女王誕生
めぼしい貴族が揃ったところで、モイラとモノラが壇上に立った。
「今宵は急な事なのに、皆さん来てくださってありがとうございます。明日は戴冠式ですけど、私モイラは戴冠を辞退して、モノラが女王となります事を、勝手ですがお知らせいたします」
おいおい、聞いてなかったよ、そんな結末。
「モイラちゃん、どうしちゃったの」
理由を知っていそうな人はいないか、辺りをぐるり見回してみる。
仮釈放中なのに、生ビールのお代わりをしている髯爺さんの胸ぐらを掴み、ベルゼが容赦なく揺さぶっている。
「あーあーあー、こぼれるー」
爺さん苦しそう。
「そんなんじゃ話したくても話せませんわよ」
エポナさんがベルゼの頭を平手でピシャリとやる。
「その何だ。モイラお嬢様はの、皆さんの仲間になったつもりで居ますじゃ。同じギルドカードもいただきましたし。同じシェルリルの棍棒もいただきました」
ここで生ビールを一口、グビッとやる。
まだるっこしいんだわ、これが。
「あとは、クローゼットとガレージが揃えば皆さんと同じだと。それで女王になるのはモノラお嬢様に任せて、自分は異世界司書団に入ると。先ほどしずか様に宣言しておりやした」
「それじゃなにかい。クローゼットとガレージ欲しさに異世界司書団に入るってのかい」
今度はルシファーが爺さんの胸ぐらを掴んだ。
ベルゼがルシファーの手を取り、チッチッチッチッ。
人差し指を横に振る。
「ああ、僕としたことが、爺さんすまない」
「しずちゃんは? しずちゃんは何て答えたのですか」
何時も冷静なエポナさんまで、集金の時に繰り出す悪魔の形相になっている。
「はあ、入団を許可しますってな。クローゼットとガレージも事前に準備していたようですじゃ。直ぐに支給されていましたですが、それが何か」
「それが何かじゃないわよ、女王になったらクローゼットとかガレージなんて直ぐに買えるって、どうして教えてあげなかったのよ」
私も仰天の理由だわ。
「やったねリンちゃん、これでモイラも仲間だよ。いつも一緒に居られるね」
「キュィーン。キュィーン」
能天気に喜んでいられる奴は良いよな。
いくら魔法の天才だからって、まだ十歳になったばかりの子供を、とっても危険な任務ばかり扱っている異世界司書団に入れるなんて、しずちゃんは何を考えているのよ。
壇上での挨拶を済ませて、モイラが私達の輪に入ってくる。
「モイラちゃん、私達の任務がどれほど危険か分かってるの」
「うん、モイラ強いから大丈夫なの」
生意気な自信過剰は、いつか身の破滅を招くぞ。
おばあちゃんが遺言で言っていた。
「あまり自分の能力を過信するのは褒められたことではないなー、わしには大いなる黄麒麟殿の加護があるから平気であるが、世の中には途轍もなく強い者が大勢おるからのー」
フェンリルも黄麒麟さんの加護もらってたんだ。
「モイラはなっちゃんから加護もらってるから、もっと大丈夫なの!」
私の加護を過信してはいけない。
「ほー、それは心強い。まあまあ励むがよかろう」
それってどういう意味よ。
戴冠式には近隣貴族と私達異世界司書団に加えて、フェンリルとヘル。
酔っ払いのアークデーモン・しずちゃんも同席させてもらった。
モノラとはあまりお話したことがなかったけど、こっちに手を振ってニコニコしている。
式が終われば、バルコニーに出てお披露目だ。
小さな女王様に、集まった人達が大きな拍手を贈る。
御多分に漏れず、この後は国をあげての祝賀会。
王宮での宴は早めに切り上げて、私達は寮に戻って二次会だ。
「モイラちゃんは、お城に居なくていいの?」
「私はもうこっちの人だから、ここで皆と一緒でいいの」
財閥と魔王。王女の座を蹴ったお子ちゃま・神様・妖精・麒麟まで、どういった集まりになってるんだろ。
戴冠式が済むと、髭爺さんはモノラ新女王誕生に伴う恩赦で釈放され、国のお抱え魔導士に戻った。
一日牢部屋にいただけで、あとは仮釈放で自由に外を出歩いていた。
戴冠式まで一週間の期限は守れた。
だいぶ後になって発覚した事で、しずちゃんが一週間と指定したのは、ゴルフ・麻雀・キャンプの約束があったからだった。
だから、シェルティーさんが全面的に協力していた。
ズーボラさんとブツクサさんも協力的だった。
そんな事だろうと思ってはいたけど、期待を裏切らない傍若無人ぶり。
しずちゃんらしいわ。
仕事は終えたが「この国の情勢が安定するまでは寮で待機していてね」と言い残し、しずちゃんは麒麟界に帰っていった。
フェンリルとヘルも、戴冠式の翌日には魔界へ戻った。
フェンリルに関しては、どこかへ行ったとした方がいいかもしれない。
この国には海獣が沢山いるから、居残って狩りをしているかもしれないし、別の世界を旅してるのかもしれない。
私達はこれといってやる事もないし、寮の中に入り浸っているのもつまらない。
各自自由行動にして、この国の情勢を視察する事にした。
今回の滞在が終われば、私達は別の任務で他所に行く。
そうなったら、暫くこの世界には帰ってこられないかもしれない。
モイラは、御城でゆっくりしてもらうようにした。
「出発する時は言ってよね。置いていかないでなの」
妙な所に気を回す子で、説得するのに手こずったが、幽霊の両親に出てきてもらって何とか納得させた。
ティンクはリンちゃんと一緒に精霊界に行って、精霊の箱庭に使う植物採集をすると言っていた。
精霊界の植物には薬草も多く、薬を作るのに使いたいからと、エポナさんの分身も一緒に行った。
身の回りの事で困ったりはしないだろう。
ただ気になるのは、分身が寝泊りできる程のスペースがティンクのガレージに残っているかどうかだ。
製作途中なので何とかなれば良いけど、分身にもしもの事があったら、エポナさんの貴重な尻尾の毛が一本減ってしまう。
ルシファーは冒険者ギルドの会長を兼ねているので、この世界の冒険者ギルド会長へ挨拶に行った。
魔獣を売りに行った時に会っているけど、正式に対面するのは初めて。
ルシファーの正体を知ったらどんな顔をするか。
この世界にある冒険者ギルド会長の驚いた姿を、想像するだけで愉快になってくる。
挨拶を終えてから魔界に行って、魔王とも対談する予定だとか。
何の目的があって対談の予定を入れたのか聞いたら「この国に何か不穏な動きが有ったら、モノラ女王を助けてやってもらう約束を取り付けてきます」
ティンクの精霊界行きにも、こんな理由が含まれていたのかもしれない。
私達は手出しできない異世界での出来事でも、同じ世界の魔王や精霊達なら、いくらでも助勢してあげられる。
私達が帰った後でも、この国を平穏に保っていくための一番好ましい味方になってくれる。
エポナさんは分身を私の世話役として残し、一人で神界へ遊びに行った。
やはりルシファーやティンクと同じ目的があっての事だろうが、もう一つ目的があって、新女王になったモノラに加護と魔力を授けてくれる神を探しに行くと言っていた。
加護なら私がと立候補したけど「何時でもそばにいて見守ってやれる方が宜しいかと思われますので、こちらの世界の神の中から探させていただきますわ」
確かに、いつでもすぐに駆けつけられる立場にある神の方が適任だわね。




