T・レックスのおつむはデンデンムシなのー
私とティンクとリンちゃんとエポナさんとモイラの五人。
何時ものように、私のクローゼットから結界を眺めて御菓子と御茶してる。
フェンリルとヘルとルシファーとベルゼの魔界四天王。
どんな思考回路がそうさせている。
一つの結界の中でキャンプを始めた。
百二十度の中でも普通に過ごしている。
恐るべき悪魔達。
後で聞いた事だが、中ではこんな会話があったそうだ。
ベルゼが焚火を熾しながら皆に聞いた。
「自分思うんすけど、この小さい結界っていらなくないっすか」
百二十度の中で焚火こそ必要ないと思うが、大きな結界の中全部を高温にして、ピンク色になった所だけを別に囲めば済む事だと言う考え方だ。
「まあ良いではないか、モイラの力量も見てみたいしの」
熱い時には息を荒くして体を冷やすのが犬系の常だが、フェンリルにはそんな素振りはなく、平然としている。
「お兄様は熱ないんどすか、うちは少し熱いどすえ」
ダブル悪魔はこの言葉を期待していた。
ヘルがもっと薄着になるのを待っている。
「平原全体を囲っている巨大結界を百度以上にするのは、僕でもかなり厳しいよ。百度以上の季節なんてないからね。小さい結界の中を高温にするだけで精いっぱいさ。朝になっても小さい結界の中に変化がなかったら、大きな結界を縮小してもらってから高温にする予定さ」
したがって、ヘルが今以上に薄着になる事はない。
だから焚火をしたらしい。
深夜、一つの結界が変色し始めた。
「出たー」
モイラが一番に発見して、飛び跳ねながら報告する。
結界張りまくりなのに、元気でいられるのは何故?
「ウルマジオ捕まえた。お家はここだよ。早く入ってねー」
モイラが念獣を捕獲。
図鑑にウルマジオの姿が載るのを確認……できないわよ。
「捕獲できたのかな?」
モイラが不安そうな顔になる。
「捕獲完了ですわよ。今、ブツクサさんに図書室の図鑑を確認していただきました。元が見えない念獣ですので、絵はないのだそうですわ。ページの下に【出掛けてます】とか【在宅中】と出るそうなの。あちら側は【別宅に行ってます】に変わったそうですわよ」
どれどれ、おお確かに。
【在宅中】と書かれた掛札の絵が、解説文の上に描かれてある。
「捕獲完了なのー」
モイラの表情が満面の笑みへと変わった。
これからがまた一仕事。
モイラが内外の結界を消すと、ベルゼが恵の雨を降らせて回る。
ここからルシファーが、季節を春夏秋冬一巡させて平原を再生するはずだったけど「奈都姫さん、覚えたばかりの季節魔法を使ってみてはどうかな」私に振ってきた。
やってみたいのは山々なれど、この国の季節って春夏秋冬でいいのかな。
一年中秋かもしれないよね。
「モイラちゃん、この国の一年て、どうなってるの。季節の話し」
「んー、寒い時の次に温かくなって、それから暑くなって、今はこんな感じなの」
四季があるような感じなのね、分かったわよ。
初めての季節魔法発動!
茶色一色になっていた平原が、面白いほど見事に自然回復していく。
続いて小動物の結界を解放して終わったら、暫くしてから魔獣の結界も解放。
全ての作業を終了した。
作業は徹夜になってしまい、空が白んでようやく寮に帰れた。
このまま寝てしまっても良かったけど、フェンリルとヘルが王都を見て回りたいと言い出したので、朝食もそこそこ朝早くギルドへ魔獣を売りに出た。
前回の事も有って、私達の魔獣狩りは街のちょっとした噂話になっていた。
すれ違う人達の誰もが、私達を見てギョギョっと足を止める。
フェンリルが一緒だから尚更目立っている。
殆どの男達は、超ミニ美脚見せびらかし美人さんになったヘルの方を見ている。
ヘルに負けじとばかり、エポナさんまで胸元がはだけた薄手の大き目白ワイシャツに、白のショートパンツで残暑を楽しんでいる。
おまけに、この前隠れていたティンクとリンちゃんとモイラも出ている。
総勢九人の最強軍団が揃ってギルドに入っていく様は、しっかりはっきり殴り込みだ。
ブツクサさんからの指示は「目立ってくれるな。冒険者として活動してくれ」だったけど、実際の話し、もうどうでもよくなっちゃっている。
私達って、素のままでも目立つ存在だし、ダブル悪魔に気絶する女子はこの世界でも大勢いるのよね。
ギルドで稼いだ勢いで、皆して街の散策をしてから寮に帰って軽い野外パーティー。
「毎日宴会ばかりで、よく飽きませんですなー」
一緒になってドンチャカやってるくせに、髭爺があきれた風に問いかけてくる。
「お主等、毎日このようなバカ騒ぎに興じておるのか」
フェンリルまでそれ言うか。
それに、今回はたいしたバカ騒ぎでもないわよ。
「またまた残念なお知らせなのー」
ここでそう来るか。
一睡もしてないのよ。
精神的に具合悪くなるから、寝かせてよ。
「ありゃー、今日の出没予告だよー」
ティンク、その先は言わなくていいから、とりあえず腹ごしらえしましょう。
皆が食べ物に集中しているものだから、モイラとティンクが二人してテーブルの真ん中に本をポイッと放り投げる。
【今日の日没直前、王都内にT・レックスが出現。巨大な頭蓋のわりに脳は鶏並でとても小さく、知能はカタツムリよりも低い。空腹時は狂暴になり、見えたもの全てを食料と認識する。とりあえず口の中に入れてから、食べられない物だけを吐き出す癖がある。普段は美食家の痛風持ち。腸内環境は最悪で、下水道並の状態を維持している。念獣には珍しく遊び好き。大きな岩を転がしたり、風になびく樹木にじゃれついたりする】
「日没に出現って、あと一時間くらいしかないじゃないの」
私はちょっとだけ焦っている。
「とりあえず食べてから考えませんかー」
ベルゼにやる気はまったく見られない。
「その、T・レックスとやらは美味いのかな」
フェンリルは念獣まで食う気でいる。
ところで、T・レックスって念獣だったのか?
地球にいた恐竜だよね。
「モイラ、この念獣さん知ってるよ。ご先祖様が地球に行った時に一匹捕まえて、ペットにしていたって古文書に書いてあったの」
ご先祖さまって、何時代の人だったんだよ。
「市街地に出られるのは困りますけど、街なら邪魔になる魔獣を排除する手間がないし、今回のは見つけやすそうだからね。結構と簡単に片付くのではないですか」
ルシファーも出動する気なし。
「あたしとリンちゃんとモイラに任せていいよ。ちょっと行ってくるね」
ティンクとリンちゃんとモイラの姿が消えた。
三人に任せっきりでいいのだろうか。
「ヘル様、奈都姫様、お散歩しましょ」
エポナさん。それって『遠くから三人を見守ってやりませんか』と同じ意味ですよね。
魔獣と悪魔達を置いて、三人で王都へ飛んだ。
出現まで三十分ほどあるから、ヘルとエポナさんが互いの脚線美をひけらかし乍ら繁華街を練り歩く。
私は完全に、おまけのお嬢ちゃん扱いされてます。
「キャーキャー」
「怪物だー」
建物に反響して何処からとも分からない悲鳴が響く。
エポナさんのロバ耳が飛び出して、騒ぎの方向を特定。
急いで転移すると、モイラがT・レックスを結界の中に閉じ込めて終わっていた。




