俊足特攻雷光拳とキャノンヘッド
夕日が差し、辺り一面が橙色に染まる黒金高校第一グラウンド。
二人の人間が向き合うように、互いにかなり離れた距離で見合っていた。
一人は地面に片膝をつき先ほど起き上ったかのような体制であり、もう一人は手を後ろに回し、ふんぞり返りながら立っていた。
方膝をついている方は耳が隠れそうな長さのぼさぼさとした黒い髪に高い背丈になかなかの筋肉質な体格、前のボタンが全開で中のシャツの見えている学ランに学校指定の黒いズボンの男、加賀見甲太郎だ。
その加賀見甲太郎の視線の先にいる人物、きっちりと着こなした黒い長ランにズボン頭にミサイルがくっついたような強大なリーゼント、まるで一昔前の学校の番長のような格好の男。
鬼瓦巌だ。
二人は訳があり、甲太郎の後ろで瞳孔を開ききり固まっている少女、スレンダーな体格でショートカットで左側の前髪で顔を半分覆うように隠れた少女、山音玲子のの寝顔写真の奪い合いをしていたのだ。
「何…今の」
驚いた表情と声色の玲子が呟くように言った。
「あれは三日ほど前だったかな…」
巌が空を仰ぎ思い出すように二人に聞こえるような声で言う。
「俺は商店街で突如催して…つまりトイレに行きたくなって近くにある怪しげな地下にある店に駆け込み、無事にトイレにたどり着けた…」
「聞けばそこは病院でそこの美人のお医者さんに診察を勧められ、タダなので観てもらったんだ」
ぽつぽつと空を仰いだまま語り続ける巌。
「眠らされていたせいで診察とやらが何をされたかはわからんが、一つだけわかったことがあった…」
「俺はこの『リーゼントに入れた物を弾丸に物体を飛ばせる』大砲人間だそうだ…」
なんと、彼も特殊な『ウィルス』により『進化』し、新たな機能を手に入れた『超人』なのであった。
『大砲人間』、恐らく彼はリーゼントを砲台として入れた物を弾丸にし勢いよく発射する機能を持った『超人』なのであろう。
「まさか、奴も『超人』だったとは…」
まさかの事態に驚きを隠せない甲太郎、黒金町は『ウィルス』が特に増殖し、蔓延している場所なので可能性としてはなきにしもあらずであったが。
「電流さえ当てれば一撃なんだろうけど…あれではまともに近づけなさそうだ」
玲子が腕を組み、凛とした真剣な声色で小さく呟く。
「クククッ、わかったか ?加賀見甲太郎よ、お前がこちらへ一直線へ向かえばいい的って訳だ、次は外さん…」
銃口を突きつけるようにリーゼントを甲太郎へ向ける、まるで拳銃に狙われてでもいるかのようだ。
ドン ! ボン ! バン !
さらにリーゼントから石を射出する巌、先ほどに変わらずにものすごい早さで3つ並んだ石がこちらに向かって飛んでくる。
「うおっと !」
とっさにしゃがみこちらに向かい飛んでくる3つの石の下に潜り込む。
石は甲太郎の真上を通過し事なきを得た。
「クソっ !一直線だから避けるのは簡単だがこれじゃ近づけねぇ、タイムアップで負けちまうぞ…」
彼らの決めたルールの上では巌から7時までに写真を奪い取らなければいけないのだ、だが巌の猛攻に甲太郎は身を翻しかわし続けるしかなすすべがない甲太郎。
「時間が無い上に近づかなきゃ『電流』を流しこめることができない…」
「どうすればいい」
巌は狙いをつけ、甲太郎目掛け石を撃ちだす。
それをかわしつつも考える甲太郎。
「おのれぇ、ちょこまかと…」
再びリーゼントへ手を入れ発射の体勢を取る。
「これならどうだぁ !」
パン !
と今度は軽い音が響く、飛び出したのは小石だ、先ほどの石と違い軽いのでこちらへ飛んでくる速度が早い。
かわしきれないほどの早さだ。
「うおっ !」
あまりの速さに両腕をバツの字に交差し体の前に突き出し顔を背け防ごうとする。
バチバチバチッ!
と、突き出した腕の左手のひらから大きな無数の電流が飛び出すし飛んでくる小石に命中した。
軽い小石は電流の力に負け弾き飛ばされる。
「なにぃ !」
思わず顔をしかめ驚きを隠せない巌、甲太郎を『超人』だとは露とも知らなかった彼は眉間に皺を寄せ、驚愕の表情を顔に浮かばせた。
「まさか、あいつも『超人』…」
呟くように言う巌。
「…今、俺は何をした ?」
そんな巌をよそに甲太郎は左の手のひらを驚いたように見つめる。
危険を察知した甲太郎は防御の体制を取り思わず頭の中で電流をイメージした。
いつも甲太郎がイメージする右から左へ走る細い電流ではなく、左から右へ走る大きな太い無数の電流。
「…まさか !」
甲太郎は再び電流をイメージする。
パリッ。バチバチバチ !
