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長台詞なウィルス

 チェーン店のラーメン屋とカラオケ店の丁度真ん中にぽっかりと何も無い場所がある。


 が、良く見ればスタンド看板が立っている、近づかなければ見えないが地下へ向かう階段があるのだ。


 そこから先にある扉を潜れば、霧崎クリニック。


 知る人ぞ知る怪しげな病院である。


 その地下にある怪しげな外見の病院に一人の患者が診察に来ていた。


 外見相応の中身といったところか、SF映画に登場するような得体の知れない機械がたくさん置かれているのが目立つ広けた霧崎クリニックの部屋の中に二人の人間がいた。


 応接用の物であろうか、2つの黒い皮のソファ2対を挟むように長い机が遮るように置かれている。


 二人の人間は机を挟み、奥のソファに腰かけている。


 片方は男性だ、耳が隠れそうな程の長さのばさばさとした真っ黒い髪、後ろ髪で首は完全に隠れている。


 そこそこの筋肉質な体に高い背丈、彼の学校の制服であろう学ランのボタンは全て外されていて中の黄色いシャツが見える、下には黒いズボンをだらしなく穿いていた。


 少し強面ともいえる精悍な顔立ちだが寝ぼけ眼と服装のせいかどうもぱっとしない人物だ。


 年の頃は17、8歳ほどであろう、彼こそがこの霧崎クリニックへ診察を受けに来た加賀見甲太郎かがみこうたろうその人である。



 もう一人の人間は女性であり、肩の中心部程の長さの長い後ろ髪が特徴の青みがかった長髪に細い切れ目にすっとした輪郭の顔、フレームの無い細長い眼鏡にぱっと見れば美人と思われる顔立ちだが、口元を大きな白いマスクで覆っているため定かではない。


