第7話
エヴァンは逆十字教の聖殿を調査する中で、
政府さえ隠していた恐ろしい計画と対峙することになる。
そこで彼は、忌まわしい実験の犠牲となったアネツカを目にし、
これまで信じてきた正義と政府への信頼が根底から揺らぎ始める。
第7話
早朝、エヴァンは事前に支給された武器を準備しながら、
第6セクターへの潜入を準備していた。
「強力な麻酔液と、体内に入るとすぐに溶けて消える針、
そして短刀。これくらいで十分だろう…」
エヴァンはヨハンと撮った写真の前に立った。
『おじさん…最近、何かおかしい。政府の行動も不自然で、
市民の精神的安定を担っていた逆十字教も…
嫌な予感がする…』
エヴァンは心のどこかで既視感が芽を出し、
芽吹くような感覚を覚えた。
自分が政府に不信を抱き始めたことを否定しつつ、
政府から下された任務を遂行するため、
準備を終えてバイクに跨った。
バイクは音もなく道路を疾走した。
早朝、一般市民は外出禁止時間であるため、
通り過ぎる家々の窓には人が動くシルエットが見えた。
家族と一緒に食事をする様子や、
寝坊して忙しく準備する姿など、
感覚が鋭いエヴァンには
それが少し鮮明に見えた。
「平和そうに見えるが、あいつらは今もなお
恐怖を乗り越えて今日を耐え、
明日を生きている。戦争で失った多くのもの…
その中で最も大きいのは平和だ。」
「戦争のせいで今も市民たちは互いを信用できない。
あいつらのほとんどは互いに敵対していた
敵国の子孫…歴史に書かれたあの恐ろしい戦争で
互いに銃剣を向け、さらには世界を滅ぼした
核を撃ち込んだことを忘れてはいない。」
「誰もが無意識に残る人種的特徴を見つけて排斥し、
憎悪する。どれだけ時間が経っても、
核戦争後あの高い壁を見ていると無力感に陥る。
本で見た過去の広大な領土を失った喪失感と、
あの壁の向こうで吠える怪物の存在が与える絶望感…
俺たちはあの壁なしでは生きられないが、
あの壁は俺たちを無力にする。」
「だからこそ、俺は政府に忠誠を誓い、
政府を守る。政府が俺たちを守ってくれると
知っているからな。」
エヴァンは第13セクターAゲートでステラと会った。
「ステラ、準備はちゃんとしたか?」
「はいっ…!」
「乗れ、時間がない。」
エヴァンとステラはバイクに乗り、
早朝の暗い国道を走った。
「行く間にもう一度作戦を説明する。
よく聞け。」
「は、はいっ…!」
「余計な返事は省略しろ。質問があればすぐに言え。」
ステラは飛び出しそうな返事を飲み込み、
「…ぇ…」と声を潰した。
エヴァンはステラに一瞬だけ冷たい視線を送り、
話を続けた。
「…昨日の夜、USBの資料を見ただろ。
今回の作戦も前と同じく二手に分かれて調査する。
リスクが大きいから細心の注意を払え。
まずステラ、お前は変装した後、
第6セクターに住む市民と親交を深め、
できるだけ多くの話を聞け。
お前の身分は34歳、未亡人アンニャ・ピエルだ。
夫を亡くし、宗教を信じて生きる力を得て、
最終的に第6セクターに移住を計画中。
そこまでが覚える部分だ。あとは自分で考えろ。」
ステラが尋ねた。
「市民とはどんな会話をすればいいですか…?」
エヴァンは少し考えてから言った。
「普通の会話をしろ。お前らしく天真爛漫に振る舞ってもいい。
日常をどう過ごしているのか、
第6セクターの市民がどんな思想を持っているのか、
そして…政府に反する人物はいないか、
確証はなくてもいいから特異な点があれば必ず報告しろ。」
ステラは唇をとがらせて言った。
「天真爛漫って…!私はいつも真面目ですよ…!」
エヴァンは気にせず話を続けた。
「次に俺は逆十字教の本堂に侵入する。
公開されている1階ではなく、その上、
奴らが隠しているものを確認しに行く。
今回の作戦には二つの目標がある。
第6セクターに政府に反する集団または個人が
いるかどうか確認すること。
そして逆十字教が何を隠しているのかを突き止めること。」
エヴァンは指先でステラを指しながら言った。
「下手をすれば無実の市民が反政府勢力として
残酷に殺されるかもしれない。
気を引き締めて任務に臨め。」
ステラは生唾を飲み込み、
黙ってその答えに代えた。
こうして二人は第6セクターCゲート前に到着し、
夜明け前の深い闇に身を隠した。
「ステラ、あそこに見える宗教警察がいるだろ?
