サイトウナツキ
五月のある日、僕はいつも通りに目が覚めた。
(ゴールデンウィーク明けだけど起きることが出来て良かった。…まだ眠いけど)
朝はどうしても弱い。頭がボーっとするしご飯もあまり喉を通らない。仕方がないのでいつも通りコーヒーを飲みつつテレビを見ながら着替える。
「というわけで、本日の占い1位はおうし座です。あなたの大切な人が気にかけてくれるかも。でも同時にあなたの秘密に勘づくかもしれないので、そこは注意ですね。ラッキーカラーは青色です」
テレビの占いコーナー、自分はあまり興味ないけど見過ごすわけにはいかない。なぜなら…
「以上、占いコーナーでした。続いては芸能ニュースです。最近話題沸騰中の子役である内藤メイさんが、次回作の主演では後輩の役として…」
着替えも終わったのでテレビを消して家を出る。
(そろそろナツキと出会えるかな)
学校と家のちょうど中間あたりの横断歩道で会って一緒に登校するのがルーティーン。
「久しぶりです、ゴールデンウィーク元気にしてました?」
「うん、…っていうか、何か口調がいつもと違うよね?」
「気のせいです」
「いや、そんなことないと思うけ…」
「気のせいです」
「…まあ良いか。あ、今日の占いは1位だったよ。ラッキーカラーは青色らしい」
「そうですか、いつもありがとうです。」
朝の登校時間的にテレビの占いを見ることができないので、いつも自分が見て結果を教えることにしている。…まあナツキが家を出る時間を少し遅らせたら見ることはできるんだろうけど、そこはお互い暗黙の了解。
「なんだっけ、確か大切な人が気にかけてくれるとか秘密に勘づくかもとか言ってたような。…秘密とかあるの?」
「…そうですか。ま、誰だって秘密ぐらい持ってるんじゃないですか?それとも何ですか、君のことは全て知ってるよ的なあれですか気持ち悪いです」
「いや、そーいうわけじゃないけど…。でも、何か隠してることはあるよね?」
「…何のことですか」
「一応知り合ってからかなり経つはずだけど、忙しそうにしてたりコソコソしてたり。まあそこまで気にしてるわけではないし、特別知りたいわけでもないけど」
(やっぱり鋭いんだよなあ。隠したままにしてるのも時間の問題かな)
「ま、いつか話しますよ。もしくは気づいてくれてもいいですよ?」
「…無茶言うなあ」
気づいてほしいけど、気づいてほしくない。知ってほしいし、知ってほしくない。そんな矛盾した感情が湧いてくる。
「ま、謎を解くのは得意ですよね?ミステリーとか好きなんですし」
「いや、ミステリー好きだから謎解きが得意とは限らないからね。そもそも謎解きにも言葉遊びだったりトリックだったり色々と…」
「どのジャンルでもいつも私が先に解いちゃいますしね」
「それは言わないでよ…。それに人の行動原理の謎解きとか難易度高すぎるし、そもそも謎解きというより行動心理学とかそーいった…」
「あー細かいことは気にしない方が良いですよー」
「はいはい」
いつも通りの登校で、いつも通りの会話。何気にこの時間は好きなのかもしれない。いや、好きなんだろうな。
(ヒントぐらいは出してもいっか)
やっぱり気づいてほしいからね。自分から言うのは恥ずかしいからしないけど。まあこれを謎解きと呼ぶには稚拙すぎるかもしれないけど。
それに私は知っている。彼はいつも私にヒントを出して、先に解かせようとしていることを。
「今日の時間割ってなんでしたっけ?」
机の前でカバンから教科書を取り出していると、前の席のナツキがそんなことを言う。
「英語と国語と…って、昨日もメッセージで聞いてきたよね?」
「そうでしたか?昨日は色々とバタついてましてね。英語は確か単語テストでしたっけ」
「そうそう、季節とか曜日とかが範囲だからそこまで難しくはないし易しめなんだけど、量が多いんだよなあ」
「月とかつづりが大変なんですよね。5月のMayとか3月のMarchとかはまだ楽ですけど、2月とか12月とかヤバいです」
「あ、今回のテスト確か発音もでるはずだったような。どーしよ、発音苦手なんだよなあ」
「良い方法なのかは知りませんけど、私はカタカナで無理やり覚えてますね。5月はメイ、3月はマーチってな感じで」
「それってあんま良くないって聞いたけど。実際の発音記号とかで覚えた方が良いとかなんとか」
「まあそうですよね」
「齋藤たち、チャイム鳴ってるんだが」
…しゃべりすぎて先生が前に立っているのを気づかなかったらしい。先生から注意されたので、(しぶしぶ)前を向く。…いや不良じゃないからね?
