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愛と青春のハンマーヘッド

 時は2110年、おそらく今現代よりもさほど文明は発達していない日本のS県A郡 黒金町


 商店街出口より南西約25度へ徒歩13分程度の位置に点在する黒金高校。


 中心の一番背の高い後者の上下に川の字のように二つの後者が並ぶのが特徴の校舎。


 その一番奥にある校舎裏、焼却炉や古びた倉庫が校舎の壁にひっつくように点在してる。


 手入れされていない幹の太い大きなの木が4本ほどうっそうと茂っていおり、その向こうに錆の目立つ背の高い金網達が行く手を阻むようにそびえ立っていた。


 そこに二人の人間が互いに逆方向を向き背中を合わせるように立っていた。



「こちら左右ともに人影なし、どうぞー」


 女の方が少しだけ緊張感を含んだ凛とした声を出す、赤みががった黒いいわゆるショートカットと呼ばれる髪形だが、前髪が長く顔の左半分を隠すように垂れ下げている。


 釣りがちなどんぐりのように大きな瞳の目にすっきりとした鼻筋、小さな整った輪郭の顔の少女だ。


 背は同年代の女性よりも少しだけ高い程で、引っ掛かりの少ないすらっとした体格であり、皺の見当たらない学校指定の制服をきっちりと着ている。


 山音玲子である。


「こっちも今のところ異常なしって所だ…」


 少し低めの男の声が聞こえる。


 耳が隠れそうなぼさぼさとした黒髪に眠気のありそうな目とどこか強面の精悍な顔立ち、だが今は少しだけ引き締まった顔をしている。


 身長は高く、先ほどの山音玲子の頭が彼背中の辺りに来るほどだ、そこそこ筋肉質な締まった体つきをしており、所々皺の目立つ学校指定の黒いズボンと学ランをだらしなく着ている。