検問官だ。俺が麻酔針を撃って眠らせる。
針は命中して5分以内に溶けて体内に吸収される。
検問官は自分が居眠りしたと思うはずだ。」
「俺は検問官が眠っている間にゲートを通過する。
麻酔はおおよそ7分後に切れる。
ステラ、お前は変装を終えたら
検問官が目を覚ましたとき、
居住地移転のために来たと伝えろ。」
エヴァンはバイクに取り付けた革のカバンを指しながら言った。
「そのカバンに関連書類と、
深夜以降の通行許可証が入ってる。
一緒に提出すれば疑われはしない。」
エヴァンは革コートの内ポケットから細い針と
麻酔薬を取り出し、針に麻酔液を塗った。
「じゃあ、始めるか。」
エヴァンは200mほど離れた場所から、
正確に検問官の首に細い麻酔針を撃ち込んだ。
それを見ていたステラは驚いて尋ねた。
「探偵さん、一体何者なんですか!?」
エヴァンは淡々と言った。
「探偵エヴァンだ。くだらないことを聞くな。
さっさと変装しろ。俺は先に行く。
健闘を祈る。」
ステラは少ししょんぼりして答えた。
「はい…」
エヴァンは少し間を置いてから、
そっと顔を向けて言った。
「危険な行動は控えろ。じゃあな。」
エヴァンは素早く検問官を抜けて
ゲートを越えて行った。
続けてエヴァンはゲートを越え、
闇の中を走り、本拠地である本堂の正門に到達した。
『夜が明けるまでまだ3時間ほど残っているな』
エヴァンは本堂に入る前、第6セクターにある
出入り制限区域のあちこちに貼り付け型の
小型盗聴器をばら撒いていた。
「これでじきにここの正体が分かるだろう。
じゃあ本堂に入ってみるか。」
エヴァンは200mほど離れた場所から、
正確に検問官の首に細い麻酔針を撃ち込んだ。
それを見ていたステラは驚いて尋ねた。
「探偵さん、一体何者なんですか!?」
エヴァンは淡々と言った。
「探偵エヴァンだ。くだらないことを聞くな。
さっさと変装しろ。俺は先に行く。
健闘を祈る。」
ステラは少ししょんぼりして答えた。
「はい…」
エヴァンは少し間を置いてから、
そっと顔を向けて言った。
「危険な行動は控えろ。じゃあな。」
エヴァンは素早く検問官を抜けて
ゲートを越えて行った。
続けてエヴァンはゲートを越え、
闇の中を走り、本拠地である本堂の正門に到達した。
『夜が明けるまでまだ3時間ほど残っているな』
エヴァンは本堂に入る前、第6セクターにある
出入り制限区域のあちこちに貼り付け型の
小型盗聴器をばら撒いていた。
「これでじきにここの正体が分かるだろう。
じゃあ本堂に入ってみるか。」
『本堂の構造は、中央に本堂があり、
その周囲を数キロメートルの庭園が取り囲む形…
その庭園を囲んでいるのはゲートほども高い壁…
侵入は許さないという意思表示だな。』
「ふん、そんなもの、越えればいいだけだ。」
エヴァンは高い壁を素手で素早く登った。
しかし、壁を越えた瞬間、強い電流がエヴァンを襲い、
その瞬間、意識が霞んだ。
「ぐっ…!」
同時に宗教警察が現れ、気絶したエヴァンを拘束し、
本堂の庭園にある出入り制限区域へと連れ去った。
一方ステラは、検問官が目を覚ましたのを確認し、
検問官に近づいた。
「そこの者、停止しろ。所属と目的を述べろ。」
ステラは少し怯えたように言った。
「1…14セクター在住の34歳、アンニャ・ピエルです…」
「こんな時間に14セクターから6セクターまで来たのか?
通行許可証は持っているのか?それと目的は何だ?」
「こ…これです…目的は居住移転のために来ました…」
「居住移転希望者か…分かった。通れ。
ただし、まだ早い時間だから、
第6セクター外縁にある訪問者休憩所で
しばらく休み、夜が明けてから動け。」
「はい、ありがとうございます…」
-一方、どこかの地下牢。-
エヴァンは「ピー」という単一周波数音で目を覚ました。
目を開けた場所は暗くて湿った牢獄だった。
少なくとも100年は放置されたかのように、
牢は腐食した石造りの壁でできていた。
「暗くてよく見えないな。多分地下か…?」
エヴァンは両腕を縛られたまま
床で身をよじっていた。
そんな彼を見ながら鉄格子の外、
暗闇の中から誰かが話しかけてきた。
「やあ、政府の犬さんよ。
よくも神聖な聖堂に侵入してくれたな?
