表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

第9話

エヴァンは、逆十字教の恐ろしい陰謀を目の当たりにし、絶望の中で自ら崩れ落ちる。

だが、幼い子どもから届いた無垢なメッセージに心を打たれ、再び立ち上がる。

歪んだ正義を正すために――

そしてステラと共に、今こそ本当の闇に立ち向かおうと決意するのだった。


第9話


エヴァンは6セクターの廃棄物専用ゲート、Hゲートの前で全身に汚物を被ったまま目を覚ました。

「うっ…何があったんだ…」


その時、エヴァンのポケットから「ピー」と単一周波数の音が鳴り、

頭の中でぼんやりしていた記憶がはっきりしてきた。

その瞬間、彼は堪えきれずに吐瀉を吐き出した。

「う…おぇっ…!」


エヴァンは自分が吐いた吐瀉物を見て、

愛していた、今でも痛いほど恋しく思っているアネツカの姿を思い出し、

ゴミの山の上で身をよじった。

「くっ…ちくしょう…ちくしょう…ちくしょう!!!」


「何もできなかった…何も!!こんなにも無力で弱いのが探偵…!?世界を守る!?愛する一人の人間さえ目の前で守れなかったのに!?…くそっ!!!」


エヴァンは絶叫した。

喉が張り裂けるほど、政府の監視など忘れたまま、

ただ言葉にできないほど残酷に心臓を突き刺す無力感、

絶望感、そして対象のわからない嫌悪感に、

まるで壁の外の怪物たちのように悲しく孤独な叫び声を上げるだけだった。


そうしてのたうち回っていたエヴァンのコートの内ポケットから、

ヨハンが最後に残してくれた贈り物、万年筆が落ちた。


エヴァンは震える手で万年筆を見て拾い上げ、小さくつぶやいた。

「一番淡い光を追えって言ってたじゃないですか…

その淡い光さえない闇では…そんな道では何を見て進めばいいんです…?

一握りの希望もない道に立つのなら…」


-ジィーン-

エヴァンの携帯端末に一通のメッセージが届いた。

彼は虚ろな目で端末を開き、画面に表示されたメッセージ通知を確認した。

「保育園…」


保育園のある子供が自分で撮った写真だと言って、

保育士の端末から送った一枚の写真と短く、綴りの間違ったメッセージ。

まだ幼い少年がエヴァンの真似をするように袖をまくり、小さな鍋を持って料理人を手伝っている写真だった。

-エヴァンせんせー ぼくもせんせーみたぃに やさしぃおとなになりたくて てつだってるょ。すごぃでしょ?!-


エヴァンは脱力したように笑い、言った。

「綴りも全部間違ってるガキが…まだ教えてやることは山ほどある…見せてやるものも…」


エヴァンは顔を上げた。

周囲にはゴミの山と灰色の空、冷たさと孤独、

そして無力感だけが漂っていた。


エヴァンは万年筆のキャップを外し、

そのまま太ももにペン先を深く突き刺した。

「くっ…!俺が手を汚した理由は…

数え切れない人間の命をこの手で絶った理由は…!!

こんなものを教えたくてでも、

見せたくてでもねえ!!そうだろう、オヤジ!?この万年筆は一番正しい道しるべであり…一番鋭い剣…」


エヴァンは太ももに深く突き刺さった万年筆をさらに突き立てながら繰り返した。

「光がないだと!?目を覚ませ、ここにこんなに眩しい光があるじゃないか…!

