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キャラ立ちがすべてのこの学園で! ~一見完璧な生徒会長①~

 うちの生徒会長を表現するなら、誰もが賛辞の言葉を述べるだろう。


 テストは全教科満点学年一位。

 運動神経抜群ですべての種目に適正がある。

 習い事で獲った賞は数知れず、おまけに家は財閥の超大金持ち。


 黒い長髪が似合う超美人で、クールビューティーを体現したような風貌ながらよく見れば可憐さが同居している。

 凛とした声に伸びた背筋。卓越した頭脳とその迫力から醸し出されるカリスマは他の追随を許さない……というのが表向きの話。


 彼女の本性を知るものは口を揃えて言う。


『あんなドジな人がこの世に存在したの?』


『ドジっ子って二次元だけの専売特許だと思ってましたわ……!』


『あの子のドジっぷりが世間にバレたら末代までの恥』


 彼女はとんでもなくドジなのだ。

 配り歩けるほど持っている長所を全て上書きしてしまうほどの。


 仲間内ではドジで有名な生徒会長、繕井(つくろい)帝乃(たいの)は自らのドジさを嫌うあまり徹底的に人前で才媛を演じ切るだけの努力家で才能があるし、俺は生徒会副会長として全力で彼女の尊厳を守る。


 彼女の話をしよう。

 とは言えこれから話すのは、彼女のほんの一部でしかない。

 彼女が三年生になって数週間が経過したある日のことである。



***



 高校二年目の春。

 校舎の桜が美しい校庭では部活が決まった新入生も混ざって賑やかに練習が行われている。

 資料を運んでいた俺は掛け声につられて窓から外を眺めた。


 グラウンドの奥のテニスコートで上級生と渡り合う一年生女子のペアが目を惹いた。

 素人目にも彼女たちがかなり上手いとわかりる。数回ラリーを繰り返したのち、二人は安定した動きで先輩に勝った。


 キャラ立ちを重視する湖青学園は当然部活にも力を入れている強豪校だ。

 全国大会の制覇も珍しくない環境で研鑽している先輩たちを打ち負かすのは並大抵のことではない。


「……へえ。やたらと上手いな。あの二人」


 一年生の春は落ち着かなかったが、二年生になると周りを見る余裕が出てくるものだ。

 去年の自分もそうだったのだろうが、新入生がやたらと初々しく見える。

 歓声をあげる一年生たちを眺めていると、後ろからよく通る明るい声が飛んできた。


「なーに見てんの? 誰か気になる子でもいた?」


 振り向くと幼馴染みの長名(おさな)なじみが立っていた。

 いや、正確に言えば()()()()()()幼馴染みだ。


 短めのポニーテールにテンプレートな可愛さを持つ()()()は、小さい頃から自分が特別なキャラではないと知っていた。

 可愛くて社交性も高いなじみだが、キャラとして見れば『クラスで一番可愛い子』でしかない。

 今の時代、数十人に一人程度の個性では簡単に埋もれてしまう。


 幼かった彼女は考えた。

『だったら将来高校で一緒になりそうな子供たち全員と幼馴染みになってしまえばいい』と。


 決めてからの行動は早かった。

 彼女は学区を問わず子供の足とお小遣いで行ける場所なら全て回って、歳の近い子供を見つけては幼馴染みになりまくった。


 その結果この学園にいる生徒のほとんどが入学時点でこいつの幼馴染みだった。

 しかもなじみは特に苦労する様子もなくほぼ全員と良好な関係を維持している。

 狂ってるだろ? 俺も正直そう思う。


「礼司さ。なんか失礼なこと考えてない?」


 ジトーッとした目で睨み付けてきた。この女は勘が鋭いのだ。


「ないない。それよりこんな時間に珍しいな。放課後はいつも誰かしらと一緒にいるのに」

「今日は重要な任務があるからさ! きっとあんたも驚くよー? あたしの偉業を知ったらね!」


 ふふん、と得意気に笑うなじみを見て複雑な気持ちになる。

 こいつにはこの学園の全員と幼馴染みになるという夢があり、生徒の何人かとはまだ幼馴染みになれていないのだという。

 そこまでせずとも十分キャラが立っている(狂っている)と思うのだが、なじみは満足できないらしい。

 彼女の長所は幼馴染みの他にあると思うのだが。


「それより生徒会メンバーってもう決まった? まだ幼馴染みになってない子が来たら紹介してよ」

「お前と幼馴染みじゃないのなんて、転校生か遠くに住んでた相手ぐらいだろ? 中学に入ってからは大抵の場所は自転車(チャリ)で回ってたしな」


 何度か幼馴染み狩りの現場を目撃したことがあるが、あれは幼馴染みを狙うハンターの目だった。

 幼馴染みとして注意しようか考えたが、一度もトラブルを起こしていない以上止めるのも無粋だ。


「いくらあたしでも難しいことがあんの。まー、それも今だけなんだけど! じゃあね礼司! 重大発表、楽しみに待ってなよー?」


 言うが早いかなじみは駆け出して、少し離れてから振り返って一言。


「早く生徒会メンバー見つかるといいね。あんたバイトもあるんだからさ、無理しちゃダメだよ?」


 ニコッと笑って走り去って行く幼馴染みは、俺の家庭の事情を知っている。

 貧乏学生ゆえに生徒会が終わってからはバイト漬け。多くの人間にとってはどうでもいい情報だ。

 俺の価値が見出だされるのはやれやれ系男主人公要素の方なのだから。


 大人数と交流があっても一人ひとりの些細な個性も大切にする社交性の高さと気遣いの上手さこそアイツの良さだと思うんだが。


「ん? アイツ生徒会室に向かわなかったか? 今は誰もいないんだが……」


 あいにく会長は学園長に呼ばれていて今は不在だ。

 学園長は生徒の中でも特に彼女を評価しているので突然の呼び出しが多い。

 キャラ立ちや能力以外にも、彼女の親が理事の一人なのも関係しているかもしれないが。


 窓から強めの風が吹いて、飛ばされかけた資料を慌てて抑える。

 気づけば予定時刻をだいぶ押している。考え事をしている場合ではない。


「危ねえ。……確かにあと一人いればだいぶ楽になるかもな」


 アイツ生徒会に入らねーかな、と思いながらため息をついて職員室に向かった。

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