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蟹食べたいよー

「さすが隊長、すごいのを狩ってきたではないかー」

 フェンリルが珍しく私を褒めている。

「カニ鍋食べたい」 

 ティンクは実に正直だ。

 私も食べたい。

「二匹獲って来たから……解体したから二杯か、一杯は自分達で食べても良いでしょ」

 私が聞くと同時に、エポナさんの分身達が、ルシファー城の中から鍋や皿に入った蟹を運んできた。

「どうぞ、私達だけでは到底食べきれませんわ。帰ったら寮の皆さんと一緒にやりますから、今日はこれだけで我慢してくださいね」

 我慢するも何も、絶対に食べきれる量じゃないよ。


 今日はこの島で野営すると寮に連絡を入れる。

 すかさずしずちゃんがやって来た。

「うっわー、凄いの獲ったねー。私も仲間に入れてー」

「皆に内緒で危ない事ばかりしている人に、食べさせる蟹はないのです」

 きっぱり言い放ってやった。

「まあまあ、今から全部話すから、一緒にやろうよ」

 良いも悪いも言わないうちに、無限生ビールサーバーを引っ張り出して、ジョッキにビールを注いで回り始めた。


 全部話すからと言っておきながら、一向に話す気配がない。

 それどころか、ルシファーに頼んで海岸の一部を夏にしてもらい、海水浴まで始めた。

「いつになったら話すの、早く教えてほしいんですけど」

 水着でキャビキャビしているしずちゃんを問い詰める。

 事情を知らないフェンリルとヘルは別として、私達はずっと待っているんだから、さっさと全貌を明かしてよね。

「あー、ごめんごめん。あれからね、この国と関わりのある国を全部回って、事情を説明してたのよ。それで、明日の夕方になったら本を回収するのに、私が一人で王城に乗り込むから。よろしくです」

 何をよろしくされたの。

 身勝手な人だな。

「しずちゃん、よろしくって言われても、私達はどうすればいいのか分かりませんわよ。テゲーラ飲んで生ビールのチェイサーなんかしてないで、きちんと説明して。しっかり指示してくださいよ」

 エポナさん、切れそう。

「昼間、海軍に行ってくれたんだってね。私がやろうとしていたこと、先にやられちゃった。明日は昼間の内に陸軍に行ってちょうだいよ。夕方になったら寮の広場に集合。王城で私が現王を説得している間、皆には騎士団と王都の警備兵、それから貴族連中の私有兵を押さえていてほしいの。どうせ貴族の私有兵は間に合わないだろうけど」


 ここでヘルが口を開いた。

「事情はよう分からしまへんが、大それた事をなさろうとしてるようどすわね。貴族の私有兵はうちとフェンリルが寮で止めるわ。寮があるのんは王都への一本道の途中、王都を外敵から防ぐ要塞のような所やさかいね」

「わしもそれは薄々感じておったぞ。どう考えても寮は出城のような配置でのー。あれを作る時には、今回のような事態を想定し、意図してあそこに築城したのではないかとなー。わしの姿を見ただけで兵士共は震えあがろう。広場で酒でも飲みながら、お主等の仕事ぶりを眺めておるわ」

 フェンリルにはやる気が有るんだか無いんだか。

 一応、ご協力に感謝しておくべきか。


「痛み入ります」

 おっと、しずちゃんがフェンリル&ヘル兄妹にお礼を言ったわ。 

 そりゃそうだね、なんてったって私の上司のそのまた上司。

 異世界博物館の最高責任者ですから。

「それじゃあ、私達は明日の朝になったら、陸軍の本部へと……本部って、ひょっとしたら王都の中にあるんじゃないの?」

 王城の真ん前で陸軍を買収ってのは頂けない。

「その事でしたら御心配には及びませんわ。食料の寄付については、海軍の司令官様から陸軍大将様に連絡済みですの。補給部隊のあるナデラスカに持っていけばよろしくてよ。あちらで陸軍大将様が待っていてくださいますわ」

