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新規ミッションと見えざる攻撃

敵の設定が気持ち悪く、気分を害する恐れがあるのでご注意を…                                                                                                                                                

薄暗い、得体の知れない大きな機械たちが目立つ部屋の一角に来客用と思わしき足の短いテーブル、そして、それをはさむ様に正方形の背もたれの付いた黒いソファが4つ、2個が2対づつ並んでいる。


その空間の奥の椅子に一人、そしてその対面にもう一人、計二人の人間がその一角の椅子に腰掛けていた。


「今日、あなたを呼んだのは他でもないわ…甲太郎君こうたろうくん、あなたに頼みたいことがあるのよ」


その部屋の奥の側に座った人間が落ち着きのある、どこか知的な感じのする女性の声を発する。


背中ほどまでありそうな綺麗な色の濃い青みがかった黒い髪、どこか冷静さを感じさせる切れ長な目に縁なしの細い眼鏡、口元を覆っている真っ白いマスク。


高めの背丈に水色のカッターシャツ、黒いネクタイ、ひざの辺りまである細長いスカート、そして、それらを覆い隠すような白い白衣を上から羽織っている。


年齢は20歳後半から30歳前半あたりといったところだろうか、そんな女性である。


「はぁ…何か、すげぇ嫌な予感がしますね…」


青年男性ほどの少し低めの、怪しんだような男声を発するもう一人の甲太郎と呼ばれた人間。


耳が隠れそうなほどのぼさぼさとした髪、後ろ首を隠している針鼠のような後ろ毛、なかなかに精悍な顔立ちにどこか眠気を帯びたような目、そんな顔を今は怪訝そうに歪めている。


