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スーパーDr.霧崎

日はすっかり落ち、夜風が心地よい夜のとばりが落ちたばかりの時間。


S県のA郡 黒金くろがね町の某神社の土で固められた本殿の目の前の少し広けた場所、周りはうっそうとした木々の立ち並び、吸い込まれそうな深い闇の色の森のような場所になっている。



「来たわね ! 姉様ねえさま !」



小さな人影が幼く甲高い声を上げる。


艶のある黒い髪を左右で髪留めで縛りぴょこん、と飛び出した筆のようなツインテールに小さな顔、小さな鼻、小さな口、そして黒い瞳の釣った大きな目に目元のフレームのない細い知的な印象のある眼鏡。


歳は小学四年生ほどであろうか、それ相応の背丈に細い体格をこの黒金町の学校の制服に身をつつみ上から地面に付くほど裾の長い白衣を羽織っている。


ちんまりとした印象のある少女である。



「あなたもいい加減しつこいわよね…」


次に少し呆れた感じの冷静さの含まれた声が聞こえる。


青みがかった黒いさらりとした背中の辺りまで伸ばされた髪、形のよい輪郭の顔口元を大きく隠した白いマスク、すっきりとした細い鼻筋に細い切れ長の目、先ほどの少女と同じような知的なイメージのある細い眼鏡、口元は隠れているが美人だということが分かる顔立ちである。


先ほどの少女とは真逆の高めの背丈にぱっと見でも女性と分かる程の良いスタイルに水色のYシャツに紺色のネクタイ、黒い短いスカートにストッキングといった服装に先ほどの少女と同じく上から裾の長い白衣を羽織っている。


年の頃は20代中盤から30歳ほどとうかがえる。


霧崎李沙紀きりさきりさき、彼女の名前である。




「やかましいっ ! 今度こそは私の勝ちだ !」



小さい白衣を着た少女が左手を腰にあて右手を霧崎の方へと伸ばし指を差し、仁王立ちしてヒステリックに叫ぶ。



「その台詞も最早36回目ともなると飽きを通り越して吐き気すらもよおすわね…」


胸の下辺りで腕を組み、少しだけ眉をひそめ嫌気いやけのこもった声色で言う。




「…ふんっ、そうやって余裕ぶっていられるのも今日までだ ! 今日こそは姉様に勝ってあの『約束』を果たしてもらう !」



「それに類似した台詞も25回目…ね」


意気込んで叫ぶように声を上げる白衣の少女に右手を動かし眼鏡をくい、と上げながら極めて感情のこもらない声色で言う霧崎。




「今日の勝負…秘策があるからな…」


左手で腰に手を当てたまま、にやりとたくらむような笑みを浮かべる白衣の少女、眼鏡のレンズがきらり、と光る。



「…その秘策って言うのが隣の彼、ってわけね」



「はっはっはっ !」



ふぅ、とため息をつきながら言う霧崎、そしてその言葉の後に聞こえるどこか爽やかな低い男性の声。



白衣の少女の隣に立っているのは大男であった。


角刈りの黒い髪の毛に太い眉、30代程の年齢を思わせるいかつい顔立ちに爽やかな笑顔を浮かべている。


2メートルは超えるであろう高い身長に大木の様に太い腕、岩石の様な筋肉質な体つきを白いランニングシャツの上からボタンの全て外された真っ黒い大きな学ランを羽織って黒い制服のズボンを穿いている。


腰には楕円形の銀色の大きな飾りの中心に大きな丸い渦を巻いた飾りのついた、ヒーローの変身ベルトのような大きなベルトを巻いている。


背筋をぴん、と伸ばした腕を組んだ大男である。


どうやらその大岩のような大男が彼女の言う秘策とやらだそうだ。





「…それで、姉様の連れてきた『超人ちょうじん』はどいつだ」



ふん、と自信満々に鼻を鳴らし少し見下すように顔を上げ霧崎へ問う白衣の少女。





甲太郎こうたろう君、ブレイブルーは家庭版か筺体きょうたいが望ましいと思うわ」



「へ ?」



霧崎が後ろを振り向き足元へと言葉を放ち、そこから間の抜けた声が返ってくる。


どうやらもう一人、人がしゃがんでこの場にいたようだ。



ぼさぼさとした耳の隠れそうな髪、後ろ髪は針鼠の様な黒髪にどこか精悍せいかんさを感じさせる顔立ちに眠気のこもったような目つき。


先ほどの大男程ではないが高い身長にそこそこに筋肉質な体つき、ボタンが全て外された学ランから中の青いシャツが見えている、下には学校指定の黒いズボンを穿いている男だ。




