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再戦と愛と怒りのビンタ

敵の設定が気持ち悪く、気分を害する恐れがあるのでご注意を。

「一体なんなの、あなた達は…」


どこか無機質だが、愛らしさを含んだ女性の声が聞こえた。


眉の辺りで切りそろえられたように整った前髪、肩につくほどの長さの亜麻色の髪、それを頭の右上の辺りで赤いビー玉のような装飾のついた髪留めで尻尾のように細く纏めている、いわゆるサイドテールといわれる髪型だろうか。


細い眉に、ほんの少しだけ釣りがちな目に、透き通るような琥珀のような瞳、すっと通った鼻筋に薄桃色の小さな唇の口、小さな輪郭のどこかあどけなさのある顔


少しだけ高めの背丈に女性的にめりはりのあるスタイルの良い体格を学校指定の制服に身を包んでいた。


歳は16,7歳ほどであろうか、そんな女生徒が黒金くろがね第二高校の2年E組廊下前で肩幅に足を開き、胸の下あたりで腕を組み、不機嫌そうな顔で自らの足元を見降ろしていた。


その視線の先、床の下には真っ直ぐに手を伸ばし床にへばりつくように土下座をしている人間が二人いた。


一人はまるで後ろから見るとハリネズミのようにぼさぼさとした髪形で、今は見えないがどこか精悍な顔立ちだが眠気のこもった目をしている、背は高く、真っ黒い学ランを着ていて、学校指定の黒いズボンを穿いている。


土下座する加賀見甲太郎である。


もう一人はショートカットの今は見えないが前髪で顔の左半分を隠していて、猫のような目の美少女である、女生徒で土下座されている女生徒と比べればあまり肉付きは良くなさそうなほっそりとした体格をしていた。


土下座する山音玲子である。



廊下のど真ん中、まるで太陽に祈りを捧げる人のようにその女生徒へ土下座する二人という異様な光景。


廊下を通行する生徒たちが丁度その部分を見かったことにして避けて通って行く。


公園での会話の後、次の囮候補もとい協力者にあてがなく、悩む甲太郎と玲子であった。


条件としては目を引くような美少女で女学生、そんな人物はそうそういるものではなかった、しかし玲子に心当たりがあるとの事でスカウトに来たのだ。


しかし、囮役としての交渉が上手くいくかは解らない。


何せ相手は、転校初日に校舎中のドアというドアを蹴り壊し、各教室でハイジャックまがいの行為を働き、その超人的な脚力の蹴りで甲太郎のクラスの副委員長を蹴り飛ばした程の猛者だ。


