第二話
罪を背負い血を流し続ける探偵エヴァン。
その手はいつか未来へ繋がるのか。
絶望の街で出会った無垢な助手ステラと、新たな運命が動き出す。
第二話
27年後。
まだ太陽が昇る前の早朝。
静寂の中、エヴァンは目を覚ました。
エヴァンは目を開け、猫が描かれた可愛いパジャマを脱ぐと、
そのまま軽く顔を洗った。
続けて鏡を見ながらぼさぼさの黒髪を整えた。
青白い肌の水気を拭き取り、手で顔をあちこち揉みながら笑顔を作った。
「これくらいなら、大丈夫だろう。」
その後、黒の半袖とジーンズを穿き、よく手入れされた革ジャケットを羽織った。
まだ太陽が昇っていない静かな時間。
エヴァンは毎日この時間に家を出る。
駐車場に向かい、ヘルメットを被り、バイクに跨がった。
エヴァンの黒いバイクは音もなく、住宅地から遠く離れた外壁まで一気に走り抜けた。
エヴァンがこの時間に電動バイクに乗る理由は、
エンジン音で国民を起こさないためだった。
猫のパジャマもまた、かつてヨハンに冷たい印象だと言われ、
子供たちが親しみを持てるように特注で作らせたものだった。
ちなみにそのパジャマの猫は、
ネロネロルンルンニャンという世界政府が子供向けに制作し、
20年以上も放映され続けているアニメのメインヒロニャン、ネロリュコだ。
エヴァンとはそういう男だった。
人類のため、国民のため、命のためなら
どんなことも厭わず、些細なことにも気を配る、そんな人間だ。
壁に到着したエヴァンは、器用にその巨大な外壁を登り始めた。
壁は100メートルを超える高さを持つ世界政府の人工の壁で、
国民を放射能と外の怪物から守っていた。
エヴァンは壁の上に立ち、防護服のフードを脱いだ。
まだ太陽が昇らない夜空に月が浮かび、
月光が彼の青白い顔を静かに照らした。
壁の向こうには、数多の放射能で変異した怪物たちが蠢いていた。
それは人間の形を辛うじて保つものから、
もはや人間とは呼べないほどおぞましく変わり果てたものまで様々だった。
「おはよう、今日も元気そうだな。」
エヴァンは怪物たちに向かって小さく笑い、手を振った。
……今日もあの壁の向こうで生きている。
それだけで十分だ。
心の中でそう呟き、ゆっくりと階段を下りて再びバイクに跨り、
静まり返った街へと戻っていった。
世界政府所属一級犯罪捜査課に出勤したエヴァンは、
いつものように自席に座り、溜まっていた書類を整理し始めた。
この捜査課の主な役割は、
国家反逆者を探し出し処理することだった。
その『処理』は通常の捜査ではなく、
対象を精神的に追い詰め、自白させる形を取っていた。
これを、世界政府では『推理』と呼んでいた。
「エヴァン、最近忙しそうだな。」
同僚のレオンが声をかけてきた。
「まぁな、でもこれも国民のためだ。」
「お前は変わらないな……普通はもっと嫌がるものだが。」
エヴァンは軽く笑った。
「それが俺の仕事だ。誰かがやらなければならない。」
レオンは少し寂しそうに笑い、
「……お前は本当に探偵だな。」と呟いた。
夜、エヴァンはまた壁の上に立っていた。
防護服のフードを外し、冷たい夜風に髪をなびかせ、深く息を吸い込んだ。
……ここには、かつて多くの命があった。
今、そのほとんどはこの壁の外で怪物となって彷徨っている。
「お前たちも……ただ誰かを守りたかっただけなんだろうな。」
エヴァンは小さく呟いた。
その時、無線が鳴った。
「こちら一級犯罪捜査課、探偵エヴァン。緊急任務を発令する。」
「反逆の兆候がある一家を確認した。
座標データを送信する。即座に対応せよ。」
「了解。すぐ向かう。」
再びヘルメットを被り、バイクに跨ると、
エヴァンは夜の街へと走り出した。
ターゲットの家に到着したエヴァンは、
暗い部屋へと忍び込み、静かに身を潜めて彼らが帰るのを待った。
しばらくして扉が開き、
小さな子供を二人連れた若い夫婦が入ってきた。
「これでもう大丈夫……誰も私たちを見てやしない……」
夫がそう言うと、妻は震える声で答えた。
「でも……またいつか見つかってしまうんじゃ……」
「その時は……その時だ。」
エヴァンは静かに近づき、注射器を取り出して夫の首筋に突き立てた。
夫は驚いた表情のまま、声もなく崩れ落ちた。
妻は悲鳴を上げ、子供たちを抱きしめた。
「お願い……お願いだから子供たちだけは……!」
エヴァンは無言で妻にも注射を打ち、
気絶した二人を確認すると無線で報告した。
「こちら探偵エヴァン。目標確保。搬送班を頼む。」
しばらくして搬送車が到着し、
エヴァンは気絶した夫婦を車に乗せた。
残された子供たちは不安そうにエヴァンを見つめていた。
エヴァンはしゃがんで目線を合わせ、小さく微笑んだ。
「心配するな。親の罪は子には引き継がれない。
世界政府が、お前たちを必ず守ってくれる。」
そう言って子供たちの頭を優しく撫でた。
搬送車が走り去った後、エヴァンは夜空を見上げた。
……いつまで俺はこうして血を流し続けるのだろう。
それでも、この血が未来を繋ぐのなら。
それでいい。
エヴァンは再びバイクに跨り、夜の街へと戻っていった。
13セクターAゲート前でバイクを止めたエヴァンは、小さく呟いた。
「結局、俺がやるべきことは変わらない。
おじさんのように国民を守っていけば、いつか分かるだろう。」
13セクターAゲート前には、小柄な女性がスーツ姿で立っていた。
青い瞳を輝かせ、白金色の長い髪を持つ華奢で白い彼女は、
どこか嬉しそうに言った。
「私の名前はステラ。探偵様の助手として派遣されました!
こちらがご依頼の武器です。ふふ……!私、初任務なので緊張します!」
エヴァンはその無邪気な笑顔を見て頭を抱え、小さくため息をついてぼやいた。
「有能の意味を理解してなかったのか?」
ヘルメットを外して渡しながら言った。
「はぁ……とにかく乗れ。」
「はい!探偵様!!」
早く 多いな 人が 読んでれば いいな