The Existus
お目汚し失礼します。人生で初めての私小説です。ともかくも湧き上がる衝動のままに小説を執筆してみました。正直、設定や細かな修辞に関しては、書き続けていく中で習得されていくのではないかと思うため、まだまだこんなものでも許してください。とある作品のオマージュと、癖しかない言葉で胸焼けを起こしそうですが、温かい目で見ていただければありがたいです。
1. el presAgio del destino:真っ逆さま
暁月夜の日に、突如として黒い雫が舞い降りた。西暦10000年、未だ諍いの絶えぬ穢土の世に下る。罰。不絶の微睡を邪魔された、聊か苛立ちの見える世に、罰が下された。
此れは、あなた方が決めた物語。畢竟、悉く灰燼と帰して、全てに終わりが告げられた。―否、生き永らえた者さえ見えぬ。命有る"もの"が、命有りしを踏み躙り、詰り、暴虐の限りを尽した。…左様。報いは此の故に起こされた。
…此の瑞相は、確かに在った。しじまの中に潜む不穏な空気。薄闇に溶け去る星々。重く垂れこみたる空は、異様と言わぬよりほかに術は得られなかった。儚き華々は散り、頭に残された記憶は溶け去る。あまりに辛く、無残なり、罰よ。此の世に救いは、有るのだろうか。
"EHS si eht tsrif nosrep ohw seod sgniht ekil siht."
静寂を破るかのように、”音”が空に響く。新たな歴史の開幕。さらなる世界の開闢。終焉を迎えんとする此の地に、一縷の望みが現れようとしていた。
…YAMATO第二の幕開け。全ては彼女より起これるなり―刻の女神"Zea"より:全ての元凶―時を操り全てを・奈落へ突き落す者/慈悲深く救い上げる者
この世の全てを知り、覆す。赫々たる星
ことごとくを滅ぼし、亦全てを生み出す。
赤き運命の砂時計は、走りて堕ち行く。
「おいおい。こんな紹介、さすがにかっこよすぎない?」
彼女が介入しなければ、まさに「世界の第2章」は始まっていたであろう。彼女が生きていることこそ、私たち人類の存続と概ね等価値と言ってもよいのである。
だが、彼女はあまりに楽天的であった。―その力を持て余していたという事実に。
2. Beginning of the Challenge:試練の始り
「おい、タイトルの送り仮名、間違ってないか?」
そんなことはない。貴女様へのメッセージだ。彼女は依然としてきょとんとしている。ともあれ、世の中には、むやみやたらと知っておかなくともよいことだってある。知らぬが仏...もとい、女神だ。
彼女が呼ばれたのはほかでもない。刻の女神としての才覚と能力を諸君にお見せしたかったためである。ただそれだけのために、彼女は眠りを解かされた...わけではなさそうだ。さて、今日も仕事に向かおう。眼をつむると、彼女は異世界へ飛び立つ。
【不滅の楽園にて】
高く、高く登る。刹那、空気が凍える。冷えた空気を吸えば、体の内から火照るような熱気に襲われた。ぬくもりを求め人を抱けば心が冷える感覚に襲われる。なんとも不可解な現象が起こったかと思えば―そう、これは彼女が与えた試練にほかならぬようだ。
「一体何が起きたっていうの...?!」
歓びの女神"Délice"は身が竦むような感じがしたようだ。幸の国に訪れたる、未曾有の怪異。此の地に住まいたる民に、もはや安堵の表情は無い。喜び合うための、手段は全てなくなってしまったのだ。
「生の喜びを伝えることこそ私の使命だというのに―かくなる上は...。」
彼女は異変の正体をすぐさまかぎつけた。あまりに急すぎる不幸の襲来。どうやらこれは1度や2度の経験ではなさそうだ。なぜ憶測で物語を進めてるのかって?野暮なこと聞くなよ。西暦10000年の出来事なんて誰が予言できるんだよ。
(閑話休題)
あまりに虚栄、むなしいものよ。
アダムとイヴの故郷に、彼女は、さよならも言わず去っていった。
【天上界にて】
「やはりあなたの仕業なのですね」