高身長になかなかに筋肉質な体、真っ黒い学ランに学校指定の制服の黒いズボン、学ランのボタンは全てはずされ中の赤いシャツが見えている、そんな格好の男だ。


加賀見甲太郎かがみこうたろうその人である。


彼の携帯電話に着信が入り、『霧崎クリニック』の医師、霧崎李沙紀きりさきりさきに呼び出されここまで出向いたのだった。


「時に霧崎さん、俺あなたに携帯の番号教えた覚えがないのになぜ俺へ電話が掛けられるんです ?」


「それでね、甲太郎君、頼みというのは…」


「聞いちゃいねぇ…」


甲太郎の言葉を気にせずに話を続ける霧崎。


そして、諦めて彼女の頼みとやらを聞く、甲太郎であった。










「ほぉ…それで、甲太郎君はその頼みを聞き入れることにしたのかい ?」


場所は変わって、ここは黒金第二高校の屋上、時は昼休みの昼食時である。


空は青々と広がり様々な形の雲が浮かんでいて、時たまに太陽の光を遮る。


「…まあな」


どこか凛とした声で甲太郎に質問するのは一人の女学生。


綺麗な輪郭の顔に少し赤みがかった黒いショートカットの髪、左側の前髪が長く、顔の左半分を覆うほどの長さだ。


猫のように大きな瞳に釣りがちな目、すっきりとした鼻筋に今は閉じられた小さな口、血色の良い肌の色。


背丈は甲太郎の二の腕あたりに丁度頭が来るほどの背丈、いわゆるスレンダーというのだろうか引っかかりの少ない体系をしている。


山音玲子やまねれいこである。


「一応、謝礼というかそういうのもあるし、あの人にはタダで診察してもらったから、その時の借りも返したくてな…」


屋上に張り巡らされたフェンスに背もたれ、胡坐あぐらをかいている甲太郎が前に立っている玲子へ顔を向けて言う。



「で、私をここに呼び出した用事って言うのは ?」


玲子が両手を腰に当て、胡坐をかいて座っている甲太郎を見下ろしながら言う。


玲子は突如、甲太郎に呼び出され、屋上までくると霧崎に頼みごとをされた事を伝えられた。



「…実はこの頼みっていうのが、俺一人だと、困難で、その…なんだ」


「謝礼を山分けで手伝ってくれないか ?」


言いよどみつつもそう玲子に言う甲太郎であった。






「…とりあえず概要だけでも聞かせてほしいんだけど」


「ああ」


とりあえず、霧崎が甲太郎へ頼んだ事が何なのかが気になり、それを聞こうと思った玲子、そして、それに甲太郎も答える。



「まあ、平たい話が『変質者の捕獲』なんだ…」


「…なぜそんな事を」


甲太郎の口から飛び出た言葉に対し思わず玲子が言う。



「何でも、その変質者は年頃の女学生の鞄を奪い取るそうなんだ」


「奪って一体どうするのさ」


「…取っ手の部分っていうのか ?あるだろ、あそこの手で持つところを舐めるんだそうだ」


「うっわ、なんで作者はその設定を採用しようと思うかな…」


どこか言いづらそうに言いよどむ甲太郎と口元に手のひらを当て表情を歪ませつつ言う玲子。


「それで、どうしてその変質者を捕獲する羽目になったの ?霧崎さんの鞄は狙われる要素が無いから別に復讐って訳では無いよね ?」


「ああ、どうもその変質者が今まで鞄を襲った数が90件にも及ぶそうだ…」


「そりゃ多いね」


「ああ、それでどうも有頂天になっているらしくて100件を達成した暁には大仕事をしでかすつもりらしい」


「…大仕事 ?」


ぽつぽつと語る甲太郎に相槌を打つ玲子。


「もうすぐ外国から皇太子のご夫妻がこの県に滞在するだろ ?」


「ああ…」


ニュースで十日ほど前から知らされている情報であるため玲子も知っていたようだ。


「そのご夫妻の娘さんが譲り受けた亡くなった祖母の形見の鞄を肌身離さず持っているらしくてな、それをターゲットにするつもりらしい、大事な鞄であるほどそいつは燃えるそうだ…」


「まさにカモじゃないか…」


語り続ける甲太郎とそれに相槌を打つ玲子。


「その鞄っていうのがその娘さんだけじゃなくて夫婦の方にも凄く思い入れのある品だそうだ、それを舐められでもしたら国際問題に発展する危険性もあるんじゃないかってことで、ってことで俺に捕まえて欲しいって事らしい…」


「ふぅん」


頼まれた事についてをある程度話した甲太郎、それに玲子は相槌を打つ。



「ときに甲太郎君」


「ん ?」


突如、玲子が甲太郎に言葉を発する。


「何故、警察とかは何もしないんだい ?そこまでやったらもう普通は捕まっているはずだと思うんだけど…」



「ああ、それなんだがな、どうやらその変質者、『超人』らしいんだよ…」


甲太郎が玲子の疑問に答える。


『超人』、ある特殊な『ウィルス』によって遺伝子をいじくられてしまい、突然に新たなる機能を取得、つまり『進化』してしまった人間達のことを霧崎はそう呼んでいた。


甲太郎たちの住む黒金町の付近はその特殊な『ウィルス』にとってちょうどいい環境であるため、他の場所ではほとんど死滅しかけている『ウィルス』だが、この黒金町では繁殖と感染を繰り返している。


なので、この黒金町ではその『超人』が生まれる確率が他の場所と比べ格段に高いのである。


そして、甲太郎や玲子もその『超人』であった。


「…被害者達の話だと、『いつの間にか手から鞄を奪われて遠くにいた犯人がすでに手に鞄を持っていた』だ、そうだ…」


「それで、鞄の持つところを舐めた後にその場に鞄を投げ捨てて、その犯人が横を向くと『飛び去るようにそこから一瞬で消えた』そうだ」


甲太郎が真剣みを帯びた声で玲子へ伝える、それを聞き玲子のほうも思わず真剣な表情になる。


「いつの間にか姿が消える上に犯行時の格好は水中ゴーグルに黒い全身タイツだそうで人相が全くわからず…どうもお手上げだそうだ」


「突っ込みどころ満載の格好はともかく、消えるって言うのはよくわからないね」


甲太郎の話す犯人像に玲子が感想を言う。


「それで、霧崎さんの友人…何か偉い人らしいが、その人がなるべく事が起こる前に問題を叩き潰しておきたいらしくて、『超人』のスペシャリストである霧崎さんに相談に行ったそうだ」


