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超・短編 世界を救った少女

 事の発端は白面金毛九尾はくめんこんもうきゅうびの狐と呼ばれる大昔の一匹の妖怪からであった。




 白面金毛九尾の狐、名前の通りに全身の毛色が金色に輝き、白色の顔に九つに分かれた尾を持つ狐といった姿をしている妖怪である。


 更にこの白面金毛九尾の狐は凄まじい霊力や妖力を持ち合わせており、長い歳月を経て妖怪となった狐『妖狐』の中でも最も強いとうたわれた存在だ。



 まずはこの妖怪、中国古代王朝の王のきさきを食い殺し、それに化けた後に酒池肉林や暴政を敷くなどのやりたい放題をやり、ついに処刑される事になってしまったが、妖術により処刑台で体を3つに分散し逃走に成功したのだという。


 次は古代インドの西部、そこの王子の妃へと化け王子をそそのかし、千人に渡る人間の首を刎ねさせるなどまたもや暴虐の限りを尽くす白面金毛九尾の狐。



 次には再び女性へと化け、周の国の第12第の王の后として迎え入れられた、王はこの后となった女性がなかなか笑わず、笑った顔が見たいと考え色々と手立てをするが上手くいかなかった。



 ある日、王が后を笑わせようと何事も起こっていないのにも関わらず、緊急事態を伝える狼煙のろしを上げるという珍事を行った。


そして、地方から大急ぎで集まる臣下しんかたちを見て、后は初めて笑ったのだという。


それから王は事あるごとに狼煙を上げ、后を喜ばせるがついに狼煙を上げても臣下達が来なくなってしまった。


その後、敵軍に周の国が攻められてしまったときに狼煙を上げたがやはり臣下たちは出動せず、王は捕えられた後に殺されてしまったという。





こんな感じで、とてつもなくはた迷惑な妖怪である白面金毛九尾の狐が次に来たのは日本であった。



17歳ほどの若い娘に化け、遣唐使を惑わして遣唐使船に紛れ込み来日することに成功したのだ。



そして、日本へと渡来することに成功した白面金毛九尾の狐は次に赤ん坊へと化けた。





その赤ん坊をある子宝に恵まれない武士の夫妻が捨て子であると思い、妖怪であることも知らずに拾い大切に育てた。



その後、その赤ん坊は美しい女性となり宮中に仕え、次第にその美しさや器量の良さから鳥羽上皇に寵愛されることとなった。



ある日、鳥羽上皇が病気になってしまいその原因がその寵愛されている女性にあると発覚し、白面金毛九尾の狐は真の姿を現した後、宮中から飛び去ったという。




そしてその数年後、よほど日本が気に入ったのか白面金毛九尾の狐は日本の下野国の那須で村娘や旅人などを食い殺すなどやりたい放題やっていた。




そして、ついに鳥羽上皇がその件につき。




「そろそろないわ…」





と言い、白面金毛九尾の狐の討伐を決行、8万の兵や僧たちで編成された軍勢が那須へと集結し白面金毛九尾の狐を捕らえ討伐に成功したのだ。



しかし、相手は最強の『妖狐』いわばラスボス的な存在だ、第二形態では無いがただでは終わらない。



なんと、猛毒を発する巨大な石へと自身の姿を変えたのだ、流石にこれにはまともに近づくこともできずに退却せざるをえない軍勢たちであった。




猛毒を発する石はそれから何か動き出すわけでもなくただただ、毒を発し続けていた、しかし室町時代の初期、玄翁心昭げんのうしんしょうという僧にその毒石は破壊されてしまう。




そして、破壊された毒石の欠片かけらは天高く飛び上がり四方八方へと、まるで日本全国へ飛び散るようにばらばらに散らばっていった。




その欠片の中の一つ、一番小さく手の平に収まりそうな大きさの物が深い木々の山中へと滑空するように降りてくる。







ドスッ !




と、欠片の行きついた先から突き刺さるような音がしたのだ。



なんと、欠片は大きな太い杉の木の根元へ突き刺さったのだった。











それから時は流れに流れ2110年、杉の木は全く枯れもせずにそのままの姿でそこでたたずんでいる、青々とした棘のある葉にみずみずしい茶色の胴体の太い立派な杉の木だ。



実はこの杉の木が全く変わらぬ姿を保っていられるのも根元へ突き刺さった欠片のお陰であった。



元は強大な霊力や妖力の持ち主である白面金毛九尾の狐であった欠片だ、その欠片自身にも霊力や妖力が込められており、長い年月をかけ杉の木がそれを吸い取ってしまったのだ。



