帰還経路と血液ジャンキー
薄く青い光に照らされている一つのパイプベッド、無骨で滑らかな表面のパイプに清潔感のある純白のシーツの薄いそれが青いガラスを介して見たかのように照らされている。
そのベッドの上からは人の気配が感じられ、そこには気配の通り人間が存在する。
そこに存在するのは二つの人影、一つは無骨なパイプベッドの縁へ腰掛けたもの、もう一つはまさにベッドを使用し、ベッドの上で仰向けに寝ているものであった。
一つの腰掛けた人影は女性のもの、高めの背丈に真っ白な陶磁のような傷一つ見当たらない滑らかさと艶めかしさを感じさせる色の肌に腰の辺りまで真っ直ぐに伸ばされた髪、一本一本の曲がりやくねりの見つからない透明感のある糸が集まり形成したかのような髪である。
少しだけ釣りあがった細い眉と重なり合う切りそろえられた前髪に端の釣りあがったどこか蠱惑的な雰囲気を感じさせる大きめの目に透き通った薄紫の円を描いた瞳、刃物のように真っ直ぐに通った鼻筋、血色の薄い小さな唇、それら全てがほっそりとした輪郭へ整った位置取りに収まっている。
大きく膨らんだふくよかな胸に引き締まった腰元、そこから再び肉感的な感じを取り戻していくグラマラスな体形、そして、それへぴっちりと張り付くように包み込まれた薄い桃色の清潔感を感じさせる少し小さめの女性看護師の征服、いわゆるナース服と呼ばれている服装である。
太腿の上部までをぴっちりと包み込んだ純白の長いソックス。
歳の頃は17,8歳といったところのどこか落ち着きと余裕、少しだけ誘惑的な雰囲気の感じられる少女がベッドの末端で足を組みながら腰掛けている。
「あらあら、甲太郎はこの服、嫌い ?」
腰掛けた彼女はにこりと笑顔を作ると鈴が鳴るような声をベッドの上へ発する。
「自分では似合っていると思うんだけど」
笑顔のまま首もとのナース服の襟を形の整った爪の細く白い指で引っ張りながら更にベッドへ声を掛ける。
「いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな」
ベッドの上から少しだけ低く響く若い男の声が少女の言葉に答えるように言葉を構築しそれを投げかける。
もう一つの人の気配、ベッドの上に眠っていた男が発したものである。
そこには体格の良い一人の男が下半身を布団の中へ納めたまま仰向けになった青年が一人。
真っ黒な所々跳ねた長い髪、前髪は両目を覆い隠す程に長く、後ろ毛は首を隠し、横毛は耳を包み込んでいる。
目こそ見えないが中々に精悍な顔つきであることのわかる鼻と口、髪に隠れた輪郭に健康そうな肌色、細身がちではあるががっしりとしている何も身につけられていない上半身にきつく何重にも巻かれた腹部の包帯。
そんな青年が困ったように仰向けのまま頭を掻き、混乱した様子でいる。
「起きていきなり変な格好した変な知人が出現したらお前もビビるだろ ?」
びしりと指を少女へ突き刺しながら問いかける青年。
「さり気なく失礼なことを言いながら同意を求めてくるわね、この甲太郎は……」
相変わらずのにこやかさで少しの文句を織り交ぜつつ問いかけに答える少女。
「つまりだ、さっきの台詞はテンパって飛び出したんだ」
そんな少女に気にせずに言葉を続ける青年。
「それで ?」
前方を向き、組んだ膝の上に肘を置いて頬杖をつきながら短く言葉にする少女、目線だけは青年をしっかりと捉えている。
「やり直させてくれ」
少女の向けられた視線へ対抗するように同じく視線を合わせるように送りながら要求する青年。
