臨時収入とおでんパーティー
「明日は街に出て、海獣と御魚を売ろうね」
ティンクが言ってるけど、どこに売るのよ。
「海獣はギルドで引き取ってくれるだろうけど、御魚までは買ってくれないでしょ。永久保管庫に入ってるんだから、無理して売らなくてもいいんじゃない」
この疑問に髭爺さんが「ここらは国の真ん中ですじゃ。海から遠いもんで、新鮮な生の海産物は滅多に出回りませんじゃ。ギルドの職人には海獣を見た事もないのがいるじゃろね。塩漬けとか干し肉になっとらんと、食べ方も分からん者が大勢いますで、どうしたもんじゃろか」助言じゃなくて、問題提起かよ。
「困りましたわねー。御魚は皆さんで食べれば、残りは永久保存庫にちょうどいい具合に収まるのですけど……」
エポナさんが悩まし気だ。
「皮とか牙とか骨なんかは、あたしが精霊界に持っていくよ。ベルゼの空っぽガレージ貸して」
「自分のっすか? いいっすよ」
ガレージを出すベルゼ。
「では御願いしちゃうー」
私が格納庫から出した素材を、宴の最中なのにティンクが精霊界へ持って行ってくれた。
これが早いのなんのって、十分もしないで帰ってきた。
向こうできちんと説明してきたのかな。
フェンリルがいきなり笑いだした。
「フッフッフワーハッハー。海獣の肉が余るとはなー。ヘルよ、聞いたか」
「こないな不思議な事も、異世界ならどすわねぇ」
麒麟界にある魔界では素早く転送出来ることも手伝って、海獣肉は人気がある。
消費量が異常に多いのだ。
狩った海獣はその場で買い手が付くほど。
元々の個体数が少ないから、不足こそすれ余る事などありえない。
「そうですわね。解体は済んでいますので、折角ですから、フェンリル様に御持ち帰りいただきましょうか」
エポナさんが気前のいい提案をする。
「いやいや。貰い受けるのは容易いが、全部という訳にはいかん。我とヘルの保管庫を合わせても、今回の半分も入るまい」
「残りは干物にしましょう。そうすれば保存も効きますし、焼いて食べるだけですから」
「それも良おすけど、白身は練り物にもできるわぁ」
おお、海獣で作ったおでんか。良いですねー。
「自分はとりあえず、明日ギルドに持っていきたいっす。希少品ならきっと高く売れますって」
高いか安いかは、消費者次第なのだよベルゼ君。
どんなに珍しい物でも、食べ方が分からなかったら買いません。
翌朝、フェンリルとヘルを見送ると、ベルゼが海獣肉の一部を持ってギルドに行った。
「『海獣ですかー。加工して有れば買えるんですけどね。生ですよね、生。うちの職人じゃ解体はできても、加工まではできないんですわ。狩った所のギルドなら引き取ってくれますわ』という事っす。加工するのも、もう一度戻って売るってのも面倒っすね」
ベルゼが肩を落としていると「わしらが加工しますじゃ。とくにやる事もありませんで」
髭爺さんが職員の方を指している。
私達は、売れようが売れまいがどうでも良い事で、冒険者を装う都合上やっているだけの事だ。
お任せできるなら、それに越したことはない。
「じゃあ、御願いしまーす」
格納庫から海獣を引っ張り出す。
職員が固まった。
「こんなにあるとは。先ほどフェンリル様とヘル様が御持ちになったので半分ではなかったですかい」
「一割ほどしか入りませんでしたの」
「切り刻むのは任せてください」
ルシファーが刀を出し、エポナさんが分身も出動して包丁をキラリ。
二人(エポナさんの分身が加わっているので実際はもっと大勢)の早業に、思わず職員から拍手の嵐。
「自分は槍しか持ってなくて切れないんで、白身を磨り潰すっす」
近所から運んできた岩で、大きな石臼を作るベルゼ。
ここに、ティンクとリンちゃんが白身の海獣肉をぶち込む。
石臼を回すのは魔法で出したベルゼの分身。
ベルゼ本人はたいして労力使ってないのよ。
モイラが結界を変形させて干物を干す網を出す。
ここへ職員の人達が肉を丁寧に並べていく。
中には魔法を自在に操れる人もいて、極めて作業効率がいい。
これをルシファーとエポナさんが魔法を使って乾燥させると、海獣干し肉の完成。
すり身も次々と揚げられて、美味しそうな風が吹いてきた。
今夜はおでんパーティーか?