探偵風情ってところか?
壁に電流が流れてるとは思わなかったか?」
エヴァンは薄く笑って言った。
「どうせクリムゾンとの戦い以降、
お前たちを政府が調査するってことくらい
お前ら逆十字教も予想してただろう。
だから最短ルートで来ただけだ。
それよりここはどこだ?」
「愚かだな。捕縛されて運ばれてきたくせに
口数の多い奴だ。まぁ好きにしゃべれ。
すぐにお前の知ってることを全部吐かせるんだからな。」
ドクターはため息をついて言った。
「ドクター・ドレク・ザ・ディクル。
気軽にディクルと呼んでくれたまえ。
それより何だ?ガスを吸ったなら
お前は明日まで眠っているはずだが?」
エヴァンは薄く笑って言った。
「息なんて止めりゃ済む話だ。」
「お前が気絶したのを確かに確認したんだがな?」
「腕ちょっと切られたくらいで
大げさに痛がる歳でもないしな。」
ディクルは笑いながら言った。
「もう筋肉が切れて動かないはずなのに
虚勢を張るとはな。」
エヴァンは嘲るように言った。
「まぁ確かにそうだが、
お前一人捕まえるのに両腕使うのは
こっちが損だ。俺はちょっと高い人材でな。
腕一本でも赤字だ。」
「政府の犬ごときが高い人材とは。」
エヴァンはディクルとの会話を続けながら考えた。
『今までの様子を見るに、
やはり政府に反する何かを計画しているな。
俺は情報を得るために生かされているんだろう。
ここまでは計画通り…あとはもっと情報を引き出すだけだ。』
ディクルがエヴァンに言った。
「頭を働かせる音がここまで聞こえるぞ。
そうせず楽に話せばいい。
ここは政府が干渉できない場所だ。
何を見て何を言い何を聞こうと構わない場所なのだ。」
「言いたいことは何だ?」
ディクルはナイフに付いた
エヴァンの血を携帯用遺伝子分析器に入れながら言った。
「我々は政府と対抗可能なほどの力を得た。
数千を超える兵力と、戦争が可能な火器、
全てを備えた!さあ我々と共に来い。
お前も救われる。」
「こんな制限をするあたり、
お前、相当上の立場なんだなディクル。」
「当然だ!私はここ逆十字教の壮大な計画に
絶対必要な人材であり、
神に選ばれし12使徒の一人だ!」
「その計画ってのは何だ?」
ディクルは遺伝子分析の結果を見て、
手術室の裏扉を開きながら言った。
「まずは来るがいい。」
そこには数十個の透明な水槽があり、
中には様々な生物が奇怪に継ぎ接ぎされたように
繋がっていた。サメの胴体にサルの手足だとか、
ニワトリの顔をしたイグアナなど、
不気味なものばかりだった。
それを見てエヴァンが尋ねた。
「一体何をしているんだ?」
ディクルは長い廊下を先導しながら話した。
「逆十字教の経典にはこう記されている。
神を忘れた人間は自ら地獄に堕ちる。
人間を愛した父は人間を救った。
だが愚かな人間はまたしても
天なる父、神を忘れ、神の怒りにより
幾度も審判が下り天地が改まり
新たな世界が来る。その日のため備えよと。」
「何が言いたいんだ?」
ディクルは重い鉄扉を開きながら言った。
「見るがいい、これが私ドレク・ザ・ディクルの業績だ!
新しい世界を生きるための準備!
新人類プロジェクト、ノアだ!!」
重い鉄扉の奥では、奇怪なものたちが
うごめいていた。その中には人間に似た頭に
トラのような体を持つものや、
人の姿だが関節が不気味にねじれたものもいた。
何より恐ろしいのは、そいつらが非常に苦しそうに
絶えず泣いていたことだった。
エヴァンは鼻をつく臭いに鼻を抑えながら言った。
「何だ…何をやってるんだディクル!!」
「これがノア、未完成だが死なない人類を作る過程だ!
これこそ神が計画なされたことだ!!」
エヴァンは軽蔑しながら言った。
「狂ってやがる…」
「はっ!笑わせるな。
同じことをやってるお前が。
まさかお前…知らないのか?」
「何の話だ?」
ディクルは大声で笑い、話を続けた。
「政府は秘密が多いな。
改造人間プロジェクト。お前も知ってるだろ?
