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2. Zwei Zeit

1. Cutting my "worlD"

 空は色を失い、世界は死を待つ病人のように静まり返っていた。Zeaは祭壇(終息の地)の前に立ち、深く息を吐く。吐息は白く、冷えた空気の中に溶けて消えていった。


 「……もう、いい」

 唇から零れた言葉は、自分に言い聞かせるようでいて、同時に祈りのようでもあった。幾千年(永遠に近い間)も見続けた時の流れ―喜びも、悲しみも、憎しみも、すべては繰り返すだけ。誰かが救おうとすれば、別の誰かが壊す。福音(しあわせ)のタネは、芽吹いた未来は、必ず誰かの手で踏み荒らされる。


 助けを求めるその声に向かって…かつて、何度も手を差し伸べた。何度も、誰かの時間を守るために此の力を使ってきた。その度に、信じた者の裏切りと、助けた者の死を見送ってきた。


 裏切られる顛末を知っておきながら…これ以上、何を守れと言うのだ。私の時は、誰が守ってくれるのだ。何を頼ればよいというのだ。もういっそのこと、裏切り者を粛清(この世界を抹消)すればよいのではないか


答えの返らない壁に、唯茫然と立ち尽くす。胸の奥の奥、触れられたことのない場所に、冷たい塊を感じる。それは静かに、しかし確実に膨らみ、やがて全身を支配していく。―終わらせたい。この歪んだ輪廻を、私ごと。

 彼女は心を閉ざした。刹那…


2. thE FraGment

 空は重く、鈍い鉛色に染まり始めていた。悠久とも言うべき、ゆったりとし過ぎている時の遅さ。確実に歪みを帯びている。

間違いない、奴の仕業だ。だがDélice(喜びの女神)は広大な花畑の中で立ち尽くし、咲き乱れる鮮やかな花々の色彩が少しずつ失われていくのを見ているしか無かった。それはただ、愛する子どもたちが自身を大きな声で呼んだいるようなもので、胸の奥で焦燥が渦巻いた。

「まだ間に合うわ…あの子を取り戻すのよ」


けれど、その言葉の先に潜む不安は、彼女の笑顔を何度も崩しそうにした。まるで崩れかけの氷を支えるように、彼女の心希望と不安の狭間で揺れていた。


一方、Tristeza(悲しみの女神)は薄暗い森の中、静かに歩を進めていた。冷たい風が肌を刺し、彼女の心も同じように凍りついている。

「また…失うのか?」

内側で囁く恐怖に耐えながら、彼女は感情を押し殺し、決して顔には出さなかった。

過去の喪失の記憶が、まるで影のように付きまとう。焦りと怒りが静かに燃え上がり、彼女の瞳は鋭く光る。


「私が…絶対に止めてみせる。」


やがて二人は運命に引き寄せられるように、朽ち果てた古の遺跡の入り口で顔を合わせた。

「また口論かしら…」Déliceは軽くため息をつきながらも、Tristezaの険しい表情を見逃さなかった。


Déliceは、太陽のように温かく輝く存在。彼女にとって、希望は絶対に失ってはいけないもの。

Zeaを取り戻す(世界をあるが儘に戻す)ことができれば、世界だってまた光を取り戻すはずよ。諦めたら、全てが終わってしまうの。」と、彼女は断言する。


だがTristeza(悲哀の女)は、冷たく、現実を直視する者。彼女の心はあらゆる傷に満ち満ちており、深い悲しみが根底にある。

「ただ希望を振りかざすだけじゃ駄目よ。現実は残酷で、Zea(世界)を取り戻すことが逆にさらなる破滅を呼ぶかもしれない。無謀な希望は、時に呪いになる。」

もちろん呪い自体は悪ではないけれど、と前置きした上で「『タイムチェンジャー』の気持ちを揺さぶることが得策とは言えないわ。」と、あくまで目の前の人を冷静に諭す。でも、世界を新たに変えることが、タイムキーパー、あなたの負担にならないというのならば、私は喜んでこの身を…!!


「それでも、あの子を見捨てることなんてできないわ!生贄になった彼女を、私たちが救わなきゃ意味がないのよ!」

希望が燃え尽きないように、力を尽くして言葉を絞っていく。彼女自身も、この現実に恐れているのだろう。気のせいか足が震えている。口では大したことも言えるが、足は生まれたての子鹿のようであった。


「分かってる。それは分かってるのよ。…けど、あの子のために世界を壊すなんて…それこそ狂気よ。私たち(生きている人たち)が本当に守るべきものは、あの娘だけじゃないはず。」


この言葉に、Délice(希望を告げる者)の瞳が鋭く光る。

「私たちが守るべきもの?それは今は関係ない。まずはあの子。そこから全てが始まるのよ。」

「それじゃあ、また同じ過ちを繰り返すだけよ。あの子が自らを生贄にしたのには、きっと理由があるんだ。」

「理由なんてどうでもいい!今はただ、助けたいの!」


「無駄話はやめましょう。時間がないよ。」

「でも、やり方が違うのよ!」

真逆の想いが激しくぶつかり合う。だが、共にZea(世界滅亡の執行者)を救うという強い意志だけは、確かに同じだった。


「……チッ……分かったわ。協力しましょう。でも、あの子を救うためなら、何でもする覚悟はできているんだから。」


二人は互いに一瞬だけ目を合わせ、そして足を踏み出した。この先に待つのは、一体…?


3. Haste

Délice(渦巻く歓喜者)は、Tristeza(涙のヒロイン)の視線を真正面から受け止めたまま、一歩も引かない。

けれど、その胸の奥底で、わずかな不安が疼いている。──もしTristezaの言う通り、Zeaを救うこと(エゴのままに動くこと)が世界を壊すことに繋がるのだとしたら……。

いや、一番苦しんでるのはあの子に決まってる。救えなかったら、なんて……。…その考えを振り払うように、彼女は唇を噛みしめる。「迷いは弱さだ」。そう思い込もうとして。


一方のTristezaもまた、冷静さを装いながら、胸の奥に熱い痛みを抱えていた。

本当は、自分もZeaを抱きしめて「戻ってきて」と叫びたい。だが、そんな想いを口にすれば、Déliceの無謀に拍車をかけるだけだと分かっている。だからこそ、彼女はあえて冷たく言葉を突きつけるしかない。

──自分が嫌われ役になることで、Déliceを止められるのなら。


二人の間に沈黙が落ちる。

重く、鋭く、息をすることさえ難しい沈黙。

その沈黙を切り裂いたのは、遠くから響く鈍い振動音だった。地の底から湧き上がるような低い唸りが、足元を震わせる。


「……時間が、動き出した。」

Tristezaが呟く。


Déliceの瞳が揺らぐ。

彼女たちの選択が、すでに引き返せない時の歯車を回し始めていることを、その音が告げていた。

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