第1章:すべての終わり
風が鋭い崖を吹き抜け、焼けた木と灰の焦げ臭い匂いを運んできた。リリアーヌは崖の端に立っていた。マントは破れ、爪の下には泥がこびりつき、足元はふらついていた。走りすぎたせいか、それとも圧倒的な絶望感のせいか、彼女の足はもう感覚を失っていた。だが、いずれにせよ、もう逃げる場所は残されていなかった。背後には、かつてのアルマリスの首都が崩れ落ち、廃墟と化した。城壁は侵略軍の力に耐えきれず、崩壊していた。
彼女は革張りの小さな本を胸にしっかりと抱きしめた。過去の遺物だと言われた。忘れ去られた秘宝だと。しかし、それがどれほどの代償を伴うかは誰も語らなかった。
「知らなかった……」彼女はささやいた。「こんなこと、望んでいなかった……」
だが、炎がすべてを焼き尽くしてしまった今、意図はほとんど意味を成さなかった。王国は消えた。家族も、友人も、彼女がこれまで知っていたすべてのものが消えた。
「くよくよするな」
その声に彼女は驚いて目を見開いた。リリアーヌは息をのんで本に目を落とした。声は本からではなく、彼女の心の奥深くから響いていた。彼女は本の端を握りしめ、指の関節が白くなった。
「立ち止まっている余裕はない、リリアーヌ。次に何が起こるかは分かっているはずだろう?」冷たく無感情なその声は、彼女が本に触れて以来、常に聞こえていた。
「いや……」彼女は声を詰まらせた。「もう二度と支配させない……」
嘲るような笑い声が彼女の頭の中に響いた。「選択の余地はない。逃げるか、私に任せるかだ」
彼女の膝は崩れ、地面に倒れ込んだ。もう抵抗する力は残されていなかった。体内に潜む魔力が、まるで獣が内側から暴れているように感じられた。彼女は目を固く閉じ、支配される瞬間を待った。
そして……何も起こらなかった。
リリアーヌはまばたきをして、燃え盛る地平線を見た。声は消え、不気味な静寂が彼女を包み込んでいた。
「一人でやる必要はないよ」
突然の声に彼女は飛び上がり、驚いて振り向いた。彼女と同じくらいの年の少女が、燃える首都の金色の光を背に、木立の端に立っていた。彼女はリリアーヌよりも少し背が高く、短く刈り込まれた銀色の髪と、破壊の光景を反射する琥珀色の瞳をしていた。その表情には、どこか落ち着いた自信があった。
「あなたは誰?」リリアーヌは警戒心を抱き、一歩後ずさった。
少女は両手を上げて無害を示すジェスチャーをした。「傷つけるつもりはないよ。私の名前はセラ。ずっとあなたを見ていたんだ」彼女は少し前に進んだが、その場で止まり、燃える都市を振り返った。「まあ、見ていたというより、興味を持ったって感じかな」
「興味?」
セラは肩をすくめた。「無駄だと知りながら走り続ける姿、世界が崩れても諦めないところがね。好きだよ、そういうの」
リリアーヌは目を細めた。信じられるような状況ではなかった。「どうしてここにいるの?」彼女は声を強くした。
セラの笑みが消え、彼女は腕を組んだ。「危険だからだよ。あなたを追っているのはあの兵士たちだけじゃない。これ、わかる?」彼女はリリアーヌの腕に握られた本を指差した。「それがあれば、もっと恐ろしいものがあなたの元にやって来るよ」
リリアーヌは無意識に本を強く握りしめた。「どうしてそんなことがわかるの?」
セラは苦笑した。「私にも理由があるんだ。危険な魔法について知っている理由がね」
リリアーヌは心臓が高鳴るのを感じながら一歩後退した。危険な魔法。その言葉だけで背筋が凍るようだった。彼女はこの力を望んでいなかったし、ましてや求めてなどいなかった。しかし、それは呪いのように押し付けられたのだ。もしセラの言葉が真実なら、彼女を追ってくるのは兵士たちだけではない。もっと恐ろしいものが待ち構えている。
「でも、一人では生き残れないよ。私には技術がある。あなたには……それが何であれ、力があるんだ」セラは本を指差した。「一緒にやれば、何が起きているのか解明できるかもしれない」
リリアーヌは迷った。セラを信じるべきかはわからなかったが、他に選択肢がなかった。兵士たちはいずれ追ってくる。そして彼女の中にあるこの力が何であれ、一人で制御することはできなかった。
「わかったわ……」リリアーヌは少しだけ警戒を解いた。「でも、すぐに信じるとは思わないで」
セラはニヤリと笑った。「当然だよ」
そう言うとセラは振り返り、木々の中へ歩き始めた。リリアーヌはしばらくその背中を見つめ、胸の高鳴りを感じていた。この奇妙な少女と手を組むことが、どんな未来を招くのかはわからない。だが、この場所に留まることはできなかった。アルマリスの炎はすでに消え、世界は彼女を忘れつつあった。彼女は、どこへ向かうかもわからないまま、セラの後を追って森の中に入った。