 背の高さは甲太郎よりも頭一つ小さいくらいで、女性の中では高い部類に入るであろう背丈だ。


 黒いネクタイを付けた薄水色のカッターシャツに膝までの黒いスカートそして、それらを覆ってしまいそうなくらい長い白衣をそれらの上から羽織っているいでたちだ。


 年齢は20代の後半から30くらいと見受けられる彼女こそがこの霧崎クリニックの主である霧崎李沙紀きりさきりさきだ。



 そんな二人の間に凍てつくような緊張した空気が流れていた。


 そんな空気の中で霧崎が口を開く。


 「そうね、私も転々としながら診療所をやってきたけれど」


 「甲太郎君のような不思議な症状の患者はこの町の人だけだった。」


 どこか落ち着いた感じの声でそう告げる霧崎。


 「なんで、この町の人間だけが…」


 少し低い感じの声で考えるように呟く甲太郎。




 K県A郡黒金町くろがねちょう


 それが甲太郎の住んでいる町だ。


 人口は約4万人、どちらかといえば都会寄りの町並みであり店や娯楽施設が多いにぎわった町である。




 「甲太郎君は『進化』って解るかしら…」


「… ?」


 突然のことだったのか、顔を歪め首を傾げてしまう甲太郎。



 「ごめんなさい、問い方が悪かったわ」


 「あなたの中の『進化』に対する印象や知識を教えて欲しいの」


 少し考え込んだ後に訂正し、甲太郎に質問する霧崎。



 「進化ってーと…パワーアップとか…形が変わったりとか…その程度しか思い浮かばないっすね」


 知っている限りの進化に対する印象と知識を総動員しながら説明する。


 「そうね、『進化』って言うのは生き物が長い年月をかけてその環境に適応するための形状に変化したり新しい機能を手に入れたりということね…」



 「私がこの町の不思議な患者を観続けて来て、行き着いたのがその『進化』…」



 甲太郎の表情が表情をゆがませ困惑し始める、まるで映画のような話だ。


 「口を挟むなとは言ったけれど、そんな顔されてもね…」



 「まあ、続けるわよ」


 そう、一言いうと霧崎は話を続ける。


 「今まで『進化』について色々な説が唱えられてきたわけだけれども、その中で『ウィルス進化説』というのがあるわ」


 「ウィルスが生物の遺伝子の中に入って変化を起こすことによって『進化』が起こるというものね」


 霧崎がひと段落つけたのかいつの間にか机に置かれていた湯飲みに口を付ける。



 「今までの動物はそれで進化を続けてきた、と…」


 「ええ、今まで進化を続けてきた分でウィルスを殆ど死滅…使い切っちゃって今現在は動物の進化が止まっている、ってことろね」


 「なるほど……」


 霧崎の説明に納得する甲太郎。



 「でも、そのウィルスが体内に入れば誰でも『進化』出来るっていう訳では無いの」


 「何か他にも必要な要素ってーか、そういうものが要るって訳ですか」


 「ご名答、まだもう一つ必要なものがあるのよ……」




 「それは、『願望』ね」



 「…… ?」


 またしても渋い顔をしながら霧崎の顔を見つめる甲太郎。


 「つまりね、ああいう風になりたいなー、とかこういう風になりたいなーっていう気持ちよ」



 「ああ……」


 理解できたのかすっきりとした顔に戻る甲太郎。



 「…つまり、強い『願望』に体内に入った『ウィルス』が反応することで遺伝子の変化が起こってその生物の望んだ機能が手に入ると、そう言うわけよ」


 「私が言いたかったこと、それはこの町の不思議な症状の患者は病気ではなく皆『進化』した、ということね」


 霧崎が話を締めた。


 「しかし…ウィルスは殆ど死滅しているはずじゃ…」


 未だに信じられないといった甲太郎が霧崎に問うように呟く。


 「そう、殆どウィルスは死滅してるけれど、この町…黒金町の周辺がはどういう訳かウィルスにとって最高の環境らしくて今でも増殖を続けているわ。」


 「それで、不思議な症状で診察に来た患者は黒金町の人間ばかりだった、というわけ」


 「…」


 霧崎の話を完全に聞き入っている甲太郎。



 「私個人でそういった『進化』した人間を『超人』と呼んでいるわ」



 「キンにk 「そうね、何の訓練も無しに痛みを感じなかったり怪力のだったり口から火を吐いたりできる人間のことをそう呼んだりするところから取ったものね…」


 喋ろうとする甲太郎にとっさに割り込み、言葉を奪う霧崎。


 甲太郎の発言は少々危険であった。




 「世の中にそんな人がいたとはなぁ……」


なぜか感心したようなそぶりで腕を組む甲太郎。


 「あらあら、随分と他人事ね」


 クスリと小さく笑いながら言う霧崎。


 「へ ?」


 つい、間抜けな声を出す甲太郎。


 「忘れたの ?あなたの体内の電気、それも『進化』の賜物ね」



 「…まじっすか ?」


 「まじっすよ」


 怪訝な顔で霧崎に身を乗り出し問うが、あっさりと答えられる甲太郎。








 「……はぁ」



 霧崎の診断によりげっそりと落ち込む甲太郎。


 「どうしたのよ」


 「いや、自分がそんな得体の知れないものになってたとは…」


 「むしろ喜んでいいと思うわ、あなたは『進化』によって命拾いしたんだから…」


 つかつかと業務用の机に向かいごそごそと何かを探す霧崎。



 そして再び振り返り甲太郎の方へと向き直り甲太郎の座っている椅子の近くへと歩いてくる。


 長方形の箱のような機械に取っ手の付がついているアイロンのような機械を手にしていた。


 「ちょっと失礼…」


 ソファに座りつつ猫背で落ち込んでいる甲太郎の腹の辺りにその機械の丁度板の部分の正面を近づける。


 無言で機械を近づけられた腹部を眺める甲太郎。



 バチン !




 と、突如、機械から無数の青白い光の線が走り、甲太郎の腹部に吸い込まれるのが彼の視界に入る。


 物凄い炸裂音のような音が近づけた機械から聞こえる。



 「うおぁっ ! 何しやがるっ !」


 「電気けいれん療法用の電気ショックよ」




 腹に近づけられた機械からのとっさに身を離し、電流と炸裂音に驚く甲太郎と声色を変えずに答える霧崎。



 「で、甲太郎君何か感触はあった ?」


 「いや、特に何も」


 不思議そうに腹部を押さえ、さする甲太郎。


 「普通ならのた打ち回ってるか、最悪気絶するほどの電流を流したのに何も起きない…」


 「……?」


 不思議そうに腹部をさすりながら何も言うことなく霧崎の言葉を聞く甲太郎。



 「甲太郎君、次はちょっとそこに立ってくれる ?」


 「もう、どうにでもなってくれ……っと」



 ヤケになったのか勢いよく座っていた黒い皮のソファから立ちあがる甲太郎。


 机を挟んだ対面の霧崎が口を開いた。



 「今度はその状態でちょっと頭の中でさっきの『電流』をイメージしてみて…」


 「『電流』、でんりゅう、デンリュウ…」


 甲太郎は霧崎の言葉を耳に入れた後、何度も口にしながら頭の中で先ほどの青白い電流を思い出す。



 パリ…






 バチバチバチバチバチ !