と炸裂音が鳴り、いつもとは違う逆側の手のひらつまり左の手のひらから無数の電流が走り回っている。
甲太郎は自分の左手のひらから電流が出るイメージをしたのだ。
「…イメージ、か」
理解する甲太郎、彼はいつも電流だけをイメージした。
それだけでは、彼が一番使い慣れた体の部位の先端、右手のひらのから放出されたのだ。
だが彼の電流はイメージ次第で流す場所を決めることができたのだ。
「ククク、同じ『超人』同士ならば遠慮は無用、行かせてもらうぞっ !」
今度は小石を4つ甲太郎に向かい飛ばす。
相変わらず拳銃のような音に普通の石よりも速いスピードだ。
「はあっ !」
自分の考え得る最大の電流をイメージする、。
バチバチッ ! バリバリッ !
と炸裂音と共に甲太郎の手のひらから無数の電流が伸びて放出され、小石をすべてからめとるように叩き落す。
「だが、これではまだ無理だ」
確かにある程度の電流の強さと長さと流せる部位を指定できるようになったとはいえ甲太郎から巌までの距離は届かない。
「ええい !一か八か」
そういうと、甲太郎は足を肩幅程度の広さに開き目を瞑り、右手に拳を作り腕を腰の辺りまで引き、左腕を前へ突き出し構えをとった。
「なんじゃ、ありゃ ?」
突如、目を瞑り、構えの姿勢をとる甲太郎を不思議に思う巌。
「まあ、いいわ、チャンスには変わりない」
巌は自分のリーゼントに大きな石を込め発射の態勢を取る。
「これでおわり…… !」
バッ !
と、発射する寸前の巌に甲太郎が矢のような速さで一直線に飛び込んでくる、その速さは巌の石を発射する速さよりも段違いで早い。
ドスッ !
甲太郎の拳が巌の腹部の中心部にめり込むように突き刺さる。
それを受けた巌は海老のように仰け反り、苦しそうに表情をゆがめた。
「な……ごぇ ! 俺……の、発…射よ……り早……っく」
「医療技術に筋肉へ微弱な電流を流すことによって、弱った筋肉を強化してまた動けるようにするものがあるそうだ、まあ、その原理を活用して俺の脚の筋肉を強くしてここまですっ飛んできたわけさ…」
「じゃあ、な」
めり込ませた拳に電流を流す甲太郎、巌の腹部の神経に鋭い痛みと痺れるような感覚が走る。
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ !」
巌はがくがくと痙攣しながら白目を剥き、次第に地面へと倒れていった。
「ふっ…」
早うちで勝ち終わったガンマンのように自らの右手の拳へ息を吹きかける甲太郎。
そして気絶して倒れた巌の近くにしゃがみこみポケットから3枚の写真を抜き取った。
「午後6時47分…ギリギリで決着か」
グラウンドの前にそびえたつ校舎の掛け時計で時間を確かめ呟く甲太郎だった。
「…終わった ?」
突如、後ろから凛とした声が聞こえる。
「ああ、終わったよ…すげぇ疲れた…」
はぁとため息を吐きながら玲子に向き直り言う甲太郎。
「そういや、今までどこに行ってたんだよ」
「石が飛んでくるからさ、隠れてたんだ」
「ああ、そう…」
甲太郎の疑問に答える玲子。
「ほらよ」
甲太郎はポケットから写真を取り出し、玲子へ渡した。
「あ、…ありがとう」
それを静かに受け取る玲子だった。
「とりあえず、こいつを保健室まで運ぶの手伝ってくれ…」
倒れた、巌の肩を抱き起こしあげる甲太郎。
「…本当にありがとう」
「…いいから手伝えって」
少し顔を伏せて礼を言う玲子と照れくさそうにそう言う甲太郎であった。
後日、玲子の働きにより、女生徒の寝顔を盗撮していた写真部は廃部となった、部長の遠藤君曰く。
「我が写真部がなくなろうとも第二、第三の写真部が現れるだろう !それまで束の間の平和を楽しむがいいわ !」
だ、そうだ。
名前:鬼瓦巌/超人種類:大砲人間/特殊機能:リーゼントを砲台にし、中に入れた物を弾丸として発射できる