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闇の幻影と惨劇の再来

微かな光に照らされた薄暗い、正方形を感じさせる密室の部屋。


その微かな光の光源はその部屋の前方から広範囲に広がり部屋の全てを占める階段状の床をまんべんなく照らしている。



「巌…」



その階段状の下から14段目、ちょうど真ん中のあたりに唯一立ち上がる人影が一つある。



ぼさぼさとした耳にかかりそうな程の長さの黒い髪、眉辺りまでの前髪に首を隠しているぎざぎざとした鋭い後ろ毛。


どこか精悍せいかんな顔立ちであるが少しやる気の無さそうな眠気のこもっていそうな黒い瞳の目を今はしっかりと見開いている。


そこそこに筋肉質な体型に高い背丈、真っ黒いボタンの全て外れた学ランを着ていて中から真っ赤なシャツが見えている、下は学ランと同じ真っ黒な学校指定の制服のズボンを穿いていえう、といった格好の男だ。


加賀見甲太郎かがみこうたろうである、彼は右下へと視線を落としている。



足元の光の届かない闇の中に転げている人影が彼の瞳に映っていた、共に映画館へ映画を見に来た鬼瓦巌おにがわらいわおである。




「一体、どうなってやがるんだ…」




甲太郎はその場に身構え、呟く。



気付けば自分たち以外で映画を見ていた他の観客たちがいつの間にか綺麗さっぱり居なくなり、そこには座っていた痕跡の残る青い折りたたみの柔らかいクッションのようなシートがきっちりと開き、椅子の形をしている。




『かーっかっかっか ! 次はお前だ ! 加賀見甲太郎 ! 』


突如、前方から酷くかすれた甲高い男声が甲太郎の方へと響く、声の出所は前方に掛かる映画の巨大なスクリーンからである。



思わずスクリーンへと向き直る甲太郎、そこに映るのはこれでもかというほどにアップに映された頭部から血を流し白目をむき薄いピンクの鼻の上に思い切りしわを寄せ、口から真っ白な鋭いとがった牙を見せる真っ白な獣が一匹の映像。


真新しそうな真っ青なジーンズのズボンを穿いている大男のようなおこじょである。


先ほど甲太郎たちが見ていた映画に登場していた悪役、いたち科四天王のおこじょの化身であるオコジョーだった。



倒れている巌はこのオコジョーがボウガンから放った矢によるものである、未だに甲太郎の近くの足元から起き上がる気配はない。



『食らえっ ! 』



すると、オコジョーがこちら側から少し距離を取り、黒いボウガンを取り出し甲太郎へ銃口を向け、有無をいわないうちに射出する。




ビシュッ !




と、空を切る音が薄暗くほとんど音のない館内に響き渡る。







そして、風の切る音が止むとドスッ、と矢の突き刺さる鈍い音が聞こえた。








しかし、放たれた黒く短い矢は甲太郎に命中せず彼が立っていた場所の背中にあった椅子の背もたれへと突き立っている、刺さったばかりのその矢尻やじりが衝撃で微かに震えていた。




当の甲太郎はいつの間にかその矢の突き立った少し横で体をそらして立っていた、オコジョーの放ったあのとてつもない速さの矢を回避したのである。



「…電流を流して『視神経』を強化した」



オコジョーへ向き、人差し指でとん、と自らの眉間を押さえそう告げる甲太郎、彼の眉間で微かにビリリと電流が流れた。






甲太郎がこのような芸当ができるのは彼があるウィルスにより遺伝情報をいじられその人間が心から望む新たな機能を得ることのできた『進化』した人間だからである、彼の知り合いの医者はそのような人間を『超人』と呼んでおり彼やその周りの人間たちもそれに習い『超人』と呼んでいた。



彼が『進化』により手に入れた新たな機能は電気の無効化、その電気を筋肉の細胞へ吸収、蓄電、そして放電である、早い話が電気を吸い取って体内に溜め込みそれを放出できる『充電器人間』だ。



その能力を使い、視神経に微弱な電流を流し『視力』を強化、それにより『動体視力』、動くものを断続的に見続けることのできる力も強化されそれによりボウガンの矢を見切り回避したのだ。



『ぬぅぅ…』


それを見た画面の中のオコジョーがぎしぎし、と歯を噛み締め歯軋りをする。



『しまった ! 奴め、何処へ行きやがった…』


オコジョーがきょろきょろ、と画面の中から慌てた様子で客席を見渡している。



オコジョーの眼前、視野の中にいた甲太郎はいつの間にか姿を消しそこにあるのは誰もいない椅子の羅列のみである。











「…ハァ…ハァ…」



甲太郎はすぐ近くの椅子と前の椅子の背もたれの間のわずかな空間に伏せて隠れていた、これならば離れた直線上をボウガンで攻撃するのはほぼ不可能だ。



『そこかぁ ! 』


ビシュッ ! ドスッ !




