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(第1話)伯爵家での十六年間~ソフィラ~

「その赤い瞳を私に向けないで!」


  その言葉は、私がスタンリー伯爵家で過ごした十六年間で最も多く投げつけられた言葉だった。


 私の過ごした十六年間を、事実だけ抜粋して語ったのなら、それはもしかしたら誰かからは『可哀想に』と言われるようなものなのかもしれない。



 私は、産まれてからずっとメイドのマリーと使用人部屋で暮らしていた。両親や双子の兄の顔を見たことさえなかった。


 十歳になる年に、スキル判定を受けた。この国では貴族・平民関係なく国民全員がスキル判定を受ける義務がある。スキルは一人に一つ必ず授かり、そのスキルによって将来も左右する大事なものだった。

 私が授かったスキルは『ミラー』だった。これは過去には誰も授かったことのない、この世界で唯一のスキルだった。


 スキル判定を受けてから数日後、私は初めて自分の母親であるスタンリー伯爵夫人に呼びだされた。 憎しみなのか、あるいは恐怖を隠す為とも思えるような必死の形相で、夫人は私を睨み付けた。


「その赤い瞳を私に向けないで!」


  それが、夫人から初めてかけられた言葉だった。


「よりにもよってお前が貴重なスキルを授かるだなんて! でもどうせ碌でもないスキルに違いないわ。それでもこの屋敷でたった一度でもスキルを使うことは許さないから! いい? どんなスキルか確認することも含めて、この屋敷でスキルは絶対に使わないでちょうだい!」


 そのあまりの激高ぶりに驚いて、私は思わず夫人を見つめた。


「だから! その憎らしい赤い瞳を私に向けないでよ!」


  目が合った瞬間ヒステリックに叫ばれた。


「スキル判定でお前の存在が注目されてしまったから、これからはスタンリー伯爵家の娘に相応しい教育はするわ。だけど自分が家族の一員として認められただなんて、決して自惚れないで!」

 

 そんな言葉を吐き捨てて夫人は私の前から去っていった。


 その日から私の生活は一変した。


 私の部屋は、使用人部屋から貴族用の客室に移された。

 けれど、私に優しくしてくれていた使用人達は皆辞めさせられた。ずっと一緒だったメイドのマリーも、美味しいご飯を作ってくれたシェフのジョンも、お花をプレゼントしてくれた庭師のトムも。


 食事は、父親・母親・姉・双子の兄と一緒にとらされた。

 けれど、私の前に出される食事は、時には腐っていることもあるようなとても食べられる状態のものではなかった。


 淑女教育を受けさせられた。

 けれど、先生は何も教えてくれることはなく、ただ私の全身を鞭で打つだけだった。


 子爵家嫡男と婚約させられた。

 けれど、私が十六歳になる年に、彼は私との婚約を解消して姉の婚約者になった。



 母親は、私を虐げた。

 父親は、私の存在を無視した。

 姉は、誰かがいる前でいつも私を罵った。

 双子の兄は、こっそりと私に『僕だけはソフィラの味方だよ』と言った。



 十七歳になる年に、私の結婚が決まった。

 子爵家嫡男の元婚約者との婚約を解消してから婚約者のいなかった私の結婚相手は、事故で両親を失い二十二才という若さで公爵家の当主を務めているレオ・ブラウン様だった。


「ブラウン兄妹には事故で負った醜い傷跡が顔にあるんだって! 根暗なソフィラにはぴったりな相手よね。あはは」


 私にいつも嫌がらせをするメイドのミラが、いつものように厭らしい顔で笑っていた。



 スタンリー伯爵家を出る日、私には手荷物一つ用意されなかった。私が何か一つでも屋敷の外へ持ち出すことを夫人が許さなかったのだ。一目で分かる質の悪い服を着て、何一つ持参することなく私は公爵家へ向かわされることになった。


「その赤い瞳をもう二度と見なくて済むだなんて。今日は最高の日だわ」


 エントランスには全員が揃っていて、夫人は歪んだ顔で笑っていた。

 私は初めて夫人からの命令を破って、その場にいる全員に向かってスキルを使った。


「ミラー」


  この屋敷では、一度も使うことを許されなかったそのスキルを。

お読みくださいましてありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけましたら幸せです。


私生活で立て込んでおりまして久々の作品となります。そのため大変申し訳ございませんが、感想にはご返信できないと思います。いただきましたご意見は、すべて目を通して真摯に受け止めさせていただきます。

応援いただけましたら嬉しいです。

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