第5章 木の下で
太陽は生い茂る樹冠の向こうに沈み始め、森を黄金色とオレンジ色に染めていた。 リリアーヌ、セラ、ミナが鬱蒼と茂る下草の中を進んでいくと、日中の暖かさは急速に失われ、夕方の冷え込みが訪れ始めた。 彼らは何時間も歩き続け、森は静かになったが、常に飛び続けていることの重圧が全員にのしかかった。
リリアンはちらりとミナに目をやった。ミナはリリアンのマントを掴み、すぐそばを歩いていた。 その若い猫族の少女は一日の大半を無言で過ごし、大きな不安そうな目を、木々のざわめきやきしみにきょろきょろと動かしていた。 耳は神経質そうにピクピクと動き、時折、目に見えない危険を察知したかのように尻尾をフリフリさせた。
「もうすぐ止まるわ」セラは沈黙を破るように言った。 いつもよりゆっくりとした足取りで、旅の疲れがようやく表れたようだった。 「休まずにこれ以上長くは進めないわ」。
リリアーヌはうなずき、ミナをちらりと見下ろした。ミナは疲れたような、懇願するような表情で彼女を見上げた。 「あとどれくらい? ミナがそっと尋ねた。
セラは前方の暗くなりかけた森を見渡した。 「そんなに遠くないわ。 近くに小川がある。 そこでキャンプしよう」。
休息が約束されたことで、二人の気分は一時的にでも高揚した。 森の音は次第に聞こえなくなり、彼らは小さな空き地にたどり着いた。 小さな空き地といっても、岩が散らばり、火を焚くのに十分なスペースがあるだけだった。 しかし、リリアンにとっては聖域だった。 絶え間ない旅と危険の日々を経て、やっと息がつける場所だった。 セラはすぐに焚き火のための薪集めに取りかかった。疲れているにもかかわらず、彼女の動きは素早かったが、安定していた。 リリアンはミナを苔むした柔らかい場所に落ち着かせ、小さな女の子をマントで包んで暖めた。 ミナはその布にぴったりと寄り添い、炎が揺らめき始めるのを見ながら耳をわずかに傾けた。 リリアンはその光景に胸が痛んだ。 ミナは多くのことを経験し、それでも勇敢であり続け、どんな希望にもしがみついていた。 少女を守るという約束の重みは、日を追うごとに重く感じられた。
「夜はここで休もう」セラは焚き火の近くに腰を下ろし、ナイフを膝の上に置き、周囲の森を警戒しながら言った。 「夜が明けたら出発しよう」。
リリアンはうなずき、視線を焚き火からミナに移した。 「ここは安全なの? ミナはわずかに声を震わせた。
「今のところはね」リリアンは彼女を安心させ、手を伸ばして彼女の髪を優しく撫でた。 「道から十分離れている。 誰にも見つからないわ」。
リリアンの言葉にミナは緊張を解いたようだったが、心配が完全にほぐれることはなかった。 彼女はリリアーヌに近づき、小さな手でマントの布をもう一度握りしめた。 「聞いてもいい?
「もちろん」リリアンは優しく答えたが、少女の声にためらいを感じると、胸が締め付けられた。
ミナは下を向き、耳をぴくぴくと緊張させた。 "お姉ちゃん "って呼んでもいい?
その質問はリリアンの意表を突いた。 胸が締め付けられ、一瞬、どう答えていいかわからなかった。 しかし、ミナの目に希望が宿り、この不確かな世界で何かを、誰かを探しているのが見えた。
リリアンは優しく微笑み、心が温かくなった。 「そうよ、ミナ。 私のことは "お姉ちゃん "って呼んで。
ミナは目を輝かせ、恥ずかしそうに小さく微笑んだ。 "ありがとう、お姉ちゃん"
ミナからそう呼ばれたのは初めてで、その言葉は小さいが、記念碑的なものに感じられた。 リリアンにとって、それは単なる保護を超えた絆の約束だった。 それはより深いものの始まりであり、もうひとりではないと感じさせるつながりだった。 夜が更けると、木々に長い影を落としながら、火がパチパチと音を立てた。 ミナはリリアーヌの膝の上で頭を休め、尻尾を丸めて小さな体に巻きつけて眠っていた。 セラは常に気を配りながら、空き地の端近くに留まり、暗い森に何か動きの兆しがないか目を凝らしていた。 リリアンは炎が舞うのを眺めながら、自分たちをここに連れてきたすべてのことに思いを馳せた。 マントの下に隠された本はいつになく重く感じられ、その存在は自分たちが逃げている危険を常に思い出させた。 彼女は最初のとき以来、それを開く勇気がなかった。 しかし、囁きはまた始まった。かすかだが、しつこく、彼女の意識の端にあった。
「考えているんでしょ? セラの声が沈黙を破り、リリアンがちらりと目をやると、セラが物知り顔で彼女を見つめていた。
リリアンは小さくため息をついた。 「そうしないのは難しいわ
セラの視線は一瞬本に飛んだが、また森に戻った。 「屈しちゃだめよ。 その本が何であれ、危険なものなのよ」。
「リリアンは、マントの下に隠された革表紙の本に指をかけた。 「でも、それが唯一の方法だとしたら? でも、もしそれしか方法がなかったら?
セラは首を振った。 「あなたはそれを知らない。 それがわかるまでは、わからないものに頼らないほうがいい" リリアンは黙った。
リリアンは黙り込み、炎を見つめながら考えを巡らせた。 セラの言うことは正しいと分かっていたが、誘惑はいつもそこにあり、逃れられない影のように心の奥に残っていた。
長い沈黙の後、世良は再び口を開いた。 「答えが欲しいのはわかるわ、リリアン。 でも、その答えを本だけに求めないで。 他の方法がある。
リリアンはうなずいたが、不安はまだ重くのしかかった。 熟睡しているミナを見下ろすと、小さな指がまだリリアーヌのマントの端に巻きついていた。 今はこれで十分だった。 彼女には守るべきミナがいた。
夜はゆっくりと更けていき、森は静まり返ったまま、火は燃え尽きた。 セラは目を光らせて警戒し、リリアンは軽く居眠りをしていた。
夜明けの光が木々の間から差し込むと、セラは立ち上がり、手足のこわばりを伸ばした。 「リリアーヌを軽い眠りから覚ますと、セラは静かに言った。
リリアーヌはうなずき、ミナをそっと起こすと、ミナは眠そうにまばたきをした。 「おはよう、お姉ちゃん」とミナはつぶやいた。
リリアンは優しく微笑み、その温かな言葉に静かな使命感を感じた。 「おはよう、ミナ。 出発の準備をしましょう」。
キャンプを片付け、旅を続ける準備をしながら、リリアンは二人の間に何かが変わったような感覚を拭えなかった。 彼らはもう、ただ走っているのではなく、家族なのだ