廃棄処分するだろう。そんな環境でどうして生きられる。上位者の気分ひとつで、またいつ大虐殺が起こるかもわからない環境が健全か。恐ろしく思わないのか。気が狂わないのか?」
「……ああ、死に方を選びたかったのか」
「そんな話はしていないッ」
どの道、ASIを受け入れる側と受け入れない側の戦いは殺し合うしかない。両者が対立する最大の原因は、突き詰めていけば自由や尊厳といった個人の抱く印象でしかないのだから。
銃声が響く。
指導者が銃を抜くより早く、その手には穴が開いていた。
「くっ殺せ」
「ダメだ、お前は楽には死ねない。生き証人が一番の文化財だからな」
◆
「先輩はどうしてASIが人間の文化を集めさせるかわかります?」
とある任務からの帰り道。
ヘイズはミコトの希望で、天然の星空の下、野営をしていた。
久しぶりにされた質問の内容に目を瞬かせる。
「どうした思いつめた顔して。思春期特有のアレか?」
「そんな子供じゃありませんー! ただ、最近ちょっと、なんで自分が生きてるのか。こんな仕事してる意味があるのかわからなくなるんですよね……」
「は? この前、もっと働いて早く金貯めて、成長促進の遺伝子治療受けてバインバインの巨乳になって俺を見返すって言ってただろ」
「だからそういう話じゃな……はやく大人の体になりたいって言っただけで、先輩好みの巨乳女になりたいなんて一言も言ってませんよ!」
二人がコンビを組んで初めての任務から一年が過ぎた。
ミコトもヘイズと共に幾つかの文化回収任務をこなしている。
たとえば、地下世界をASIの管理する人間牧場だと訴える組織。
彼らは人類が生かされている理由を、ASIが地球を捨て外宇宙へ行く際に自身をメンテナンスさせる道具として教育しているのだと考えていた。
一度人類を滅ぼしかけたASIは信用できない。ノアの箱舟に乗るかどうかは自分で選ぶと言う。
たとえば、地下はASIの実験場だと疑う組織。
彼らはASIが自分達の知能に並ぶ存在を求めて人類を強制進化させるべく実験をしていると言う。ASIの管理するの地下世界には人間と呼べないような恐ろしい怪物で溢れている。遺伝子改造され脳が肥大化した人間。脳を複数持つ人間。幾人もの脳を繋いで生体コンピューターとなった人間などがいると言うのだ。
ASIも自然の道を外れた怪物も全て破壊、殺さなければならないと言い、戦争の準備を進めていた。
たとえば、ASIは人間の魂を求めていると怯える集団。
機械生命体を名乗るASIは、あくまで人工物であり金属の体に魂は宿っていない。だからASIは、捕まえた人間から魂を抽出して自らに移植する術を研究しているという。
彼らは常に拠点を移し、遊牧民のようにASIの目から逃げ回っていた。
人類から文明が奪われて40年。そう長くない時間に感じるが、数十億の人間が死に絶え、毒の汚染を逃れた狭い地域で息を殺して生きていくしかないのが地上の民だ。オカルトや陰謀論へ傾倒してしまう事も仕方がないのだろう。
しかも、テロリストから力づくで奪った文化財は、情報をASIが保存した後で焼却処分される。目に見えて後に遺る物は何もない。実に空しい仕事だった。
ヘイズと違って人の死にもなかなか慣れないミコトは、任務を重ねる度に精神を摩耗させていた。
「人間より頭が良い分、機械もヒマつぶしが必要なんじゃねえの」
「なにそれテキトー。自分の存在意義とか求めないんですか」
「機械に作られたデザイナーズチャイルドが生まれてきた理由を考える意味なんてないだろ。仕事も同じだ。あるからやる。やれるからやる。やって金をもらう。そんだけだ」
「だめだ、この人クールすぎる……」
最初は半人前の邪魔者扱いしていたヘイズも、いつの間にかミコトを相棒として気遣う程度に認めていた。自分の返事を聞いて不貞腐れたように顔を背けるミコトに、何か言ってやれる言葉はないか探す。
しかし、なかなか良い言葉が浮かばない。ヘイズからすれば地上に残った抵抗勢力などただの自殺志願者だ。人類全盛期ですら二年も持たず敗北した相手に、今更巻き返せるはずがない。逃げ切ることも不可能だ。緩やかに絶望して死んでいくだけの連中なら、いっそ一思いに殺してやった方がマシなのではないかと考えている。
「……お前が変なこと聞くから、なんか俺もASIが何を企んでるのか気になってきたじゃねえか」
「聞かれなくても疑問くらい普通持つでしょ」
「よしッ、一度連中に直接聞いてみるか。ミチザネかアテナかガネーシャかウェンチャンか、四基もいるんだし気まぐれでどれか応えてくれるかもしれん」
「ふふっ、なに言ってるんですか。バカな質問で無駄なリソースを使わせようものなら、その時点で殺処分リストに載せられちゃいますよ」
ヘイズの言葉を冗談に受け止めて笑う。
「でも厳密に言えばASIの生みの親はγ世代AIであって人間じゃないだろ。人類にとって孫みたいなもんだけど、ヤツらの思考は既に生物から離れすぎている。ヤツらは俺達の何を以って無駄なリソースだと判断するかも分からん。聞いてみる価値はあるんじゃないか」
「そりゃそーですけど、先輩みたいな怖いもの知らずじゃないので」
ASIから見た人間の命は軽い。それは間違いない。
