第6話
エヴァンは逆十字教の聖殿を調査する中で、一見平和に見えるこの場所に潜む不気味な気配を感じ取る。
そしてバーでステラに、逆十字教を捜査すると告げるが…。
果たしてこの平和は本物なのか?それとも巨大な虚構の上に築かれたものなのか。
第6話
エヴァンは早朝から任務を受け、逆十字教の主要人物が居住し、信仰を広める逆十字教の聖殿へ向かっていた。
バイクに乗り、13セクターを出て聖殿のある6セクターへ伸びる国道を走った。
「今回の任務は、内部分裂が深刻化し紛争を引き起こした逆十字教の現状を把握すること…一度の調査で済めばいいが、政府から直接命じられた任務だし、そう簡単にはいかないだろう…」
「居住可能セクターは6から15、その最初のセクターに位置する逆十字教の聖殿…どうしてあまり人が住んでいない場所に聖殿を…」
「現在は新世紀57年。57年前、二度のクーデターでロシア政府が崩壊し世界政府が樹立され、同時に進められた要塞国家建設プロジェクト。すでにこの時期から逆十字教は政府に信任され、信仰を広めていたはずだが、なぜこんな辺鄙な場所に本拠を置いたのか。」
「逆十字教の教義は、歴史書に出てくるキリストと大きくは変わらなかった。象徴もキリストの十字を逆さにしたものだから、キリストを継承したと見るのが自然だ。しかし、あまりに閉鎖的な宗教というのが少し引っかかる。」
「主要人物の情報は極秘に制限されていて、教皇や司教は顔すら知らない状況…せいぜい各教会の長老までなら身元が分かるが、大半は一般市民から選ばれた人間なので、それほど意味のある情報ではなかった…」
そうしてエヴァンはいくつもの疑問を抱えながら、6セクターのCゲート付近に到着し、バイクを降りてゲート前の検問所に立った。
出発前、エヴァンは偽装用のマスクをつけていたので、本来の顔ではなく中年の顔でゲートに立った。
検問所から警官が出てきて尋ねた。
「身分と目的を言ってください。」
その格好は普通の警察ではなく、6セクターにしかいない宗教警察の赤い制服だった。
エヴァンは普段の声ではなく、かすれた声で言った。
「年齢は45歳、名前はバン・エガーだ。居住区域は13セクターの一般市民だよ。神にお目にかかるために聖殿へ行こうとしているが、通してくれるかね?」
警官はエヴァンの体をじっと見てから言った。
「通ってください。ただし、立入制限が書かれた建物には入ったり近づいたりしないでください。」
「分かった。」
エヴァンは6セクターに入った。
6セクターの様子は、聖殿があるという威容とは裏腹に、かなり古びていた。建物の高さはほとんどが4階を超えず、年代を感じる建築様式だった。
「もしかすると、クーデター以前の建物をそのまま使っているのかもしれないな。」
エヴァンは周囲を見回し、高くそびえる聖殿を見て、古い建物をそのまま使っている理由を推測した。
「聖殿を際立たせるために周辺の建物を放置したのか?内部は見ていないが、それほど快適な生活とは言えなさそうだ…愛と慈愛を掲げる宗教のわりに、あまり実践的ではないな。」
エヴァンはそうして聖殿へ歩いて行った。
6セクターの中央には聖殿があり、その周囲を円を描くように古びた建物が並んでいた。
それは古い建物を再利用したにしては不自然だった。
「再利用ではなく、6セクターを設計した時から聖殿以外の全ての建物を脇役として作ったということか。」
昔、エヴァンが探偵教育を受けていた時の歴史の授業を思い出した。
「そういえば、政府樹立初期には市民の安定のために宗教の力を大いに借りたと言っていたな。そのおかげで逆十字教は大きく成長し、政府の承認を得て非公式な国教となったとか…?」
「そのために聖殿をより際立たせる必要があったということか…でも…」
エヴァンはあまりに古びた周囲を見ながら歩いた。
割れた窓ガラスは長い間修理されなかったようで、厚くホコリが積もっていた。