その言葉を聞いた少女はゆっくりと瞼を落とし、何も言わずに口元に笑みを浮かべる。
そして、少女の小さな挙動が終わると同時に青年が静かに息を吸い込んだ。
「この真っ暗な場所は一体何処なんだ ?どうしてで俺はこんな所にいるんだ ?何でお前はここにいる ?そして、何でナース服 ?」
息を溜め込んだ口からは次々と矢継ぎ早に疑問が飛び出してくる。
「どうやってここまで俺は来たんだ、今は一体何日の何時何分で、っ……」
彼は焦った表情で混乱した頭の中に浮かんだものであろう数々の疑問を更に彼女へぶつけて行く、が、その数々の疑問の滝が途中で遮られる。
彼の口を止めたのは少女であった。
ベッドの上で猫のように四つん這いになり体を青年のほうへ伸ばして腕を突き出し、手のひらを丸め、一つだけ突き出した人差し指を彼の唇へ押し当て、その動きを制止する。
「ストップよ、甲太郎」
静かにゆっくりと言葉を綴る少女。
「唐突にこんな所で目が覚めて状況を確認したい気持ちは良くわかるわ」
「でも、まずは落ち着くべきよ、混乱した思考のままじゃ話をしても更に思考がこんがらがってしまうかもしれない」
「でしょ ?」
なだめるように、ほんの少しだけ口調を弱め、ゆっくりと青年へ言い聞かせる少女。
「それに、そんなに一気に聞かれても答えられないわ、聖徳太子じゃないんだから」
元いたベッドの縁へ戻り、足を組みなおしながら手のひらで口元を隠しながら目を細め、少女は呟いた。
「まず、あなたがすることは『冷静』になる事じゃないかしら」
先ほどのポーズのまま、更に青年をなだめる様に呟く少女。
「かもな……」
微かに肩を落とし、目線を真下に下ろすように頭を垂れながら小さく息を吐き出す青年、真っ直ぐに伸びた前髪が重力に引かれ、ブラインドのように彼の表情を隠している。
そして、彼女の言葉に納得したのか、落ち着きを取り戻そうと深く息を吸い込み、少しの間隔を開け、吐き出す。
薄暗く冷たい空気の部屋に小さく聞こえる息を吐き出す音。
青さと薄暗さ、静寂に包まれた空間内で彼の吐息の音だけがはっきりと部屋の中心から断続的に聞き取れる。
少女の方は相変わらずのにこやかさでそれを見守っている。
「で、少しは落ち着いたかしら ?」
「……まあな」
息を噴出し終えた彼に手のひらで口元を隠したまま問いかける少女、紅 真白、そして俯いたまま静かに問いかけにぶっきらぼうな口調で答えるベッドの上の青年、加賀見 甲太郎が部屋の薄暗いブルーライトに照らされている。
「それじゃあ、早速一つ目の質問から答えていきましょうか ?」
手のひらを組み、肘を組んだ膝の上へ乗せた体勢に変わった真白が仕切り直すような言葉を甲太郎へ発する。
「……じゃあ遠慮なく聞くけど、ここは何処なんだよ」
完全に真白が主導権を握っているためか、どこかやりづらそうに後頭部を右手で掻きながら質問を投げ掛ける甲太郎。
「……何処だと思う ?」
「一々焦らすなよ……めんどくさいから」
にこにことした笑顔で甲太郎の質問へ質問で返す真白に間髪入れずに口を挟む甲太郎、相変わらず右手は後頭部にあり、がりがりと軽く掻き毟っている音が聞こえる。
「ごめんなさいねぇ、必死な人を見てると、どうしてもこうなっちゃう性分なのよ」
真白が横目に甲太郎を見据えながら少しだけねちっこさの混じる口調で自らをフォローするように言う、甲太郎は口元を少し歪ませ、小さな舌打ちと共に真白へ顔を向けている。
前髪越しの為に目を見ることは出来ないが口元や頬の動きから恐らくは目の前に居る彼女を睨んでいる事が分かる。