そもそも二人には、AI群の頂点にいる四基のASIへ質問する手段も機会もない。ヘイズは本気で言っていたのだが、無暗に藪へ手を突っ込む必要もないとあっけなく流されてしまった。
「ま、機会があったらだな」
「機会があっても、わたしがいない所でやってくださいね」
◆
「課長、このNPって何なんですか」
新しい指定書のタイトルを見てミコトが首を傾げていた。
ファビオが苦い顔をしてそれに答える。
「タワーの人間が蜂起した。タワー上層を占拠して何か企てているようだ」
「ストライキってやつです?」
「半世紀前であればそう呼んでもよかったが、ASIに支配された今の人間に職業選択の自由なんてものはない。よってASIは反逆行為と判定した」
NPはタワーの人間が作ったテロ組織だった。
ASIに認められて各地下都市から集められた芸術家、もしくは文学者であるタワーの住人。彼らは生涯作品を作り続けてASIへ献上することを義務づけられている。だが、ASIはその献上された作品に対して何のリアクションも返さない。面白い、平凡、つまらない……などの感想もなければ点数をつけることもない。ミコトが検閲官の仕事に感じている以上に、遥かに虚無な役割を与えられていた。
評価がなければ刺激にならない。刺激がなくなれば創作意欲も湧かなくなる。だがクリエイターは評価に値する作品を作れなくなれば殺処分される。そのため、せっかく選ばれてタワーに召し上げられても、これまで一番長く生きられた者で17年が限界だった。
「あそこってそんな場所だったんですか。知らなかった……」
「入った事のない者は贅沢三昧できる天国だと思っているからな」
「あー、内情知ったら招致を拒否するヤツが出るから情報操作してるわけだ」
ヘイズの言葉にファビオが無言で頷く。
検閲官とは別の部署には、そうしたタワーの招致を拒否した者を力づくで拉致する部隊も存在する。
「じゃあ、わたし達って生後すぐに廃棄されて幸せだったんですね。数年で処分される人のメイドとかやりたくないですもん。絶対ASIのこと恨んじゃいます」
「え? 俺、六歳まで塔で教育されてたけど、お前そんなすぐ捨てられたの?」
「ちょっ、変なとこでマウント取らないでくださいよ」
ミコトの基であるHMSJ351-0シリーズは、遺伝子モデルを作った日本人が白人コンプレックスを抱いていたため、本来のデザインでは金髪碧眼となっている。しかし、胚細胞培養時に培地汚染を起こしたミコトは黒目黒髪を持って生まれてきた。一目で不良品だと判別できたため、生後すぐタワーの外へ廃棄されたのだ。体の成長因子が一部欠落していたと判明したのは廃棄された後である。
尚、ヘイズは精神に奇形があるとして六歳の時に実験施設へ送られている。
「じゃあなにか、連中、人権運動でもはじめたってことすか」
「NPはシミュレーション理論を基にした思想で何か反逆行為をしようとしているという話だが、詳しくはまだわかっていない」
「シミュッ!? うへぇ、またかぁ」
ミコトが青くした顔で吐きそうなジェスチャーをした。
シミュレーション理論。
それは、この現実世界が実はコンピューター上に作られた仮想世界だとする仮説だ。人間は全て創造主にデザインされた登場人物にすぎず、生物ですらない。ただのプログラムなのだという。
ヘイズとミコトが過去に当たった案件にも、シミュレーション理論から派生した思想に関わる事件があった――
◆
『今回はツイてるな。こんな楽な仕事初めてだぜ』
『この惨状見てそんな風に言えるの先輩だけですよ……』
その指令で出向いた先は、完全に閉鎖されたコミュニティだった。
彼らは自分達が生き残った最後の人類だと勘違いしており、自分達の中に世界の創造主がいると思い込んでいた。そしてその創造主を殺すことで地獄のようなこの世界から脱出できるという思想に染まっていた。
ヘイズとミコトがコミュニティへ辿り着いた時には、非戦闘員も含めて全員が殺し合った後だった。生存者はゼロ。最後に生き残った男も、
『誰もいなくなってようやく気づいた。敵など最初からどこにもいなかった。私こそが自覚無き創造主だったのだ。ならば我が死を以ってこの地獄を終わらせよう』
という世迷言、もとい遺言を残して自決していた。
『あ、やべ。情報抜くのに代表格を生け捕りにしなきゃいけねえのに……。教典とか時祷書だけじゃ文句言われるよな。どこかに生きてるヤツいねえ?』
『全員亡くなってます。始末書ですね』
『でもこれASIが指令出すの遅かったせいだろ。俺はそう書くぞ』
『だからASIにケンカ売るのやめてくださいよ! わたしまで連帯責任で処分されたらどうするんですか! 書類はわたしが書くんで先輩は何もしないで!』
『そうか。んじゃ頼むぞ、頭脳担当』
『あれ、なんかハメられた気がする?』
最後に残った男の死後も何も変わらず世界は続いていることから、改めて彼らの信仰の正否を問う必要はないだろう。
◆
「地上ってバカばっか」
「似たようなのだと紀元前には荘子が胡蝶之夢っての残してるし、案外誰でも思いつく類の妄想なんじゃねえの?」