加賀見甲太郎かがみこうたろうが霧崎の後ろでしゃがみこんで携帯ゲーム機に興じていたようだ。




「さあ、出番よ、甲太郎君…思う存分戦いなさい」



「ちょっとタンマ」



そのままの体勢で言う霧崎に甲太郎が立ち上がりゲーム機をしまいながら言う。




「…もう一回だけお願いします」



「さあ、出番よ、甲太郎君…思う存分戦いなさい」



眉をひそめ聞きなおす甲太郎と先ほどと寸分とも違わぬ口調で繰り返す霧崎。



「…戦うなんて聞いてないんすけど」



「言ってなかったからよ」





表情を歪めて霧崎へ顔を近づけ言う甲太郎に対し、極めて冷静に答える霧崎。



甲太郎は下校中、寄り道をしてゲームセンターで遊んでいる途中に携帯電話に電話がかかり、取ってみれば相手が霧崎ですぐに神社まで来てほしいとの事であった。


神社まで来てほしいと言われ、暇であった甲太郎はついつい神社まで来てしまったら成り行きでこのような展開になってしまったのだ。




「…何で、俺が戦わなきゃならないんです ?」



「…ほら、あそこにちみっちゃいのがいるでしょ」



「ちみっちゃいとか言うな !」




疑問をぶつける甲太郎、白衣の少女を指さす霧崎、そして、陸にあがったエビのようにぴょんぴょんと跳ねて怒る白衣の少女。




「あれ、私の妹なのよ」



「…あぁ、なんか体型と性格以外はどことなく似てますねぇ」



言葉を続ける霧崎にどこか納得したような感じの甲太郎。



「大分昔の話なんだけどね、あの子と約束しちゃったのよ…」



「『もしも、私に勝って乗り越える事が出来たらあなたの野望に協力する』って」



ぽつぽつと語る霧崎。





「ははっ、野望って…『世界征服』とか何かっすか ?」



「甲太郎君、良くわかったわね…あなたエスパー ? 」



「え… ?」




冗談半分に聞く甲太郎。


そして驚いたように答える霧崎に同じく驚く甲太郎。





「このままでは…このままでは人類は確実に駄目になるっ !」



突如叫ぶ霧崎の妹。



「人類を指導すべき存在は政治家や王ではないっ !この私の様な『智』ある者…つまり科学者っ !」



「これからは我ら『科学者』がその『知識』と『科学力』をもって人類を導き、世界は…人類は『科学』によって支配されるべきなのだっ !」



両腕を天高く上げ、空を仰ぎ力説する霧崎の妹。



「あの子、昔からヒーロー番組やアニメの悪の科学者に憧れてたのよ…」



「変わったセンスだ」



力説する妹を見て言う霧崎と、それに対し感想を述べる甲太郎。




「しかし、私ひとりではそんな世界を作るのに限界がある…」



「だから、どうしても姉様の協力が必要なんだ…」



ぶるぶる、と力みながら拳を作り、うつむきつつもそう言葉を発する霧崎妹。




「一人じゃ無理なんすか ? 実際」



「そうね、あの子の科学の知識や研究の方法は私の真似事、まあ、所詮はアミバ流北斗神拳みたいなものね…」



「そこから発展して独学で研究成果を上げているとはいえあの子はまだ若いわ、まだまだ経験不足な未熟な状態、しかも誰かに頼ろうにもあんな馬鹿げた計画に乗ってくれる人間が居ないから私に頼るしか無いってわけね」



甲太郎の質問に細々と説明する霧崎、そしてそれを甲太郎は大人しく聞いている。




「なるほど、簡単にまとめると、あのピチピチの幼女よりも歳をとった霧崎さんのが強いと」



「溶かすわよ」



「はい、ごめんなさい」



霧崎の説明を簡単にまとめた結果、どうも年齢的なワードが引っかかったらしく怒られた甲太郎である。








そして、霧崎妹が口を開く。




「姉様から科学の勉強を教えてもらって…私にも夢が出来た…いつか姉様と一緒に世界一の科学者になって私達姉妹が科学の力によって世界を支配しようって姉様の了承とか取らずに勝手に計画してたのに…」


