髯爺も初めて 寮祭
「しずちゃんの奢りって聞いたけど、この屋台全部の食べ物とか品物を、祭りの間は無料で配るつもりでいるの?」
「そうだわよ。なんてったって私立異世界博物館の寮祭りだからね。ドーンと派手にやらないと」
寮祭り、そんなのが有ったのか。
お祭りとあらば参加しないわけにはいかない。
私達も屋台を端から端まで制覇するつもりで参加した。
街の住人はまだ誰も来ていないのに、寮の職員はいち早く屋台冒険を始めている。
中でも上機嫌なのが魔導士の髭爺さん。
「こんなにええ思いをするのは初めてじゃい。ほんに有り難い事よのー」
初めてってか。
「御爺さん、お祭りは毎年やってるんでしょ」
不思議に思ったので、タコ焼きを勧めながら聞いてみた。
「うんにゃ、今年が初めてっちゅうか、一度限りの祭りじゃい」
なんだかとっても怪しい話になって来た。
「しずちゃんの奢りって髭爺さんから聞いたけど、これだけの規模だと相当な出費よね。実家におねだりして貰えるような金額じゃないわよね。本当は誰が御金出してるの?」
私達が総出でしずちゃんに迫る。
「だわよねー。そうなるわよねー。シェリーが出してくれたの」
シェリーと言えば、宇宙全体の御金を自由に操れるというシェルティーさんの愛称。
いつからそんなに親しい間柄になった。
それより、どうして私立異世界博物館が資金を出している。
それ、すんごく気になる。
この前みたいに、裏で何か困った事件に巻き込まれている気がするよ。
「出費に関しては、閻魔に勝る厳格シェルティーさんが、よくこんな浪費に御金を出しましたわね」
エポナさんも疑問を抱いた。
「短期間で仕事を完了させる為の必要経費という事で、理事会でも認可されてるもんねー」
開き直りとしか取れないしずちゃんの返答。
これ以上の事は話してくれそうにない。
理事会と言ったって、どうせ幹部四人衆が酔っぱらっている時に決めた事だ。
問い詰めて聞き出せたとしても、しずちゃんの記憶が定かでない方が確率高い。
あやふやな情報で右往左往するより、目の前の娯楽を満喫した方が得策だ。
屋台の提灯に灯が入ると、街から御客さんがランプの灯りで列をなしてやってきた。
光の行列は、寮から王都の外壁門まで続いている。
「街中の人を招待したみたいな賑わいですね」
「そうですわねー。こんなに派手な事をしたら現王に睨まれてしまいそうですが、よろしいのでしょうかね」
客の中には冒険者らしき人も多く混じっている。
そうだった。
私達はあまり目立ってはいけない冒険者だった。
という大前提で動いてはいたが、全部門トリプルSのギルドカードを見せた時から、私達はかなり目立っていた。
私達がこの寮を拠点として活動している事は、冒険者の間では周知の事実。
髭爺さんが教えてくれた。
そんな私達を見る為に、今日の祭りは勿怪の幸いと言うわけだ。
「しずちゃん。全部門トリプルSのギルドカードって、どれくらいの人が持ってるの」
こんなに目立ってしまった元凶とも言えるカードについて、少しくらいは知っておきたい。
「そうねー。私も長い事冒険者登録に関わってたけど、一人もいなかったわよ」
まじか、超激レアカードじゃないかよ。
「ギルドランクの規定には明記されているのですけれども、実際に発行された事は有史以来ございませんでしたの。私達が初めてのケースですわねえ。カードの存在といいましょうか、デザイン等はギルドブックに載っているので、皆さん知っていたのですけれども、実際にそれを持った者に出会う事は皆無でしたの。この会場で私達は良い見世物ですわ」
エポナさんてば、甚だ重要な事じゃないですか。
もっと早く教えてほしかったー。
私達の周りだけ異常に人出が多い。
「モイラちゃん、お願いがあるんだけど、頼まれてくれるかな」
しずちゃんが、綿菓子を差し出してモイラを買収している。
何やら良からぬ事をしようとしているのは明らかだ。
「モイラ綿菓子大好き。何でも言って、御願いされてあげるの」
単純なうえに生意気な奴だ。
危なくて救えないお子ちゃまは、私の好みではない。
「モイラの図鑑を出して、モイラちゃんが念獣に色々と願い事を聞いてもらう所を、会場のみんなに見せてあげてほしいの」
待てー! 待てってば。
つい昨日までは目立つな知られるなと言っていたのに、いきなり百八十度の方向転換するってか。
街中の人間が見守る中で、念獣を呼び出して芸なんかやらせた日にゃ、現王が仕掛けてくるくらい予想できないのかよ。
私立異世界博物館の寮内なら、大使館みたいな所だから大丈夫だろう。
でも、治外法権の外に一歩出た途端、国中の人間が敵になる。
最低限の防御に専念しても、大量の死傷者が出るよ。
私達の魔力なら、こんな国の一つや二つ、簡単に消せる。
それをやってしまったら、悪質な独裁者と変わらないよ。
殺してやりたい程嫌な奴でも、簡単に手出しできないんだよ。
これが、強大な魔力をもった私達の宿命だ。
我欲による武力行使は悪魔の所業と蔑まされ、決して人々の共感を得られない。
だからこそ、現王とのトラブルを避けて、内密に念獣を捕獲していたのに。
しずちゃんったら、今度は私達に何をやらせようとしている。
私達がつべこべ言い合う間もなく、しずちゃんはモイラを連れて広場の真ん中にある舞台に立った。
祭りに合わせて、舞台で披露する演芸など準備されていなかった。
何のための舞台か、ちょっと不思議ちゃんだったけど、これで目的がはっきりした。
「皆さん、この子は異世界で産まれて、この世界で育ったモイラちゃんです。まだ十歳なのに、全部門トリプルSのギルドカードを持っているのよ。あちらに居る宇宙最強軍団の一員でもあります」
しずちゃんが私達を派手に紹介する。
仕方なく、立ち上がって御客さんに挨拶の一礼をする。
「今回は、この寮の設立何周年目だかのお祭りに、特別ゲストとして来てもらいました。モイラちゃんには、モイラ図鑑の中にいる念獣という従魔に、面白い曲芸をさせてもらいますよー」
私立異世界博物館の職員である事は、辛うじて内密にしたようだけど、拠点が博物館の寮だ。
深い関わりがあると思われているに違いない。
まして私達は以前、貸出本回収の為に現王と会っている。
その時に同席していた関係者が、この会場に来ているのは確実。
これでは、折角回収した念獣図鑑と同じ物が、この国に滞在している子供の手中にあると宣伝しているようなものだ。
ただ、あの図鑑は博物館にある本のように、誰でも扱える本ではない。
モイラにしか操れないのがせめてもの救い。
それにしたって、他人が手に入れても無意味な一品だから、派手に宣伝しても良いって物ではない。
「あの本は、手に入れれば誰でも使えるんですわ」
舞台前へ集まった観客の中に、幽霊になった先王と妃が出現している。
何を血迷った。
会場の客に凄まじくいい加減な情報を垂れ流している。
随分と前から先王の幽霊がこの寮に現れているのは、職員が漏らした噂話で街中に広がっている。
先王を知る者も多く参加している祭りで、生きた人間と同じように対応する客が殆どだ。