つまりこの杉の木はただの杉の木ではなく強大な霊力や妖力を持った杉の木なのだ。









しかしその杉の木はあっさりと切り倒され、木材になってしまった。




次は強大な霊力や妖力のこもった木材へと変身したのだ、そしてその木材がトラックに積み込まれ工場へと向かい加工される。






そしてその木材が加工され作り出されたもの、それは『魔法のステッキ』だった。







『危険魔女 デンジャらス』、毎週日曜朝8時30分に放送している女児向けの魔法少女アニメである。



目を合わせたら襲いかかるという野獣の様な女の子が持ち前の剛腕とちょっとだけ魔法で悪をこらしめちゃうといった内容だ。




その番組に出てくる『魔法のステッキ』が玩具として発売され、その材料になったのが先ほどの木材だ。




白い棒状のの先にどぎついピンク色の大きなハートが突き刺さる様に付いており、その周りにこれでもかというほど太く短い棘が付いていると言ったデザインだ、まるでハートの形をしたウニである。






一体どこに売れる要素があるのかわからないが子供達には馬鹿受けし、以外にも売れてしまったこの商品であったが、全て木で作られているのでものすごく堅く棘だらけであるため当然がごとく全国規模で怪我をする子供が続出、回収業者が出回る騒ぎが起きてしまった。









「どうも、お騒がせいたしました…」




一軒家の扉の前で青い作業服に青いつばのある帽子をかぶった中年ほどの背格好のいい男性が深々とお辞儀をしつつ言う。




男が後ろへ振り返り、住宅街の路地にある一軒家の前に止めてあった小さなトラックの荷台へと近づく、荷台には件の『魔法のステッキ』が山のように積み上げられていた。



「…」



男は何も言わず、その荷台の積み上げられた『魔法のステッキ』の山へ手に持った同じステッキを荷台へと放り投げる。



連絡があった住所へ商品の回収に来ている回収業者、いわば『魔法のステッキ』回収係である。






男が車のドアをバタン、と閉めるとエンジンをかけそのまま住宅街の先へと走り去ってしまった、車のあった場所、アスファルトの上に1本だけ『魔法のステッキ』が地面に寂しく置き去られていた、恐らく先ほど投げ入れられた衝撃で荷台から落ちてしまったのだろう。





あろうことか、そのステッキは白面金毛九尾の狐の妖力を吸い取った木材から作られた1本であった。










「お ? 」



突然、少し低めの青年の声が聞こえる。



ぼさぼさの耳が隠れそうな長さの真っ黒い髪、前髪は眉のあたりまで伸ばされており、針ねずみのように逆立った後ろ毛で首が隠れている髪形に精悍そうな顔立ちだがどこか眠気を帯びたような目つきをしている。



高めの背丈に少し筋肉質ながっしりとした体格、真っ黒いボタンが全て外された学ランを着ており中から黄色いシャツが見えている、下には黒い制服のズボンを着ているといった格好だ。



加賀見甲太郎かがみこうたろう道端みちばたで立ち止まり地面を見下ろしていた。



「何だこれ…」



甲太郎が腰を落とし少し地面へ屈むと何かを拾う。




「魔法の杖… ? 」



拾い上げたものを怪しそうな表情でまじまじと見る甲太郎、その手には先ほどの『魔法のステッキ』が握られていた。




「しかし、これは熱帯雨林とかに生息してる絶対触りたくない系の毛虫を思い出させてくれるデザインだな…」


『魔法のステッキ』のどぎついピンクのハートから生える無数の針の山を見つつ、怪訝そうな顔で甲太郎が感想を述べる。


そして、まじまじと見終わった後に甲太郎はやる気の無さそうに『魔法のステッキ』を持った手を空へと上げる。




「アブラカタブラー、世界よ滅べ」


目を瞑り、ステッキを持った手をぐるぐると回して呪文を唱えてみる甲太郎。




「なんて、あるわけないか…」



言い終わると、苦笑しつつ背後へステッキを放り投げ捨てる、ステッキが地面へ落ち、カラン、と寂しそうな音を立てる。



そして甲太郎は住宅街の先へと歩き去って行った。






場所は変わりアメリカ航空宇宙局では。




「大変ですっ ! 地球の50倍の大きさの隕石がこちらへ向かって飛んできていますっ ! 」


「マジかっ ! 」



妖力のこもった『魔法のステッキ』により甲太郎の願いが届き、世界滅亡の危機におちいっていた。



白面金毛九尾の狐の恐るべき妖力が現代へと復活したのだ。









「ん ? 」



次は少し凛とした少女の声が聞こえた。




赤みがかった黒いショートカットの髪に顔の左半分を覆い隠している前髪、その左側の顔にある大きな釣りがちな猫の様な目に黒い瞳、小さな輪郭の顔にすっと通った鼻筋に小さな口。


