第9章: 前途
朝日が森に差し込み、その光は木々の間からぽつぽつと地面に落ちていた。高くそびえる古木が静かな守護者のように立ち並び、そよ風に揺れる葉がささやくようだった。リリアンと仲間たちが感じていた危険とは無縁の、平和な空間に見えた。しかし、その静けさの下には微かな緊張が漂っており、リリアンはそれを肌で感じ取っていた。まるで空気そのものが何かを見張っているかのようで、何かが起きるのを待っているかのようだった。
リリアンはゆっくりと眠りから目覚め、木漏れ日の中でまばたきをした。体は数日間の旅の疲れで痛み、常に移動している緊張感が重くのしかかっていた。彼女はミナの温もりを感じ、小さな体がリリアンの脚にぴったり寄り添い、尻尾が彼女の脚に巻きついていた。しばし、その存在の安らぎを噛みしめたが、すぐにその平穏はかき消され、彼女を苦しめていた不安が完全に戻ってきた。歩みを進めるたびに、決断を下すたびに、リリアンは得体の知れない何かに近づいている感覚に襲われた。
「あとどれくらいで町に着くの?」まだ寝起きの柔らかな声でリリアンが尋ねると、彼女は頭の上で両手を伸ばし、少しだけ緊張がほぐれるのを感じた。
セラはちらりと顔を上げ、琥珀色の瞳が陽光に輝いた。「もう少しだわ」と彼女は答えた。「この調子なら、昼過ぎには着くでしょう」。彼女は剣に視線を戻したが、リリアンはその静かな表情の奥に潜む言葉にならない緊張を感じ取った。
その言葉は、ほとんど慰めにはならなかった。町に着くという希望がある一方で、それは常に存在する追跡者たちの脅威によって覆い隠されていた。リリアンの視線は荷物の中の本に向けられた。持つ手にずしりと重さが伝わり、その重さは単に物理的なもの以上のものだった。本が秘める謎と、その力が引き寄せている闇の存在が、リリアンの心に暗い影を落としていた。
「町に着いたら、どうなると思う?」リリアンは不安を隠すように問いかけた。「彼らは私たちを見つけると思う?」
セラは剣を研ぐ手を一瞬止め、視線を上げた。彼女の顔には重々しい表情が浮かんでいた。「彼らは見ているわ」と彼女は静かに言った。「私たちを追っている者は、欲しいものを手に入れるまで止まらないでしょう。町は少しの間、私たちに休息を与えてくれるかもしれないけれど、それは保証にはならないわ。油断しないように」。
セラの言葉に、リリアンの心はさらに重くなった。町は休息し、物資を整え、次の計画を練るための場所であり、わずかな希望を提供してくれる場所であったが、同時に、捕まるリスクも伴っていた。
彼女は荷物に手を伸ばし、小さなパンとドライフルーツを取り出して、ささやかな朝食を用意した。彼女は暗い影のような不安に襲われ、いつまでも逃げ続けることはできないと痛感していた。
やがて眠そうにまばたきしながら目を覚ましたミナが、猫の耳をぴくぴくさせながらリリアンを見上げた。「おはよう、お姉ちゃん」と、まだ眠たそうな声でつぶやいた。
リリアンはミナの無邪気な表情に胸が痛むのを感じたが、優しく微笑んだ。「おはよう、ミナ」と答え、小さなパンを渡した。ミナは「ありがとう」と言ってそれを受け取り、眠そうにかじり始めた。
セラは剣を研ぎ終わると、食事を取り、彼女らしい効率的な動きで食べ始めた。焚き火の周りで朝の準備が整い、森の朝の静けさが心を包んでいたが、リリアンの心には不安が募るばかりだった。「計画が必要ね」とリリアンは静かに言った。「ただ入っていくわけにはいかないわ」。
セラはうなずき、少し考え込むようにリリアンを見た。「慎重に動いて情報を集めましょう。私たちを追っている者たちや本についてもっと知ることができるかもしれない」。彼女の視線はリリアンの荷物に向けられ、真剣さが増した。「でも、注意を引くわけにはいかないわ」。
リリアンはセラの言葉に頷き、不安が心に重くのしかかった。本は常に彼女の意識の片隅に潜んでおり、その力が彼女にとって危険であることを暗に示している
だった。あの夜以来、彼女はその本を開くことはなかったが、その力の記憶は未だに彼女の中でくすぶっていた。
ミナが心配そうにリリアンを見上げた。「私たち、大丈夫かしら?」と小さな声で震えながら尋ねた。
リリアンはミナの恐怖を感じ取りながら、優しく抱き寄せた。「私たちは大丈夫よ、ミナ」と力強く言った。「何も心配しないで」。
ミナはリリアンの腕の中で安心したように小さく頷いた。「約束して」。
リリアンは彼女の額にキスをし、「約束するわ」と囁いた。