「自分、干し肉売ってくるっす」
ベルゼがクローゼットに入るだけ詰めて持っていく。
「ご近所さんに配ってきます」
職員の何人かが、近所の人達に干し肉と揚げ物を持っていく。
帰ってくるまでの間に、私達は出来上がった材料を使っておでんパーティーの準備。
「干し肉はきっと良い出汁が取れましてよ」
大鍋に干し肉を入れ、砂糖・塩・醤油・みりんを入れると、嬉し懐かし美味しい匂いがしてきた。
「煮えた干し肉も美味しくいただけそうですわね。もう少しお醤油入れましょうか」
さすがのエポナさんも、自分達で加工した材料で海獣おでんを作るのは初めて。
試行錯誤を繰り返している。
「食べていい?」
ティンクとリンちゃんが味見役を買って出た。
「只今っす。だいぶ高く買ってくれたみたいっすよ。干し具合が完璧だって、ギルドマスターが喜んでたっす」
「幾らになったのー」
図鑑を広げているモイラが尋ねる。
「初めは小シェルリル貨一枚とか言って来たんすよ。だけどちっちゃいの一枚じゃ安すぎるんで、大金貨二枚だって言ってやったら、ありがとう御座いますって、にんまりしたんで、いや待て大金貨三枚って言い直して、三枚に決定っす」
馬鹿野郎。
報奨金を貰った時もそうだったけど、デカけりゃ良いって物じゃないんだよ。
この後ベルゼを皆で凹ったのは、当然の成り行きとして許していほしい。
私の加護のおかげで、ベルゼはすぐに回復。
ちょうど良い加護の実験になったわ。
シェルリル貨の価値についてじっくり教えてやったら、ようやく納得して、職員も含めて皆に土下座の謝罪をした。
「自分の持ってる小シェルリル貨一枚と、大金貨三枚を交換するっす」
こうして、とんでもミスの賠償問題は解決した。
「薄給でこの寮を守って来てくれた皆さんに、この御金を臨時支給したいと思うのですが、奈都姫様、許可していただけますか」
エポナさんが願い出てきた。
「許可も何も、これは皆で稼いだ御金だから、皆で分けていいんじゃないんですか」
早速、シェルティー&エポナ銀行始動。
小シェルリル貨を転送すると、あっと言う間に両替された硬貨がゴッソリ送られてきた。
と言う訳で、私にも配当ありー。
私立異世界博物館付属図書室所属異世界司書菜花奈都姫の基本給一ヶ月分ですわ。
思ってもいなかった臨時収入に、開城全体が上機嫌。
夕餉の代わりに開催したおでんパーティー。
おでんが上手に仕上がっている。
売れ行きが凄まじくて、今夜中に食べきってしまう勢いだ。
今夜は少し冷えているけど、熱々おでんに生ビールは相性が良い。 これも、入れ替わり立ち代わりでお代わりしに来る。
私はというと、こんな日には辛しを効かせたおでんを肴に、ぬる燗で一杯。
無限生ビールサーバーの置かれたテーブルで、燗酒をチビチビやっていると、それを見た髭爺さんが自分にも飲ませてくれとグラスを差し出す。
「バーボンを洗い流してから……じゃなくて、ぐい吞みがまだあるから、これで飲んで」
鳥獣戯画の描かれたぐい吞みを渡し、やはり鳥獣戯画の描かれた一合徳利に御酒を入れて燗付けする。
「では一献」
ぬる燗の濁りを、ぐい吞みの口いっぱいまで注ぐ。
「これはご丁寧に、頂きますじゃ」
表面張力で盛り上がっている酒を、迎えに行ってちょい飲むと、ぐい吞みを手にとりグビッと一口いく。
「果汁のようですな。甘みと酸味がなんとも言えん酔いを誘ってくれますじゃ」
髭爺さん、徳利を持って他の人にも飲ませに行った。
待てや、徳利は一本しかないんよ。