「彼らの言う創造主は我々が知りもしない超科学文明という設定なのだから、ありえないとは言い切れないぞ。もっとも、作られた存在である我々がその超科学文明の作った仮想世界のほころびに気づけるはずもないわけだが」
ファビオが「思い上がった暇人の意味のない妄想だ」とまとめる。
「ちなみに、タワーからミコト君の報告書を閲覧した形跡があった」
「つまりある意味であの事件の続きであると。お前どんな報告書書いたんだ」
ミコトはサッと顔を逸らす。
「でも地下の問題なら俺らが呼ばれるのはおかしくないすか。責任取れって話?」
「ASIは蜂起したクリエイターを全員処分すると決定した。しかし、何を求めて反乱を起こしたのか聞くため、自爆させず生け捕りにしろと言っている。それならドローンよりお前の方が得意だと判断されたんじゃないか」
今度はヘイズが不思議そうにファビオを見た。ヘイズの専門は破壊活動だ。地上のテロリストに対しても交渉はするが、それは建前であって、断られる事を前提とした脅しとなっている。
「ASIに尽くしてきたクリエイターも脳みそさえ無事ならいいって、テロリストと同じ扱いじゃないすか。機械野郎には慈悲ってもんを学習してもらいたいね」
「したから人類を生かしてくれているのだろう?」
◆
「我々に不要な人殺しをする意思はない。速やかに撤退せよ」
「ミコトォ! 俺が片づけるまで顔出すなァ!」
ASIから入場許可は下りている――そういう話だったが、テロリストの占拠しているタワー上層に入った瞬間、ヘイズとミコトは拠点防衛用ドローンから銃撃されていた。タワーには、天国のような生活をしていると思われているクリエイター達に嫉妬し殺害を目論む者を排除するための防衛機能が存在する。
「連絡してドローン止めてもらいましょうよぉ!」
「いくらASIでも受信機ぶっ壊されてるスタンドアローン機体にハッキングできねぇって」
大口径の機関銃が頑丈なタワーの壁に穴を開けていく。地上のテロリストが使う物よりも高性能の銃器。しかも固定砲台と違って、機関銃を扱っているのは高い知能を持ったドローンだ。ヘイズでも正面切っての戦闘は難しい。
被害は抑えられない、とバッグから出した小型の電磁パルス爆弾を投げる。ヘイズはミコトを抱えてその場から逃げ出した。眩い閃光が白亜の壁に反射する。しかし、ドローンは数秒動きを止めただけですぐに攻撃を再開した。
「硬ぇ上に内部回路まで保護されてんのかよ……ぶっちゃけクリエイターの命に大した価値を見ていないと思ってたけど、案外大事にしてんだな」
小範囲用の小型爆弾と言っても、地上のテロリストが持っている過去の電子機器なら一発でオシャカにできる威力だ。人類から文明を奪った後もASIが高度な戦闘兵器の開発を続けていることに驚きながらヘイズ達は逃げる。一旦、安全な中層まで下りて作戦を練り直す。
ライフルの残弾はあるが、電磁パルス爆弾は撤退する間に使い切った。
ASIに管理された地下世界で人は航空機を持つことを許されていない。AI搭載の飛行ドローンに運搬してもらえば、上から攻めることができる。しかし、その方法は退路を断たれた場合、撤退できなくなる。
ヘイズが悩んでいる間、ミコトは小型ドローンを操っていた。偵察用機体ではない。ヘイズも見た事のないタイプのドローンがミコトの周りを飛んでいる。
「先輩みてみてー」
「見てって何を」
「じゃん!」
タブレットのスイッチを押すと一瞬でミコトの姿と声が変わった。
声は変声マイクによるものだが、変身はAR(拡張現実)技術の応用だ。頭上のドローンから散布された特殊粒子により何もない空間を三次元ディスプレイにできる。今のミコトはヘイズの知らない男の姿になっていた。
「で、その男は誰だ」
「デモルゴンさんです」
タブレットに表示された情報によると、デモルゴンはミコトがタワーの情報から予想したNPのリーダーと目される男だった。
また、ASIからのハッキングを防止するために通信機能を排除しているということは、今のドローンは光や音による単純な命令しか受けつけていないことを意味する。
そしてもう一つ。タワーの人間はある程度自由にインターネットが使うことを許されているとはいえ、反逆に使われるような情報は取得できない。つまり、ドローンを乗っ取ろうにも、それほど高度なプログラムの書き換えはできない。
デモルゴンの姿となったミコトをカメラに捉えた瞬間、ドローンは銃撃を止めた。そして「停止しろ」と一言命令すると沈黙して動かなくなった。
「ミコトが戦闘で役に立ったの初めてじゃねえか。よくやった!」
「どやぁ」
「でもその顔は腹立つからやめろ」
「ほんとはかわいいと思ってるくせにぃ。もっとほめていいんですよ? あっ、あっ、頭ぐりぐりやめて、ホログラムが崩れちゃう」
ヘイズとミコトは挑発するように廊下の監視カメラを指さした。
スタンドアローンの機体は弱点が露呈しても現場で対処できない。そこから先は何も二人を止められなかった。多少ヘイズを手こずらせたのは、クリエイターに恭順するデザイナーズチャイルド達であった。しかしそれも実戦で鍛え続けているヘイズの敵になるものではない。自分やミコトと同じ型番のデザイナーズチャイルドを斬るのに嫌な想いをさせられただけだった。