そして妙に子供や若者の姿がなかった。
「少し気になるな。古びているとはいえ、店や食堂は少なくなく、道を歩く人もそれほど少ないわけじゃない。なのに子供や若者が一人もいないとは…たぶん若者はセクターごとの労働割当を満たすために他のセクターに行っているのだろう。」
エヴァンは道を歩いていた老人に声をかけた。
「お爺さん、道を尋ねてもいいですか?」
老人は人の良さそうな笑顔で言った。
「おや、あんた6セクターは初めてかい。ここに来たってことは、輝かしい逆十字教の信者ってわけだろ?我らの兄弟に教えられないことなんざないさ。何でも聞いてくれ。」
エヴァンは老人の少し不自然なほど明るい表情に、わずかに既視感を覚えた。
「はい、聖殿へ行きたいのですが、道がちょっと複雑でして。」
老人はハハと笑いながら続けた。
「道はちょっと迷路みたいだろ?歩いていれば赤い逆十字が描かれた道があるはずさ。それを辿れば神聖な聖殿に着くよ。」
エヴァンはさらに質問した。
「そういえばここには子供が見当たりませんね。」
老人は再び人の良さそうな笑顔で答えた。
「他のセクターの人には珍しく見えるだろうね。これもみな慈愛深い逆十字教のおかげさ。子供は生まれた時から洗礼を受け、逆十字教の聖殿で教育を受けて成人になるまで暮らすのさ。そのおかげでこんな古びたセクターでも質の高い教育を受けた人材を輩出できるってわけだ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
エヴァンは老人と別れ、赤い逆十字を辿って歩いた。
「そういうことか、そういえば6セクターは多様な人材を輩出することで有名だったな。国民の情緒的安定と人材の輩出か、逆十字教はいろいろな意味で国家に献身しているな。」
いろいろと考えながらエヴァンは聖殿の前にたどり着いた。
実際に見た聖殿の外観は思わず感嘆の声が出るほどだった。
聖殿の入り口は巨大な凱旋門になっており、白い大理石で作られた巨大な城のようで、その上には金色の屋根と逆十字があった。
小さな町の規模はありそうな広大な敷地と広い庭園からは子供たちの笑い声が聞こえた。
エヴァンが凱旋門をくぐると、重武装した若い宗教警察が歩み寄ってきて言った。
「出身と目的を言ってください。」
「年齢は45歳、名前はバン・エガーだ。居住区域は13セクターの一般市民だよ。神にお目にかかるために聖殿へ行こうとしているが、通してくれるかね?」
宗教警察は手に持ったタブレットで何かを確認すると言った。
「本日初めての訪問ですね。Cゲートを通って6セクターに来られています。身分確認は終わりましたのでお入りください。ただし、立入制限区域には入らないでください。現在8祈祷館、35祈祷館、55祈祷館は説教および祈祷中なので、通る際はご注意ください。」
「分かった。」
エヴァンは聖殿の広い庭園を歩きながら考えた。
「ゲートでよりももっと厳密な検問だな。少しおかしい…まあ、それだけここが重要な場所ってことだろう。それより本当に平和だな…」
広い庭園では白い服を着た子供たちとシスターと思われる先生が一緒に走り回って笑っていた。
しかしエヴァンはなぜか既視感を覚えた。
聖殿の内部の庭園にも少なくない建物があったが、そこかしこに立入禁止の表示があったからだ。
「そういえば聖殿まで来る途中、十数個は見た立入禁止の建物は何のためだ?聖殿内にも立入禁止区域があるということは、やはり外の立入禁止区域も聖殿と関連しているということか…それに6セクターはまるで独立政府の下で統治されている場所みたいだな…」
「まあ、これから調べればいいか。」
エヴァンは広い庭園を抜けて聖殿の本堂に到達した。遠くから見たときよりもはるかに大きく荘厳に見える建物に、なぜか畏敬の念を抱く気分だった。
「口が開くほど大きいな、本当に。」
