超・投げっぱなし短編
今日も今日とて青空の黒金町、澄み切った気持ちのいいほどの真っ青な空には大きな綿菓子の様な入道雲が数こそは少ないがふわふわと空を浮かぶように飛んでいた。
春から夏へと移り変わりそうな季節の中でも比較的に涼しげな気候の日のここは黒金第二高校の屋上。
コンクリートで塗り固められた硬い床、年季の入った床のためかヒビの入った部分もあり、そこから逞しくも雑草の生えている場所もあるほどだ、屋上の端には見上げられるほどの高さの金網のフェンスが壁のように立ちはだかり、屋上の隅々までを囲うように覆っている。
「てか、あんたら同じクラスじゃなかったの !? 」
時は丁度昼食時、3人の学生が床に座り談笑しつつも昼食を取っていた。
その中の一人の女学生が驚いた声を上げる。
肩までつきそうな亜麻色のさらりとした艶やかな髪、形の整った眉のあたりで切りそろえられるように整えられた前髪、頭の右上辺りで赤いビー玉の様な装飾の付いた髪留めで尻尾のように縛っている。
少し釣り目がちの目に琥珀の様な茶色の瞳、すっと通った小さな鼻に薄桃色の小さな唇、色素の薄い綺麗な肌。
少しだけ高めの背丈に女性的にめりはりのあるスタイルの良い体つき、に短めのスカートの学生服を着ている。
脚を崩して座っている秋山優衣だ、座ったちょうど前に小さな可愛らしい弁当箱が置いてある。
「まあ、巌が俺のクラスに良く来るのは事実だけど…」
金網のフェンスにもたれ、膝を立て、大股に脚を広げて座っている男子生徒が答える。
耳が隠れそうなぼさぼさとした黒い髪、剣山のように鋭そうな首を隠した後ろ髪、どこか精悍な顔立ちだが眠気を含んだような目つきをしている。
座っていても解るほどの高めの背丈に少しだけ筋肉質ながっしりとした体つきに全開になり中のシャツが見えている学ランに学校指定の真っ黒いズボンを穿いている、といった風体をしている。
加賀見甲太郎だ。
「まあ…毎度、俺が加賀見甲太郎の教室に居る描写だったからな…間違えても無理はなかろう」
どこか朗らかに言う、もう一人の胡坐をかいた男子生徒。
甲太郎より少しだけ高い背丈にがっしりした体躯、真っ黒い長ランに学校指定のズボンをきっちりと着ている。
首を隠すほどの後ろ髪に、耳のあたりまであるもみあげ、そして彼自身の一番の特徴ともいえる頭に乗った艶のある新幹線の様な巨大なリーゼントだ。
あまりの巨大さに顔の半分に薄い日陰が出来ている。
そんな彼こそが鬼瓦巌であった。
2人が壁際の甲太郎の斜め左右に座りちょうど、正三角形のような状態で座っている。
「授業中まで居座って、一回真剣にうちのクラスの生徒に間違われたよな」
「実は自分のクラスだとそこまで認知されてない存在だったりするんだぜ」
「もう電撃移籍とかいって移っちゃいなさいよ」
そんな感じで、談笑してる三人だ。
「だが、秋山が鵜野花先生のクラスってのもまた凄いよなぁ…」
フェンスにもたれたまま顔を優衣へ向け言う甲太郎。
「まあ、先日にかけた『おまじない』が効いたのかしらね」
どこか得意げな表情で甲太郎へ顔を向け返事をする優衣。
「古代に邪教徒のシャーマンとかが使ってた暗黒の呪術ですねわかります」
「失礼なこと言わないでよ、ちゃんと雑誌に載ってた恋する乙女の『おまじない』よ ! 」
腕を組み冷静に言う巌に少し怒ったように口をとがらせる優衣。
「…で、具体的にはどんな『まじない』なんだよ」
甲太郎が興味を持ったのかその『おまじない』について詳しく聞く。
「えーっと、たしか…深夜0時に私の髪の毛と釘と私の血と金槌とノコギリと電動ドリルを…」
「…恋する乙女って随分と日曜大工的だったんだなぁ」
思い出すように方法を言う優衣と恋する乙女の真実を悟った甲太郎。
「…なーんか足りないと思ってたけど、今日はあいつ来てないんだな」
足元に置いた紙パックの牛乳のストローに口を付けながらどこか呟くように言う甲太郎。
「あいつ…って玲子さんの事か ? 」
「おうよ」
甲太郎の方へ顔を向けながら問いかける巌とストローから口を話しながら肯定する甲太郎。
「…今日は体調が優れないらしくて休みだって、朝に聞いたわ」
優衣が甲太郎へ向き直り言う。
「…寂しいの ? 」
「馬鹿言え…」
「寂しいぞ ! 」
どこか嬉しそうに問いかける優衣に少し横へ顔を逸らす甲太郎、そして叫ぶ巌。