まるで見当違いな所へ矢を放つオコジョー、矢は再び空を切り一番前の座席の一番端の席を貫く。




『きしゃーっ ! 』


ビシュッ ! ドスッ ! ビシュッ ! ドスッ !



その後も、オコジョーは狂乱したようにそこら中の座席へと矢を放ち続ける。



甲太郎はその様子を椅子の下のわずかな隙間からじっと動かずに見ている、いつか必ず生まれる隙を探しているようだ。



『しまったっ ! 矢が切れたっ ! 』


矢の発射口を自らへと向けて覗き込むようにしながらどこかオーバーな感じの声で発するオコジョー。



ついに生まれた僅かな隙を甲太郎は見逃さなかった、とっさに立ち上がりばっ、と走り出す、甲太郎の駆け出す瞬間にその両足にまた電流がバチリ、と流れた。




甲太郎が自らの脚の筋肉へと微弱な電流を流したのだ、これにより脚部の筋力が少しの間強くなる、医療療法などで使われることもあるものだ。



駆け出した甲太郎は横へ一直線に並んだ椅子の列を走り抜けていく、そして、椅子の列が終わると左側、オコジョーの映るスクリーンとは逆の方向へと走る。




そして、椅子の羅列の隙間で仕切るように頂上へと伸びる階段を上る、甲太郎が行き着いたのはスクリーンとは反対側にある壁、正しくはそれに付いてる扉だ。



「あのスクリーンの映像さえなんとかできればあいつも終わりだ ! 」



甲太郎が壁についた大きな出入り口の扉の縦に伸びる取っ手引っつかみながら言う、彼はこの館内のどこかにある映像を映し出している部屋、『映写室』を探すべくひとまずこの映像の映写されている館内から出ようとしているのであった。




ずぶずぶ…


「… ! 」


取っ手を掴む甲太郎だが、なんとその取っ手をつかんだ手からどんどんと先へ引きずり込まれるように扉へと吸い込まれて行く、まるで底なし沼に引き込まれていくようにゆっくりと扉へ埋まっていく甲太郎の体。





「…うっ」



そんな彼が再びずぶずぶ、と扉から出てくる、するとそこは先ほどとまるで変わらないオコジョーが画面に映ったスクリーンの薄暗い上映館内であった。


一つ違う点が有るとすれば彼の向き、スクリーンに背を向けていたはずの彼の体がいつの間にかスクリーンのほうを向いているのだ、つまり甲太郎はドアに吸い込まれた後、そのまったく吸い込まれた場所に放り出されたのである。





それに思わず驚き、驚愕の表情を浮かべる甲太郎。




すると、スクリーン内のオコジョーが甲太郎へ向け、びしり、と人差し指を突きつける。



『何故、俺様が貴様がそのドアに向かうとき焦りもうろたえもしなかったか…』





『お前はこの館内から出られないからだよぉおおおおおお ! 』



思い切り口を開きよだれをまき散らしながらまるで吼えるように叫ぶオコジョー。




『それにお前の思い違いはそれだけじゃねぇぜ ! 』



更にオコジョーが叫ぶと自らの手を画面の客席のある方へと突き出す。



ズズズ…、と画面から飛び出す巨大な白い柱の様な太い腕、オコジョーの腕が画面に映っている大きさそのもので先ほどの矢のように画面の外へと飛び出る右腕。




続いて左手、先ほどの様な太く巨大な左腕、そして、オコジョーが画面へと自らの頭を突きつける。




映画の画面を一杯に使ってしまうほどのオコジョーの白い恐ろしい顔面が画面から実体となり飛び出してくる、続いて山の様な体がまるで水中から出てくるかのように映画館の館内へと飛び出る。



気が付けば画面の前には天井に付きそうなほど巨大な頭から血を流し、真っ青なジーンズのズボンを穿いたおこじょがスクリーンの前で二足歩行で立ちはだかっていた。



『画面から出られるのは矢だけじゃねぇって事だ…』





「ぐっ…」


にやり、とにや付き余裕の表情と声色で告げるオコジョーと思わず表情を歪ませ冷や汗を流す甲太郎。



バチリッ !