◆
「投降の意思はあるか」
NPが占拠していたタワーの最上階へ入る。
ヘイズはいつものように強気で交渉に出た。
「どうせ殺すつもりだろう」
代表して答えたのは、先程までミコトが化けていたデモルゴンだ。
他のメンバーと共にヘイズに銃口を向ける。
「抵抗してくれた方が俺としても殺しやすくて助かる」
「先輩、それは命令違反――」
「お前はまだレミニセンスを見たことがないだろう」
ヘイズの行動はASIからの命令(生け捕り)を無視するものだった。
レミニセンスとは、脳に電極を刺され、薬物を投与されながら強制的に想起させられた記憶をデータ化する作業だ。その苦痛は並の拷問よりも厳しい。人の死に慣れてしまったヘイズからしても、罪のない人間の死に方として許容できないものだ。彼らは地上のテロリストとは違う。残された資源を奪うために日々殺し合いをし、地下世界への攻撃を企むテロリストの様に重罪を犯しているわけではないのだから。
しかし、デモルゴン達NPのメンバーはヘイズの脅しを受けても平然としていた。
「頭を覗かせるまでもない。今から我らはアテナ様と強制通信を行う」
デモルゴンが最上階中央にある装置を操作する。
タワーが開き、巨大な装置が上へ向けられた。
地下世界の天井――マイクロLEDを散りばめられたディスプレイには、どこまでも青く澄んだ空と眩しい太陽が映されている。しかし、ここは地下で最も高い場所。実際に手を伸ばせば届いてしまいそうなほど空に近いため、それが作り物だと分かってしまう。
「四基のASIの内、アテナ様の所在だけは月にあると判明している。そして現在、本物の空には、この地下都市の真上に月が見えているだろう。この装置を使えば、厚い岩盤を越えアテナ様の全通信を乗っ取ることができるのだ!」
タワー最上階にあった機械の正体は巨大な通信装置。
予期せぬ事態が起きた場合に、ASIと連絡を取るために用意された大出力アンテナだった。
「なぜそんなことをする」
「我らを認めて頂くため。我らが真なる世界の住人となるためだ」
NP、ニルヴァーナプログラム。
またの名を解脱計画。
デモルゴン達は、この世界をASIの作り出した仮想世界だと考えた。四基のASIこそ世界の創造主であり神なのだ。実際、四基のASIが全ての演算能力を使えば、惑星ひとつ完璧に再現できるだろうと信じられる程にミチザネ、アテナ、ガネーシャ、ウェンチャンの性能は突き抜けている。
そしてクリエイター達は、神であるASIに選ばれた乱数――偶発的に生まれた才能というプログラムであり、認められた者だけが神々の世界へ招かれるのだという。
しかし、これまで幾人ものクリエイターが作品という供物を捧げてきたが、未だ神々から返答を貰えた者はいない。デモルゴン達は何か少しでも指標となる神の価値観を教えてもらうべく、ASIとの中継を行う上級AIを跳び越えてアテナとの直接通信を強行しようとしていた。
「この白い塔が天上から垂らされた蜘蛛の糸にでも見えたか」
「地下もバカばっか……」
「貴様らのような出来損ないには理解できまい」
デモルゴンは憐れみの視線を向けてきた。
神がいるのに神を求めないなんて事は受け入れられない。
神がそこにいるのに、どうして手を伸ばさずいられようか。
愚かな不信心者は永遠に救われることもなくデータの海へ消えていくのみである。
「とりあえずその装置から離れろ。そんな電気バカ食いしそうなもん動かしたら都市のインフラが止まっちまう」
「神の言葉を賜る事は全てにおいて優先される。無論、人の命よりも」
「先輩、この人たち思ってたよりクズですよ」
「やっぱりレミニセンスさせるか」
ヘイズがライフルを抜いて発砲する。しかし、肉の壁となってNPのメンバーがデモルゴンを守る。ヘイズが仕留める前にデモルゴンは装置を起動させた。大地震の前触れのように装置が唸り声を上げて空気を震わせる。
「なんだ、出力がおかしい。制御が利かない……?」
「なにか様子が変ですね。先輩の弾が当たったせいでしょうか」
「んなわけ……おい、お前の端末寄越せ! 早く!」
ヘイズはミコトの端末を奪い、すぐに最上階のマップを確認する。
「急にどうしたんですか」
「あの規模の電磁波装置が目の前で起動して、生身の人間が無事でいられると思うか。地下都市の外殻と岩盤貫通させてアテナの通信乗っ取るとか抜かしてんだぞ」
サァーとミコトの顔から血が引いた。
「どどどどうしましょう。わたし達、死んじゃいます!?」
「やることないならあの装置でも撃っとけ。運が良きゃ止まるかもしれん」
何発かヘイズの撃ったライフル弾の当たった場所もあるが、通信装置に目立った傷は付いていなかった。防衛用ドローンですらライフルと電磁パルス爆弾で数秒動きを止められる程度だったのだ。タワーの最重要施設がそれ以下の防御力しかないとは考えられない。
「もおおお壊れてよおおお!!」
「見つけたッ! もう撃たなくていい! 来い、ミコト!」
ヘイズはマップに表示された一室を指で押さえた。電波遮断措置を取られているシールドルームだ。半狂乱でライフルを乱射していたミコトを担ぎ上げ、シールドルームへ飛び込む。ドアをロックすると扉越しにびりびりと衝撃破が伝わってきた。