俺が潰れたら子供たちはどうするんだ!!」


エヴァンは大きく息を吸い込み、

再び万年筆をコートの内ポケットにしまい込み立ち上がった。

「ちくしょう…臭いが鼻をつんざくな。」


彼はそうして鼻を押さえながらゴミの山を抜け出した。

『くそ…薬物注射のせいでショックがきたのか…

俺がショックを起こすほどの薬を使うとはな…』


「まあ、ガキの頃から妙に薬物耐性が強かったのがむしろ仇になったか。

これからは薬も気をつけないとな…」


エヴァンは少し記憶を辿った。

『そうだ、ドレックってやつがボタンを渡してきたな…そのボタンはどこに…』


エヴァンはポケットの中で小さな機械装置を掴んだ。

『これか…?さっきから気になってた音はこれだったのか?』


エヴァンは頭を冷やしながら考えた。

『この騒ぎを起こしたのに政府側から何の対処もないということは、

確かにこの装置は俺の視聴覚データを別の形で政府に送信中なんだろう…』


エヴァンはポケットからメモを探し出した。

[協力するかは知らんが、お前ならきっと協力するだろう。

政府には手術室まではそのまま送られていて、

その後は失敗作どもを見た後お前は俺と戦闘の末に

薬を打たれて意識を失い、俺に殺されたことにして

捨てられたことにしておいた。]


「ちっ…こんな話、聞くと思うか…!?

だがやはりこの国の正義はどこか歪んでいる…

それにきっとこれを報告すればアネツカも即座に射殺される。

あの外見はどうにかする方法があるはずだ…必ず助けてみせる…!」


「くそっ…こんな状況でもアネツカを助けるためには

協力するしかないってわけか…」


エヴァンはポケットの中で再びボタンを押すと、

単一周波数の音が止んだ。

エヴァンはメモに書かれたことを元に政府へ報告した。

「•••そしてすぐにステラと合流し、13セクターへ帰還します。」


-確認した。生体結合実験か…

まだ初期段階のようだが、追って調査を進める必要があるな。

お前は四日以内に薬物検査を受けろ。

お前が中毒でショックを起こす程度なら、

微量でも多くの人間が死ぬ可能性がある。

必ず薬の正体を突き止めるのだ。以上。

今日流れるすべての血は国民のために。-


「了解。今日流れるすべての血は国民のために。」


エヴァンはAゲートに戻り、検問官に気づかれぬようバイクに辿り着いた。

「ここで少し休んでステラを待つか。」


-一方ニューワールドの中心部アルファセクター、世界政府の官邸-


会議室には長テーブルを挟んで6人の幹部が向かい合って座っており、

中央には防毒マスクをつけた世界政府の総統閣下が座っていた。

だが黒い会議室で見えるのは白い手袋をはめた14の手と、

淡い光を反射する総統閣下の防毒マスクの輪郭とレンズだけだった。


変声された声で総統閣下が言った。

「今まで目をつぶってきたが、ついに逆十字教が動き出した。」


総統閣下の言葉が終わると、

幹部の一人が指を鳴らし、ふざけたように言った。

「おっと!反乱軍が動き出した今この時期に!

後頭部を思いっきり殴られましたね、ククク」


他の幹部が彼を咎めた。

「今はふざける時間ではない。静粛にして会議に集中しろ。」


その言葉を聞いたふざけていた幹部が剣を抜いて振り回しながら言った。

「なんだよ。お前俺の上司か?あれこれ指図すんなよ、

斬られたいのか?」


その言葉を聞いた彼と対立していた幹部は銃を抜き、

剣を抜いた幹部の頭に銃口を向けた。

その時総統閣下が右手を上げ拳を握った。

同時に二人は席に着き、謝罪した。


そして総統閣下は表情のない防毒マスクの奥から低く言った。

「君たちの意見を聞こう。」


6人の幹部はそれぞれ意見を述べた。

「いっそ潰しちゃいましょう、ククク」

「現体制を維持するためには親政府派の新教会と密接に内通し、

正教会を徐々に消していくべきです。」

「いや、それは時間がかかりすぎる!

総統閣下、ここは強硬に•••」

...

総統閣下は皆の意見を聞き、一瞬考えてから口を開いた。

「今ニューワールドの一般市民の出生率はどれほど上がった?