再び甲太郎の脚から電流の流れる炸裂音が響く、そして今いる扉から真横へと駆け出す。



『逃がさん ! 』



それを見たオコジョーも叫びを上げながら甲太郎を目掛けて飛び掛かる。










ドズゥゥゥン !








と、映画館内が揺らぎ、地響きが響き渡る館内にはバキバキ、と椅子の羅列たちを破壊し、うつ伏せに横たわる巨大オコジョーの姿があった。



甲太郎へ向かい飛び込むように飛び掛かったのだ。




「うぐ…」



当の甲太郎はというと、間に合わなかったのかそのオコジョーの短い毛で覆われ鋭い爪が生え、肉球のあるてのひらに真っ直ぐな体勢で体を握られるように掴まれている。




メキメキッ… !




「がっ…」



寝ころんだ体勢のままで丁度首の下から腰までを掴んだ掌へと力を込めるオコジョー、それに苦しそうに表情を歪め呻く甲太郎、彼の骨が嫌な音を鳴らしつつ悲鳴を上げている。




『カカカッ このままじわじわと絞め殺してくれるわっ ! 』




ミシッ !




「うぐぐぐっ…」



オコジョーはそのまま力を込める手を休めず、にや付いた表情で甲太郎を掌で絞め殺そうとしている、そんな中、甲太郎は苦痛の表情でいるしかなかった。




























『…ジェームズ、まさか貴方が黒幕だったとはね』



『ククク…ジェニファー、郁美、イタチ科四天王…これら全ては私の手の平の上で踊らされていたにすぎない…』




感情の感じられない落ち着いた女性の声とどこか不敵な自信と悪意のこもった男性の声が薄暗い部屋に響き渡る。



「…映画は大詰め、こちらの方も大体は大詰め、といったところか」


どこか、冷静だが良く通りそうな男の呟きが聞こえた。




階段状になった椅子の羅列の一番下の段のど真ん中、一人の人影が立ち上がる。




濃い灰色のスーツに白いYシャツ、真っ赤なネクタイの中肉中背ほどのさほど特徴の無い体。



黒縁のまるで牛乳瓶の底の様な厚いレンズの眼鏡に大きな鼻、眉毛の辺りからぐるりと生えている髪の毛、それ以外の場所には全く髪の毛の生えていない髪形、まるでマッシュルームの傘の様な髪形の茶色い毛色の髪の毛だ。



そんな席から立ち上がったキノコ頭の男以外の人間はまるで見当たらない、そして彼が右を向くとゆっくりと歩き始める。




彼の足もと、椅子の下の床の上に大きな塊が落ちている、だが良く見ればそれは倒れている人間であった。




彼がゆっくりと歩を進めるごとにどんどんと明らかになっていく倒れている人間たちの姿、まさに死屍累々《ししるいるい》といった光景である。




だが、時折その倒れている人間たちから微かな呻き声が聞こえてくる。



「今頃、皆夢の中、か…」



男が眼鏡をくいっ、と上げうつむきながら呟いた。




「『幻覚作用のある胞子』を作り出せるキノコ人間…あの医者のお陰でわかったこの『機能』とやらで随分と遊ばせてもらっているがな…」


にやり、先ほどと同じようにうつむいたままと笑うキノコ頭の男、この男も『超人』であった。






『キノコ人間』、この男の機能は『幻覚キノコ』に深く関係した物である。



彼の『幻覚作用のある胞子』これを摂取するとしばらくの間、昏睡状態が続き、自我が無くなり視覚や聴覚へ幻覚、見えるはずのないものや聞こえるはずのないものを感じさせる効果があるそうだ。




