第4章:内なる闇
夜が深まるにつれ、木々に揺らめく影を落としながら、空き地では火がパチパチとやわらかく燃えていた。 空気は湿った土と苔の香りに包まれ、遠くでフクロウが鳴いていた。 リリアンは炎のそばに座り、膝を胸に寄せて炎を見つめていた。 ここ数日の出来事に心を奪われていた。 革表紙の本の重みが彼女の胸を圧迫した。 その本のことを考えるたびに、同じ声が心の中でこだまし、よく理解できないが骨身にしみる言葉をささやいた。 それはただの本ではなく、もっと危険なものだった。 セラは数メートル離れた場所に座り、いつものようにナイフを研いでいた。 彼女には、危険な状態でなくても、手を動かしている癖があった。 リリアンは、それがセラなりの平静を保ち、思考を集中させる方法なのではないかと思い始めていた。 森の中を追いかけて以来、二人はあまり口をきかず、二人の間には沈黙が重く漂っていた。 長い時間の後、リリアンはかろうじてささやくような声で話した。 「私たち...安全だと思う?
セラは刃物から顔を上げ、琥珀色の瞳が炎の光に照らされた。 「安全? 彼女は立ち止まり、その質問を考えた。 「その質問は適切ではないと思うわ、リリアン。 安全かどうかじゃない。 逃げるのをやめるまで生き延びることなのよ」。
火は暖かかったが、リリアンは震えた。 彼女は走るのを止められるかどうかわからなかった。 彼女の中には、自分でも理解できない力がある。 そして、それが彼女を蝕むのは時間の問題だという気がした。
「リリアンは声を震わせながらつぶやいた。 「でも、どうやって止まったらいいのかわからない」。
セラはそっとため息をつき、ナイフを下ろした。 「私たちは皆、何かから逃げている。 問題は、いつそれに正面から向き合うかだ」。
リリアンは、セラの口調の変化に驚いて顔を上げた。 彼女の目には、出会って以来初めて傷つきやすいものがあった。 セラはたださまよえる見知らぬ人ではなかった。 彼女には彼女自身の悪魔があり、戦うべき戦いがあった。 リリアンは一瞬、世良は何から逃げているのだろうと思った。 そう訊ねる前に、木々の間で物音がして、二人は凍りついた。 セラは一瞬にして立ち上がり、ナイフを手に、その身体はコイル状のバネのように緊張していた。 リリアンは心臓が喉に飛び込んでくるのを感じながら、ゆっくりと立ち上がった。 木々の間を縫うように、地面の低い位置で何かが動いた。
セラは一歩前に進み、ナイフを振り上げた。 「そこにいるのは誰?
小さく震えた声が物陰から聞こえた。 「お願い...傷つけないで」。
焚き火の光に照らされた人影が空き地に足を踏み入れたとき、リリアンは息をのんだ。 それは7、8歳はあろうかという少女で、怯えたような大きな目をし、尖った毛皮のような耳が頭の上でぴんと立っていた。 柔らかな毛に覆われた長くなめらかな尻尾が、彼女の後ろで神経質に揺れていた。 彼女はキャットキンだった。
セラはナイフを下ろし、体の力を抜いたが、目は警戒したままだった。 「ここで何をしているの?
少女はためらいがちに、リリアーヌとセラの間をちらちらと見てから、再び言葉を発した。 「隠れてたの。 彼らから。 まだ外にいるのよ"
リリアンの心臓は締め付けられた。 「誰に追われているの?
少女はすぐには答えず、小さな手を震わせてぼろぼろのドレスの布を握りしめていた。 ネコのような大きな目は涙でいっぱいになり、尻尾はまるで自分を慰めようとしているかのように、脚に巻きついた。
「彼らは私の家族を奪った。 私もさらわれるわ...見つかったら...」。
リリアンは一瞬、恐怖から不安に変わった。 リリアンは用心深く一歩前に進み、少女の前に膝をついて目の高さを合わせた。 「ここは安全よ」リリアンは優しく言った。 「誰もあなたを傷つけないわ」。
少女はためらい、大きな目をリリアーヌとセラの間を動かしていた。 リリアンは彼女のためらいを察し、ゆっくりと荷物に手を入れ、一切れのパンを取り出した。 「ほら」彼女は優しい笑顔で食べ物を差し出した。 「お腹が空いたでしょう?
ミナはしばらくためらったが、胃の中の空腹が勝った。 ミナは慎重に前に進み、リリアーヌの手からパンを受け取った。
セラはナイフを鞘に収め、少女の高さまでしゃがみこんだ。 「名前は?
少女はパンを一口飲み込み、柔らかい声で「ミナ」と答えた。
「わかったわ、ミナ」リリアンが聞いたことのないような優しい声でセラは言った。 「今は私たちと一緒にいるのよ、いい? 私たちが守ってあげるから"
リリアンは、ミナの姿勢がほんの少し緩み、尻尾が脚から外れて緊張した様子で後ろに揺れるのを見た。 彼女の目に浮かぶ涙は完全に止まってはいなかったが、もはや走り出す寸前には見えなかった。
「ありがとう」ミナは小さく、臆病な声でささやいた。
リリアンは微笑み、胸が温かくなるのを感じた。 「大丈夫よ、ミナ。 私たちはあなたを置き去りにはしない」。
夜が深まり、火が弱くなると、リリアンはマントの下で丸くなっているミナの横に座った。 セラは空き地の端に座り、二人に背を向けて暗闇を見張っていた。 ミナの小さな体は微かに震えて眠りにつき、時折尻尾をピクピクと動かしていた。
リリアンはミナの肩にそっとマントをかけた。 ミナは身をよじり、手を伸ばしてリリアンの袖を掴もうとした。 「行かないで」ミナは囁き、その声は恐怖で震えていた。
リリアンは心の奥底で何かが揺さぶられるのを感じた。 彼女は何も考えずに少女の横に横たわり、彼女を引き寄せ、保護するように腕を回した。 ミナはすぐにリラックスし、眠りが襲ってきて呼吸が荒くなった。 ミナの尻尾はリリアーヌの足に巻きつき、触れ合う心地よさを求めた。 長い間、リリアンは目を覚ましたまま、木々の隙間から暗い空を見上げていた。 この先にどんな危険が待ち受けているのか見当もつかなかったが、久しぶりに目的意識を感じた。 彼女はもう自分のためだけに走っているのではなかった。