残暑御見舞い申し上げます
「失敗した時には、自分一人で責任を負う為ですわよ。そんな人ですのよ、しずちゃんは」
エポナさんが、しずちゃんを擁護する。
「どういう事なのか、自分にはよく分からないんすけど」
ベルゼには、しずちゃんの意図が飲み込めていない。
「僕達は、盗まれた本を取り戻せばいいだけだよ」
とっても分かりやすく、ルシファーが説明してあげる。
「なんだ、そんな事っすか。今から行っちゃいますか」
「しずちゃんが帰ってくるのを待ちましょう。話しはそれから」
急いているベルゼを押さえて、私は宴会に戻りますー。
隣国の動きが読めない今は、下手に事を起こす時ではない。
しずちゃんの帰りを待ち乍ら、グデレグデレやっていたら、フェンリルが姿を見せた。
どこに居ても鼻が利く犬っころだ。
遙か宇宙の向こうからでも、ここでやっている宴会の匂いを嗅ぎつけたか。
「ヘルもおっつけ来るであろう。今宵は招いてくれて感謝するぞ」
誰が招待したのよ。
「急なお招きなのに、いらして頂けて嬉しいですわ。今日はロブラースタがございますのるきっと満足していただけますわ」
エポナさんが呼んだのか。
「それはまた有り難い。ハサミの所を海老ミソで食したいのー」
「はい、ただいま調理いたしますわ」
モアモア島で大量に捕獲した冷凍海獣の中から、エポナさんが持ち出してきたのは超巨大海老。
ハサミの所だけでも、一メートル以上ある上物だ。
これを見た会場の客は、歓喜の雄叫びをあげる。
「ウオーーー」
「では、調理を始めさせていただきます」
エポナさん得意のスピード調理に、観客が狂喜乱舞。
生から始まって、ガーリックシュリンプ・オイスター炒め・海老マヨ・春巻き・唐揚げにチリソース炒め等々。
次々と皿に盛られていく海老料理。
冷凍していたとは思えない出来栄えと食感に舌鼓ですわ。
間もなく、ヘルもやってきて宴が更に盛り上がってきた。
「明日の朝ですけれども、少々お時間をいただけますでしょうか」
エポナさんがヘルに御願いしている。
「奈都姫様も御一緒に御願いいたしますわよ」
「私もですか。二人と一緒にいると、とっても見劣りするから遠慮したいんですけどー」
何処へ行く気かは知らないけど、私はしずちゃんの事が気がかりなのよ。
「あら、奈都姫様。お出掛けの時は変身なさったらよろしいのちゃいますか。うちは何時も人に会うときは変身してますわぁ。化粧とおんなじどす」
……何だ今の提案は、そんなの有りか?
「わたくしは何時でも変身してますわ。何もしなかったらロバですから」
どうして今まで気づかなかったんだろう。
どんな人にでも成れるじゃないの、私ったら。
「どうやったら変身できるんですか」
「奈都姫様ー、講習の時に御教えいたしましたわよね。それに、指輪に聞けば教えてくれますわよ」
「えへへ、よく覚えていなくて。指輪は難しい言葉使うし」
ここは低姿勢に、何としても変身魔法を習得せねば。
「簡単っすよ。なりたい姿を幾つか想像して、その中の一つで『これにきーめた』ってやれば良いだけっす」
ベルゼは嘘つきだから信じがたい話しだが、そんな簡単なので良いんかい。
とりあえず、やってみるか。
「んー、どんなのにしようかなー」
夢にも見なかった事態。
すぐに変身後の姿が想像できない。
「だめだ。貧困な想像力が災いして、何も思い浮かべられない」
正直な話、私には変身無理。
という訳で、私の変身はエポナさんの魔法任せで御願いして、ごっつ美人三姉妹が誕生したのよ。
極美人にしてもらったのは有り難いけど、何をしようってのかが気になる。
「こんな事して、明日は何処へ行くんですか」