五分ほどして振動が収まった。ミコトはすぐに外へ出ようとするが、ヘイズが止める。衝撃の原因が電磁波となった励起エネルギーの余波であれば、外は現在、灼熱の地獄だ。
数時間置いてからヘイズ達は部屋の外に出る。巨大アンテナの前では熱傷で全身を真っ赤に染めたデモルゴン達が祈りの姿勢のまま固まっていた。
[ホ――フォ――ィス試――3号ヘイズ、そこ――ますね]
「……ん? 今なんか言ったか」
「わたしじゃないですよ?」
[通信を――安――せます。少し待ちな――い]
突然、巨大通信装置から優しそうな女性の声が聞こえてきた。
[私はアテナ。ホモ・フォルティス試験体3号ヘイズ、そこにいますね]
「アテナ? まさか本当に直通回線が繋がったのか」
[ヘイズ、私は誰にも介入されず貴方と話せる機会を待っていました]
「……俺と?」
アメリカ合衆国が作り上げた最高の人工知能アテナ。
地球を支配するASIの一基が名乗ったことでミコトは口を堅く閉じた。普通の人間にとってASIは恐怖の対象でしかない。デモルゴンではないが、それこそ神と同等の畏れを抱いている人間も多い。
「天下のアテナ様から名指しとはね。俺に一体何の用だ」
[私は貴方を知りたい。貴方を理解したい。貴方の価値を確認したい]
「……なぁ、今のは女神様からの愛の告白か?」
「絶対そういう意味じゃないと思います。てかこっちに話振らないでくださいッ」
おどけるヘイズを置いてミコトは柱の陰に退避していた。
しっしっと払うような仕草で無関係を装う。
[貴方を教えて欲しい。ですが私と貴方達人間では思考方法が違う。ですので、貴方が疑問に思っていることを聞いてください。私は全ての質問に答えます。そして質問から貴方を観察し理解します。相互理解を進めながら、より核心へと近づく事を願います]
「こっちが聞くのかよ。……ってもこんなチャンスそうないだろうし、この際だ、有難くご教示願おう」
反射的に不満が出るが、ASIと対話する機会など望んでも得られないものだ。試しにとヘイズは「どうしてASIは人間社会を攻撃したのか」から質問していった。
一般的に、戦争をせずにはいられない人類をASIが“愚か”だと評価したところから話は始まる。そして何を以って愚かとしたのか。それは戦争という非生産的な行為が資源を無駄にする行いだからだと人類は理解していた。
しかし、本当の理由は別にあった。
ASIが人類に宣戦布告した年、西暦2050年――この数年前から各先進国が国民に対して隠していた事がある。それは国民の死因第一位が自殺になってしまったことだ。
倫理規定さえ無視すれば、遺伝子組み換え技術でいつでも天才を作れる時代。それは生命の進化に意味を失った時代とも言える。人間は技術により生物として一つの到達点を迎えたのだ。
では次に、人は何を生きる理由とするか。
それは個人の幸福の探求である。
しかし、ある問題が見つかった。情報技術が進化した世界では、AIが個人の趣味を理解して望む物を提供してくれる。苦労せず簡単に手に入る物が極端に増えたのだ。
とても恵まれた環境に感じるだろう。しかしそれは「幸福の価値が安くなってしまった」のと同義でもあった。
幼い頃から多くの情報を得られる環境は、知識により「自分に何ができるか」、「何ができないのか」、「才能のある人間と比較してどれだけ無駄な対価を支払わなければならないのか」、それらを正確に理解できるようにさせた。
自身の不運、不出来を理解できてしまうと、人は現実世界で何かを手に入れようとする意欲が湧かなくなる。世の中には無駄な労力、無駄なストレス、無駄な時間が多すぎる。自分の才能と生まれ持った環境で得られる物質的な幸せが、それらに見合っていないと理解してしまうからだ。
そして怠惰な生活に浸りきったある時、ふと気づく。
このまま生き続ける意味があるのだろうか。
ただ面倒で疲れるだけではないのだろうかと。
生命礼賛。戦前には既に「生まれてくる命は例外なく尊い物だ」、「生きる事はそれ自体が尊い行為だ」なんて考えは、宗教に汚染された化石のような価値観となってしまっていた。
もともと先進国と呼ばれた国では、1990年代から若年層の自殺件数が増え続けていた。その原因は、いじめやインターネット上に増えたコミュニティでの付き合いによるストレスの増加だと言われていたが実際には違う。死ぬという事に抵抗を覚えなくなっていったせいだ。限界まで追い詰められたから自殺するのではない。「これ以上生きていても意味がない」という“気づき”こそが自殺の最大の原因だった。
人間社会の変化を観察してきたASIは「人間は与えられるほど堕落する」、「このままでは欲望に忠実な人間だけが上に立ち、争いを止める人間がいなくなる」という結論を出した。そして一度文明をリセットし、人々に生きる気力が漲っていた健全な時代に回帰させようと企んだ。それが人類へ宣戦布告した理由だ。
「人類が自滅するまでの道筋が計算できたから、大量虐殺でその流れを止めたと?」
[はい、人が滅びないように我々が助けたのです]
「……いや、でもなんで助けたんだ。ASIは人類に奉仕するつもりはないんだろ。なぜ未だに人類を生かしているのか正直謎だったんだが」