麗しい声色をあたかも雑音であるかの如く聞き流し、口笛を吹きながら、ツィーアは編み物に勤しんでいる。
「どうしてこんな残酷なことをするのです...!?」
思うようにニットを編めないらしく、時として顔をひそめる彼女がいた。
「聞いているのですか!?私はともかく、エデンの民を苦しめることは断固許しません!!」
刻の女神は、何度か彼女をにらみながら、舌打ちをしておもむろにソファから立ち上がった。
「あら、女神様が何の御用かしら?私には聊かも与り知らぬところだとは思いますが?」
彼女はゆっくりと深呼吸をして、慇懃にも無礼にも、立て続けに彼女に口を開く。
「此処は貴女のような『神聖な淑女様』の居場所じゃないの。さっさとお引き取り願えません?」
「なっっっ!!なんですの、そのぞんざいな物言いは!!あなたにも私の気持ちがわかるでしょう?!」
刻の女神―彼女はデリスの気持ちが痛いほどわかっていた。ただ彼女に来てもらうがために民を苦しめたわけではない。不可避の災禍を味わう前に、せめて己が手で葬ってやるのが慈悲というものだと心得ていたのである。
その刹那、彼女はひどい頭痛に襲われた。エデンの園には迚も相応しいと言えない、天使たちの呻き声が耳朶から離れなくなってしまったからだ。彼女のもだえ苦しむ様を見て、ツィーア自身も良心の咎めが無かったわけではない。ここで彼女を救うことは―刻を司る者として寧ろ―世界の全てを敵に回すことと同じくらい大きな罪になりかねないのだ。だが、そのようなことは、口が裂けても言えない。そのような事情があると、小さな体で教えこもうとしているのだ。
その時、沈黙が走る。
ほどなくして、その小さな体は―流れる運命を受け入れるがごとく―予見された未来を受け入れようとしたのだ。
刻の女神は、何度か彼女を見つめながら、またも舌打ちをして頭をなで始めた。
「ほら。もう泣かないで。私も戦ってあげるから。」―(残酷な運命に。)
歓びの女神。その背には、膨大な苦しみが重くのしかかっていたようだ。ならば、その運命を受け入れ、共に戦うしかない。_まだ私の力を見せるには、時期尚早であるから、気を付けねばな。
彼女は泣くよりほかに事は為せなかった。泣き終わったら早く天に召されてくれないかしら、と彼女は冷たくあしらわれた。なぜなら刻は優しくて、無慈悲なのだから。
「ちっ、面白くねーな。」
天を去るや、彼女はつぶやく。しおらしい年長者の振る舞いに、失望にも幻滅にも似た、肩透かしを食らったような気持ちでならないのだ。
「こうなったら、あそこに行って気分を変えてもらおうじゃないの」
足取りも軽く彼女は下へ、下へと堕ちてゆく。
【冥獄界にて】
ほどなくして、嘆きの声が聞こえてくる。嘆きの女神”Tristeza”が、私の方を見た。
此処なら私を楽しませてくれる―と思ったのだが、私を迎える気は無いらしい。
「おい!お前が来たせいで時間狂っちまったじゃねーか!!」
彼女の腹の虫はおさまらないらしい。ずいぶんと立腹しているようだが、その原因は刻の女神には理解できないのである。
「私が来たからって、別に何も変わったことなんてないでしょう?」
「ある!大いにある!――これを見よ!お前のせいでカレーの具が全部なくなってしまったんだぞ!」
なんとも謎だ。時間が狂ったからといってカレーの具がなくなっていたのなら、もともと材料として入れていなかったのか入れ忘れていたかのどちらかだろう。小学生かよ、お前は…という気持ちはしまっておいて、目の前のガキに語り掛ける。
「ここいらで何か起こったことある?」
「…」
河豚の如く彼女はむすっとしている。よほどカレーの具を楽しみにしていたらしい。子どもの御守に飽きたと言わんばかりに、彼女はその場を去ってしまった。
「まぁ…私も悪いことしてしまったのかもな。」
申し訳ない気持ちを抱えながら、彼女は娑婆へ舞い戻る。
【天上界にて】
なぜだ。私のいるべき場所はここでないはず…辺りには不穏な空気が漂っている。
「やはりあなたの仕業なのですね」
口笛を吹きながら、ツィーアはまたも編み物に勤しんでいる。