「それなのに…それなのに、姉様が選んだのは『科学』ではなくて『医学』の道だった !」



目を見開き霧崎の方へと向き直り甲高い声で告げる妹、そしてそれを聞き腕を組み目を閉じる霧崎。





「…その台詞も36回目、そして私がこの台詞を言うのも36回目だけどあえて言わせてもらうわ」


霧崎がぽつりと呟くように声を発する。



「私は『科学』よりも『医学』の道の方が人を助けることができる、と私なりに悟ったから『医学』の道へ転向したのよ」


「だから妹とはいえおのれの私欲のためにその『科学』や『医学』の知識を使うのに協力はしたくはない」



妹の方へ向き、マスク越しでもわかる様なはっきりとした声で伝える、冷静な声色だがどこか強い意思を感じる。




「…と、36回目になるけどこれが私自身の正直な意思、ね」


そして、声のボリュームを少しだけ抑え言い終わる霧崎。




「くぅう…毎回毎回同じ台詞を使いまわしやがってぇーっ ! 」


また先ほどのように踏ん張るように両腕を出してぴょんぴょんと飛び跳ね悔しそうに声を上げる霧崎の妹。



「その怒るとすぐ馬鹿みたいに飛び跳ねる癖も何とかしなさいよ、あなた一応、高校2年だったわよね」



呆れたように眉をひそめ、呆れたような声色で言う霧崎。



「高2って俺と同じじゃないすか、てっきり小学生かと…」


偏食へんしょくとジャンクフードの食い過ぎね、太らずにかつ今の状態で生きているのが不思議な状態だわ」



霧崎の妹を指差しながら驚く甲太郎に発育不良の原因を冷静に語る霧崎。


霧崎の妹が白衣の着ている制服には甲太郎にも見覚えがあった、彼の通っている黒金第二高校の制服だからである。




「本人を前に失礼なこというなぁー ! 」


両腕を振り回し地団太じだんだを踏むようにどんどん、と地面を踏みしめるように悔しがりヒステリックに叫ぶ霧崎妹。



「はっはっはっ ! 」


そして、爽やかにほがらかに笑う少し空気になりがちな大男であった。

















「じゃ、俺帰りますわ」



「…駄目よ」



右腕を上げ体を翻し、この空気に乗じて帰ろうとする甲太郎の左腕を霧崎が逃がすまいと掴む。



「なんでっすか…」


「お互いが用意したカスタマイズしたり強化した『超人』同士で戦わせるっていう試合内容なのよ」


「人をポケットなモンスター気分で戦わせんで下さいよ…」


説明する霧崎にがくりとうなだれながら疲れたように言う甲太郎。



「あー ! ちなみにここで逃げたら私の不戦勝なー ! 」


どこか嬉しそうにこちらへ向かって大きな声で言う妹、まさに小学生そのものだ。




「お願いよ、甲太郎君この埋め合わせは必ずするから…」



「まあ…わかりましたが」



頼み込むような霧崎に気おされついつい承諾してしまう甲太郎。


なんだかんだで乗り気ではないが戦うことになってしまった甲太郎、対戦相手は霧崎の妹の隣にいる白い歯を輝かせた爽やかな笑顔の筋骨隆々とした大男。



甲太郎が少し前に出て行き、足を肩幅程度に開き体を横へ向け、両手に拳を作り、構えの体勢を作る。



「正直、乗り気じゃないし、あんたに恨みも無くて悪いが…」



「やらせてもらうぞ…」



少しだけ気合の入った低い声で告げる甲太郎。



「はっはっはっ ! 乗り気じゃないのは、俺も同じさ…」


相変わらずの表情に、朗らかな声色のまま少し背を曲げ熊のように両腕を開く大男。


「だが、やるからには後腐れは無しだ…お互い全力で行こう」


にこやかな笑顔の白い歯をきらりと一瞬輝かせて言う大男。







「…霧崎さーん、やっぱ止めていいっすか ? 何かロビンマスクみたいにかっこいいこと言ってますよ、この人いい人っすよ」



「ずべこべ言ってないで戦いなさい、しぼり取るわよ…」



この期におよび後ろを向き霧崎へ中断の提案をする甲太郎、それに対し霧崎は少しイラついたのか急かすように脅す。



それを聞き、諦めたように構えなおす甲太郎。



「それじゃ…」



ぐっ、と甲太郎が腰を落とす。




「いくぞっ ! 」



甲太郎がまるで矢のように大男へ向かって飛び出していく、そして、なんと作った拳からバチバチッ、と青白い火花がまとわりつき散っている。



甲太郎や対戦相手の大男はとある『ウィルス』によって遺伝子の情報を書き換えられ、その際に自らの強く望む新しい機能を手に入れることができ、それにより言わば『進化』した人間である、このような人間のことを霧崎は『超人』と呼んでおり、その存在を知る者もそう呼んでいる。


その『進化』により甲太郎が手に入れた新たな機能とは電力の無効化、吸収、蓄電、放出である。


簡単に言えば充電器のように電気を吸い取り自分の体内に溜め込み自分の力として放出できる機能を持った充電器人間である。




ドン !