 学ランのボタンが全て外されており、中の青いシャツがちらりと見える所がだらしのなさを際立たせている。



 まさにその人物が加賀見甲太郎であった。


屋上での一件の後、二人は放課後に合流し約束の時間よりも早くに指定された校舎裏へと来たのだ。


 そして、5時までの間、互いで違う場所を見張ることにした二人だった。


「まだ、約束の5時まで数分あるけど一向に現れる気配は無いね…」


 背中合わせの後ろに居る甲太郎に声をかける玲子。


「5時を15分くらい過ぎたらまた警戒しながら校門まで移動するぞ」


「ラジャ」


 いつに無く真剣な声色の甲太郎、そしてその提案にうなずく玲子。













「やあやあやあ !待たせましたなあ !」


 突如、警戒していた二人の耳に大きな覇気のある男の声が聞こえた。


 校庭のある、言わば校舎裏の入り口から男子生徒が一人歩いてくる。


 つり上がった眉に細い迫力のある眼、真一文字に紡がれた口からはどこか意志の強そうな雰囲気を感じる。


 背は甲太郎よりも少しだけ高く、がたいもとてもいい。


 丈がひざの辺りまである黒い長ランと学校指定の黒いズボンを履いていて、腰の辺りで手を組んでいる姿はどこか威厳すら漂ってきそうだ。



 ここまでならば普通の威厳の高そうな生徒だが、彼には物凄い特徴があった。


 頭の、髪型のリーゼントがここぞとばかりに巨大なのだ。


 黒く大きく丸く艶があり彼の存在をここぞとばかりに主張している、まるでミサイルのような形だ。


 甲太郎と玲子の視線も思わず彼の頭部へ行ってしまっている。


「それで、山音玲子さん…」



「お手紙のほうは読んで貰えましたかな ?」



「ああ、大事な話があるっていう…」



 予想外にインパクトがある相手が出てきたせいか前髪を弄りながら少し戸惑うように言う玲子。



「なあ、ちょーっといいか ?」


 そんな彼女を見てか甲太郎が玲子の前に押し出てミサイル頭に言う。


「何じゃ、貴様は」



「あぁっと、俺、加賀見甲太郎ってんだけど、ちょっとだけ質問いいか ?」



「全く、余り手間取らせるなよ !加賀見甲太郎 !」



 先ほどと同じ体勢でふんぞり返るリーゼントに尋ねる甲太郎。




「ここに5時にこいつを呼び出す手紙を下駄箱に出したのは、あんたでいいんだよな ?」


 甲太郎が玲子を指差しリーゼントの男へ言い放つ。


「その通りだ !」


後ろで手を組み更にふんぞり返るリーゼント、彼があの綺麗な字を書いたらしい。


「えーっと、他にもいくつか聞きたいこと有るんだけど、いいか ?」


「全く、仕方の無い加賀見甲太郎だ」



やれやれといったような仕草をするリーゼント、左右に動くリーゼントについ目がいく甲太郎。



「じゃあ、行くぞ」


「こいや !」


 質問を始めようとする甲太郎にリーゼントの男が気張る。



「あれ以外の手紙を書いたのもあんたか ?」


「ああ、用紙のちょうど真ん中あたりを割り出すのに苦労したわ」



「何であんな質問しようと思ったんだ ?」


「そりゃ、玲子さんの事が知りたかったからさ、本当はベスト100まであったが涙を飲んであの4つに絞ったんだ…」



「何であんな茶封筒に手紙を入れたんだ ?」


「物は機能性が重視される !ちゃらちゃらした飾りなど言語道断 !」



「何であんな手紙書いたんだ ?」


「男女の交際の始まりは文通と決まっておろう !」



「何で名前が書いて無いんだ ?」



「あっ !忘れてた !」



 甲太郎とリーゼントの問答が終わる。




「えー、っと、てー事はだ…」



「山音玲子さん !俺と清く正ししゅ、正しい交際をお願いいたします !」


 考える甲太郎をよそにブーメランのように直角といっていいほどに頭を下げ玲子に告げるリーゼント、しかも噛んだ。



「えーっと…ごめんなさい ?」




「ちっくしょぉおおおおおおおお !加賀見甲太郎めぇええええええええええええ !」



 きわめて冷静になぜか疑問系で断る玲子となぜか甲太郎に怒りをぶつけるリーゼント。



「何で俺にキレるんだよ…」


 目をつぶり面倒そうな顔で後頭部をぼりぼりと掻きながら言う甲太郎。


「大体これのどこがいいんだよ…見た目はいいかもだけどさ、中身はただの変な奴だぞ…マジやめとけって…」