「霧崎李沙紀の運営してる病院の別室よ」
甲太郎の凝視に観念したのか、どこかつまらなそうに素直に先ほどの問いへ真白が間延びした声で答える。
「霧崎クリニック、か」
甲太郎の耳へ真白の言葉が届いた瞬間にの場所を理解したのか、甲太郎が小声でポツリと呟いた。
「こんな別室あるなんて知らなかったがな……」
顎を指で押さえながら甲太郎が独り言のように呟く。
「さあねぇ、最近になって拡張したって言うのはここの院長から聞いたけれど」
再び、甲太郎の呟く声に対し、気の感じられない声で答える真白。
「地上にでっかい病院でも作りゃあいいのに、何でこんな蟻みたいな真似するんだか……」
真白からの言葉に呆れた様子で溜息混じりの声で感想を述べる甲太郎、首を微かに傾けて右の頬を掻いている。
「……少しだけ話が逸れたが次の質問に移ってもいいか ?」
「ええ、どうぞ」
気を取り直したように真白へ言う甲太郎、そしてすぐさまそれに対する素直な返答が帰ってくる。
「俺は何故ここにいる ?どうやってこの場所まで来ることが出来た」
甲太郎の顔つきが険しいものへ変化し、少しだけ力の篭った声色に変わり、真白へその声を言葉にしてぶつける。
「そこ行っちゃうのね」
やる気の無さそうな返答が真白から帰ってくる。
「でもねぇ、そこの所については私も詳しくは説明できないのよ」
前髪を弄くりながらぽつりぽつりと語る真白。
「あなたをここまで連れてきたのはここの院長だもの」
相変わらず前髪を指先にくりくりと巻きながら何気ない口調で甲太郎へ視線を向けながら真白は言った。
「霧崎さんが ?」
甲太郎が真白の言葉に対してぽつりと言葉を漏らす。
「詳しくは改めて彼女に聞いたほうがいいんじゃないかしら ?あなたを治療したお礼も兼ねて」
真白が漏らしたその呟きへ返答する。
「やっぱりこいつは霧崎さんが……」
自らの包帯に巻かれた白い腹部を摩りつつ、甲太郎がぽつりと心情を漏らす。
「ええ、それともう一つ」
真白が目を細め、腰掛けたベッドの縁を横へ横へと移動しながらよく通る声で声を発しつつ甲太郎のすぐそばへと移動する。
「もう一人お礼を言わなきゃいけない人が一人いるわ」
目を細めたまま笑みを浮かべて息を吹きかけるように甲太郎へ言葉を吹きかけていく真白。
「誰に」
「あなたの目の前に絶世の美女が居るでしょ ?その天使のような彼女がまるでジョジョ第1部のエリナ・ペンドルトンの如く愛情溢れる寝る間も惜しんだ付きっ切りの看病を丸二日も眠っていたあなたに施していたのよ」
真白が変わらぬ口調に変わらぬ声色で甲太郎の言葉を途中で遮ると艶めかしい声で自賛の混じった説明をした。
「よくもまあ、そこまで自分を……」
少し呆れた口調で口を尖らせる甲太郎。
「しかし、なんだ……看病してくれたってのは、ありがとよ……」
しかし、すぐにしおらしくなり照れくさそうに頭を掻きながら途切れ途切れに礼を言っていく甲太郎。
「どういたしまして……」
それに対し、真白は目を閉じ、少しだけ鼻を鳴らして静かに答え返す。
「と、言いたい所だけれども、本当に感謝の気持ちがあるのだったら見返りが欲しいわね」
またも先程のように人差し指を唇へあてがいつつゆっくりとした口調で言葉の続きを紡いで行く真白。
「はぁ ?」
突然の要求の為か素っ頓狂な声が甲太郎から聞こえる。
「早い話が『私にご褒美を頂戴』ということよ、甲太郎ちゃん ?」
そんな声を受けた真白が艶気のある声で少しだけ嘲笑気味に甲太郎へ言い放つ。
「随分とストレートに言いやがる」