そして成長期の子供の数はどの程度だ?」


6人の幹部の一人が言った。

「はい、30年前に比べ人口は約100万人ほど増え、

増えた人口の98.7%は一般市民と報告されています。

そのうち70%が成長期である0歳から21歳と報告されています。」


総統閣下は続けて言った。

「いいな、時期はいい。では素材は十分だ。

孕胎(インタイ)計画を始めろ。」


6人の幹部は一斉に答えた。

「承知しました。今日流れるすべての血は国民のために!」


「今日流れるすべての血は国民のために。以上。」


彼らはそれぞれ別の扉から散るように会議室を後にした。


.

.

.


日が沈んでしばらくして、

ステラがエヴァンを待っているAゲート前へ現れた。

「エヴァンさん、戻ってき…うっ、何この匂い…?」


エヴァンはびっこを引きながらバイクにまたがった。

その姿を見たステラが驚いて尋ねた。

「探偵さん…!?どうしたんですか!?大丈夫ですか??」


エヴァンは少し考え込んだあと口を開いた。

「まぁ、来る途中で転んだんだ。時間も遅いし、報告は戻ってから聞くとしよう。」


ステラはぽかんとした顔を見せながら小走りにバイクに乗った。

「え…?は、はいっ…!」


エヴァンはステラを後ろに乗せてバイクの速度を上げた。

『きっとステラも何か政府に言いづらいものを見たり聞いたりしたはずだ…

報告は酒場で秘密裏に聞くとしよう…』


.

.

.


酒場に入るとバーテンダーは手慣れた様子で

エヴァンの目配せを見て、

店に残っていた客を丁重に追い出した。

「お前さん、最近よく来るな。

隣の子は彼女か?ははは。」


「冗談を言う元気があるなら、席を外してくれませんか。」


バーテンダーは茶色のラム酒を二杯注ぎ、

その場を離れた。それを確認したエヴァンが

ポケットから攪乱装置を取り出しステラに見せた。

「言葉より直接見せた方が早いだろ。」


「え…?」


エヴァンはぼそりと言った。

「俺は現政権を潰すつもりだ。」


ステラはぎょっとして後ずさりした。

「そ…それって…」


「やめろ、そのまま後ろへ退くな。

今見せた装置は俺の半径1m内の通信を攪乱する装置だ。政府には別の映像と音が送られているってことだ。」


「い…いきなりそんなこと言われたら驚 くじゃないですか…!!」


エヴァンはラム酒を一口飲み、口を開いた。

「俺は正義を貫きたいんだ。」


「急に…それってどういう意味ですか…?」


「俺は逆十字教で多くの危険要素を見つけた。

だからステラ、お前もきっと何かを見つけたり感じたりしたはずだ。

その報告を聞きたい。」


「報告は手順に従って…すべきじゃないんですか?