 玲子を指差しリーゼントに向き直る甲太郎



「いいところは、ある…」



 腕を組み目を瞑るリーゼント、口を瞑り精悍な顔立ちで押し黙ったのだ。



 そして、しばらく黙った後に静かに開かれる彼の口。




「『寝顔』だ」


 静かに開かれた口から発せられた一言、目を開き眉間に皺を寄せるリーゼント。




「へっ ?」


「えっ ?」





 二人して聞き返してしまう。





「これを見てくれないか ?」



 リーゼントが制服のポケットから3枚の薄い何かを取り出す、それは写真だった。



「…なあ、これって」


 まさかと思った甲太郎が問う。



「ああ、俺の秘蔵の『玲子さんの寝顔写真』だ、写真部で1枚300円で絶賛発売中だ !」



「こっちが『授業中に居眠りする玲子』さんで、こっちが『屋上で昼寝している玲子』さんだ…どうだ、まるで天使のような寝顔だろう」


 写真には、無防備な姿で心地よさそうに眠る玲子の姿が写っていた、それを見て思わずにやけ顔になるリーゼント、立ち尽くし唖然とする玲子。



「そんで、この3枚目のは何だ ?」



 残っている3枚目の写真を不思議に思い問う甲太郎。



「ああ、これは『跳び箱に激突する玲子』さんだ……」



「うっわ、痛そー、よく16段も飛ぼうと思ったな」


「そういう、おそらく見栄っ張りであろう所も愛おしいというか…」



 写真を覗き込みながらなぜか慈しむような表情のリーゼントと呆れる甲太郎。


 写真の中の玲子は16段重ねの跳び箱に挑戦したが飛ぶことすらままならず両手を平行にあげ、正面から跳び箱にぶつかっている玲子が写っていた。


 まるでのび太である。




 二人のやり取りを唖然と見ていた玲子が我に返り、リーゼントに歩み寄る。



「…ともかく、その写真を渡してもらおうか」



 はぁ、と溜息をつきながら少し恥ずかしそうに顔を赤らめた玲子が、リーゼントに手を伸ばし呆れたように言う玲子、自分のそんな写真が出回っているなど露ほども知らなかったであろう。


「なぜですっ !」




 それに対し、くわっと眉間にしわを寄せ少し悲しそうな迫力のある表情で叫ぶリーゼント。




「なぜって…君ねぇ、そんな恥ずかしい写真、私の末代までの恥じゃないか…ついでににその写真を証拠に先生にたれ込んで写真部を滅亡させとこうかな…」



  珍しく少しだけ怒ったような口調で腕を組みながら言う玲子。



「玲子さんの頼みといえども、それは聞けません…ましてや」



「本物が手に入らなかった今 !尚更渡すわけには行かないのではないのか ! その通りさ !」



 相変わらず後ろで手を組みのけぞる様にふんぞり返りながら力強く主張するリーゼント。




「…なら仕方ないな、力ずくで奪わせてもらうよ」



 リーゼントを見据え、少しだけ力のこもった静かな声で言う玲子。



「ほほぅ、ならばこちらも受けてたちましょうか…」



 自らのリーゼントの根元から手櫛で手をさっとリーゼントの先端まで走らせるリーゼント。




 二人の間にただならない緊迫感が走る。






「ほら、甲太郎君、何携帯いじってるのさ…君の出番だよ」



「えっ ?」



 玲子声を掛けられ反応を返す甲太郎、二人が話している間テトリスに興じていたようだ。




「ほら、今日は私の用心棒なんでしょ ?戦ってくれないと」



「結局そうなっちまったか…」



 面倒くさそうに後頭部を掻く甲太郎、リーゼントはかなりやる気マンマンのようで準備運動をしている。



「しかし、本当にやっちまっていいのか ?」



「ああ、あのままほっといたらストーカーにグレードアップしそうだからね、ちょっと痛い目に合ってもらおうかな」



 玲子は獲物を狙うような冷たい目をしていた、あの写真が出回っているのが相当許せないのだろうか、静かに燃えている。



「君の電流なら一撃で仕留められるでしょ ?」



 加賀見甲太郎は普通の人間ではなかった、とある『ウィルス』により遺伝子の組み換えが行われ『進化』した人間なのだ。



 そのことを甲太郎に説明した医者はそのような人間のことを『超人』と呼んでいる、その医者の診察によれば甲太郎は電気の無効化、吸収、蓄電、放出のできるいわば充電器人間だそうだ。