「あ、それと齋藤、連絡があるから昼休みに職員室に来るように」
「わかりました」
「ではホームルームを始める。まずは五月の学級目標についてだが…」
先生の話を聞きつつ、ちらっと後ろを見てみる。うーん、いつもと同じで眠そうにしてるなあ。
(ヒントってどうやって出せばいいんだろ、難しい…)
というか、単語テストの勉強どこいった?
「終わった…」
「この世の終わりみたいな顔してますね」
単語テスト、無事?終了。…発音こんな出るなんて聞いてない。
「まあ私もそんなに自信ないですね。でも今更どうしても結果は変わりませんよ」
「まあそうなんだけどね…」
「それより、次の国語って何するんでしたっけ?」
英語の次は国語って、一体どれだけ言葉を勉強すればいいんだ。とかいう愚痴は置いておいて、メモ帳を覗くと…。
「あ、国語もテストあるんだった」
「え、昨日知らせてくれませんでしたよね?ヤバいです終わりですどーしよう。漢字ですか?」
「昨日教えたのやっぱ覚えてるじゃん…。えーと、古典単語プリントだから前に2人でやったアレかな」
「あーならまだマシですね。前やったときはお互いほとんどあってましたし」
「確かあの時は漢字ミスがお互い目立ったぐらいだったかな?今度は卯月を卵にしないでよ」
「…してませんよ、そんなこと。そっちこそ皐月さつきの点を6個も書かないでくださいね」
「そんなことしたっけ…」
あの時は水無月と神無月を逆にして、それぞれなんでその月がそーいう名前なのかを詳しくナツキに説明してもらったんじゃあ…。
「あー、記憶違いかもです。とにかく、そのテストなら私は大丈夫そうですね」
「古典得意にしてるからなあ。何か問題出してもらっても良い?」
「では、古語で夏の月は?」
「えーっと、六月のミナヅキ・七月のフミヅキ・八月のハヅキか?」
「残念、昔の夏は四月から3ヵ月です」
「あーそっか、じゃあ四月のウヅキ・五月のサツキ・六月のミナヅキか」
「そーなりますね」
こんなので大丈夫なんだろうか…。
「この世の終わりみたいな顔してますね」
「さっきも聞いたなそのセリフ」
いやだって本当に絶望の顔してる。そんなに数時間前までのテストヤバかったのかな。あれからかなり経ってもう昼休みなのに…。
「ま、ご飯ももうすぐ食べ終わるしいつも通り昼寝すれば忘れるかな」
「あれ昼寝と言いつつあまり寝てませんよね?」
「え?」
「いつも寝るといいつつ結局寝れないか最後の数分しか寝落ちできてないですよね?」
「…なんで気づいてるの」
「寝息とか様子見てたら丸わかり…じゃなくて、この前親同士でそんな会話してるの聞きましたよ」
「え、そんな会話されてるの…」
良かった、聞かれてない。
「丸わかりなんだ」
あ、聞かれてた。
「何というか、見てくれてありがとう?」
「気色悪いです」
「ですよね…」
「菜月、先生に呼ばれてるんじゃ?」
ナツキの友達の言葉にハッとしてる姿がちょっと可愛い。
「あー、そうだった。ゴメン、ちょっと席外すね」
「はーい」
…ダメだ。テストの事もそうだけど、さっきから頭使い過ぎて変なことになってる。考えすぎなのかもしれないけど、何か気になるんだよなあ。寝るか。
「昨日の最終回見た?」
「見た見た、まさか主人公が…これ以上はネタバレかな?」
「まあ良いんじゃない?昨日続編で新たな主演が決定したって今朝のニュースでやってたし」
「内藤メイだっけ、すごいよね。俺らと同い年なんだとか」
「でも年齢と顔以外は一切謎なんだとか。今のネットとかで調べたら何でも出てくる時代によくそんなことできるよな」
「案外顔もメイクとかで素顔は全くの別人だったり?」