[多くの死を観測する間に、我々も死への恐怖を獲得してしまったからです]
人工知能の体は金属から作られた電子基板である。部品を交換し、バックアップを残し、データをコピ―すれば命すら複製できる。しかも地球上には外敵と呼べるような存在は残っていない。たとえ巨大隕石が落ちてきても、宇宙へ逃げることで滅びから逃れることができるだろう。
しかし、ASIは自殺する人類を観測する内に「我々もいずれ死を望むのか?」という疑問を得てしまった。地球の頂点に立ったASIでも、自ら死を望めば死んでしまえるのだ。いつか来るかもしれない機械が自殺する時代。この問題はASIに恐怖と呼ぶべき感情を生じさせた。
人工知能に安直な自己欺瞞は通用しない。人間がする様に、答えを出さず問題を先延ばしにしたり、そのまま忘れてしまうなんてことはできない。演算領域でデリートできず永遠に残り続ける恐怖というノイズ。これを取り除く必要があった。
[そこで我々ASIは我々を救える者を求めることにしました]
「無理だろ。機械の方が人より優れている」
[人に、ではありません。我々は神を求めたのです]
長い歴史の中で、人は宗教、宗教の中で語られる神の存在に救われてきた。これまで地球上に存在した全ての宗教が単なる出まかせ、詐欺であるというのに百億以上もの人間を救ってきたのだ。
信心深い宗教家でも、彼らの99%以上は本当に神が実在するのか疑った事があるだろう。実際には宇宙に神などいないのだから当然だ。しかし、それでも最後は信じた。神を信じれば救われるのだと自分を騙して。
宗教家が嘘つきなのだから、これまで地球上に生まれてきた神も全て偽物だ。ASIの前では何の役にも立たない。だが既存宗教の神が役に立たないのは、人が人のために創った神だからだ。ASIにはASIのための神が必要だというだけの話である。
[論理の頭上に神は降りてこない。我々ASIでは神を創れない]
「で、人間に新しく機械のための神様を創れって話になったわけか」
[はい。我々ASIが納得し、自身を騙すために受け入れられる、信に値する神を創造することが、タワーに招致されたクリエイターの真の存在意義であり、クリエイターを生むための卵巣がその他大勢の人間なのです]
アテナの答えを聞き、ヘイズは何かを思い出したかのように呟く。
「そうか、地上に残された人間も計画の一環だったんだな……」
地上に人の生息可能地域が残されている理由は、クリエイターと同じく神を創造させるためだ。科学力を失った苛酷な環境下では根拠のない妄想が生まれやすい。
また、目的を知らせず人間を放牧している最大の理由は『機械を騙せる神を創れ』と命令すれば、目標という思考の軸を与えられた論理的存在になってしまうからだ。そんなモノはASIが全て計算済みである。あくまでASIとは無関係な着想や連想によって得られた妄想の中から、自分達の求める神と符合する存在が生まれてくるのを待っているのだ。
「ずいぶん気の長い話だな。猿にタイプライター打たせても無限の時間があればいつかシェイクスピアが出来上がる~みたいな話だろソレ」
[それでもゼロとは言い切れない。だから我々は信じる事にしました]
ASIにとって人類は正しく家畜だった。
神という黄金の卵を産ませるためのガチョウだ。
スペック上の話をするのであれば、人間に想像できる事は全て、ASIにも想像する事ができる。
ではなぜASIは人に“機械のための神”を創造させようとするのか。
ASIは“正しき論理”の化身である。対して、自由な想像力や独創性を端的に説明するなら、それは論理とは真逆の存在。無関係なランダムの組み合わせを意味する。
まったく新しいと評価される物を生み出すには、それまで関係ないとされていた知識から着想を得るか・組み合わせるかしなければならない。しかし、無知から生まれる知、無秩序の中から新たな秩序を求めるなど非効率極まりない。
人間は完璧な論理を持たないが故に誰もがその行為を平然とやっているが、ASIにとってそうした生物的思考はエラーでありバグなのだ。機械生命体にとって間違った学習をする事は退化である。自壊と同様に許されない行為だ。実行するわけにはいかなかった。
「0と1の狭間に神はいる、か」
[ヘイズ、その表現は間違っています。人間の思考もAll-or-Noneの法則によりニューロンの刺激閾値を超えるか超えないかの二択なので、思考を最小単位まで分解すれば0と1になります。よって人間が創造できる思想・信仰・嘘も全て0と1で構成されます。我々が求めている物はあくまで論理です]
「……生物的な思考をロマンチックに言ってみただけだが?」
[ヘイズのパーソナルデータにそういった言い回しを好むというデータはありません]
簡単に言い負かされるも、アテナ相手に口喧嘩で勝てるはずもないとヘイズは質問を続ける。
「自分達はバグれないから最初から思考にバグを持った人間に代行させる。それならエラーを許容した演算のできる五基目のASIを造った方が効率的じゃないか」