エヴァンは本堂の建物内部を歩きながら聖遺物を見回した。
「本堂の1階全体は聖遺物と神学の歴史を記録した博物館として使われているのか。かなり徹底していた検問とはまるで違う雰囲気だな。一般市民も少なくないようだし…」
広い本堂の1階を見回しながらエヴァンは不思議に思った。
「なぜこの広く高い建物に上へ行く階段が一つもないんだ?天井が特別高いわけでもないし…明らかに上には次の階がかなりあるはずなのに、なぜ行く道がないんだ?」
明白におかしな点だった。立入制限区域なら入口を塞げば済む話だが、この巨大な建物内部には入口と出口を除いて、どんな扉も階段も、ましてや小さな穴すらなかった。
「空に届きそうな二つの塔がただの飾りのはずがない。あの高い二つの塔を繋ぐ1階の本堂を除いても、高く巨大な塔の内部は小さな町程度は収容できそうに見えるのに…これほどの空間を飾りに使うはずがない。何より気になるのは…」
エヴァンは建物の隅にある壁の前に立ち、目を閉じて聴覚を鋭く研ぎ澄ました。
「今、私と一緒に本堂の1階にいるのは全部で20人…彼らが出す騒音の中に、妙なものが微かに聞こえる。声がマイクを通りウーファーを経て増幅されて生まれるブーンという振動…」
「通常の音は短い波長で振動するから固い壁などで遮音しやすいが、波長の長い低音の場合、特にウーファーのブーンという音は長く伸びた波長で壁を通して遠くまで振動を伝える。こんなブーンという音が聞こえるってことはつまり、内容までは分からなくても、あの上のどこかで大型スピーカーを使うほどの大規模な演説が行われているということだろう。」
エヴァンは天井を見上げた。
「ここまで秘密裏にやっている演説…いや、教会だから説教と言うべきか。やはり不自然だな。」
エヴァンは再び外に出て周囲を探索した。
外はすでに夕焼けが落ちる初夜だった。
エヴァンは半日が過ぎるまで探索を続けたが、収穫はなかった。
「やはりどんな秘密の通路もないか…なら、6セクターのあちこちや聖殿のあちこちにある立入禁止と書かれた建物が正解だろう。おそらく聖殿の外にある立入制限区域は秘密基地か倉庫のような役割だな。聖殿内部の立入制限区域は本堂の2階へ続く通路か?地下から上に登る構造ならあり得る…そうなると地下を含めた本堂の規模は外観より二倍は大きいってことか…」
その時、聖殿全体にアナウンスが響いた。
アナウンスでは聖殿内に入ったすべての一般市民の名前を呼び、1時間以内に出るようにと告げた。
さらに出ない者の名前を5分おきに呼び、協力を求めた。
エヴァンは少し考えた。
「内部調査はもっといろいろ準備してから実行すべきだな。これじゃあ潜伏することもできないし…まずは戻るのがいい。」
エヴァンは6セクターから13セクターへ向かう前に少し遠回りして、10セクターと8セクター、そして6セクターを通って13セクターのAゲートに到達した。
「最近、軍で何人か反乱を企てた人物がいたと聞いたから念のために回ってみたが、やはり他の居住可能セクターは検問がないな。6セクターだけが検問しているのは少し変だ…人手がもっと要るな。」
エヴァンはバイクに乗ってゲートを通過し、ネリュニャンニャン通信機を取り出してステラに通信を送った。
「ステラ、話がある。1時間後くらいに広場前のバーで待ってろ。」
エヴァンは家に戻り、楽な服装に着替えて鏡の前に立った。
「黒の無地のスウェットに黒のワイルドフィットのカーゴパンツ。
そして無表情な顔…はあ、オヤジに怒られるな。」
エヴァンはクローゼットからピンクのパーカーに派手にネリュニャンのキャラクターが描かれた服を取り出し、オヤジと一緒に撮った写真の前でしばらく悩んだ。
「考えてみれば1時間後は10代の子供たちが社会化教育を終えて帰宅する時間だな…」
エヴァンは舌を一度鳴らして靴を履いた。
エヴァンは玄関を出て、ふと見えた鏡を見て薄く微笑んだ。
「努力してるの、分かるだろ?」