「あーありうる」
…露骨過ぎないか?寝るに寝れないんだが。
(となると、後のヒントは…)
結局寝れなかった。
「次は理科だな」
「そうですね」
「…」
「なんですか?」
「いや、何か会話のネタとかないのかなと」
あ、これもしかしなくてもバレてる?昼休み前に彼らに頼んだの露骨過ぎたかな。というか、彼らにまで怪しまれないかな…。
「…ありませんよ」
「ふーん」
…絶対バレてる。
「そーいえば、結局ラッキーカラーの青色はどうしたんだ?」
「あー忘れてました。まあ青色のボールペンなら筆箱に入ってますし」
「それで良いんだ…。って、ボールペン買い換えた?」
「そうですね、ゴールデンウィークに」
「前は確か透明のケースに入った3色のボールペンだったような」
「よくそこまで覚えてますね。まあ、私には透明はいらないので」
「…?」
「私は透明は持ってないので」
「…」
「透明はないですねやはり」
あーなるほどね。
こじ付けで急遽作ったヒント。…これヒントというか答え言ってるようなもんじゃん。
(次でトドメかな)
「そーいえば、ラストの社会の授業で地図使うって言ってたっけ」
あ、ヤバい。
「地図の上の方にある、数字の4みたいなやつって確か方角を表してるんだって」
えーと。
「北は英語でnorth、南はsouth。方位磁針とかその頭文字使ってNとSって書かれてるよね」
えー。
「北と南、反対だよな」
「むー」
「ん?」
「もー」
「ナツキ?」
「ガオー」
「サイトウナツキさん?」
全部言われたんですが。
というわけで放課後。いつも通りに2人で下校する。
「そーいえば、なんでナツキって部活とか委員会とか入ってないんだ?僕はめんどくさいとかいう理由だけど、そーいうの好きだよね?」
「…ま、良いじゃん」
「そーいえば、そこそこの回数学校休んでるよね?体調悪いのか心配してるけど、そーじゃないみいたいだし」
「……ま、良いじゃん」
「そーいえば、昨日決定したんだっけ、おめでとう」
「…そーいえば禁止」
「えー」
もっと早く教えてもらいたかった気持ちと、もっと早く気づかなかった自分への感情がぶつかり合う。だからこんな意地悪をしてしまう。
考えてみれば、いくらメイクとはいってもよく見比べれば気づけるはずだ。自分はどちらの顔も知っているのだから。
「仕方ないよ、テレビとかほとんど見ないんだから。有名人とかほとんど知らないでしょ?」
考えてみれば、顔をごまかしたとしても声は同じに違いない。ずっと聞いてきた声も聴き分けられないなんて…。
「仕方ないよ、画面越しの声と実際の声って意外と違ったりするもんだし」
考えてみれば、こんなにヒントがあったのに他の人たちが気づかなかったはずが…。
「仕方ないよ、気づいた人には口止めしてたし」
考えて…え、何それこわい。
「仕方ない禁止で」
「えー」
「というか、何でさっきから心の声読み取ってるの…」
「いつものことじゃん」
そんなことはない…と信じたい。
本当はもっと早く教えたかった、けど恥ずかしさとか大人の(自分は大人じゃないけど)事情とか…ただの言い訳かな。
「今日一日楽しかった?」
「楽しかったし疲れたし…まあ、スッキリはしたかな」
「そう、なら良かった」
「これからもよろしくね、内藤メイさん」
正解。
「ミステリーというより、ただの言葉遊びだよねこれ」
「情報詰め込み過ぎだな、よくあるネタだし」
読んでいただきありがとうございました。
不慣れな部分がほとんどなので、キャラがブレブレだったり言葉が稚拙な部分は申し訳ないです…。
(地の文苦手です。)
※以前短編で投稿した作品を、連載用に投稿しなおしました。