それは実はロシア政府がクーデターを準備していた頃、
逆十字教と今の政府の閣下が
共に始めたプロジェクトだ。
完成が目前に迫ると、汚い政府の連中が
プロジェクトを奪い取った。
俺はそのプロジェクトを先代12使徒から受け継いだ
継承者であり、現12使徒の一人、
ドレク・ザ・ディクルだ!!」
「気が狂ったか。俺がそんな話を信じるとでも思ったか?改造人間プロジェクトはロシア政府が
完成させたものだ。それを奪ってロシアを潰し、正義を成したのが 今の政府だ。基本的な歴史教育から…」
エヴァンはごく短い時間考えた。
『既視感だ…この既視感、
もし政府が俺を騙していたとしたら…
いや違う…!国民を、人を守るためなら
政府を信じなきゃ…』
その時、奇怪に泣き叫ぶ人々の間から
小さく声が聞こえた。
「エ…ヴァン…?エヴァン…!?」
瞬間、エヴァンは自分の耳を疑った。
聞き取りにくいほどかすれ、発音もおかしかったが、
それは確かにアネツカの声だった。
他の誰でもなく、エヴァンだからこそ
その中にアネツカを見つけることができた。
奇怪な人の形をしたものたちの中…
人の形に似てはいるが不気味に膨れ上がり、
ねじれた手足をつけられた何かが
アネツカの顔で話していた。
「エヴァン…?エヴァンだよね…?
あ…会いたか…った…」
エヴァンはアネツカを抱きしめ、
震える息を吐きながら言った。
「あ…アネツカ…?」
エヴァンはアネツカの虚ろな目を見つめながらも、
さらに深く彼女を抱きしめ、
視線を彼女の後ろへ逸らした。
彼の呼吸は次第に乱れ、規則性を失い、
瞳の焦点は恐怖に怯える小さな子供のように揺れた。
それでも彼はなお、アネツカの背を
むしろ掴むように強く抱きしめた。
懐かしさからだろうか、
震える脚では立っていられなかったのだろうか…
エヴァンは彫像のように微動だにしないアネツカに
寄りかかるように、さらに深く彼女を抱き締めた。
その時アネツカは右手を持ち上げ、
注射器をエヴァンの頸椎に突き刺した。
そして虚ろな目と聞き取りにくい声で
必死に言葉を吐いた。
「これで…やっと…一緒に…なれる…」
エヴァンの意識は遠のいた。
そんなエヴァンに小さなボタンを握らせながら、
ディクルが言った。
「これでそのボタンを押せば、
お前を中心に半径1メートルは政府に
操作された映像と音が送られる。
気楽に考えろよ、ふふ…」
エヴァンが意識を失うと、
アネツカがディクルに尋ねた。
「これで…一緒に…なれる…んですよね…?」
ディクルは傲慢な表情と身振りで言った。
「そうだ!Jの遺伝子が必要だったが、
もう死んでいるからこの男の遺伝子が
絶対に必要になった。
だから一緒にいる理由ができたってわけだ。
侵入者がJの血筋だったとはな。
幸運だ。」
ディクルは注射器を取り出しながら言った。
「っと、テストだ。」
ディクルはエヴァンの血を注射器に入れ、
そのままアネツカに注射した。
「Jは唯一の完成型改造人間だった。
その遺伝子を継ぐやつだ。
これでノアは完成だ…」
アネツカは悲鳴をあげ、苦しそうにもがいた。
そして数十秒のうちにアネツカの体は
泡が吹き出すように膨れ上がり、
肉が溶け落ち、人の形をした筋肉が現れた。
そしてその上に肉が育ち、
アネツカは完全な人の姿へと戻った。
「やはり最高だ!
理由は分からないが、
アネツカもお前のJの遺伝子に
全く拒絶反応を示さなかったな。
お前もエヴァンも神の御意思に
選ばれたということだ。」
ディクルは銃を取り出し、
アネツカの額の中心に向かって撃った。
銃声と共にアネツカは頭に穴が空いたまま
崩れ落ちた。だが数秒後、その穴は塞がり、
アネツカは立ち上がった。
その様子を見てディクルが
両腕を広げて言った。
「さあ、アネツカ。
救われた気分はどうだ?」
アネツカは白金色の目を開き、
淡々と答えた。
「神に選ばれ、光栄です。」
アネツカの言葉が終わると同時に、
彼女は血を吐き出し、
それを見たディクルが言った。
「それでもまだ未完成だな。
副作用が気になる。」
「まあいい。じゃあ最初の任務だ。
エヴァンを外に捨ててこい。
今すぐ懐柔は無理だが
遺伝子サンプルは手に入れた。
そのうちまた会うさ。」
「…はい。」
累計ページビューが 100をこえてしまって 我慢できずに7話をアップロードしてしまいました!
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