どうして攪乱装置まで使って…」


エヴァンは少し呼吸を整えて言った。

「俺は現政府の正義に疑念を持っている。

だが市民には政府が必要だ。

統率者がいなければ、それこそ阿鼻叫喚になる。

だから政府を守るのは変わらないが、

万が一に備え政府への確信が持てるまではこうして別で報告を受けたい。」


「私が別に通報したらどうするんですか…!?」


エヴァンはラムの入ったグラスを少し見つめ、

珍しく薄く笑った。

「しないだろ?な?」


「そ…それはそうですけど…!い、いったん報告だけ先にします!!」


報告を聞いたエヴァンは目を閉じ考え込んだ。

『赤い司祭たちが選別して連れて行った者たちは

実験の材料になったのだろう。

そしてやはり本堂へ入る道は外から入る方式…

本堂全体が通信攪乱を可能にする。

それに自給自足の食料供給にも問題がない…』


「これなら兵力さえ整えば、

政府と全面戦争に入るかもしれないな…」


「えっ…!?それってどういう意味ですか!?」


「文字通りだ。逆十字教は正教会と新教会、

二つの宗派が一つの土地を共有している。

新教会は政府を支持しているが、

規模の大きい正教会は政府と摩擦が激しい。」


ステラが驚いて尋ねた。

「逆十字教って二つに分かれてるんですか…?」


エヴァンはしばらく黙って言った。

「まぁ、実際に宗派が二つに分かれてるわけじゃないが、

逆十字教内には二つの派閥が存在する。

逆十字教の首脳部に関する情報は極秘で管理されてるから、

知らないのが普通だ。」


エヴァンは少し黙り込んでから続けた。

「ステラ、今すぐ選べとは言わない。

正直、俺が進もうとしてるこの道が正しいのかも疑問だ。

だが…この世界はどこか間違ってる。」


エヴァンが守ってきたのは政府じゃなく、

市民であり、命であり、

幼く小さな子供の笑顔だった。

彼は決して政府のために手を血で染めたわけではなかった。

「俺は市民たちの幸せを守りたい。

今は何が間違ってるのかはっきりとは分からないが、

きっと…どこかが歪んでる。」


ステラは強いウイスキーを一気に飲み干し言った。

「だったらもう…!!やりましょう!

何をするのかは分かりませんけど、

少なくとも探偵さんなら何をしても

きっと正しいことだって信じてます…!!」


エヴァンは苦笑しながら言った。

「単純なのか決断が早いのか…よし、今日はここまでにして、

次はこれからどうするかを話し合おう。」


そうして二人は別れ、エヴァンは自室に戻った。


寂しい部屋のベッドに横たわったエヴァンは、

なぜか分からない疲労感にすぐ目を閉じた。


エヴァンは透明な水槽の中で目を覚ました。

「ここは…どこだ…?」


朦朧とした意識の中で、

現実ではなく夢だと気づくのに時間はかからなかった。


見たことのない光景、

水槽の中から見える数々の機械設備と

多くの水槽。

その中には様々な動物や

奇妙な塊があった。

『何かの研究所か…変な夢だな…けど…』


まるで何度も見たような…

いや一生をここで過ごしてきたかのように

懐かしい光景だった。

苦しむ実験体たちと、

いつも自分の前で機械を操作する白髪の男。


その男が装置を操作するたび、

耐え難い痛みが押し寄せた。

全身の細胞一つ一つが

その男のすることを拒絶するかのような

激しい痛みだったが、

夢だからか痛いという認識はあるが

痛覚自体は感じなかった。


「もうすぐ完成だ…

完全な生命体が…死を超越した生命体が完成する…!!」


水槽の外で男が何かを話していたが、

エヴァンには聞こえなかった。


その時、逆十字教の豪華で華麗な教皇服を

身にまとった男が歩み寄り言った。

「君、言葉は正しく使わねばならんよ。

完全な生命体ではなく、神の器だ。

私がこのプロジェクトを支援し支持した理由を

忘れないでくれたまえ。」


白髪の男は悔しそうな表情を一瞬見せ、

教皇にうなずいた。

「ええ…あんたがいなけりゃ不可能だったでしょうね…」


「それでこの器はどれほどの完成度なんだ?」


「もう完成と言っても無理はありません。

老化による死に至ることはなく、

首が落ちても胴体が再生する回復力。

学習したすべての記憶が子孫に継がれる

完全な記憶保存力。

筋力や速度、体のあらゆる機能は

すべての生物を超えたと言っても過言ではないでしょう。

ただ…」


「ただ?」


「まだこれをコントロールする方法がなく、

いろいろ試している最中です。」


「それはどういう意味だ?」


「簡単に言えば、これはただの殻に過ぎません。

生きている生物ではなく、

様々な物質で構成された人の形の肉塊です。

生命の原理はまだ解明されておらず、

この肉塊を生きて動かすことは

今のところ不可能です。」


教皇は男の頬を思い切り叩いた。

「つぎ込んだ金と人間がどれだけいると思ってる、

早く処理しろ。」


教皇が去ると男は悔しそうに水槽のエヴァンを見つめた。

「ちくしょう…あるのはくだらねえ民から搾り取った金ばかりの

豚のくせに…神の降臨…?ふざけるな!!神なんかどこにいる!!ちくしょう!!」


エヴァンは目を見開いた。

そしてぼんやりした夢の内容を反芻しながら思った。

『なんだ…妙な夢を見た気がするな…』

ヤーば時間がない!! ざぁー行ってきます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