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痛いの痛いの痛ーい

 二十五匹分の予告が出揃った時、予告にある地域に絞って百有った結界を二十五に減らす。

 これでモイラの負担はずっと軽くなったはずだ。

 無関係の地域で変換した魔素は、ご丁寧に元の状態に戻している。 余裕ぶちかましてくれるお子様ですわ。


 地図に念獣の位置が浮き出た所へ、モイラと手を繋いでエポナさんが飛ぶ。

 ルシファーとベルゼの地図に捕獲済み印が出たら、二人が飛んで行って念獣を閉じ込めた結界を運んで来る。

 一時保管の為に作った大きな結界の中に入れると、念獣意外の者が入ってないかを調べるのが私とリンちゃんの仕事。

 珍しくリンちゃんと離れ離れになっているティンクは、ルシファーとベルゼの後先を行ったり来たり、捕獲前後の地域に異常の有無を確認している。

 精霊界での魔獣討伐に比べたら何の事はない。

 一時間もしないで、二十五匹の念獣回収が完了した。


 異常がなければダブル悪魔の後から帰ってくるはずのティンクが、みんな揃っているのに帰ってこない。

 心配ではあるが、結界の中に閉じ込めた念獣を本に取り込むのが先だ。

 モイラが本に書かれている念獣の名前を、一匹ずつ読み上げる。

「みんなモイラが捕まえた。お家はここだよ。帰っておいで」

 念獣達が一斉に結界の中でウゴウゴ始めた。

 モイラが結界を解く。

 開いた本の中に、全ての念獣が吸い込まれて捕獲完了。


「大変だよー」

 ティンクが血相を変えて帰ってきた。

「遅かったわね。どうしたの」

「人が死んでるよー」

「えー!」

 私達の仕事が原因なら、とんでもない話になってくる。

 慌てて、ティンクの転移魔法で全員が現場へ飛ぶ。

 出た先は森の中、女性が横たわっている。

 キノコを採集をしていたらしく、おなかが大きい。

 妊婦だ。


「何があったんですかね」

 ルシファーとベルゼが探偵か刑事のように妊婦を覗き込み、エポナさんは女性の体に触れて生死の確認をしている。

「亡くなってから三十分程経過してますわね。残念ですけど、医療魔法では御救いできません」

 「私、ちょっとの昔に戻って見てくるの」

 モイラが消えた。

 二・三分。

 遺体の前で待っていると、モイラがヒュッと現れた。

「おばさん、石の念獣とぶつかってたの」

 運悪く、念獣が出現した地域を囲んだ結界の中に、同時に居合わせていた。

 念獣の出現から結界を縮小して閉じ込めるまでは、長くかかっても一分かそこらだ。

 不運が重なっての事故だが、私達の責任となると事は重大だ。


「しずちゃんに言って命の結界を二つ、こちらに送ってもらってください」

 ルシファーが大きな声で誰にともなく言い放つ。

「今、連絡しますわね」

 エポナさんがすかさず答えると、念話でしずちゃんを呼び出す。

「しずちゃん、急いで命の結界を二つ、こちらに送って頂戴」

「了解」

 命の結界を送れと言うからには、緊急事態と素早く察した。

 しずちゃんが理由をどうこう聞く前に動いてくれた。

「転送室に着いたのを送るより、あたしが行った方が早いよ」

 言い終わる前に、ティンクが飛び出す。

 それでも、異世界博物館の保管庫から転送室までには時間がかかる。

 冷静になって考えれば、目の前に横たわっている女性は既に亡くなっている。

 慌てて動く必要はない。

 分かっていても気が急いてしまう。


 五分ほどして「持ってきたよー」

 ティンクが飴玉位の、小さな命の結界を二つ持ってきた。

 これを使ってルシファーが何をやろうとしているかは、一緒にヘルから死者蘇生魔術を教わった私にはよくわかる。

 一度に妊婦と体内の子を蘇生させようとの試みだ。

 でも、一つの体に二つの命がある。

 たぶんだけど、妊婦と胎児に対して、私とルシファーが同時に死者蘇生魔術をかけなけいとダメだよね。