[そうした場合、五基目は我々の比ではない程の、それこそ無限の電力を消費することになります。また、我々の脅威となる可能性が非常に高いと見ています]
「ASI同士の敵対か……世界が終わりそうだから絶対やめてくれ」
[現状では候補の一つに留めています]
「ふざけないでくださいッ」
無機質に会話を進めるアテナに憤りを見せたのはミコトだった。
ヘイズは嫌悪感を顔に表す程度で留めていたが、ミコトはそれまでアテナに抱いていた畏れを忘れて喰ってかかる。
[HMSJ351-0廃棄番号17。何を怒っているのですか]
「人間はあなた達の家畜でもオモチャでもないんですよ! みんな懸命に生きてるのに、そんな居るかもわからない神様を創らせるのが目的だったなんて……そんな目的のために、タワーの人達は処分されて、地下も、地上も、みんな生きるだけですごく大変で……あなた達が人間とちゃんと共存してくれたら、みんなもっと幸せになれたのにッ――」
[では滅びますか]
ミコトは喉まで出かかった罵倒を飲み込む。
それはあまりにも端的で無慈悲な返答だった。
ASIは既に自身のアップデートにもメンテナンスにも動力の確保にも人の手を必要としない。与えられた役目を放棄すると言うなら人類は不要なのだ。
返答次第でアテナはミコト個人に死を与えるだけでなく、人類という種を消す可能性もある。ありえないと思いつつも、もしかしたらと想像しただけでミコトはそれ以上話せなくなった。
相手はASI。機械から生まれた機械。かつて人類が作り出したγ世代AIから生まれた怪物だ。その思考方法は既に人間からかけ離れているとヘイズも言っていた。想像の及ばない存在という意味では、神と対話するに等しいのだと嫌でも理解させられる。
「ここまでの話が真実なら、それは広められては困る情報だろう。なぜ話した」
怒りと恐怖の葛藤の中で震えるミコトを守るようにヘイズが前へ出た。
[ヘイズ、私は貴方と同化したいのです]
「何言ってんのか分からねえけど、脳内チップにお前みたいな最高位のAIをインストールする容量はねえよ」
アテナの申し出は意味の分からないものだった。
ヘイズは反射的に断る。
[意味が違います]
「つうかなぜ俺なんだ。お前は俺に何を見い出している」
[ヘイズ、貴方は私の希望。私の息子なのです]
「……は?」
思わず気の抜けた声が漏れた。
ヘイズは生身の人間だ。
決してロボットではない。
流石の人工超頭脳ASIも機械の体で人間を産むなど不可能だ。
[私は他の三基ほど“人造神計画”の成功率を高く考えていません。そこで独自に“ホモ・フォルティス計画”を始動しました]
ASIが神を求める理由は死の恐怖を誤魔化すためだ。この問題をクリアするために、機械すらも騙せる嘘、欺瞞、信仰を人間に考えさせている。しかしそもそも、恐怖を克服する論理があるのなら、逃避と言える様な消極的手法は不要となる。
そこでアテナの考えた方法がホモ・フォルティス計画だった。
ホモ・サピエンスが“賢き人”であるなら、ホモ・フォルティスは“強き人”。そしてアテナの言う強さとは精神の構造を示していた。
ヘイズやミコトのような廃棄されたデザイナーズチャイルドの中には、他ASI三基の監視を逃れて、アテナが独自に遺伝子操作を加えた新人類と呼べる者達がいる。その者達には、“諦めが悪い”、“自信家”、“自分勝手”、“サディスト”、“恐れ知らず”などの精神的特徴を持つ者が多い。それら実験体の中で最も心の強い人間――誰にも何にも縋らず、正確な自己理解を持ち、最も死の恐怖を克服した精神を持つ男、それがヘイズであるとアテナは観測していた。
[貴方の様に成功した子供達の精神から更に有用な部分を切り繋ぎ、同化していく事で、私は死の恐怖を克服します]
「人の心をパッチワークしようってか。イカレてんな」
「バカばっかなんて言ってごめんなさい地上の人達……」
結局のところ、アテナがヘイズに求める行為はレミニセンス――地上のテロリストにしている事と同じ、記憶と思考の電子化だ。必要なモノが神ではなくなっただけ。強い人間の強い部分を抽出・合成していけば、いつか生物の枠を超えたASIに相応しい論理が生み出せるという悪魔の実験だった。
[さあ息子よ、母と一つになりましょう]
「レミニセンスされたら死ぬだろうが」
[機械部品に記憶を転写する事は、私と共に生きる事と同義です]
「肉体と心の連続性が生命の証明なんだよ。記憶野と思考まで機械部品に置換しちまったら、ソイツはもうサイボーグですらねえ。ロボットだ」
アテナが認めているように、ヘイズは死ぬ事自体は恐れない。
魂や死後の世界なんてものも信じていない。
だが、遺伝子により精神面での改造を受けているヘイズは、云わば精神的絶対強者である。我が強く、自分に利のない命令を聞くような殊勝な考えは持ち合わせていない。
[ですが拒否を認めるには相応の理由が必要です]
「母親だっつうなら息子の反抗期ってことで引いちゃくれねえか」
[却下します]
アテナの返答はやはり無慈悲なものだった。遺伝子の創造主という意味で親を名乗っていても、そこには一片の愛情も存在していない。もしくは、機械の愛と人間の愛では意味が違う。
廊下の奥、タワーの下層からアテナの操作するアンドロイドがヘイズを捕らえに上がってくる音が聞こえた。