「とか何とか言って、加賀見君が時折廊下を歩いてるときに横とか後とか振り返りながら物足りない顔してるのを見かけたんだけど…」
「あー、うるさいうるさい、秋山の思い過ごしだよ…」
にや付きながら更に追求する優衣、そして更に顔を逸らす甲太郎、心なしか頬が少し赤く染まっている。
「玲子って、いっつも加賀見君にベッタリだもんね、居なかったら寂しいのは当たり前か…」
「…もう、いいって」
「そろそろ、我が栄光のロードの為に加賀見甲太郎をSATSUGAIしなければならない気がしてきたのだが、どうなのよ…」
にや付いた優衣の追撃は更に続き、今度は顔を伏せ赤くなる甲太郎、そして殺意の芽生えそうな巌である。
「それと、加賀見甲太郎よ…」
思い立ったように突如巌が甲太郎へ顔を向け言葉を発する。
「…何だよ」
「お前が照れて赤くなっても気持ち悪いだけだと思うぞ…」
「やかましいわ ! 」
怪訝そうな顔で言う巌に思わず立ち上がり声を上げて言う甲太郎。
「…そう言えば玲子っていえばさ」
突如、考え込んだような声で優衣が発言する。
「あの左側の前髪の中、どうなってるの ? 」
先ほどの声色で続ける優衣。
「…」
「…」
きょとんとした表情になる二人、そして考え込んでしまう。
「そう言えば、上手い具合に隠れてて横からも見えないよな…」
「うむ、風やら走っててやらでもめくれたことは無いな…」
更に考え込んでしまう巌と甲太郎。
目隠れキャラの髪で隠れた目とは大体が完全に隠れていて見えず、最終的に見えずに物語が終わってしまうブラックボックスタイプか。
時折、風や顔の角度などで目がちらりと見えたりする場面があったりするタイプ、大まかにこの二つに分けられる。
どちらにせよ目を見せる場面がほとんど無いか、全く無いかのどちらかである。
だがそれがいい。
「何かさ、あの中ものすごい秘密がありそうじゃない ? 」
脚を崩し座ったままで身を乗り出し甲太郎と巌の方へ顔を向けている、好奇心でわくわくとした表情だ。
「恐らく、俺の推測だとあの中は過去に負った大火傷があると見たね…」
と、甲太郎。
「いやいや、きっと機械になってるんだ」
これは巌である。
「いやぁ、あの中は恐らく男の人の顔があると思うわ」
最後に言うのは優衣だ。
それぞれの憶測を語る三人、何か複雑な過去があった説にサイボーグ説、果てはあしゅら男爵扱い。
本人が居ないからといって言いたい放題である。
「まあ、明日聞いてみればわかる事よ」
わくわくと心を躍らせているのがわかるほどの様子の優衣がそう言葉を発する。
「しかしな、見せてくださいって言うだけで見せてくれるか ? 」
甲太郎が難しそうな表情と声色で言う。
「もう、断られたらそれこそ取り押さえて無理矢理めくるまでよ ! ちょうど病み上がりで弱ってるから好都合だろうし !」
ぐっ、と腕を曲げ力をこめて力説する優衣。
「ああ、是非とも玲子さんには断っていただきたいな…取り押さえ…取り押さえ…」
「少し可哀想な気もするが…知りたいものは知りたいんだ、諦めてくれ、山音…」
二人もどうやらその気のようである。
「あ、玲子さんおはよっす ! 」
どこか胡麻をするような媚びた態度で優衣が自分の机へ鞄を置き、席に座ろうとしている玲子へ声を掛けた。
後ろに似たような態度の甲太郎、期待に胸を膨らませた巌のおまけ付である。
「どうしたんだい、揃いも揃って…」
赤みがかった黒髪に猫のように大きな瞳の目、すっとした鼻筋に形のよい輪郭の顔に血色のよい肌、いつもの如く顔の左半分を隠してしまうほどの前髪で左目は隠れている。
すらっとした引っ掛かりの少ない体系に優衣よりも少しだけ低いくらいの平均的な背丈。
ターゲットの山音玲子である。
いつものように凛とした声で不思議そうに疑問をぶつける。
「実はですねぇ…その玲子さんの左側の前髪の下はどうなってんだろうなぁ、と思いましてですね…その…できれば少しだけ見せてくれないかなぁ、なんて…」
優衣は揉み手に作り笑顔で単刀直入に問う、後ろの二人も同じような動作で動いている。
「ん ? あぁ…これでいいの ? 」
あっさりと、左側の前髪を左手ですくい上げ、ばさり、と三人へ見せる玲子。
「うそぉっ ! 」
「マジでっ ! 」
「なんだと…」
予想とは時に外れることもある、予見したものより斜め上にきりもみ旋風したような意外すぎる形で。
少年少女たちがそれを直視した、そんなお話であった。