「どうして二度もこんな残酷なことをするのです...!?」
ニットの編み具合は順調だ。集中していると周りの声が聞こえないタイプらしい。
「聞いているのですか!?私はともかく、エデンの民を苦しめることは断固許しません!!」
刻の女神は、何度か彼女をにらみながら、舌打ちをしておもむろにソファから立ち上がった。
「あら、女神様が何の御用かしら?私には聊かも与り知らぬところだとは思いますが?」
彼女はゆっくりと深呼吸をして、慇懃にも無礼にも、何度も彼女に口を開く。
「此処は貴女のような『神聖な淑女様』の居場所じゃないの。さっさとお引き取り願えません?」
「なっっっ!!なんですの、そのぞんざいな物言いは!!あなたにも私の気持ちがわかるでしょう?!」
刻の女神―彼女はデリスの気持ちが痛いほどわかっていた。ただ彼女に来てもらうがために民を苦しめたわけではない。不可避の災禍を味わう前に、せめて己が手で葬ってやるのが慈悲というものだと心得ていたのである。だが、なぜまたもこのような気持ちを味わねばならないのだ。おかしい。何かがおかしい。なぜ私は幼子のように苦しむ彼女の姿を、わざわざ見なければならないのだ。しかも2回も。
自分の力が及ばぬところで、不思議な力が働いているに違いない。この動悸が、ただの胸騒ぎであればよいのだが。
3. 光と影の契約:The pakt von licht unD schatten
「ねぇ、置いてかないで!こんなとこ嫌!!また私を一人にするの!?ねぇ!!ねぇったらぁ!!」
はっと目が覚めた。まだ時計は深夜2時。起きるにはあまりに早く、暗すぎる。
何年ぶりであろうか、こんな胸糞の悪い夜は。ずいぶんと悪いお目覚めなことね。なんだか胸騒ぎがするわ。―――その違和感は、やがて確信に変わる。――体が乾きを訴えている。シャワーを浴びようとすると、なぜかいつの間にかびしょぬれになった。シャワーを浴びようと蛇口をひねると、次第に濡れた感触は拭い去られていく。違和感の正体はこれにとどまらず、手紙を書こうとしたらひとりでに手紙は郵便ポストに持っていかれるし、買い物に行ったらかごにおいてあったものがいつのまにかなくなっている。冷蔵庫の水は立派にも常温に戻ってしまっている。いったい何がどうなったというのだ。
なるほど、どうやらすべてがあべこべ…というか逆になってしまったということか。ならば寝る時間だって逆に進んでいる…とすれば彼女はあまりにも長い間寝過ぎてしまったということになる。反時計回りに進む長針を見つめ、どことなく後悔してしまう彼女であった。
世界を敵に回してでも私は友を守った。おそらく、その報いであろう。だが、この程度の叛撃であればかわいいものだ。なぜなら私は、彼女のためならどんなことでもやってしんぜようと思っていたからだ。そんな折、耳をふさぎたくなるような事実に出くわした。
Ms. Fortuneがいなくなってしまったのだ。
ちっ、面倒なことになってしまったぜ…だが、自分の都合だけで時間を左右させてはならない…それは私の体力がもたないからだけではない。―いや、むしろ、如何なることを犠牲にしてでも守らねばならぬ大切なものがあるからだ。だが、果たして私が刻を操る者となる資格があるのか?逆説的に私の存在意義が透明になってしまう。
雷が鳴っている。雨に濡らされたと思えば、肌が焼けるような感覚に襲われた。瞬時に現れた太陽が、体を強く照り付ける。
まさか、これは雨ではなく―待てよ、武器が溶けているな―――強烈な酸性雨ではないか!?だとしたらまずい。私の身よりも、幸福の象徴よりも、崇拝の善像が溶けてしまわないかが心苦しい。あの像は私たち女神の存在意義すなわち生きる意味そのものなのだ。だからどんなことがあっても、私の純潔が汚れてしまっても、その崇め奉るべきものを壊してはならない。
だから私は結んだのだ。血の盟約を――もう何も、失いたくないから。そして、何も出来ない自分を変えたいから。我が愛する「歓び様」のために全てを捧げよう。