 何時も乍ら仕事が早い。

「何時そんな打ち合わせしたんですか」

「あら、海軍大将様には奈都姫様もお会いになったじゃないですか。軍港で会った隊長様が海軍大将様ですわよ。あの時、分身を軍港に残して打ち合わせを済ませましたの」

 凄い事してまんなー。

 だから、分身の術を会得したいのよねー。


 夜になって、焚火の周りに皆でごろ寝。

 お城が出ているのに、誰も中に入ろうとしない。

 不思議なものだ。

 波の音の合間に、海獣の鳴き声が響く。

 寝ていたと思ったフェンリルとヘルが、むっくり起き上がって飛び出していく。

 海岸でシェルリル包丁を持って待つのはエポナさん。

 ティンクも血抜きの為に構えた。

 別の方向で鳴き声がする。

 ルシファーが気付いて、島の反対側へ飛んでいく。

 ベルゼが補佐でついていく。

 リンちゃんとモイラはゆっくり寝ていてね。

 私? 私は一番大事な焚火の番ですよ。


 近寄る海獣を根こそぎ狩って終えた朝には、格納庫に海獣がごっそり。

 大勢いる陸軍の兵隊さん達に配ったら大量とは言えないけど、それでも何回かは御腹いっぱいになるまで食べてもらえる。


 フェンリルとヘルは島から直接寮に帰った。

 私達異世界司書団は、補給部隊のあるナデラスカまで一っ飛び。

「海軍大将から聞きましてな、感謝感激ですよ。こんなに沢山、ありがとうございます。基地の近場にいる魔獣は食べつくしてしまいましてな。勝手に持ち場を離れる訳にもいかず、難儀していた所ですわ。大きい声では言えませんが、本の回収が成功する事を願ってます」

 ここでも現王は嫌われているよ。


 一仕事済ませ、寮の広場に集合。

 フェンリルとヘルは街道から良く見えるように、高台の上に陣取っている。

 エポナさんが出した分身も一緒に戻っていた。

 分身の手料理に感激中。

 ヘルと一緒になってビールジョッキを傾けているのはしずちゃん。

 夕方までは時間があるから良いけど、緊張感無さすぎ。

  

「職員の方達の半数は、この寮からあと数日で王城に行くことになりますのね。格納庫に残っている海獣で景気付けしましょうか」

 これから王都で革命のお手伝いをしようって時に、エポナさんまで気分は祝賀会。

「焼きガニ食べたいよー」

「キュィーン」

 ティンクとリンちゃんの嗜好が共通化してきている。

 このままリンちゃんが成長したら、行動パターンまで同じになってしまいそうで心配だ。

「焼きガニって美味しいの? モイラも食べたい」

「自分も食べたことないっす。どんなもんなんですか」

 ベルゼ、超長生きしているはずなのに、食べたことないものが多過ぎないか。

 いままでいったい何喰って生きてきたんだ。

「僕もカルキノスでの焼きガニは初めてですよ」

 実は私、焼きガニは居酒屋のバイトの時に一度だけ、お試しで食べさせてもらっただけで、あれ以来一度も食べていない。

 ……待てよ、以前獲ったカルキノスで、エポナさんが作ってくれているよ。

 ベルゼもルシファーも、そして私もその事を忘れている。

 あれほど貴重な体験を、皆してあの味を忘れているとは、なんたる失態。

「皆さん、焼きガニは食べていますわよ。味わって食べないと、忘れてしまうものなのですよ。ガツガツいかないで、ゆっくり噛み締めて頂いてください」

 エポナさんの頭に角が生えてきた。

「はーい、今日はじっくり味わいまーす」


 夕方から私達は出払ってしまう。

 昼間のうちに、寮の皆さんと屋外で食事会。

 内陸では珍しいと言うか、見る事の出来ない巨大カルキノスづくしで大盛り上がり。

「これからが本番ですな」

 仮出所中の髯爺さん、焼きガニを頬張って満足そうな顔してるけど、内心不安なんだろうな。

 でも、大丈夫だよ。

 しずちゃんが、きっと上手くやってくれる。

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