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寮の平原で700人の大野営

 無血開城完了。

 明日の朝には新女王を迎える戴冠式準備の手配まで済ませ、しずちゃんが現王を連れて城から出てきた。

「お待たせ。こいつを麒麟界に転送するから、寮に戻りましょ」

「ダブル悪魔がさっき入って行ったけど、城内に放置しておいて大丈夫なの」

「彼らには大事な任務があるから、おいたはしないわよ」

 やけに自信ありげだこと。

「この財宝とか金塊とか、どうするのー」

 ティンクが針剣でツンツンしている。

 まさか、そっくりポッポする気じゃないだろうな。

 しずちゃんなら、平気でやりかねないから先が読めない。

「持ってきて、シェリーが寮で待ってるの。彼女に罰金とか保証金とか、これからの資金とか色々と分けてもらわなきゃならないのよ」

 ちょろまかす気はなさそうだ。

「がめたら承知しませんわよ」

 エポナさんも疑っている。

 しずちゃんの普段が普段だから、当然だな。


 寮の広場に転移する。

 高台にいるはずのフェンリルとヘルがいない。

 街道の方に目をやると、貴族連中の私兵とにらみ合っている。

「ありゃ。随分と早かったわねー」

 一番慌てなければならない筈のしずちゃんが、しれっと言いのけてくれる。

「こいつを転送してくる間、フェンリルとヘルを止めておいて。あの人達は武装していないから、今夜の客人だと思うのよ」

 私達へ、戦闘モードに入っている二人を止めるという難題を押し付けて、さっさと寮内に入ってしまった。


「ヘル様、フェンリル様。少々御待ちください。私が事情をうかがってまいりますから」

 エポナさんが、今にも飛び掛かりそうな形相の二人を制止する。

「私、異世界司書の菜花奈都姫と申します。どんな御用でこの街道をお通りになりますか。只今この国には厳戒令が出されております。明日の戴冠式までは、何人たりとも入城できません」

 キラリ輝く胸の徽章がよく見える様に、グイっと肩先を突き出す。

「あのー、今朝早くにですが、先王様と御后様の幽霊が我らの夢枕にお立ちになりまして『明日は我が娘、モイラとモノラの戴冠式ゆえ、今日中に王都近くの私立異世界博物館職員寮で待機せよ』とのお告げを頂きました。他の貴族達に確かめたところ、同じ夢を見たとの事でしたので、急ぎはせ参じましてございます。何卒、あの御二方を鎮めていただきたい」

 あの幽霊夫婦、見かけないと思っていたら、外でこんなことやってたのね。

 親ばかもここまでくると表彰ものだわ。


「事情は分かりました。ただ、急な事ですので寮の準備ができておりません。敷地内での野営となりますが、宜しいでしょうか」

「もとよりその支度でまいっております。お気付かいには及びません。寮一角での一夜をお許しいただき感謝いたします。ところで、王都はいかな状況になっておりましょうか。城下には知った者も多く在住しておりますので、安否が気がかりでなりません」

「そのことでしたら心配ご無用。いたって平穏でございます」

「ルシファーとベルゼが仕切ってるから、大丈夫だよ」

 ティンクってば、余計な情報いらないからー。

「あの、悪名高き双子の悪魔ですか………」

 代表の顔から血の気が引いていく。

「双子の悪魔じゃなくて、双頭のサタンだよー」

 代表が気絶した。


 貴族の団体を寮に招き入れると、ベルゼとルシファーが帰ってきた。

「あんた達、お城ほっといて良いの」

「奈都姫さんは心配性ですね。臨時政府の最高責任者と言っても、一通り指示が済んでしまえば、あとは官職の人達が手際よく熟してくれます。分身をおいておくだけで大丈夫なんですよ。異常があったら、僕の所に分身から報告が上がってきますしね」