『立てば芍薬しゃくやく座れば牡丹、戦う姿は仁王か阿修羅』こと秋山優衣あきやまゆいでる。


「あなたたちのお陰でおにいちゃんの尾行に失敗しちゃったじゃないの…」


不機嫌そうな理由はそれであった、睨むように少しだけ目を細め、少しだけ頬を膨らませ、むすっとした表情で二人を見据える。


肩には丸まったロープが掛けられ、手のひらには茶色い謎の小瓶が握られており、もう片方の手には白いハンカチ、一体何をしでかすつもりだったのだろうか。



恐らく、二人が突如彼女の前に飛び出し土下座したときに後ろを振り向いた『おにいちゃん』こと鵜野 花恭介教諭がそんな優衣の姿を見たとたん一目散に逃げ出したのだろう。


相変わらず土下座している二人。


「実は、非常に頼みにくい事なんですが…是非とも秋山さんにご相談したいことが…」


頼み込む様に言う甲太郎。

















場所は変わり、ここは黒金第二高校の2年E組教室、玲子の教室だ。


通行の邪魔になる上に今日はもう恭介の捕縛は無理と見た優衣が話だけでも聞いてやるから移動しようと提案し、行きついた場所がここである。


「しかし、二人が同じクラスだったとは…」


驚く甲太郎、玲子と優衣は同じクラスであった、しかも席が前後同士とかなり近い。


「まあ、ね、席も近いし時たま話をしたりもするよ」


自らの席に座りそう言う玲子、椅子を横へ向け甲太郎の方を向いている。



「それで、頼みって言うのは ?」


玲子の前の席で、椅子ごと甲太郎へ体を向け問う優衣、脚を組み、表情はどこか探るような感じだ。


「ああ、それはだな…」



言いづらそうに視線を逸らし、人差し指で頬を掻きながら簡単に詳細を説明する甲太郎。







「…と、いうわけなんだ」



「…」


「…」


『甲太郎が何も危険なことはないから変質者を退治したいので囮になるのを協力してくれ』というのを遠回しに伝え終える。


それを聞き、無表情になり胸の下で腕を組み、相変わらず脚を組んでいる優衣。


そして、自分の席で黙って聞いている玲子。



「…嫌ね」


「なんだと」


そのままの表情で断る優衣と自分の説得が完全に決まったと思い、自信満々だった甲太郎。


「当たり前でしょ ! 何も危険が無いって何よ ! 変質者に捕まったら普通に危険が危ないわ !」


甲太郎の話にまくしたてる優衣、当然の反応だ。


「大丈夫だよ、秋山さん、ちょっと鞄が汚れるだけだから」


「どーいうことよ…」


すかさずフォローする玲子に解らない様子の優衣。



「その変質者っていうのが美少女の女生徒の鞄を奪い取って、取っ手の持つところを舐めるんだそうだ」


「…とりあえず時代が時代ならその設定を採用した作者は腹を切って詫びた方がいいレベルね」


犯人の詳細を教える甲太郎と、額に手を当て答える優衣。



「…ていうかそれ頼まれたら私の鞄が舐められるって事じゃないっ ! なお嫌だわ !」


そして、更に嫌がる優衣。


「…その辺は大丈夫だ、絶対に秋山の鞄は舐めさせない、ただその犯行現場周辺を歩いてくれればいいんだ」


優衣の顔を見据え、真剣な表情と声色で優衣に向き直りそう言う。


「…頼む」


そして、頭を下げるつつ、すがるような声で言う甲太郎。


「…」


表情を消し無言でそんな甲太郎を見据える優衣。




「…嫌ね」


「そんな事したって私に何もメリットが無いじゃない…」


表情を消し、無機質な声色で甲太郎へ言い放つ優衣。





「そうか…じゃあ、この報酬として用意した丁度、秋山が居なかった頃の『鵜野花恭介教諭の入学式とオリエンテーションと文化祭の時の写真』はもう捨てるか…」


学ランのポケットからすっ、と8枚ほどの写真を取り出す。


「おらぁ ! 二人とも何グズグズしてんのよ、さっさと案内しなさい ! 世のか弱い女学生を助けるのよ ! 」


甲太郎のその言葉を聞くや否や、いつの間にか教室のドアの前にやる気に満ち溢れた優衣が立って吠えていた、まるで初期の頃のキン肉マンばりの変わり身の早さである。











そして、再びやってきた黒金町52番地、時間も昨日とちょうど同じころである。


そこに一人の少女が歩いていた、亜麻色の髪に頭の右上辺りで纏めた尻尾のような髪、サイドテールと呼ばれる髪型にあどけなさの残った少し釣り目の綺麗な顔立ち。


少し高めの背丈にスタイルの良い体格を少し短めのスカートの学校の制服で包んでいる、手には四角い学校指定の鞄を下げていた。


秋山優衣である。



なるべく、遅い速度で歩くように指示されているので進む速度は遅い、遠目から見るとなかなかおしとやかでお上品な歩き方である。


鞄を持った歩みの遅い美少女女学生、これほど恰好の的はないであろう。






そして、やはりそれは来た。



「… !」



突如、優衣の腕に掛かる真横に引っ張られるような強い力。


優衣は鞄から手を離してしまった。





「はぁーっはっはっはぁ !鞄は頂いたぜ !」


聞くと妙に苛立つ甲高い男声が辺りに響く。


声を聞きつけ振り返る優衣、鯵の干物のようにがりがりの体格に黒い全身タイツに水中ゴーグルと相変わらずの変質者が姿そこに立っていた、高々と上げられた手にはいつの間にか優衣から奪い取った鞄が掴み取られている。


「なんかもうあからさまにアレじゃない…」


目の前の人物を見たとたんげんなりとした表情になる優衣、本物は想像と少しだけ違ったようだ。


「その鞄、よく見たほうがいいんじゃないのー ?」


「えっ ?」


額に手を当てながら、遠くにいる変質者に聞こえるような声で伝える優衣、そしてそれを聞き鞄を見つめる変質者。



茶色く四角く痩せた鞄だ、しかしその鞄の右隅にはこぼされた修正液の跡、その少し距離を置いた辺りに虫食いのように毟られ中の綿の飛び出した部分、謎の鋭利な刃物らしきもので少し切られた跡、カレーのものであってほしい得体の知れない茶色いシミ。