「古代に呪術師が『幻覚キノコ』を用いて宗教的な儀式を行っていたそうだ…恐らく『神の意志が見えた』だの『神の声が聞こえた』だの言っていたんだろうな…」





「そりゃあ、『見える』し『聞こえる』はずさ…『幻覚作用』のお陰だがな…」




にんまり、と三日月のように口元を歪ませ独り言をぶつぶつと呟きつつもゆっくりと歩を進めている。



「くっくっくっ…しかしこの大勢の人間がのたうち回る光景はいつ見ても清々しい…」



静かに笑いつつ、ゆっくりと出口へ向かう階段を登り始める。




男が辺りを見渡しながら階段を登り歩く、どの段の席でも人が椅子から転げ落ちて床へ倒れている、この館内に立っている人間はこのキノコ頭の男一人だけである。



「そして、歩いている人間が俺だけ、というのもまたまた清々し…ぐえっ ! 」




男がちょうど下から14段目の階段で立ち止まった時、大きなうめき声を上げ、その場に尻もちを付くように倒れ込む。



「…誰がやったかわからんのなら待てばいい」



突如聞こえる男の声、その列の丁度真ん中の席の列の倒れた人間たちの中から一人の大きな人影が立ち上がった。



高い背丈になかなかにごつい体格、しっかりと伸びた背筋に黒い長ラン、学校指定の黒いズボン。



黒く後ろ首を隠している長めの真っ直ぐとした後ろ毛、どこか意志の強そうな顔立ちに少し太い眉、そして何よりも目立つリーゼント。


手には大きく膨らんだ白い布の袋を持っている。



先ほどまで甲太郎の横で倒れていたはずの鬼瓦巌であった。





「…ごっ…これは…石 ? 」



痛みの走った脇腹を押さえつつ倒れうめきながら声を発するキノコ頭の男。




「どうやら、あんたがこいつを降らせていたらしいな」



巌が右手の手のひらを開き、そこへふぅ、と息を吹くと白い粉が舞い散る。



「いきなり加賀見甲太郎が倒れた時は少しビビったが身を伏せて正解だったよ…お陰で光に反射して大量に宙を舞っているこの怪しい『粉』を発見できたからな…」



腕を組み、見下ろすように倒れたキノコ頭を見据えて言い放つ。




「…なんでお前は倒れていない…」



未だに苦しそうに言うキノコ頭。




「恐らくお前が舞い散らしたこの粉みたいなものは、何かしらで人を倒れさせる成分があるようだがその一粒一粒の効力はそこまで高くないようだな」



「しかも、上に吹きあげて舞い散らさなくてはいけないからだろう…効力が出るのには時間がかかるはずだ」



巌が敵の機能についての推測を語る。





「だから皆が前へと視線が集中し、顔の向きがほぼ一定な上に飲み物や食べ物へとこの粉を付着させれる映画館は好都合って訳だ」




「だが、俺は違う、ほとんど映画を見ないでうつむいていた上に飲み物にもほとんど口は付けていない…恐らく効力が出るまでは粉は吸い込んでいないはずだ…」





「まあ、こんなところかな…」



巌が言い終わると、彼はリーゼントへと布の袋から石を取り出し先端からリーゼントの中へ詰めた。





「ちなみに、俺は『大砲人間』…リーゼントに入れたものを発射できる、威力はさっきお前が体感済みの通りだ…」




つかつか、と倒れたキノコ頭へと近寄る巌。




「…うおっ…こっちへくるんじゃねぇ…」



倒れ込んだキノコ頭が大声でうめく、先ほどのダメージが大きかったせいか立ち上がれないようだ。






そして、ついに倒れ込み、じたばたとするキノコ頭の目の前まで近付くと腹へ狙いを定める巌。






「喰らえ ! ほぼゼロ距離射撃 ! 」








ドォン !






そして、最後にキノコ頭の男が見た光景は螺旋のように回転しつつ発射される石ころが自らの腹へと突き刺さる様にめり込んでいく光景だった。
































「大丈夫だ ! 今度は行けるって ! 」





「しかしなぁ…」




黒金第二高校の2年A組の教室の前、巌と甲太郎が立っていた。




どこか励ます様に言う甲太郎と自信の無さそうな声を出す巌、巌の手には紙切れが2枚重なり握られていた。




「あの映画館での一件ですっかりヒーローじゃないか…きっとこの話で株が急上昇中だから間違いなくあいつの好感度が上がってる今がチャンスだ…このまま行けば個別ルートは入れるぞ 」



甲太郎がかなり無責任な感じで更に励ますように巌へと言う、あのキノコ頭の男を倒した巌は『違法ドラッグをばら撒いた犯人』に勇敢に立ち向かい取り押さえたとしてかなりの感心を抱かれていた。