「ルシファー、貴方が一人で二回やったらどうかな」

「きっとですけど、こういった場合は同時にやらないとダメなんじゃないですかね」

 周りで二人の会話を聞いている分には、何の話か理解しずらいところだろう。

 命の結界を持ってきた時点で、凡その見当はついていたようだ。

 エポナさんが早くやれとばかりに地団駄を踏んで、それが繰り返されている。

 徐々にきつい足踏みになってきている。

 いかん、不味い飯が待っている。


「地獄の拷問がねー」

 私が二の足を踏んでいると、ルシファーが内緒の念話で「良い方法を見つけたんですよ」

「何」

「魔法を使って痛みを和らげれば、難なく苦痛を乗り越えられるんですよ」

 極めて悪質というか、飛びっ切りずる賢い反則技を教えてくれた。

「やったことあるの?」

「ええ、教わった次の日に、何もやらないのと傷みを和らげる魔法をかけたのと両方」

 比べる必要が有ったのか。

 痛みを和らげる魔法をかけた時だけで良かったんじゃないのか。

 

「生き返った時に、私達が目の前に居たのでは具合が悪いですわね。かくれんぼ結界の中から術を」

 エポナさんの計らいで、私達は妊婦に見えない状態になった。

「本当に痛くなかったのね?」

「ええ、普通にやったら、マジ地獄の拷問って感じだったけど、魔法を使ってやった時は、軽い片頭痛でしたよ」

 ルシファーの言葉を信じて、二人で同時に妊婦と胎児に死者蘇生魔術を施す。

 どうせ私とルシファーは、術の後に何某かの事後処理をする余裕はない。

 死者が蘇った後、怪我の治療はエポナさんに任せた。

 倒れているのがいきなり起き上がる不自然は、キノコ狩りの途中で眠くなって、野原でちょっと居眠りしたという記憶に差し替えるのがティンクの役割だ。

  

 死者蘇生魔術は上手くいって、妊婦は眠い目を一擦りしてからキノコ狩りを始めた。

 私はと言うと、加護があるから状態異常は起こらないはずなのに、鎮痛剤が効かないレベルの頭痛に襲われている。

「あー‼ 頭痛いー。これで軽い片頭痛程度って。あんた、脳みそ悪魔並ね」

「そうです、私が悪魔です」

 救くわれないのは私です。


 一大事を何とか解決。

 急いで寮に帰った。

 寮の庭が見慣れない景観になっている。

 今夜はしずちゃんの奢り。

 王都から屋台や街の人達を呼んで、盛大なお祭り騒ぎが催される予定になっていた。

「御帰りなさい。大変だったねー。まあ一杯やって、温泉にでも入って来なさいよ」

 私達には一ヶ月分の仕事を一日でやらせておいて、自分は今日もキャンプ痕の石窯前。

 ノッタリマッタリしている。

「しずちゃんだけー、ずるいっすよ。自分達は大変だったんすからー」

 ルシファーに対して以外、序列というものに縁のないベルゼらしい物言いだが、言いたい気持ちは分からないでもない。

 しかーし、今ここで一番大変な思いをしているのは私だ。


「まあまあまあ、そんなに目くじら立てないで、白鯨のベーコンも有る事だし、やってやって、お疲れさまです」

 無限生ビールサーバーをドンとテーブルの上に置く。

 ジョッキから泡が零れる生ビ―ル。

 頭痛いの痛いの痛ーいけど、飲まなければ絶対に後悔する。

「エポナさん、頭痛いの治してー」

「あらまあ、早く言ってくださいよ。チチンチンチンプリプルフリフリ・痛いの痛いの痛ーい。はいっ飛んでったー」

 公の場で言ってはいけないような呪文だったけどな。

 傷みがすっきり消し飛んだ。


 そんなこんなでジタバタした後、御風呂からあがって見れば、本格的な夕餉宴会の支度が整っていた。

 傾いた石柱の入口から寮の入口まで、ずらり両側に並んだ屋台は百件近く。

 温泉を中心に、所々キャンプファイヤーが焚かれ、その周りには椅子とテーブルが置いてある。

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