 彼が頭の中で電流をイメージすれば、彼の筋肉の細胞に蓄電された電力を消費し、彼の右手のひらの部分で放電が行われ、電流が走るのだ。



 玲子が言うにはそれをあのリーゼントの男に当てろというのだろう。



 確かに電流は神経へ直接訴えかける痛みだ、当たり所によれば相当の威力であり当てられた部位に痺れが走り当分は動けないはずだ。



「はぁ……わかったよ、最初からそういう約束だしな…お前がそういうのなら、従うよ」



  観念したように首を回し、面倒くさそうにこきこきと音を出しながら言う甲太郎。



  そして、リーゼントに向き直り口を開く。



「おい、そこのミサイルヘッド !その力ずくとやらの相手は、俺だ」



 甲太郎がリーゼントを指差して言う。



「玲子さん、相手でないのはとてつもなく不満であるが、いいだろう、この写真はこの鬼瓦巌おにがわらいわお 最後の砦 !渡すわけにはいかんのよ !」



 相変わらずの様子で同意するリーゼントこと鬼瓦 巌だった。












 場所は変わり、ここは黒金高校の第一グラウンド。



 黒金高校にはグラウンドが二つあり、もう一つのほうは主に運動部が使っているがこちらのグラウンドはほぼ朝礼などでしか使われていない。


 ほとんど放置されているので、いろいろな大きさの石ころが所々に転がっている。


 先ほどのリーゼント、もとい鬼瓦 巌が場所変えを提案し、行き着いた場所がこのグラウンドである。



「加賀見甲太郎よ !ここが貴様の墓場となるのだ !」



 ひゅう、と一陣の風が吹き去る、空は日がすっかり傾きグラウンドをオレンジ色に染めていた。



 腕を組み、グラウンドの土を踏みしめるように立っている甲太郎からかなり離れた場所で鬼瓦 巌が腕を体の後ろに回し大口を開け大声で怒鳴るように叫ぶ。



「甲太郎くーんがんばってー」



 甲太郎の少し後ろに腰の辺りで手を組みながら足で地面になにやら文字を書きながら遊んでいる玲子が覇気のない声で応援する。



 そんな二人に挟まれている甲太郎。





「取っ組み合いでも何でもいいから、写真を奪い取ったら俺の勝ち、7時までにお前が写真を守りきればお前の勝ちって事でいいんだな ?」



 甲太郎が大きな声で少しはなれた場所で玲子が考えたルールを鬼瓦 巌へ伝える。





「ああ、いいぞ」



 どっしりとその場に構え威厳のある顔立ちで自信ありげに返す巌。


「で、俺が勝ったら山音に写真を返す、お前が勝ったら写真はお前のもの、写真部はそのまま存続で新しい盗撮写真が生み出され続けるわけだな」



 巌に聞こえる声でさらに続ける甲太郎。



「ああ、いいぞ…」


 にやりとした笑みをしつつ答える巌。




「それじゃー、よーい…」




 互いを見合う甲太郎と巌、緊迫した空気がグラウンドを走る。



 その中で甲太郎の後ろにいた玲子が凛とした大きな声を出し腕を真っ直ぐに上げる。



「スタート !」



 ついに玲子によって開始の合図が切られた、その瞬間に拳を固め巌に向かって突進するように駆け出す甲太郎。



 巌までの距離は少し遠く、すぐには近づける距離ではなかった。




 巌がそれを見たとたん、おもむろに自分のリーゼントの先端へ手を突っ込む。




 ズボっといった感じに手のひらがリーゼントの中に入りすぐに出てくる。



「… !」


 それを見たとたん思わず力が緩み、思わず減速してしまう甲太郎、思わず不思議そうに歪んだ表情になってしまう。



 そして、巌は両腕に力を込めるように腕を引き、足で地面を踏ん張るように踏みしめる。



発射ファイアっ !」



 ボンッ !





 と物凄い音が鳴り響き甲太郎めがけて物凄い勢いとスピードで何かが飛んでくる。



 それは、拳大の石ころだった。




 巌のリーゼントの先端から彼がいつの間にか拾ってであろうグラウンドの石が勢いよく飛び出したのだ。



「なんだとぉっ !」



 甲太郎は思わず叫ぶ、込めた勢いをで左側に飛び掛る、そして真横に飛びとっさに飛んできた石ころを回避しようとする。



 地面に転げる甲太郎、すぐに立ちひざで起き上がるり、巌へ顔を向ける。




 甲太郎のとっさの判断で石ころを回避するのは成功した。



 飛んでいった石ころは玲子の1メートルほど離れた真横を通過し、消えていった。





 どうやら、玲子が言ったほど簡単に終わる相手ではないようだ。

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