おもむろに目を瞑る。それからゆっくりと目を開けると…いた。そこに、いつもの生活があった。胸の痛みを悟られないように、そっと胸飾りをにぎりしめる仕草をする。――よかった。ばれてはいないようだ――私は、いやなことが起こるたびに、自らの体を犠牲にして―いや、それは私自身が望んだこと。むしろ刻む者の役割を全うできるのだ。それでよいではないか。
刹那、Ms. Fortuneが眼前に生まれてきたのである。
「お前――いったいどこに行ってたんだ!?心配したんだぞ!!」
血走った眼で、理性なき体で、彼女は其の巨躯を見上げ続けていた。
「私が…どんな思いをしてあなたを…探していたんだって……ううううっ……」
刻は残酷でなければならない。刻は感情的になってはならない。だが、それ以前に、私は心持つ者だ。彼女の大きな手が、私の手を撫でている。暖かい、柔らかな手が、こんなにも私に優しく届くとは、本当に驚きであった。これだから女神なんてきらいだ。これだから人なんて嫌いだ。これだから……いや、まあいいだろう。私が人であり続けられるのは、”ぬくもり”があったからだ。
雨雲のせいで、外がよく見えないらしい。ちっ……このひねくれものめ。…それは私もそうであったな。どうしてこんなにも、愛しくて疎ましいんだろうか。本当に不思議でならない。
Episode2: Die Ende
1. 運命の転落: goin' anti-Clockwise
雨空の後には、土の匂いがする。子どものときは、これがとにかく苦手だった。独特な匂いだったのもあるし、それに空気が湿っぽくて、じめじめしていたからだ。もっとからっとしていた方がいい。ある意味、性格だってサバサバしてるのが良いんじゃないかとも思うんだけどね。
私が刻む物としての使命を受け止めたのは「志学」のときなの。好きな食べ物は、なんといってもアレなのよねぇ…あら、ピンと来ないのかしら??私、意外と教養はある方なのよ。ま、いわゆる同世代の人々と比べてちーっとだけ言葉遊びが好きなだけなの。私の戯れは、戯言なのだから、当然付き合ってくださるよね?
さて、これまであなた方が見ていたのは、「陽」の私、つまり…誰かに見せられてもいい姿なの。あら、「陰」なる私は導かれざるものよ。影は物に隠れているものだから、私たちはそのままの私たちでいられるのではないの?
血の涙。緋色の月。魔除けの紅き物…燦然と光輝くものが、私を消し去ってしまうのではないかと、赫赫たる太陽が語りかけていく。こんな薄暗い空にもかかわらず、妖しく照り続けている物体…だから私はカーテンを開けられないの。いや、開けたくなんかないの。私はこの箱庭でしか生きられない。私と同じ。赤赤と流れ続けている、私自身と同じ。
大丈夫、きっと。…もう一人の私は、驚くほどに落ち着いている。なぜこんなにも落ち着いていられるんだろう。…かっかしてるのが馬鹿馬鹿しくなるくらい、「大きな存在」に見えた。
触れるもの、会うもの、全てがなぜか、「元の存在」に退化しつつあるように思われた。目配せをした人は、どことなく背が低くなっていくし、なぜか幼さが見えてくるようになった。目の前にあった建物は、時間の経過に溶け込み、少し経てば目の前がまっさらな野原に変わってしまったのである。なんということだろうか。これを異変と言わずして何と言えば良いのだろうか。
それは、娑婆だけに起こる違反ではなかった。
嘆きの女神が、どうやら席を外してしまったようだ。耄碌になったのか、どうやら地獄界を司るものがいなくなってしまった。どこに行ってしまったのかというと…
「ひゃっほぉぉぉぅ!!!この〈じぇっとこぉすたぁ〉最高じゃぁぁぁぁぁあ!!」
アミューズメントパークの断末魔が虚空にこだましている。呆れたものだ。仮にも女神様ともあろう人が、こんな世俗的なものに現を抜かしておられるとは…
time keeping, fate feeling...
time keeping, fate reeling...