「で、『超人を一人やっつけれた甲太郎君ならできると信じてるわ』ってさ…何で俺が巌と戦ったことを知ってるんだよ…」


立ち上がり上に伸びをしながらあくびをしつつそう言い放つ甲太郎。



「私が教えたからさ」


「まあ、わかってたがな…」


両腕を組み、偉そうに言う玲子とやはりかといった表情で呆れたように言う甲太郎。


「ちなみに電話番号も私だ…」


また威張りつつ言う玲子。


「やっぱおまえかっ 」


「いひゃいよ、こーたろくん」


玲子の両頬を指で掴み真横に引っ張る甲太郎、そして目を細め間抜けな声を出し少し痛がる玲子。


少しだけ目に涙が溜まっている。




「で、まあ、俺一人だとちょっとばかしキツい部分もあって協力して欲しい訳なんだよ…」


玲子の両頬から指を離し、頼むような表情でそういう甲太郎。


「…で、協力って何すればいいのさ」


そして、自らの頬をさすりながら甲太郎に言う玲子。



びしっと、自らの人差し指を玲子へ突きつける甲太郎。


「単刀直入に言おう…」




おとりになってくれ」


真剣さの篭る声と表情でそう言い放つ甲太郎。


それと同時に屋上に少し涼しげな風が一陣、ひゅうと吹き去った。














黒金町52番地、街路地の電柱、二つの人影がその後ろに縦一列にに並んでいた。


甲太郎と玲子が電柱の陰に隠れているのである。


甲太郎が背中を曲げ電柱に張り付くように寄り添い、玲子はその下で屈むように、甲太郎の下へ隠れるように電柱へ寄り添っていた。


二人とも手には学校指定の四角い鞄を持っている。


学校の帰りに二人で件の『変質者』の事件現場まで来たのだ。



上から二つ、ひょっこりと並ぶように顔を出してある一点を見ていた。




「あれが件の犯行現場だね」


並んだ顔の下側の顔がひそひそとしたささやく様に言う、玲子だ。


「ああ、今まで被害にあった女学生たちはみんなあの辺りで鞄をいつの間にか奪われていたそうだ」


甲太郎が説明するように言う。


特に何も特徴や変わったものは無い、左右が民家を囲む垣根が高々と立ちはだかっている、少し電柱の多いアスファルトの地面の狭い道である。


電柱の陰から出る二人、そして、実際の現場へ近付いて行く。


本当にただの路地といって良いほどの場所である。


「何の理由があってかは知らないがここ以外での犯行は全くと言って無いんだそうだ」


「…黒金町で最も女学生が通る道、とか ?」



不思議そうに首をかしげて少し考え込むような表情になってしまう二人。


「しかし、よく引き受けてくれる気になったな…正直ちょっと断られるような気がしてならなかった」


「ああ…」


少し、意外な様子で後頭部を掻きながら言う甲太郎と相槌を打つ、玲子。



「私も甲太郎君と同じさ、霧崎さんへの借りを返したいんだよ」


「…借り、ね」


甲太郎を見据えて言う玲子。



「前も言ったけど、霧崎さんには命を救ってもらったことがあるんだ…」


「…」


話し始める玲子と黙りこむ甲太郎。


「それに、私の『超人』の特殊機能がちょっとやっかいでさ、そのことでも相談に乗ってもらったりしてるし」


「霧崎さんは『気にしないで』って言ってくれているけど、私は歯痒くて仕方が無かったよ…」


「それで、もしもこの事が霧崎さんの助けになれば、と思ってさ…」



霧崎についてぽつぽつと語り始める玲子、どうやら彼女は彼女で霧崎への借りがありそれを少しでも償えればと囮役を買って出たらしい。


そして、黙ってそれを聞いていた甲太郎。






ぐい、と突然玲子の腕に後ろに引かれるような強い力が掛る。



「…え」


突然掛る物凄い引力に驚きを隠せない表情の玲子、思わずその場にへたり込んでしまう。



「…あれは」


甲太郎が呟くように玲子の後ろ、路地の先を見つめる。


距離はかなり離れているが人が見える、黒い全身タイツに水中ゴーグル、遠目で見ても背は高めで、まるで糸のようにガリガリに痩せた人間だ。



「はーっはっはっはぁ !鞄は頂いたぞ !」


やけに甲高い、耳をつんざきそうな男の声が聞こえる、黒タイツの男が大声でこちらへ向かって大声を発したのだ。