 と、突如甲太郎の右の手のひらのありとあらゆる面の皮膚の上を青白い電流が無数に走り始める。




 「うおおっ、なんだこれ !」



 そんな自分の右手に驚きの叫びを上げながら自らの右腕をぶんぶんと必死に振り回す。



 すると、ぱたり、と皮膚の上を走っていた電流も見えなくなる。



 「……」



 あまりのことに言葉も出ないのか、目をばっちりと見開き自分の右腕を凝視している甲太郎。



 「それが、甲太郎君が『進化』したことによって得た新たな機能…」


 甲太郎を挟んだ机の対面にいる霧崎がソファに座ったままで再び言葉を紡ぎ続ける。




 「電気の無力化、蓄電、放出、つまりは…」



 「『充電器超人』ってとこかしらね」



 「加賀見甲太郎君、あなたは雷に直撃はしたけれどもそのずっと前から知らず知らずのうちに『進化』していた…」



 「その新たな機能で雷の電力を全て吸収して自分の体の中に蓄電してしまったのよ、私が調べたときのあった電気がそれね…」



 「これが診察の結果、ってところかしら ?」



 霧崎はひそやかに診察の終わりを告げた。








 霧崎クリニックのドアを開け、久々に外に出る甲太郎。



 空はすでに赤みがかった青空の朝焼けになっていて、かすかな光が甲太郎の目に突き刺さる。


 「もう、こんな時間かよ」


 まるで夢でも見ていたかの様に時間が過ぎ去っていたためか、そう呟く甲太郎。


 霧崎クリニックの地下へ続く古ぼけた階段を上る。


 早朝だというのに相変わらず不気味な階段だ。



 階段を全て上り切りふと横を向くとそこには山音玲子がいた。



 いるにはいるのだが、霧崎クリニックのスタンド看板に背中からもたれかかって眠っていた。



 相変わらず前髪で顔の左半分を覆うように隠したショートカットの髪に今は目を閉じてすうすうと心地よさそうな寝息を立てている。


 相変わらずの小さな背中をスタンド看板に預け、ほっそりとした体をぐにゃりと脱力させている。



 「そういやいたっけな、こんな奴も……」


 額に手を当てて呟くように言う甲太郎。



 「おい、起きろ」


 玲子の肩に手を置き体を揺する甲太郎。


 しばらく揺すると彼女の眼がうっすらと徐々に開き始めた。


 「ん……ぅ、終わったの ?」


 「ああ、お前がぐっすり眠っている間に俺はほとんど起きながら夢見心地だったよ…」




 「で、調べてもらった結果は… ?」



 立ち上がり、腕を組みながら伸びをしつつ甲太郎に問う玲子。



 それに対し、甲太郎は霧崎から聞いた、『進化』、『超人』そして自分がどうなったか、について玲子に細々と説明する。



 「なるほどね……」


 「自分で言っといて何だが、そこ信じちゃうのか」



 妙に納得したように返答する彼女に逆に驚かされる甲太郎。



 「甲太郎君がそれらを話したってことは、証拠があっるってとこ ?」



 「まあ、な」



 甲太郎は学ランの袖をまくると、霧崎クリニックでやったように『電流』をイメージする。




 パリッ……バチバチバチバチッ !



 変わらず、甲太郎の手のひらを無数の電流が覆うように這いまわる。




 「おぉー」


 少し目を見開きパチパチと拍手を始める玲子。



 「それにしても『充電器』って、なぁ ?」



 「まあまあ、万が一の事態になる前に自分のことが知れて良かったじゃない」



 眉をひそめる甲太郎に明るく答える玲子。



 「私の場合、『進化』のせいで死にかけたからね」



 「へぇー」



 「霧崎先生に助けてもらったおかげで今の私があるようなものなんだ……」




 「そうか」



 朝焼けの中帰路に付きつつ二人。



 そんな中ぽつぽつと語る玲子



 「ってかあんたも『超人』だったのか」



 「できればさっきの会話のときにつっこんで欲しかったかな…」



 少し驚いたように言う甲太郎に相変わらず余裕のこもった声で答える玲子。



 「そういえば、さ」


 突如、考え込むような声で言葉を発する玲子。


 「甲太郎君は雷に直撃する前にすでに『超人』として『進化』していたって話だけど」


 「ああ、どうも霧崎医師の話では俺が気付かないうちに俺は『超人』になってたらしいな」


 「『進化』をするためにはさ、『願望』が必要じゃない」


 「と、言うことは甲太郎君には『電気を蓄電』したいって言う願望があったって事だよね ?」


 「ああ、どうもそうらしいな」


 疑問を次々と口にする玲子。


 「普通そんなこと考えたりするかな」



 「……」


 考え込むように、押し黙りながら路地を歩く二人。


 「あっ !」


 突如、沈黙を破る甲太郎。



 「そういえば」


 思い出したかのように呟く甲太郎。



 「俺、幼稚園の頃に卒園アルバムに将来の夢の所『電気バッテリー』って書いた覚えが……」







 そして二人は朝焼けの町の中へと消えていった。

名前:加賀見甲太郎/



超人名:充電器超人/



特殊能力:電気の無効化、蓄電、放出

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