と、まるで鉄を殴りつけたような鈍い音が当たりに響く、熊のように構えた大男の正面から甲太郎が突っ込み、腹に甲太郎の拳が突き刺さる。


その上、甲太郎の手のひらには電流が流れているのだ、神経系に訴える痛みのうえ痺れるのでどんな体格の相手であろうとも平等なダメージを与えられ気絶させられる。










はずだった。






「…効いていない ?」


その光景を見た霧崎が不思議そうに呟く。


確かに甲太郎の拳は大男の腹に突き刺さり、電流も体に流れたはずだ。



だが大男は熊のように構えたまま、微動だにしていない。



「…っ痛っててててて」



突如、情けない声を上げ、大男の腹部から拳を離し、右手を押さえ怯んでしまう。



「カガミコータロー、充電器人間、初撃は98%の確率で右拳に電撃を込めて突進し、腹部へパンチを繰り出す…」


大男の少し離れた後ろで不敵な笑みを浮かべた霧崎の妹がぽつり、と呟く。


「まさか、調べたデータどおりの『超人』で研究で割り出したとおりの動きをするとは」


更に口元をにやりと歪ませ、呟く妹。




「…っ !」


急いで後ろへ飛び下がり、大男から距離を取る甲太郎、まだ手が痛いのか手のひらを押さえている。



「…真正面からのパンチが来るなら、それに対しての対抗策を考えればいいだけだ」



霧崎の妹が甲太郎の方へと向くとぱちり、と指を鳴らす。




「…」


それを聞いた大男が学ランの下のランニングシャツをまくりあげた。




すると、その下から出てきたのは人の肌の色ではなく冷たく、鈍い鉄の色だった。




「鉄製のプロテクターってわけね…」


眉をひそめ、納得したような声色で言う霧崎、大男の服の下には胸から腹にかけて鉄板で作られた鎧の様なプロテクターで守られていたのだ。


それを思い切り突進し、殴ったため甲太郎は攻撃後に苦しんでいたのである。





「…なら、殴らなければいい」



左手を前へ突き出し右手を逆手にし、手のひらを開いて指を折り曲げ腰のあたりで引き構える。



そして、また正面から飛びかかる様に突貫する甲太郎、しかし、今度は拳ではなく手のひらでの攻撃、格闘技にある『掌底しょうてい』での攻撃だ。



風のように大男の正面まで近づき、ばっ、と体をねじり、更に右腕を引く甲太郎。



バチリッ !



と、再び炸裂音が鳴り響く。



すると、甲太郎の手のひらから無数の針のように縦に伸びた電流がばちばち、と火花を散らし輝いている、まるで剣山のようだ。



「必殺 ! 超人釘打ち機 !」



甲太郎が叫び振りかぶった右腕を再度、突き刺すように腹部へと突き出す、打撃的な効果よりも電流を突き刺し、電流を流すことを主眼に置いた行動である。



バチィン !






と、炸裂音が響き甲太郎の伸ばした腕の先、手のひらが大男の腹部を捉える。








「さっきので気付くべきだったな…」



ふっ、と冷静な声色で構えたままに不敵に微かに笑う大男。





「君はさっきも電流を流していたのに効果が無かったのに気付いていなかった…違うか ? 」



「何…」


甲太郎の攻撃が決まったままの体勢の二人、まるで時間が止まったかのように動かない。


相変わらず大男は揺るぎすらしない、まるで巨岩のように静かにどっしりと構えている。




そして、腹部に突き刺さり伸ばされた腕を大男は真上からがしり、と掴む。



「このプロテクターは体を守るだけじゃない、電気を吸収する効果もあるんだ…吸収された電気は俺の背中についたコードを伝ってあの森の茂みに隠れたバッテリーへ充電される仕組みになっている」





「そして、今回は…」



大男が掴んだ甲太郎をまるでボールでも投げるように背後へ振りかぶる、甲太郎の体が軽々と持ち上げられ、大男の背中越しに掴まれたままとまる。




「俺の勝ちだな」




まるで紙くずでも投げるかのように軽々と投げ飛ばされる甲太郎、突然のことで何が起こったか理解できないのか目を見開き声すら上げない。




グシャリ !



