異世界魔獣討伐隊結成ですわ
ここの客が今の話を真に受けたら、明日には王都の全住民に知れ渡ってしまう。
お祭り騒ぎに乗じて何とはなしに、キナ臭い方向に私達を向かわせていないか。
私にも我慢の限界がある。
「しずちゃん、私達の正体はバレバレになるし、モイラ図鑑の情報はでたらめだし、どうなってんのよ」
ズンズン! みんなでしずちゃんの囲みを狭めていく。
「大丈夫だから、まかせておいてちょうだいよ。それよりも、お祭りを楽しんでいなさいって」
舞台では、モイラが次々と念獣を出し、水柱を立てたり火を吹かせたり、氷の巨像を出現させたり。
やりたい放題やってはしゃいでいる。
客からは拍手の嵐だ。
自分の娘を、あえて危険な場所に立たせている。
先王は、しずちゃんの策略に共感して、偽の情報を流している。
「幽霊出たー!」
祭りを楽しんでいたティンクが、幽霊に気付いた。
私の後ろに素早く隠れて震えている。
いい加減に慣れてくれよ。
間もなく、先王の幽霊が消えると、けろっとしたティンクはイカ焼きに夢中。
自分の身長ほどあるイカの串焼きを両手に持ち、リンちゃんにまたがってフワフワやっている。
祭りが終わる頃になると、エポナさんが屋台に残った食べ物と言わず品物と言わず、片っ端から永久保存庫に放り込み始めた。
すでに、棚には入りきらないでいたのに、隙間にまで入れ込む。
足の踏み場どころか、息する隙間もなくなってしまった。
「これで暫くはお家に引き籠って居られましてよ」
ルシファーとベルゼもせっせと手伝っている。
「いいですねー。ネットゲームにテレビ、美味しい屋台料理。僕の島で最高のバケーション」
「ルシファー様、自分はキャンプの続きをやりたいっす」
ベルゼは、ホームレスになりたいんだな。
いい加減に定住の地を決めなさいよ。
職員と屋台の店主達が、魔法を使って尋常ならざる勢いで会場を元の広場に復旧している。
私達は寮のロビーに集まって、明日から何をして遊ぶか相談している。
「モイラちゃんにもう一つ御願いがあるんだけど、聞いてくれるかな」
しずちゃんが、今度はりんご飴とチョコバナナでモイラを誘惑している。
「モイラにできる?」
「ええ、出来る出来る。簡単だよ。ちょっとの間、その本を貸してほしいの」
「良いよ。でも、モイラしか念獣は呼び出せないの」
「いいのよそれで」
しずちゃんが、モイラから図鑑を借りて転送室に持っていく。
心配になって私も一緒に来てみたが「ブツクサさん、御願いしますよ」と言って、図鑑を博物館へ転送してしまった。
「手続き完了しましたので、書類にモイラちゃんのサインをもらって送り返してください」
すぐさま図鑑と書類が送り返された。
「何したの?」
「図鑑を、私立異世界博物館に寄付してもらったの。書類は貸し出しの申込書。返却期限は無期限よ」
寄付してもらった意味があるんかいな。
モイラからサインをもらうと、ブツクサさんに書類を返送。「二・三日したらもう一度、モイラちゃんには言わないで借りるけど、すぐに返すからね」
妙な条件を付けて、図鑑はモイラの手元に戻った。
「明日からの予定を発表しまーす。今日、会場に来た冒険者達の中から抽選で選ばれた、三十組・百五十人の冒険者とパーティーを組んで、この国に出没する危険な魔獣を全て討伐しまーす」
おいおい、私達には私達なりの計画があるのよ。
今日の昼間に二十五匹の念獣を捕獲したばかりなのに、明日は百五十人ものパーティーで魔獣退治って。
殆ど軍隊の出動と変わらないじゃないの。
「そんなに大勢の冒険者が集まったら、現王が警戒しませんか」
出来る事なら、私達は参加しない方向で勧めていただきたい計画だ。
「現王直属の騎士団に届け出てあるから問題なし。今の政権になってからは、この国に住んでいる魔獣退治を冒険者任せにしているの。その分、国の負担が減るでしょ。王様の懐に優しい政策ってやつね」