そして、その男の高々と上げれられた手にはいつの間にか鞄が掴まれていた。



座っている黒猫のマスコットが付いた鞄、玲子の鞄だ。



「しかも、ターゲットは恋人付きか !いいぞぉ、非リア充である俺はターゲットが、鞄の持ち主が恋人付きだとなお嬉しさが倍増するのだ !」


「いや、恋人じゃねぇって…」


真剣にどうでもいい情報を声高に語る黒タイツの男に呆れたように呟くように言う甲太郎。



「まあいい…」


甲太郎は右手に拳を作り上半身を捻り殴り掛るような体勢で黒タイツの男目掛けて駆け出す。



「一撃で決める !」


そう大声で気合を入れるように発声しまるで風のように黒タイツの男目掛け走る。


電気の無効化、吸収、蓄電、放出が甲太郎の『進化』によって得た新しい特殊機能である、平たい話、電気を吸収し体内の筋肉の細胞にため込み、放出することができる『充電器超人』であった。



甲太郎は、自らの脚に微弱な電流を流す、筋肉が弱った人間に微弱な電流を流すことによって筋肉が強化され、再び使用できるようにするといった医療法を応用したものである。


そのため、今の甲太郎の脚の筋肉がは2割ほど強化され、矢のように速く走れるのだ、それで黒タイツの男との距離を詰める。



「うおっ !何だコイツ !くそはえぇ !」


思わず驚く黒タイツ、甲高い声で叫ぶ、玲子の鞄を両手で掴む。



「…あ」


そして、取っ手の先ほど玲子が手で持っていた部分をべろりと舐める。


それを見て、へたり込んだままぽかんとした顔で声を漏らす玲子。


その間も、一直線に向かってくる甲太郎、あと少しで黒タイツへ手が届くほどだ。




「…ギリギリで俺の勝ちだ !」


甲高い声を上げると玲子の鞄を投げ捨て、顔を真横へ向ける黒タイツ。



その瞬間、まるで消えてしまうようにその場から居なくなる黒タイツの男。



「…うおっと !」


勢い余り体勢が崩れる甲太郎、そのまま地面に向かって盛大にこけた。



甲太郎が正面から派手に転び、物凄い音が鳴り響き倒れたその場所に微かに砂埃が舞う。



へたり込む玲子、倒れている甲太郎、投げ捨てられた舐められた鞄、それが今の黒金町52番地の街路地の現状であった。















黒金町のとある公園、そのあと二人はそこにいた。




公園に備え付けられた水道の蛇口からばしゃばしゃと水が出ている、玲子が鞄の取っ手を洗っているのだった。


「あぁ、もう、ばっちいなぁ…」


ぶつぶつと文句を言いながら、取っ手を洗い続ける玲子。


甲太郎は公園のベンチで脚を組み、空を仰ぎながら座っていた。


空は相変わらずカラカラに晴れた青空である。


「…厳しい事になった」


空を仰ぎながら困ったように呟く甲太郎。



「別に、リベンジすればいいじゃない…」


洗い終えたのか、ハンカチで鞄の取っ手の部分を拭きながらベンチの前まで歩いてくる玲子。


悔しいのかどこか不満そうな表情の玲子。



「済まん…言い忘れてたな」


脚を組み、座ったまま頭を下げるようにうつむく甲太郎。




「リベンジはできない…」



「えっ ?」


はぁ、と溜息を付きながら言う甲太郎、玲子は驚いたように言う。



「あの犯人は同じ人間は絶対に狙わない、そういう信念を立てているそうだ…」



「変質者の分際でまるでどこぞの義賊みたいなことを…」


困ったように言う甲太郎とどこか納得いかない玲子。



「そして、俺に犯人の目を引いてくれそうな美少女の知り合いはいない…」


額に手を当て言う甲太郎、相当困っているようだ。



「私も友達…少ないし…ましてや、美少女となると…」


切なげに顔を逸らしながら言う玲子、前半部分の声色がどこか悲しげだ。



「…あ」


「どした ?」



突然思いついたように声を発する玲子、そして思わず声をかける甲太郎。



「…美少女の知り合い…一人いた」



思い出したのか、絞り出すような声で一縷の希望を見出した玲子。



しかし、何故か甲太郎は少し嫌な予感を感じ取ったのであった。






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