刻は来たれり_運命論者
迫る第六感、揺らぐ大_根幹
つけそびれたニス、取り返せぬミス
世に辟易のキス、我が心/君に死す⭐︎
「時間切れ…か。」
終焉を告げる、宿命が来る。
あっという間の2時間であった。もはやそこに神の威厳は皆無といってよいだろう。ひとしきり人の子としての生を享有したのだ。これで私の役目も御免というわけだな。突然、糸がほどけたように体から力が抜けていった。
廻り廻る円の筒を背に、織姫と彦星が、今宵も惹かれ合うのだろうか。真相は、大人のみぞ知る所であろう。
それからというもの、彼女は、2時間の悦楽を幾時間にも渡り話し続けていた。ミラージュワールド、絶好の避暑地、空を舞う舞台、恐竜の運転士、死の擬似体験_これに限っては、何度も彼女自身が体感していたことだが_自身に興味のないことをも、頷きながら聞かねばならぬとは…やれやれ、気分はまるで聖母様だな。
まあ、こんな平和な日も悪くn「そうねぇ〜…私は、一つ挙げるとするなら堕ちる悦楽がすごくよかったと思うのよ〜」
...なぜお前がここにいる。背後から迫り来る気配をも殺しきって私の元へやってきた。背中を凍らせたお前の才能、まさに暗殺者も冷や汗ものだぜ。
おっと、ベタベタの展開だって思ったかい?the fateは破られて然るべきものだ。ほら、向こうから橙が疎に広がっている。
刹那、骸が女神らを囲む。嘆き呻く声が耳をつん裂き、厭世的な匂いを感じずにはいられなくなるだろう。此の儘、我等守護の神々は滅びの運命に甘んじて身を投ずるより他に方法は無いのであろうか。
2. Infinite-"Re"Continue
time flies, fate cries...
tone re-lies, eight sunrises...
亦陽は昇る:所以は、日の登る為なり。_天命の恩赦
残念でした。ここから先は闇の世界。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。何も触れられない。燎原之火は、とどまるところを知らず、走り続けている。
鬱蒼とした木々は、悉く灰燼となる。dix mille un_逃れることの出来ぬ運命に、繰り返す運命に、終止符を打つために。
太陽のない朝が来た。暗闇の朝。それでも、何一つない、何一つ見えない、そんな日だ。
繰り返す日々を、もがいて生きることで、見ええた一縷の光_____暗闇の朝に落とされる希望の糸。
何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。何も触れることなど…いや、出来るではないか。誰かが手を差し伸べている。手を伸ばせば、届くんだから__私は懸命に手を伸ばす…生きよう、生きようとして、私はただ、ひたすら生への執念を燃やし募らせる__希望の光が、一気に差し込む。あまりの眩しさに、目を開けることが出来なかった。いや、甚だしい希望に、目を疑った、と言った方がより適切なのかもしれない。ともかく、今はそんな御託を吐いている暇はない。この手を離すわけにはいかないのだ。私が生きるために、世界がこのままであり続けるために。
再生の種_破壊の芽__そのほうが良いに決まってる
枯れた心に水を与え、希望の光を差し込ませる_育ったものには愛を与え、育むことに血を注ぐ。
――そう、これこそが、私の生きている証。生きねばならぬ、と、体が呻いている。苦しい中で
私の体がセイへの渇望を訴えているのだ。凡そ死に絶えた、Chapter Zweiへの扉。
―これこそが、私をセイたらしめているものなのだ。なれば、ここで絶えていくことに甘んじてはならぬ。絶えずに耐えねばならないのだ。
「このまま死骸になど、なれるかぁぁぁぁぁっ!!!」
生への渇望者の雄叫び―もとい、雌叫びが、ダークマターを粉々にした。
そう―私たちは、闘うのだ。闘うよりほかに、生を訴えることなどできないのだ。
「いッッッ...たッッ!!!」「くぅッッッ...なかなか...やるじゃない、か...ッ!!」
戦友たちの叫び声が、私に生への執着をより強める。
二人の傷ついている姿を目の当たりにして、
二人の鮮血が流れ出る様をまじまじと見続けて、
二人が苦しんでいるところを只見ているだけで、
Smash, slash. Smash squash.