平均的な女性の身長にすらっとした引っかかりの無い体格、黒を基調としたセーラー服に黒い短いスカートを穿いている。


山音玲子やまねれいこが通りかかり、地面に落ちている『魔法のステッキ』を見つめている。



「…」


無言でそれを見つめたまましゃがみこんで拾い上げ、再び立ち上がる。



「なんか、このデザイン…腹立つなぁ、バーミヤンの看板みたいに『何か知らないけど妙に腹立つ』って感じかな」



拾い上げた『魔法のステッキ』を少し眉をひそめたまま見つめつつ文句を言う玲子。






そして、ぴしっと背筋を伸ばし杖を持った腕を真っ直ぐに上げる玲子。




「闇の力を秘めし杖よ、真の姿を我の前に示せ、契約の元、玲子が命じる ! レリーズ ! 」



と、少し大きな声で言う玲子。




「この世界を滅ぼしちゃえっ」



さっきの声はどこいったと言いたくなるような甘ったるい声で言いつつ、杖を持った腕を真っ直ぐに伸ばしウインクする玲子。






「…って何をやってるんだ、私は」



我に返り少しだけ頬を赤く染めて杖を背後へと放り投げる玲子、杖は再び放物線を描き地面へ着地するとカラン、と物悲しげな音を立て転がる。





「誰も見てないよね…」



そして、きょろきょろと辺りを見つつ、まだ少し顔の赤い玲子が歩き去って行った。






そして、アメリカ航空宇宙局では。







「大変ですっ ! 今度は謎の巨大な艦隊の大群が地球へ飛来してきますっ ! 」



「何か砲台みたいなの一杯付いてんじゃん ! これ絶対地球を侵略する気じゃん ! 」





再び猛威もういをふるう『魔法のステッキ』、今度は宇宙から異星人の侵略者が地球へ侵攻を始めたそうだ。










「ふんふーん…」



どこか愛らしい感じのする声の機嫌の良さそうな鼻歌が聞こえてくる。




「あれ ? 」



そして、鼻歌が止まり愛らしい感じの少女の声が聞こえる。




肩のあたりまで伸びたさらりとした亜麻色の髪に眉の辺りで綺麗に切りそろえられたようになっている前髪、頭の右上辺りで赤いビー玉の様な装飾のついた髪留めで髪を細く尻尾のように結っている。



小さく綺麗な輪郭の顔に茶色い瞳の少しだけ釣りがちな目、小さくすっとした鼻筋の鼻に薄桃色の唇の口。


同年代の女性の中では少し高めの背丈に女性的にめりはりのあるスタイル、先ほどの玲子と同じ黒いセーラー服に玲子よりも少しだけ短いスカート。



秋山優衣あきやまゆいが地面へ捨てられたステッキを見つめていた。




「これ…魔法少女的なアレよね」



しゃがみながら言いつつ『魔法のステッキ』へと手を伸ばし拾う。




「ふぅん、中々いいデザインしてるじゃない」



彼女の意中の人である鵜野花恭介うのはなきょうすけと夜にレストランで食事する、と脅迫…もとい約束しているため機嫌が良いからか、はたまた素でそう思っているのかステッキを褒める優衣。




「あ、そうだ…今のこの幸せな気持ちを皆に分けるために…」



『魔法のステッキ』を両手で持ち、胸に抱き目を瞑る優衣。










「世界が平和になりますように…」




と、静かに一言呟いた。









そして、アメリカ航空宇宙局では。






「隕石、超スピードで逆方向へと方向転換、そして前進、侵略者と激突しました ! 」



「侵略者の艦隊は全滅、隕石はそのまま逆方向へ飛んで行きました ! 」




「ピタゴラスイッチみたいだ…」




立て続けに奇跡が起こり、局内では歓声が湧き上がる。











「って ! こんなことをしてる場合じゃない ! 」




しばらく目を瞑っていたが我に返る優衣、その時つい力が入り。




ボキッ !




と、両手で掴んだ『魔法のステッキ』の柄がポッキリと真っ二つに折れてしまった。




「早く帰って準備しなくちゃ ! 」



優衣は先ほどの清らかさもなんのそのと真っ二つに折れたステッキにも気付かずに地面へと放り投げた。





カラン、カラン…



と、むなしい音を立て地面に転がる『魔法のステッキ』の残骸…。






そして、物凄いスピードで走り去る優衣。










こうして、世界は人知れず一人の少女によって救われたのだった。











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