「自分も分身任せっす。要するに、今まで国内にのさばっていた犯罪組織とその関係者を、根こそぎひっとらえればいいだけっすから。力技の見せどころっす」

 魔獣狩りじゃないんだから、分身に手加減しろと伝えておけよ。


 到着する貴族は時が経つにつれ数を増してきた。

 従者も含めると、一つの領地に十人程度の来客を見込まなければならない。

 それにしても幽霊夫婦ったら、よくもやってくれたわ。

 この国の領地数は全部で137ある。

 全ての貴族が今夜中に集まると1370人収容しなければならない。

 しかし、半数は遠方なので、今夜中はおろか戴冠式にも間に合わないだろう。

 半分の685人として、私達も合わせると700人くらいになる。

 この前の寮祭りの時ほどの人出ではないにしても、700人からの野営となると殆ど軍隊の演習と同じだ。


「いやー、久しぶりですなー」

「どうもご無沙汰してまして」

 焚火の彼方此方で挨拶の声がする。

「それにしても、良かったですなー」

「現王を退陣させるとは、さすがに魔王兄弟。恐ろしい程の戦闘力ですなー」

 呼び名は微妙に違って伝わっているけど、ダブル悪魔はこの国で知らぬ者のいない有名人のようだ。


「これで少しは重税から救われますかね」

「そうあってもらわなければ、私等は限界ですよ」

「領民には無理をさせてしまって、申し訳ない事ばかりだったですからねー」

 貴族達とて例外ではなく、随分と搾取され続けていたと見える。

 モイラとモノラはまだ子供で、上手く政治をやっていけるかと言ったら無理だろう。

 けど、周囲にいる人達がしっかりしていれば、きっとこの国を立て直してくれる。


「これで任務完了っすよね、なっちゃん。本格的に休みましょうよ」

「そうですよ、奈都姫さん。この国では随分と手こずってますから、たっぷり休ませてもらわないと」

 双頭のサタンと称されているのが、実はこの二人だと知ったら、周りの貴族達はどんな顔をするだろう。


 静かなキャンプ場になっている職員寮平原。

「シェルティー殿はまだ銭勘定をしておるのか。随分とかき集めたようだのー。お主等、何時も乍らやってる事が、そのまま盗賊であるなー。わしはつくづく感心するぞ」

 接収してきた金銀財宝を眺め、フェンリルが私達の義賊ぶりを褒め称える。

「フェンリル様ー、そんなにおだてたって何も出てきませんよー」

 ベルゼがフェンリルの背中をドンドンどついている。

 やっと貰った心臓なのに、返せと言われたらどうする気だ。

 命知らずにもほどがある。

 赤ら顔の本人を他所に、とばっちりを恐れた周りの貴族連中が真っ青になっている。


 夜もだいぶ遅くなってきているが、思っていたほどの人数に達していない。

「予定より少ないみたいだけど、途中で遭難したりしてないよね」

 逮捕した王を転送し終え余裕綽綽「今夜は飲み明かすぞー」とはしゃいでいるしずちゃんに、それとなく聞いてみる。

「まだ来てない連中は、とっくに何処かへ逃げてるわよ。今、陸海両軍が逮捕に向かってるわ」

「どうしてそんな事になってるの」

 折角世の中が良くなろうとしているのに、逃げているって何よ。

「逮捕した王の側について、悪事を働き続けていた連中が逃げ出したっす。国境も海路も封鎖してますから、逃げられっこないんすけどね」

 なるほど、この国の浄化が始まっているのね。


「でも、国境の封鎖って、よくそんな遠くまで軍を送れたわね」

「逮捕した王は、自分に逆らう貴族を王都から離れた国境付近に配置していたんです。いざ隣国との戦争になった時、一番先に被害を受ける危険地帯ですからね。それに、反乱を起こしても王都まで軍を進める途中で、自分を支持している貴族が倒してくれますから。それが今回あだになって、国境の貴族達が封鎖に強力してくれました。ですから、明日の戴冠式には来られません。情勢が落ち着いてから、新女王へ挨拶に伺うとおっしゃってます」

 ルシファーの元魔王らしい采配。

 御立派だこと。

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