湖畔の塩焼きと塩漬け悪魔
ジャンケンで退治する相手を決めて、一斉に出撃。
私は、リンちゃんとモイラの御守でお留守番ですわ。
焚火の近くが一番。
精霊界での経験があるから、これからやるべき事は心得ている。
退治した魔獣は即座に解体。
肉と素材に分けて、何も入っていないベルゼのガレージに放り込む。
神業にも似た驚愕のスピードに、モイラの口は空きっぱなし。
しきりに拍手している。
キャンプの良い余興になった。
結界の中に紛れていた魔獣の退治が終わると、キャンプ飯の続きでビールを飲み始めた。
いくら酔っても、いざとなったら魔法で酔いを醒ませる。
こんな時でも飲んでいられるのは加護のおかげ。
飲みすぎて生活習慣病になる事もない。
飲酒を止める理由なんかないけど、この罪悪感は何だろう。
まだ異世界での魔法ありあり生活に慣れていないんだろうな。
他のみんなは、モイラを除いてリンちゃんまで酔っている。
他人様から見たら、真面な仕事ができるとは思えない集団だ。
酔っ払いたい放題の夕餉を終えると、エポナさんとモイラが釣り糸を垂れて余裕綽々。
「まだ出現していませんわね」
どうしてそんな事が分かるんだ。
「モイラのはまだですの」
何がまだなの。
釣れないって意味か。
「あたしも仲間に入れて」
ティンクまで釣りに加わった。
リンちゃんは何時でもティンクに寄り添っている。
「自分もやるっす」
ベルゼよ、お前もか。
「僕は舟に乗って他の所でやるよ」
ルシファー、そんな物まで持ってきてたのか。
私はどうしよう、とりあえず皆が釣っている姿を眺めるかね。
念獣が何処から出てくるか分からないし、見張りは必要だよ。
それにしても、なんて厄介な相手なんだろう。
水に溶けたら発見困難って、湖に現れるんだから初めから水の中じゃん。
見張っていて見つかるかなー。
「なっちゃんも釣りしなきゃダメなの」
モイラが私まで動員しようとする。
「私は良いよ、念獣が出てくるかも知れないから、見張ってるよ」
本音を言うと、焚火のそばから離れたくないのよ。
魔法で寒さはしのげるけど、気分的に今夜は冷えそうだもの。
暫くすると、雲が出てきて月明りがなくなった。
辺りは闇に飲まれ、静けさが支配する世界へと様変わり。
かろうじて焚火の炎が湖面に映り、周囲をてらしてくれている。
闇の中へパチパチ・パチパチ。
薪のはじける音が吸い込まれていく。
【第一回スメティー村セガルド湖・五目釣り大会】もナイターに突入。
誰も釣れないのですわ。
真っ暗だと魔獣の姿が見えないし、見張っていても意味なしになってしまう。
湖の上空から明かりを照射する。
夜中にここだけ明るいと村人に怪しまれてしまう。
モイラの結界で、光が外に漏れないようにしてもらった。
一般的な魔力量の魔法使いが張る結界は、どんなに優れていても、こちらに攻撃や敵が入って来られない様にする防御専門の一方通行。
せいぜいやったとしても、相手を結界の中に閉じ込めて、自分から遠ざけるくらいしかできない。
ところが、国を包む結界を張っていながら、光だけ一定区域に閉じ込めてしまう二重の結界を張っている。
モイラの結界術はSランクに恥じない優れものだ。
湖の周囲に広がる森は魔獣の巣みたいな所だ。
村人が容易に入り込めるとは思えないけど、安全第一の捕獲隊としては、基本的な予防をしておきたい。
夜が明けて村人が湖に近付いたら、液体念獣アグワテスが人間に対して危害を加えるかもしれない。
「モイラちゃんって、同時に何種類もの結界って張れるのかな」
「簡単でーす。Sランクのモイラにまかせてなの」
ちょっとだけ生意気が出てきたか。