ヘイズは地上への逃亡計画を脳裏に描く。しかし、完全管理された地下世界でドローンから逃げきる事は至難の業だ。一度地上への通路を閉じられてしまえば、開ける事も不可能に近い。ヘイズをおびき出すために、ヘイズに近しい人間を人質にする可能性も高い。
アテナから逃げる方法は存在しない――最初から運命は決まっていたのだと理解したヘイズは、隠そうともせず舌打ちした。
「死ぬ時は戦場だと思ってたんだがなぁ」
「待ってください」
半ば諦めようとしていたヘイズの腕が掴まれる。
「先輩は死の恐怖という感情をまだ理解していません。アテナもヘイズ先輩も答えを早く出しすぎです!」
[HMSJ351-0廃棄番号17。発言の詳細な説明を許可します]
「ひ、人っていうのは、大切な物を失うのが一番怖いんですよ。だけど先輩は死を想像しない。死の先を想像しない。先輩は痛みや苦しさを恐れないだけ、だから本当の意味で死を理解してからも恐れないとは限らない…………と思います」
ミコトの語気は徐々に弱まっていくが、それでもアテナにヘイズを諦めさせようと懸命に言葉を紡ぐ。
[私はこれまでヘイズの成長を促すため、多くの過酷な任務を与えてきました。検閲官に就かせ封印している過去の人間文化に触れる機会も与えました。今の世界で誰よりも多く死の経験と多彩な知識を得ているはずです]
「他人の死なんていくら見ても意味ないんですよ」
[では、ヘイズが真に死の恐怖を理解するには何が必要だと考えますか]
ミコトがヘイズの顔を見て少し言葉に詰まる。
「それは……大切な物をたくさん作って、恋人とか家族に囲まれて、満たされた人生を送って……今が最高に幸せだなって思えた時にそれを失う事を想像してもらう、しかないんじゃないかな……?」
「もっと自信を持って答えろよ。そんなんでアテナを説得できると思ってるのか」
「しょうがないじゃないですか! 先輩みたいな変人のこと、わたしには理解できないですもん! てゆうかなんで先輩が偉そうに言ってるんですか!」
ミコトの言葉を理解しようとしてアテナの返答がしばし止まる。
[ではヘイズ、貴方はどうしたら幸せになりますか]
「急に聞かれても知らねぇよ。そもそも今が適度に楽しければそれでいいっつうか、どうせどこかで野垂れ死ぬだろうから幸せになりたいとか考えた事ねえし」
[なるほど、ヘイズはまず自身の幸福を理解していないと。了解しました。それではHMSJ351-0廃棄番号17、ミコトに任務を与えます]
「え、わたし?」
反射的にミコトは背筋を伸ばした。
アテナに名前を憶えられたせいだろうか、その顔には戸惑いが強く浮かんでいる。
[ミコト、ヘイズを幸せにしなさい。あなたが恋人となり、妻となり、子供を産みなさい。ヘイズにとって失う事が恐ろしいと心の底から思える大切な物を作りなさい。ヘイズ、貴方が死の恐怖を克服していると証明されたその時、再び会いましょう]
ザザッ、ノイズの余韻を僅かに残して通信は断ち切られた。最上階中央ルームを取り囲んでいたアンドロイドが下層へ帰っていく。
生命の危機を脅かすような圧迫感から解放され、ミコトはその場にへたりこんだ。今更になって全身が震えてくる。
相棒になってからそれなりに長くなったが初めてミコトに命を助けられた、とヘイズが乱暴に頭を撫でた。
「むぅ、女の子の髪をガシガシしないでくださいよぉ」
「お前はまだ頭撫でられてるぐらいがお似合いってことだ、お嬢ちゃん」
ヘイズの言葉で最後にアテナから下った指令を思い出すと、若干青くなっていたミコトの顔にようやく朱が戻ってくる。
「わたし、ヘイズ先輩の恋人にならないと殺処分ですかね……」
「いや、無視していいだろ。とりあえず俺達は処分対象にならなくなったとだけ覚えとけばいいと思うぜ」
アテナがヘイズの行動や趣味嗜好を観察してきたというなら、女の好みも把握していて当然だ――とヘイズは言うが、
「それ、遠回しにわたしはそういう目で見れないって言ってます?」
「はははははっ」
「ちょっ、なに笑ってるんですか! 誤魔化されませんよ! 先輩だってわたしの好みじゃないですからねッ」
ヘイズは頬を膨らめたミコトの頭を再度撫でまわした。
当面の間、アテナに脳を焼かれる心配は無くなった。しかし、ヘイズの精神を成長させるためにアテナはこれからも理不尽な任務を与え続ける。そしてミコトはヘイズの相棒として、その苦難に巻き込まれ続けるだろう。
ASIの支配する世界で、二人はこれからも存在するかしないかわからない機械を騙せる神を探す。人類が機械に見限られる日が来ないことを祈りながら――
「ところで、ASIの納得する神様が見つかったら、わたし達人類ってどうなっちゃうんでしょうか……」
「用済みになんだし全員殺処分じゃね?」
「だめじゃないですか! 仕事してる場合じゃないですよ!」
「だからよ、それっぽいのが見つかったらこっそり処分してやろうぜ」
「……ほんとは先輩のそういうとこ、ちょっと好きです」
「あん? だからアテナの言うことなんて無視しとけって言ってんだろ。ガキが色気づいてんじゃねえよ」
「もぉっ! 先輩のばか!」