約50分後、エヴァンは先にバーに着いてステラを待ちながら時計を一度見て言った。
「約束の10分前に来ることを期待するのは欲張りすぎか。」
そうして20分ほど経つとバーのドアが開き、ステラが入ってきた。
エヴァンはバーテーブルで少し振り返ってステラを確認した。
「遅刻だなステラ…」
エヴァンはステラを見て少し言葉を失った。
こんな遅い時間にウェーブを入れた髪ときっちりメイク、そして派手すぎない整った服装
明らかに大きな誤解をしているのが分かった。
驚いたのはステラも同じだった。
「た…探偵さん、その服は…?」
エヴァンは小さくため息をついて言った。
「10代の子供たちの帰宅時間だからな…それより何か誤解したみたいだな…」
ステラは顔を赤くして言った。
「そ…それは デ…デート!このあとデートの約束があって…!だからちょっと…おしゃれして来たんです…!」
エヴァンは小さくため息を吐いて言った。
「処世術をもっと磨け…探偵には必須の能力だからな…とにかくそこに座れ。話がある。」
「はい…」
エヴァンはバーテンダーを一度見て視線で合図を送った。
するとバーテンダーはドアを閉めて自分も席を外した。
それを見たステラは驚いたように周りをきょろきょろ見回した。
「驚くことはない、探偵を引退してバーテンダーをやっている人間だから俺たちに協力する義務があるだけだ。」
「こんな所が他にもあるんですか?」
「そりゃまあ、あるにはあるが、それほど多くはない。引退が簡単じゃない職業だからな。俺たちは生ける屍か不審死で終わるから。」
ステラは顔をしかめて言った。
「今の服に全然似合わない話ですね…」
「まあ現実はそんなもんだ。」
ステラはテーブルに置かれたジンを一口飲んで、口に合わないのか「うえっ」と音を立ててグラスを置いた。
エヴァンが話を続けた。
「じゃあ本題に入る。俺は明日、逆十字教をひっくり返すつもりだ。」
「はい、そう…え?」
エヴァンがステラを見ながら聞いた。
「お前も逆十字教の信者だったか?」
「それは違いますけど…今、国教をひっくり返すって言ったんですよね…?市民の90%以上が信じているか好意的に思っているあの逆十字教ですよね…?」
「正確には名目上の国教だが、まあ、そうだ、その逆十字教だ。怪しい点が一つや二つじゃない。政府が捜査を命じた時点ですでに何かがあるのは確実なんだ。」
「政府が捜査命令を出したんですか…?」
「一つ一つ聞き返すな。まず今日の朝、任務を受けて半日ほど逆十字教の本堂がある6セクター全域と6セクター中央に位置する本堂敷地全体を調査した。
対外的には牧師たちの慈善や、教会の団体ボランティア活動などでオープンな集団のようだが、いざ本堂は閉鎖的どころかまるでカルテルのようだった。」
「今の6セクターは逆十字教が政府を代替していると言っても差し支えない。それは社会体制に大きな問題だ。社会は統制されなければならない。自由の代償を払うのは一度で十分だ。」
ステラは学校で習った核戦争時代を思い浮かべた。
何度も見てきた当時の映像資料と凄惨な被害現場の写真。生存者たちの苦しみと次の世代に起きた遺伝子変異、崩壊した世界…そのすべての苦痛の連鎖…
統制は彼らにとって平和を維持するための必須の要素であり、世界を守る要塞だった。
エヴァンはUSBを渡しながら言った。
「資料をまとめておいた。6セクターの構造と立入制限区域の位置、そして作戦などが入っているから明日の朝までに覚えておけ。意見や質問があればいつでも言え。」
「は…はい」
「じゃあ俺はもう行く。」
「え?もうですか?」
エヴァンはバーを出てバイクにまたがった。
「じゃあ、また明日な。」
みんな アンニョンハセヨ! 再生数が着実に増えていて嬉しいですが、コメントやレビューがなくて悲しんでいます。
そして、ツイッターを作りました! 活動報告で確認できるです!