And, wash 'em away
鬼神宿る者の、内なる望み。その形容は、まさに筆舌できぬところだ。眼には血という血が走り、牙が露になっている。もはや、笑いあえた存在とは思えぬほどの別人だ。
私は_刻の執行者は_足が竦んで動けなかった。こんなにも笑いあった朋友が苦しみ、運命に抗っているというのに、私はなにもできない。すべては物事の成り行くままに、私は二人の力をあてにしているだけでよいのだろうか。私は、彼女たちが苦しんでいる様をまじましと見ていなければならないのだろうか。私は、二人を救えないでいられるのだろうか。女神様の体は、穢れた血で塗れてしまっている。
嫌だ。二人が苦しもがいている様を見ることが。
嫌だ。二人を救えないまま見殺しにすることが。
嫌だ。このまま弱者としてあり続けることが。
ならば、此処で私が立たねばならない。
ならば、此処でただ泣いているだけではならない。
ならば、呪われし我が力を解放するよりほかに何もなかろう。
おもむろに地に足を着け、左手にあった腕時計を脱ぎ捨てると、詠唱を始めた。
その異様な雰囲気を感じ取ったのか、地獄界のヒロインは声を荒げて叫ぶ。
「おい、やめろッッッ!お前がお前でなくなってしまうぞッッッ!!」
時の覇者は、微少に微小な微笑をたたえると、背を向けて混沌の中へと入りこむ。右手で左腕を掴むと、呪いの力が周囲にはびこり始めた。
「666: Revertere, tempos!!!」
「やめるぉぉォォォォォォォォォッッ!!!」
黒き執行人の制止をふりきり、彼女は小さな体で禁断に足を踏み入れた。その瞬間、世界は白と黒に換言され、全ての生あるものの息が途絶えた。そう、まさに完全決着もといジ・エンドを―この世の終焉を迎えてしまったのである。
万物は流転する。なればこそ、始りは終わりを迎える。
万物は流転する。なのになぜ、終わりは終わりのままなのか。
万物は流転する。崇め奉る対象も、愛を与える虚像になってゆく。
このまま、事の成り行くままに、時が意思を持たず流れ進むように私も運命へ身を委ねよう__天井から、瓦礫の破片が散ってきた。なぜだろうか。
なるほど、これが重力―いや、感動している場合ではない。また希望の象徴が眼に映った気がした。
白く透明な手が、私に来いと指図している。そう、これこそが__諸悪の根源。
「私の蒔いた種だ。もとより責任は総て私にある。不可逆の禁忌を破った罪は、何度転生しようと償ってみせるよ。」
だが、どうもおかしい。体が浮いている感覚に襲われている。地に足がつかず、どこか落ち着かないのだ。なるほど、文字通り私は浮いてしまったのだな__そう考えこんでいると、通りすがりの少女が花を置いた。―私は彼女をどこかで見たことがあるのでは...いや、気のせいか―考え込んでいると、彼女は私を一瞥して微笑みを残し、その場を去った。
運命の赤き糸は、本当にあったのかもしれない。我が血肉をもってして、おそらく見知ったであろう彼女の命を救ったのだから―いや、彼女は確かに私を見て、認識していた。となれば、どういうことなのだろうか。頭を抱えてずいぶんと悩んでいたときであった。そうだ、あの時の幼稚な遊び人がいなくなったぞ。いったいなぜなのだろうか―あの憎たらしくて愛しき、小童がいなくなったのだ。
いなくなってしまった盟友を偲び、眼から出る水を拭き取ると、真実が明らかになった。__そうか、お前はここにいたのか。そして、すっと私を、「いなくなる運命」から守ってくれていたんだね__依然、運命は受け入れられない。だが、甘んじて受け入れなければならないのだ。最も不幸だった者の決死の行動で、私は生き永らえてしまったのだから。幸せにやるべき者の命をいただいてしまったのだから。そうか、やはり__あんたも私も、ずいぶんな遠回りをしていたのだな。
悉くを滅ぼす報せが、またも現れようとしていた。別れてしまった朋友を思いながら右手のペンダントを握りしめ、襲い来る衝動を、握りつぶした。
その瞬間であった。すべてを包む白い光が一瞬にして消え去った。青い破片と流れる赤い血が、この世の全てを一から紡ぎ出すように、紫の糸となった。小さく聞こえる悲鳴は、痛みを訴える体から_真実を知らぬまま私は_であったのだろう。これが、この痛みこそが―この「胸の痛さ」を背負っていくことこそが―生きている証左なのだ。この運命をひねりつぶし、そして_汚れを流すがごとく_消し去ってしまった。
目を開けられなかった。詰将棋のように、一歩ずつのそのそと足音が近づいているのに。私は逃げられなかった。いや、逃げてしまうと、さらに追われてしまう。ならばここで終わらせた方が良いと考えたからだ。
私が世界の敵になってしまうのなら寧ろ本望。
〈She does crave for "another world".〉
全ては、この瞬間のために。……そうか……やっとわかったよ。_わざわざ君が犠牲にならなくてもよかったけど_それはそれで一つの答えか_あなたも私もずいぶんな幸せ者だったんだな。それを伝えるためだけに、こんな遠いところから、やってきたんだね。
私たちを迎えているような蒼い空が、恒久に続いていた。
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望み通り新たな世界を創る
超不定期にはなると思いますが、自分の考えていること全てを具現化させるまでは、執筆し続けようと思います。