眉をひそめ、少しだけ困った様子で呟く甲太郎、何を要求されるのやらと不安そうな心境が伺える。
「そりゃそうですとも、あなたは私に『看病された側』、つまり私に『助けられた側』、そして私は『あなたを看病した側』、あなたにとっては『助けた側』、既に上下関係は決定しているもの」
真白は勝ち誇った笑みを浮かべ相変わらずの艶めかさの混じる鈴の転がるような透き通った声を甲太郎へ響かせる。
「それにしても大変だったわ、全然起きない甲太郎の体を全身隈なく拭いてあげたり、いつ目が覚めても良いように徹夜で付き添ったり」
「ついでに髭も剃っておいて、あのぐしゃぐしゃの髪も解いておいたわ」
「起きたときからやけに視界がハッキリしないと思ったが」
少しだけ得意そうに語っていく真白にその言葉を聞き、髪の毛のあちらこちらを押さえるように触る甲太郎。
「あなたの髪の毛、まるで迷宮のようなクセ毛だったわ……そこまで解きほぐすのに」
真白が途中で言葉を止め、腰を下ろしたままに器用に上半身を曲げて甲太郎の寝そべっているベッドの真下へ手を伸ばし何かもぞもぞと蠢くような動きをする。
甲太郎の視線はそんな真白の背中に向いている。
彼女の背中には黒く、濁りなく透き通った川のように長い髪が流れ、もぞもぞと蠢くたびに微かにその流れが左右に変わる。
「あったわ、これよ」
背中をじっと見ていた甲太郎へ音も無く体勢を立て直した真白が声を響かせる。
彼女が取り出したのは透き通った琥珀色の全体像に爪楊枝よりもほんの少しだけ太目の先端のとがった針が綺麗に整列している定規のように薄い板である。
「私のお気に入りの髪を梳くための櫛」
「それが、まさかあなたの髪の毛をそこまでにするためにその身を犠牲にしてこの通りにボロボロ……」
静かに、形の良い唇をゆっくりと動かしながら息を吹くように言葉を吐き出していく真白、甲太郎の目線が彼女の手に握られた櫛へ移る。
良く観察してみれば、白く透明感のある薔薇の紋章の施された真横、焼き鳥の串のような尖りは所々で歯が抜けたように欠けている。
「あー」
どこか罰の悪そうな声を縛りだす甲太郎、両瞳は真横に逸れ、櫛を見ないようにして彼のクセである後頭部を掻く動作をしている。
「この子はね、まだいい方だわ」
彼に構わず言葉を続けていく真白。
「問題は、これよ」
その真白の言葉に続き、櫛に変化が起きる。
まるで孔雀の羽のように櫛が扇のように広がったのだ。
広がった他の櫛は真白が最初に取り出したボロボロの櫛とは明らかに違う、真横に真っ二つに折れたもの、まるでブーメランのように曲がったもの、尖りの全て抜け落ちてしまったもの、どれもこれもが『櫛』としての機能を失った物が最初に甲太郎へ見せつけたものを含めて5本、半円を描いている。
「この名誉の戦死を遂げたこの子達……」
「死因はどれも加賀見甲太郎の髪を梳いた事による変死」
静かに一言ずつはっきりと言葉を放っていく真白。
「その、何ていうかさ……」
「悪かったよ、今度飯でも奢るからさ」
申し訳無さそうに肩を縮めてフォローするかのように甲太郎が言う。
「いいえ」
真白がほぼ唇を動かす事無く短く一言だけぽつりと呟く。
「えっ ?」
甲太郎の口から突如、反応の遅れたかのような無意識な声が飛び出した。
その一言を境に二人の体勢に変化が生じていた。
そのベッドの上の光景は甲太郎の腰の辺りで膝をつき、彼の両腕を掴んで体を重ね合わせるように少しの隙間を空けて体を固定している真白の姿があった。