モイラに、念獣が出現しても湖周辺の森より外に出られないような結界も張ってもらった。
私達でさえ、二種の特殊結界を同時に張るのは難しいのに、しれっとやってのける。
Sランクにしておくのは惜しい御子様なのよ。
騒動にならない様にする為にも、夜明けと同時に捕獲する必要がある。
でも、発見さえ困難な相手をどうしたものやら。
ルシファーが湖の真ん中あたりにある小島に上陸して、焚火を始めた。
さすがの悪魔も、この雰囲気では焚火が恋しくなったか。
と思いきや、釣った魚を木の棒に刺して塩焼きしている。
「ルシファー様~、ずるいですよ。自分もそっちに行くっす」
ベルゼが離れ小島に飛んで行った。
ダブル悪魔が立て続けに釣りあげていく。
小島周辺には、この湖の魚全てが集まっているのかよ。
「変ですわね。どうしてあそこだけ釣れるのでしょう。悔しいから撒き餌しましょう」
エポナさんが、リンちゃんとティンクの好物、魚のあらミンチを取り出す。
「食べてもいい」
「キュィーン」
大好物を目の前に出されて我慢できる二人ではない。
「どうぞ」
エポナさんが小皿に取り分けてくれたのを、美味しそうに頬張るのを見て、モイラがちょっとつまみ食い。
「ウゲー」
苦虫を嚙み潰したような顔になる。
モイラの口には合わなかったね。
残ったミンチを、ポンポン投げ込むエポナさん。
待つこと三十分。
折角の撒き餌したのに、小魚一匹釣れない。
「徹夜の見張りでは手持無沙汰なので始めた釣りですけど、まったく釣れないと精神衛生上よろしくありませんわねえ」
エポナさん御機嫌斜め。
一方、小島の悪魔は塩焼きにご満悦。
こちらに向かってVサインを連発している。
あー、塩焼き食べたい。
小島の方を見ていたら、水面が若干上昇して見える。
「ティンク、上から水面の標高を正確に測量できる?」
「出来るよ、光の反射で測るから一瞬真っ暗になるけど」
「やってみてー」
「分かったー」
ティンクが飛んだ瞬間、湖全体が真っ暗になった。
幾筋も赤と緑のレーザー光が照射される。
オーロラの様な景色が数秒続いた。
湖に明かりが戻って、一帯が元の様に明るくなる。
「小島の回りが二十センチくらい上昇しているよ」
ティンクが見せる測量図は立体図。
素人の私にも簡単に読み取れる。
「もうすぐ夜明けですから、あの辺りに気が集まっているのでしょうか。二人はきっと餌ですわ」
エポナさんは神族だからか、魔族を餌にするのがお好きだ。
「モイラの本には、出現て書かれているの」
「えっ、早く言ってよ。あいつら食べられちゃうよ」
「アグワテスは、水中の毒素を食べるだけだから大丈夫なの」
そうだった。
悪魔だから絶対に違うとは言い切れないけど、あいつらが【この世の毒素】でない限り安全だな。
「塩だ! エポナさん。塩ありますか、御塩いっぱい要るんですけど」
「ええ、調理用の御塩でよろしければ、一トン程は常備していますわ」
なんて量のストックなんだ。
これは生チョコも大量にあるに違いない。
「アグワテスは塩焼きの塩に寄って行ってるんですよ。辺りの毒素を食べて綺麗になったから、あそこだけ魚が集まってるんですよ」
「左様でございましたか。では急がなければいけませんわねえ」
とか言いながら、いつもより動きの遅いエポナさん。
クローゼットを開けて、中にある大きな扉を開く。
中には食材や調味料が整然と保管されてある。
「何をするのか分かっておりましてよ。あの二人を塩漬けにすればよろしいのでしょう。アグワテス、餌ですわよ!」
違うという間もなく、小島の悪魔が塩の塊になった。00.