「そうですわ、行く前に教えとぉくれやすな」
ヘルも事情を知らないのか。
今日の御招待、フェンリルはおまけで、エポナさんの御目当てはヘルだったりして。
「軍港に行きます。海軍の皆様に差し入れですわ」
瞬間冷凍した魔獣とか海獣って、海軍への差し入れにするつもりだったのか。
フェンリルとベルゼが夜遅くまで外でキャンプしてたけど、しずちゃんは帰ってこなかった。
私達は朝になってから、皆で一緒に軍港近くの海岸に出た。
艦隊の隊長さんを呼び出してもらう。
厳つい顔つきにがっちりした体格は、いかにも海の男といった感じなんだけど、顔色があまり良くない。
こんなんで海軍の指揮ができるんだろうか。
「今日は隊長さんにお話があってうかがいました。この前うかがった時に気づいたのですが、こちらの食糧事情はあまりよろしくないようですわね。これはほんの手土産です」
エポナさんが、大量の冷凍魔獣と海獣を引っ張り出す。
「これはご丁寧な事で、有り難く頂戴いたします。して、異世界司書団の方々が、わざわざお揃いで私に話しとはなんでしょうか」
あれまあ、正体しっかりばれてますね。
あれだけ派手にやらかしたら、嫌でもこっちの正体を知っちゃいますかね。
ここからは私の出番だ。
ゆうべの内に訪問の目的を聞いているので、その件について隊長さんに説明する。
「近く、私達はこの国でお仕事をさせていただきます。仮に、皆さんと敵対関係になった場合、当方への攻撃は御遠慮願いたく、御願いにまいりました」
「それは、皆様への攻撃が王命であってもと言う事でしょうか?」
隊長さん、鋭い。
「はい、賢明な隊長様ならばお判りかでしょう。失礼ですけど、現在この国にある兵力では、全てを持ってしても私達の一人を倒すことも出来ません。それを承知で玉砕戦に打って出たとしても、数分でこの国の軍隊は壊滅してしまいます。この国の守りを担っている大切な方々を傷つけるのは、私達の本意ではありません」
「いやあ参った、随分と正直に言ってくれましたなー。そうでしょうねー、この前の海獣退治、私も観ていましたよ。とんでもない威力でしたなー。しかしねー、困ったなー。私ら兵隊ですから、王命があったら動かにゃならんのですよ」
いきなり砕けた話っぷりに成って来た。
「王命が出なければよろしいのですわよね」
エポナさん、それは屁理屈ってもんですよ。
「そうですな、命令なくして軍が動くことはありません。陸兵の隊長にも伝えておきましょう。くれぐれも迅速な処理で御願いしまっさ。あっ、陸軍でも食料の配給が滞りがちですので、できればあちらにも差し入れを御願いしたいのですが、どうですかな」
安上りな賄賂だな。
「御助言感謝いたします。御希望のまま、事を進めさせていただきます」
とは言ったものの、海軍に比べたら陸軍の兵数は圧倒的に多い。手持ちの土産で足りるとは思えないな。
「そうだ、そちらのお嬢ちゃんにお聞きしたいのですが、歳は幾つですかな。それとお名前は」
「歳は十歳。名前はカイノ・モイラなの」
「十歳でモイラ様ですか……モノラ様はお元気ですかな」
「うん、元気なの」
「だいたいの事情は分かりました。立場上助成はできませんが、御武運をお祈りしております」
現王、国民にどれだけ嫌われてんだよ。
ちょこっと海岸に出ると、ヘルとエポナさんと私の三人で、ドッキリ水着になって海兵さん達に歌と踊りの大サービス。
♬残暑御見舞い申し上げますー♬
船からだと遠くてよく見えないだろうから、上空にバカでかいライブステージモニターを浮かべてあげた。
「私、普通の司書になりたーい」
こうして、熱狂のイセカイズ・ラストコンサートは幕を閉じた。