とにかく汚らしい鞄だった。


「…これは女の子の鞄じゃない」


相当ショックを受けたような声色で言う変質者。


「俺の鞄だ !」


そう大声で変質者へ聞こえるように言いつつ、優衣の後ろの少し離れた電柱の影から出てくる甲太郎と玲子。


「…お前らは昨日の !」


驚くように甲高い声で言う変質者、まさか再び会うことになろうとは思わなかったであろう。



「…あぁ、俺も何で昨日気づかなかったんだろうな」


変質者へ向き直り、後頭部をぼりぼりと掻きながらそう言う。


「俺の鞄使えばよかったんじゃねぇか」


そう言いつつ変質者への距離をじわじわと詰める。



「ってことはお前が俺に男の鞄を触らせたのか…」


ぶるぶると震えながら微かに聞き取れる声で言う。


「… ?まあ、そうなるんじゃないか」


不思議に思いながらも答える甲太郎。



「…許せねぇ」


そう変質者が呟くと、水中ゴーグルを頭の方へずらし、大きく口を開ける。



すると、しゅっ、という音とともに口から高速で何かが飛び出る。



「甲太郎君 !」


玲子が驚いて大声を上げる。



なんと、変質者の口からペットボトルほどの太さの濃い、ピンク色のぶよりとしたひも状の物体が甲太郎の首に巻きついて締め上げていた。


口から出ているのもは舌だった。


恐らく、この高速で飛び出す舌で鞄を奪い取っていたのだろう。


よく見ると、変質者の目、黒い瞳が左右別の方向を向いている。


「…この変質者、まさか『超人』 ?」


優衣が、驚いたように少し眉間にしわを寄せ言う。


「『超人』を知っているのかい ?」


「…まあ、私がそうだし」


優衣が『超人』を知っていることに驚く玲子。



『超人』、とある特殊な『ウィルス』によって遺伝子情報をいじられ、その本人の『渇望』する新たな特殊な機能を得て、『進化』した人間のことを多くの人がこう読んでいた。


甲太郎や玲子、優衣もその『超人』である。





「ぐ…っぐぅ… !」


舌により首を絞められ、うめき声を上げる甲太郎。


「ふぁふぁふぁ、ほれにふぉとこのはばんをはめはへはふみはおもい」


変質者が喋るが、舌は今使われているので何を言っているのか聞き取りづらい。


「く…くくっ…」


甲太郎の口がにやりと釣り、不敵な笑みを浮かべている。


「ふぁふぃふぁほかひい !」


何を言っているかわかりづらい変質者、とりあえず怒っているようだ。


「ま…正に飛んで火にいる夏の虫とはこの事だな !」


甲太郎の首を締め上げている舌をがしりと掴む甲太郎。


バチチッ、と物凄い炸裂音とともに舌を掴んだ甲太郎の手のひらに電流が走る。


「あべべべべべべ !」


舌の上に電流が走り、変質者ががくがくと震え始める。


充電器人間、それが甲太郎の超人分類のようなものらしいのだ。


電力の無効化、吸収、全身の筋肉の細胞内への逐電、そして放出、が彼が『進化』したことにより得た、特殊機能である。


甲太郎は落雷に直撃したことがあり、そのときの膨大な電力が蓄電されているためほとんど無くなることはない、そして、その電力を消費し、変質者の舌の上へ電流として流したのである。


