頼もしい援軍がやってきた
魔界の森なら一般人が立ち入る事もない。
明日の日没まで出現しないとなれば、急ぐ必要もない。
今夜はゆっくりできそうだ。
「大きな動物の体内に隠れてしまったら、今回の念獣は見つけられませんわね」
それもそうだ。
日没後って、何時何分頃なのかな。
夜中も日没後だものなー。
「僕が結界の中を熱帯にしますから、奈都姫さんが小さな極低温地帯を作ってください。そこにウルマジオをおびき寄せましょう」
言わんとする事は分かるんだけどー。
「まったく見えないのに、罠にかかったかどうか確認できないわよ。それに、私はルシファーみたいに季節を操る魔法知らないしー」
「それなら僕が今から教えますよ。奈都姫さんなら直ぐに出来るようになりますから」
こうして私は、ルシファーにしかできないと思われていた季節魔法を自由自在に操れるようになった。
詳細については、極秘事項と言うことなので公開できない。
「モイラちゃん、今から魔界の森に張ってある大きな結界の中に、小さな結界をいーっぱい作ることって出来るかなー」
エポナさんが、生チョコをちらつかせて聞いている。
出来ないと言いえない状況。
私でも落とせる誘惑。
「モイラに不可能はないの」
これは生意気から出た言葉ではない。
いたって純真な子供心からの発言である。
「でも、虫歯になるから、御菓子は食べないの」
前言撤回。
「奈都姫様の加護があるから、モイラちゃんは虫歯にならないのよ」
「だったら食べるー」
このあたりは子供だな。
言っちゃって、食べちゃって、出来ませんはなしだよ。
この国を結界で囲っているのに、小さいとは言え魔界の森を包み込む結界を張っている現状。
この上、更に結界を沢山張る試みは、失敗する可能性が非常に高い。
「あのー、自分の考えっすけど、結界の罠に誘き寄せるのは分かるんすけど、明日行くのは魔界の森っすよね、魔獣のパラダイスっすよね。さっきエポナさんが言ってたように、魔獣の中に入られたら、熱帯でも極低温でも、本体は見つけられないんじゃないっすか」
あー! 肝心な所を飛ばしちゃった。
「今回も魔獣が邪魔ですわねー」
エポナさんがにんまりして、シェルリル包丁をなでなでする。
「また大猟確実だよー」
ティンクも嬉しそうだ。
「僕は今回も退治に参加出来るんですか? とっても運動したいんですけど」
ルシファーが刀に手をかけて私の方を見る。
「自分も参加したいっす」
ベルゼは槍が壁に立て掛けてあるので、その方を指さす。
「邪魔ですけどねー、魔界の森ですよ。どれだけの魔獣がいるんですか。一日じゃ狩りきれませんよ」
と言いつつ、頭の中には頼もしい助っ人を思い浮かべている私ったら、とってもずるい子ちゃん。
「魔界の森と言っても、平原山の山頂に限っての事ですから、思っているほどは多くないと思いますわ。それに、勝手かとは思いましたけど、さる方々も援軍としてこれから来て下さるそうですのよ」
さる方々って、私達の援軍になるのはあの二人くらいしかいないでしょう。
エポナさん、仕事が早すぎますって。
さっき『大きな動物の体内に隠れてしまったら、今回の念獣は見つけられませんわね』といった時点で、フェンリルとヘルに連絡していたとしか思えない。
食事を早めに切り上げ、グデグデになる前に明日の打ち合わせを済ませよう。
「それじゃあ作戦の再確認ね。今回の魔獣討伐は、こちらの戦力からしたら相手の数が圧倒的に少ないはずだから、退治した魔獣は各自保管庫まで持参する事。今回はエポナさんには別の仕事がありますから解体はしないので、持ってきてくれればティンクが血抜きをした後に、私とリンちゃんでベルゼのクローゼットとガレージとルシファーのも今は空いてるわよね。とにかく、空いているスペースに放り込んで、あとでそのままギルドに持って行きまーす。ここまで良いですか」
「一つ変更がございます。先ほどしずちゃんに格納庫を送っていただきましたので、放り込む先は格納庫になりますわ」
またもやエポナさんのクリーンヒット。
仕事ができる女って、凄いし羨ましいと思う。
こんな時にも、みんなはそれぞれの武器を磨いている。
それに加えて、食事を一旦終わらせたのに飲んだり食べたり始めて行儀が悪い。
私の話しを聞いているのかいないのか。
「はーい」
返事はあったから、理解してくれたとしておこう。
「魔獣が居なくなった所から、エポナさんが山頂に住んでいる小動物とか昆虫なんかの生き物を集めて結界の中に入れまーす」
「エポナの箱舟作戦で宜しかったでしょうか」
これは後で行う作業で、山頂の生き物が死滅してしまわない様にする為の措置だ。
「この後に、モイラちゃんが二重の結界で、山頂を包んでいる結界をいっぱいにする。二重の結界で山頂をいっぱいにしたら、外側の結界は外していいからねモイラちゃん」
「うん、そうする」
これで少しは成功率が上がった。
「ルシファーが全ての結界の中を百度以上に熱してね」
「了解」
「結界の中のどれかで空気がピンク色になったら、モイラちゃんは念獣を本に取り込んでちょうだい」
「念獣を本に入れた後に、結界を解いてモイラの仕事は終わりなの」
「はい、正解」
百度以上の高温で熱し続けていたら、山頂の平原は全滅だ。
「ベルゼが煮えちゃった山頂に恵の雨を降らせて自然を復旧した後、エポナさんが結界に入っている生き物を解放すれば、今回の作戦は完了です」
一通りの段取りを説明して終わると「寮の庭に、大きな従魔を引いた超ミニ美脚見せびらかし美人さんが現れなして、皆さんに会いたいとおっしゃっています。ひょっとして、従魔はフェンリル様ではないですかな」髭爺さんが知らせに来てくれた。
「自分が行くっす」
「僕も行きます」
ルシファーとベルゼのダブル悪魔が、ヘルの顔見たさに飛び出していった。
「モイラも行くの」
モイラは初対面だったね。
急な事だったので、フェンリルが入れる程大きな寝室は用意出来ないとのこと。
結果は分かっているが、一応の礼儀として事情を説明する。
大きな体を人間並みに小さくすれば良いだけなのに、面倒だの疲れるだのと理由をこじつけて、変身するそぶりさえ見せない。
「なーに、わしは狭っ苦しい城の中よりも、このように広々とした草原で一夜を過ごすのが性に合っておる。気遣い無用」
こう言ってくれると助かるわ。
「それではフェンリル様が寂しいでしょう。自分も今夜はテント泊にするっす」
有無を言わさず、さっき片付けたばかりのテントを引っ張り出して、またもやキャンプの準備を始めたベルゼ。
「うちもテント泊がしてみとおす」
ヘルまで野宿するってか。
「それでは、各自自由に好きな所で寝るとして、キャンプファイヤーを囲んでのお食事会にしてはいかがでしょうか。フェンリル様とヘル様には、明日の打ち合わせもありますから」
「おお、エポナ殿の手料理がまた食せるとは有り難い」
久しぶりの美食を期待してか、フェンリルの口から数滴のヨダレが垂れる。
「まあ、お兄様ったら、はしたないどすわぁ」
寮の食堂から外に出ての食事に変わっただけだ。
「職員の方も一緒にどうどすか」
ヘルから誘いがあって、大人数での会食は大宴会に様変わり。