と、固いものにぶつかる生々しい音が辺りに響く。




投げ飛ばされた甲太郎が深い森の入口にある大木の一本へと背中から叩きつけられる。


「げっ… ! 」



目は見開かれ、口を大きく開き苦しそうな表情の甲太郎、ぶつかる瞬間にみしり、と体から嫌な音が鳴る。




そして、どさり、と木から剥がれおちるように地面へ堕ちうつぶせのまま倒れ、ぴくりとも動かなくなる甲太郎。




甲太郎、初めての敗北である。
















「やったっ ! ついに姉様に勝った ! 第三部完ッ ! 」




大きく目を開き、花が咲いたような笑顔で歓喜の声を上げる妹。




「どうだっ ! 今回は私の勝ちだぞっ ! 思い知ったか ! 何が未熟者だ ! 姉様のバーカ ! ブワァーカ !」




嬉しそうに飛びはね大声でまくし立てる妹に眉をひそめ表情は解らないが恐らく不快な表情をしているだろう。



「今回はあなたの勝ち…それはどうかしらね ?」



狂喜乱舞する妹に構わずに言葉を発する霧崎。



「…どういうことだ ?」


その言葉を聞くと、ぴたり、と止まり少し不快そうな表情で霧崎を見つめて言う妹。




「あなたは甲太郎君の情報を調べてその対抗策を練り上げたうえでそのプロテクターをそこの彼に装備させた状態で挑んできたわけよね ?」



「…その通りだが」



霧崎の言葉に不安そうな声色と表情で答える妹。



「こっちはあなたの呼び出しが急だったから何も用意できず、しかも『科学』の方面にブランクのある私に勝って喜んでいる、と」




「…」



霧崎の言葉に少し不機嫌な表情になる妹。




「いわばあなたは驚き戸惑っているスライム相手にレベル99で王者の剣を装備した状態で勝利して大喜びしている状態よ」



更に追撃する霧崎、そしてスライム扱いの今は倒れている甲太郎。






「それで嬉しいの ? 」




感情のこもらない声でとどめの一言を発する霧崎。




「うぅ…つまり何が言いたいんだよ」



完全に不機嫌そうな表情で言う、霧崎妹。





「1週間よ…1週間後に再戦しましょう、これであなたが勝ったら実力を認めて約束は果たすわ」



霧崎が人差し指を立て、妹へ提案し、言い放つ。



「うぅ…どうしよう…」



それを聞き、頭を抱え何故かぐるぐると回りながらうんうんと唸っている妹、相変わらずのオーバーアクションだ。



相手は霧崎だ、この1週間で何をしでかすか解らない、しかし霧崎の言うことにも一理ある、今回の戦いは絶対に勝てるべくして勝ったものだ。












「…俺はもう一度やるべきだと思う」



霧崎の妹が悩む中で腕を組んでいた大男が真剣な声色で小さく言う。



「…え ?」



驚いたように顔を上げ、大男の顔を見上げる妹。





「相手の準備が不十分だったのはこっちが一方的に約束を押しつけたせい、というのもあるだろう、だからもう一度…今度はフェアな状態で完全に後腐れの無いように再度やりたい」



爽やかな笑顔で、白い歯をきらり、と一瞬光らせ言う大男、かっこいい。





「う…わかった…もう一回…やる」



どうすればよいのかまだ分からない様子で、絞り出すような声でうつむきながら言う霧崎妹。





「それでは、一週間後のここに全く同じ時間でいいですかな ?」



「…ええ、構わないわ」



うつむいて何も言わない妹をよそに話を進める霧崎と大男、再戦は1週間後にまた夜のこの神社で行われるそうだ。







「じゃ、帰ろうか」


朗らかに言う大男。



「…うん」


元気の無さそうに答える霧崎の妹。


そして、霧崎へ背を向け、神社の鳥居へ向かい歩いて行く二人、そして、次第に小さくなり暗闇に消えていった。









「…相変わらずの愚妹ぐまい、ね」



ふぅ、と溜息をつきながら呟くように言う霧崎、そして、神社を囲む深い森へ向かい歩いて行く。




つかつか、と歩み、その森へ入る手前で立ち止まる霧崎。




「…で、甲太郎君は生きているかしら ? 」



大きな木の前、うつ伏せに倒れた甲太郎を見下ろしながら言い放つ霧崎。



「…うっ…ぐぅ…」



時折、倒れた甲太郎から微かにうめき声が聞こえる、どうやら死んではいないようである。







「甲太郎君、大ダメージを負って苦しんでいる所悪いんだけれども…」



見下ろしたまま腕を組み冷静に言い放つ霧崎。






「少しあなたを調教させてもらうわ…」




極めて感情のこもらない声で変わらず続ける霧崎であった。







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