次第に甲太郎の首が絞まる力が弱まる、神経系へ直接訴えかける痛みだの上痺れたのだろう。


すると、甲太郎が自らの腕の筋肉に微弱電流を流し強化すると、掴んだ舌を自分の方向へ思い切り引っ張る。


「べあっ !」


物凄い力だ、変質者の鯵の干物のように軽く薄い体は地面から離れ、直立した姿勢で頭を甲太郎のの方へ向け、矢のように甲太郎に向かって飛んでいく。




「さて、止めだ」


甲太郎が不敵の笑みを浮かべ、左腕で舌を掴んだまま右手の手のひらをぱっと広げ、足を大股に開いて踏ん張り、上半身を捻る。



「雷神…」



呟くと、更に体を捻り腕に力を込め、電流を手のひらへ流す、直立のまま、変質者の体が飛んでくる。



そして飛んでくる変質者の右頬目掛けて、力を溜め、電流を流した腕を。








「ビンタアァァァァァ !」



振り下ろした。



「あべしっ !」


という変質者の叫び声とともにバチバチィン、と辺りに炸裂音が響く。


どさり、と腕を振り切ったままのポーズで止まっている甲太郎の真横に張り倒した変質者がうつ伏せに倒れた。











「…甲太郎君 ?」


心配そうに、こちらへ歩いてくる玲子と優衣。


「…大丈夫、死んでないわ、多分失神してるだけね」


優衣が失神しているらしい変質者に近づき、がつんと蹴飛ばしながら言う。


どうやら死んではいないようだ。




「しかし、こいつも今思えば相当なやられキャラだったな…」


腕を組み、ふうとため息をつきながら甲太郎が言う。



「そうだね、例えるならファイナルファンタジー5の強化した飛空挺が飛び立つときに船底に引っ付いてたやつ位あっけなく終わったね」


「いや、それはきっと誰もわかってくんねぇよ…」





こうして、変質者と鞄の事件は幕を閉じた。






甲太郎がすべて終わった旨を霧崎へ連絡すると、変質者を連行する手筈を整えてくれた。



オレンジ色の夕焼けに染まる黒金第52番地街路地、目が覚め、警察へ連行されて行く変質者を3人は横一列に並び遠目で眺めていた。



「あいつ、どうやら『カメレオン人間』だったそうだ」


「へぇ…今更だね」


連行されて行くさまを見ながら言う甲太郎と玲子。


「どうやら消えたっていうのもあの舌を限界まで伸ばしてどっかに引っ掛けてゴムの引っ張る力で吹っ飛んで逃げてたんだそうだ」


「切れた輪ゴムを両手で引っ張って片方を放すと放したほうが引っ張られるあれね」


夕焼けの中、終わった戦いを分析する甲太郎と優衣。



「そんなことより !渡してもらいましょうか !」


甲太郎へ向き直り、腰に手を当てばっと手を開きよこせという様なポーズをする優衣。



十中八九『鵜野花恭介教諭の入学式とオリエンテーションと文化祭の時の写真』のことである。



「…はい」


ポケットから写真を取り出し優衣に向かって手を伸ばし渡す、そしてそれを奪い取るように受け取る優衣。



「あぁ…これで私とおにいちゃんの失われたメモリーの断片がまた…」


虚ろな瞳になり、写真を愛おしそうに胸に抱いてその場にへたり込みぶつぶつと何やら呟き始める優衣。



夕焼けは半分地平線へ沈みそろそろ、連行も済みそうな雰囲気になった。





「あら、甲太郎君、まだいたのね」


振り向くと女性が立っていた。


背中ほどまでありそうな綺麗な色の濃い青みがかった黒い髪、どこか冷静さを感じさせる切れ長な目に縁なしの細い眼鏡、口元を覆っている真っ白いマスク。


高めの背丈に水色のカッターシャツ、黒いネクタイ、ひざの辺りまである細長いスカート、そして、それらを覆い隠すような白い白衣を上から羽織っている。


年齢は20歳後半から30歳前半あたりといったところだろうか、そんな女性、甲太郎へ変質者退治を頼んだ霧崎医師である。



「なんでここに ?」


驚いたような顔で言う甲太郎。


「ちょっと様子を見に来たのよ」


いつもの冷静そうな知的な声で答える霧崎。



「あら、何で玲子ちゃんもここに ?」


少し不思議そうに首をかしげて言う霧崎。


「あの…それは…」



すこし言いよどむ玲子。



「…あー、俺一人じゃ無理だったことがあったんで手伝ってもらったんすよ」


それを見かねた甲太郎が玲子の背中を軽くぽんと叩き、代わりに答えた。



「あの、余計なことだったかな ?」


心配そうに霧崎を見ながらしおらしい口調で言う玲子。



「…いいえ、とても助かったわ、玲子ちゃん」


目元を少しだけ緩ませて玲子をみて優しげな口調で言う霧崎。




そして、少し頬を染めながら後ろで手を組みつつ、もじもじする玲子と、だるそうに背中を掻いている甲太郎、相変わらずへたり込みぶつぶつ言っている優衣。


少年少女達の戦いは終わった。









後日、甲太郎と玲子は銀行に来ていた。



甲太郎の講座に振り込まれた謝礼金を山分けするためだ。


玲子が後ろを向いている間に甲太郎が機会に暗証番号を入力し、二人で画面を覗き込んだ。



「はぁ !?」


「…これが霧崎さんの友人の謝礼なの ?」




そこには高校生が見たことも無いような桁の金額が映っていたそうな。

名前:変質者/超人種類:カメレオン人間/特殊機能:伸縮自在の強靭な舌に左右不対称に動き、立体的に物が見え、狙いを付けやすい目

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