「安心していいわ、甲太郎の財布の中身は全く変化しない要求だから」
顔が付きそうなほどに甲太郎の顔の近くまで寄せながら吐息のように優しい声を彼の吹きかけていく真白。
驚愕に開ききった瞳孔の目と上位に立った目の双方の視線がぶつかる。
「何を、する気なんだよ」
ようやく現状を理解できたのか、すっかり顔面を赤く染めきった甲太郎が合わさった目線から目を逸らしながら少しだけ虚勢を張ったような篭った声色で問いかける甲太郎。
「血よ」
顔の間近ではっきりと聞こえる声で発言する真白。
「血……」
対する甲太郎は目を逸らし、赤面したままに彼女から聞こえた言葉を惚けたような声で復唱する。
「甲太郎の血、ちょっとだけ貰えないかしら ?」
口元を歪ませ、少しだけ目を細めた表情で更に甲太郎へ顔を寄せて迫るように言う。
「血って……確か前俺の血を吸った時」
「不味いって、言ってなかったか ?」
更に顔が近づいているためか、それとも真白の要求が想定外のものだったためか、搾り出すような声で途切るような口調で真白へ言葉をぶつける甲太郎。
「ええ……」
甲太郎の言葉から一拍子空けてから真白が肯定の短い返事を口にする。
「あなたの血はとても不味い」
真白が笑顔を張り付かせて肯定の続きを言葉にする。
「苦い、しょっぱい、辛い、とかの不快な味のどれとも当てはまらない正体不明の不味さ、私が今まで摂取した血の中でも間違いなく断トツで一位にランクインする不味さ」
真白が甲太郎の血の味について明確にゆっくりと語る。
「だったら吸わなきゃいいんじゃ……」
それに対し先ほどの口調で真白の言葉に吐き出すような声で問う甲太郎。
「確かに不味ければ吸わなければいい」
一瞬、間を置き問いに答える真白。
「唯、単に不味いだけならばこんな要求しないで甲太郎を奴隷にでもする要求をしているわ」
「あなたの血液の不味さの中に潜む中毒性、それが血を欲する理由かしらね」
ゆっくりとした猫撫で声で甲太郎の右の首筋を手のひらで優しくゆっくりと撫でていく真白。
「初めてあなたの血を吸ったあの日から、密かにあなたの血を渇望していたわ」
微かに呼吸音の混じるうっとりとした声で真白が言う。
「うれしいわぁ、またあの血を味わえるなんて……」
感嘆の混じったうっとりとした声を発しつつ、ついに真白の顔が動き始める。
「お、おいっ、俺はまだ良いとは」
焦りの混じった跳ね上がる声で真白を制止しようと甲太郎が大きめの声を発する。
しかし、虚しくもその言葉は真白に届かず、彼女の顔はゆっくりと確実に甲太郎の右の首筋へと向かっていく。
ついに甲太郎に密着したままの真白の顔が甲太郎の右の首筋の直前まで到達する。
真白の小さな深い桃色の舌が唇を拭い、彼女の喉元からごくりと小さな唾を飲み込む音が響く。
「ちょっと待ってくれっ !」
危機感を大いに感じ取ったのか甲太郎が懇願するように叫ぶ。
「ちょっとはしたないからあまりこっちを見ないでね、甲太郎」
しかし、真白からは甲太郎の願いとは真逆の方向であろう返答が返ってきた。
ついに真白が口を開いた。
慎ましくも大きく開けられた口が吸い寄せられるように首元へゆっくりと近づいていく。
開けられた口の上下からは普通の人間には無いであろう長めの犬歯の頭が覗いている。
「頼むっ !止めてくれ !」
必死の形相で右の首元へ視線を送り、頼む甲太郎、頬には真白の日本人形のような黒く透き通った髪がさらりと触れている。
しかし、そんな頼みも虚しくついに首の皮膚に唇が触れる。
そして、次に彼の皮膚に触れたものは白く、鋭い犬歯であった。