この政策、実際は魔獣の放置と同じで、冒険者ギルドでは魔獣を退治しても報奨金は出さない。
国にいたっては、まったく関与していない。
冒険者は、高額取引の対象となっている魔獣を優先して退治する。
割に合わない小型魔獣や不味い肉の魔獣は、増えたい放題に繁殖している。
辛うじて、陸軍の基地や駐屯地に近い地域の魔獣は少ないものの、魔獣による被害・損害は年々増える一方。
国民の生活を脅かし、近隣諸国の住民にまで被害が及んでいる。
国王は国民からの訴えを聞く耳がなく、騎士団としても対処に苦慮していたところへ、しずちゃんから一斉討伐の話を持ちかけていた。
「あのー、退治した魔獣の売り先はあるんすかね。自分達の取り分は決まってるんすか?」
前回の精霊界魔獣討伐で味を占めたベルゼ。
分け前の取り決めについて、始める前にしっかり確認しておきたい。
「異世界司書団と私と冒険者の人数均等割配当よ」
ただでさえ安価な魔獣を、大量に持ち込んだら安値・叩き値・捨て値の嵐。
ちょっと間違ったら、廃棄処分の処理費用を取られかねない。
どう考えても具合の悪い配当。
「僕、やる気失せました」
あまり御金にこだわっていないルシファーから、こんな言葉が出てくる始末。
「いちぬーけた」
ティンクとリンちゃんが、クローゼットに入ってストライキ。
「わたくし、朝食の準備が夜明け前からありますりで、早めに休ませていただきますわ」
朝食の支度なら、何時もは分身に任せているエポナさん。
明日に限って本体が準備するようだ。
ルシファーとベルゼは、いつの間にか姿を消していた。
「なっちゃん、モイラと一緒に遊ぼうなの」
今回の討伐が、いかに理不尽であるか否かの判断も意味も分からないモイラでさえ、私と一緒になってこの場から逃げ出そうとしている。
「モイラちゃん。これはね、モイラちゃんとモノラちゃんの為に、御父上と御母上が決めた事なの。御願いだから手伝って頂戴」
子供をだしに使って事を進める気か。
なんて姑息な。なんて卑怯な。
途轍もなくいかん展開だ。
私達の損得勘定だけの話なら、協力拒否で簡単に済む。
でも、仲間のモイラとモノラに関わってくるとなると、しらばっくれるのは【ろくでなしの仲間入り】をするようで気分が悪い。
「その辺の事情を話していただきませんと、協力のしようがありませんわよ」
情にもろいエポナさんが、最初の餌食となった。
「そうだよ、きちんと説明してくれれば、いっくらでもやりようがあるよ」
ティンクとリンちゃんのストライキ解除決定。
「自分も同感っす。魔獣退治が嫌だって言ってるんじゃないっすから」
ベルゼよ、悪魔は悪魔らしく冷徹になりきれ。
人間臭くなっているぞ。
「どうすればいいんですか」
ついにルシファーまで折れたか。
「……」
私の話は、誰も聞く気ないようだわね。
「魔獣が増えすぎて困っているのは事実よ。退治して欲しいってのも本当の話。だから、いずれはこの国の王女になるモイラとモノラの為に、今からこの国を住みやすい国に作り変えてあげるのが、今回の魔獣討伐の本当の目的なの」
いずれはモイラとモノラが王女って話、間違っても他では語ってくれていないだろうな。
現王に対して、私立異世界博物館が後押しする革命宣言と同じだ。
内政不干渉の原則を厳守させるべき立場にあるトップが、決して口に出してはいけない事を、私達にだから話してくれたと解釈するしかない。
あれこれ言うのは野暮ってものだ。
何も言えなかった私が、ここでしずちゃんへの質問箱。
「それで、私達は魔獣を退治すればいいだけなの?」
「大勢の冒険者の前で、モイラが召喚した念獣が、魔獣を次々と退治しているように見せてほしいの」
私より速く、悪魔の片割れが発言。
「容易い事です。やってやろうじゃありませんか」
子供に甘いルシファーって、悪魔っぽくない。