新聞の一面にも載り、結構な騒ぎであった。


「…でもなぁ、いざとなると」



弱気な声で言う巌、手に握られたのは遊園地のチケットであり、懲りずに再び玲子を誘うべく購入したものだがこの間断られたことをまだ引きずっているのか尻込みしている。


映画館の一件、甲太郎が昏睡状態の間、巌が戦ってくれたお陰で無事に済んだという名目の借りを返すべく甲太郎もそのチケットの半額分出し、巌の計画がうまくいくように加担することにしたのだ。





「何やってんの ? 」



がらり、と目の前の扉が開き小さな人影と凛とした声が聞こえた。




赤みがかったショートカットの髪に顔の左半分を覆うように伸ばしている前髪、少し釣りがちな猫のように大きな目に黒い瞳、すっと通った鼻筋に小さな輪郭の顔に血色の良い肌。



平均的な女性の背丈にスレンダーで引っかかりのない体型を全体的に黒を基調としたセーラー服に少し短いスカート、この学校の女子の制服に身を包んでいる。



彼女が巌がチケットを渡そうとしていた山音玲子やまねれいこが教室の戸を開き、引き戸の取っ手を掴みながら立っている。





「うおおっ ! どっから現れてんだよ」



「いや、だってここ私の教室だし…」



いきなりの登場に驚き、よくわからないいちゃもんを付ける甲太郎に少し困ったように人差し指で頬を掻いている玲子。





「玲子さん…」



いきなりの不意打ちに心の準備が出来ていなかったのかまるで凍りついたようにがちがちに緊張している巌が呟くように言う。



「ああ、巌君か、噂は聞いてるよ何か悪行超人を倒したんだって ? 」




「…ちょっと見直したかな」




がちがちに固まった巌へ笑顔で言う玲子である。







「加賀見甲太郎よ…」



「何だ ? 」




「俺、もうゴールしてもいいかな ? 」



「ゴールする前にとりあえずそいつを渡してくれ」



「…うん」




今にも天へと召されそうな笑顔の巌、玲子に褒められたのが相当に嬉しかったらしく全てを成し遂げたような表情をしている、まるでラストシューティングを終えて帰艦する時のアムロのような表情である。


しかし、甲太郎がそんな巌を制し、チケットを渡すように催促する、そして素直に聞き入れる巌。






「玲子さん…」



「え ? 何 ? 」



今度はしゃきっとした感じで玲子の眼前へ立つ巌、それに玲子は少し驚いていた。







「よろしければ、今週の土曜日に俺と遊園地へ行きませんかっ !? 」



物凄い気合の入った大声で叫ぶように声を張り上げる巌、声が廊下に響き渡り生徒たちがこっちを見ている。







「…え ? いいけど ? 」



少し、気おされたように目を見開きながら言う巌。







「…」



「巌め、嬉しさのあまり声もあげずに謎の舞いを舞ってやがる…」



まさに甲太郎の言ったとおりに謎の踊りを踊り続ける巌と何か奇妙なものを見るような目で巌を見ている甲太郎。






「いやぁ、楽しみだね甲太郎君 ? 」



「は ? 」



玲子が嬉しそうに甲太郎へ笑顔で言い放ち、思わず不思議そうな返事で返す甲太郎、横で舞い続ける巌。





「え ? いや、だから…土曜日だよ…」



「いや、だって俺、行かねぇし…」




不思議そうに言う玲子にあっけらかんと答える甲太郎、しかし巌の舞いはとまらない。



「え ? 」



「え ? 」



思わず互い同士で聞きあう甲太郎と玲子、相変わらず巌の舞いは止まらず。





「…と、言うことは ? 」



「巌と二人っきりだな」



甲太郎へと質問する玲子にそれに対する答えを普通に返す甲太郎、巌は舞い続けている。






「えぇー…、それはちょっとなぁ…」



少し尻込みしつつ困ったように呟くように言う玲子、巌の舞がぴたりと止まる。









「…」



「…」



無言で向き合う甲太郎と巌。













そして、結局甲太郎と巌は二人で遊園地へ遊びに行き、フリーパスの力を最大限に発揮し、ジェットコースター87回、バイキング56回、コーヒーカップを63回と狂ったように乗り続けた。



まるで何かを忘れたいかのように…





























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