父上様と母上様は幽霊ですの
「モイラは、精霊達の呼吸する魔素強化効果がなくとも、自分で大量のダークマターと暗黒物質を瞬時で良質な魔素に変換できるので、強力な魔法が使えるのですよ。この星全体でも包み込めます」
まだ昼間だというのに、私達の前にフワフワ薄っすらぼんやり、王様のような格好をしたのが現れてモイラの自慢話をする。
それはいいんだけど、ダークマターも暗黒物質も同じだ。
それを言うなら、ダークマターとダークエネルギーじゃないかな?
「やだー、人間の幽霊怖いよー」
ティンクが光の勢いで、リンちゃんと一緒に自分のクローゼットへ逃げ込んだ。
幽霊嫌いにとっては最悪の現象だ。
精霊の箱庭で、恐怖の気を静めている。
「特定した動物や自然を、結界の中に閉じ込めて逃げられないようにもできるのですよ。結界や守りの魔術にとても優れている子ですの。今もこの国全体を結界で囲んで、念獣が現れても別の国に逃げられないようにしていますの」
今度は女王姿の幽霊まで出てきて、モイラの自慢をする。
モイラの親戚でもあるのか。
この様子を見ていた職員は、二人の幽霊に深くお辞儀をしている。
「カイクノロス王と御后様でございます」
白くて長い髭をたくわえ、ずっしりとした杖を持った老人が、二人の幽霊を紹介してくれた。
「モイラの父上と母上だよ」
この二人が両親……てことは、モイラ=革命で殺されたカイクノロス王国の王様+その御后様の子供という方程式が成り立つ。
∴ 世が世なら王女様だ。
髭の御爺さんが言うのには、モイラの両親は本当に幽霊で、時々この世に現れ出てくるそうだ。
今日は、会場の良い臭いにつられて出現していた。
よくある事だとかで、職員と一緒になってドンチャンやっている。
本を門外不出にしたのはこの両親。
本の著者は、祖先にあたるカイクノロス一世。
カイクノロス王と御后は民衆に好かれていたが、強欲で無慈悲と評判されている現王に暗殺された。
隣国の息がかかった武闘派、革命軍によって国を奪われている。
生まれたばかりのモイラと、モイラと双子の姉モノラは、事前に不穏な動きを察した両親が、お抱え魔導士だった髭の御爺さんに託して事なきを得ていた。
魔導士の髭爺さんは、しずちゃんの勧めでこの寮の職員となり、匿った二人の名前をカイクノロスからカイノに替えた。
今の王が差し向ける暗殺者を、二人から遠ざけた功労者だ。
「しずか様が宴会好きだったので、きっと皆様にもこのような宴で喜んでいただけると思いまして、歓迎会を催してみました」
やはり、このバカ騒ぎはしずちゃんの影響が有っての事か。
それにしても、なかなか気のきく爺さんだ。
職員の人達も、元はカイクノロス王に使えていた。
革命の時に難民になって、この寮に避難してきた人達だ。
両親とモイラと双子の姉モノラ、家族が一緒のテーブルで楽しそうにしている。
暗殺された感が無いのよね。
モノラには魔力があまりなく、魔法は初級程度しか使えない。
もっぱら城の中でお勉強に励む日々を過ごしている。
二人とも見た目が女の子なので、姉とか妹と紹介しているが、二人に性別はないと言われた。
ちょっと不思議な、女の子に見える子供になってきた。
またまたベルゼの強引とも言える御願いで、今夜はお城の庭でキャンプ泊に決定。
職員の人達から「折角の寝室を使わないのでは、私達が困ります」なんて言われちゃったけど「毎日じゃなくて、今日だけだから気にしないで」と説得した。
モイラの幽霊両親が消えた。
ティンクに知らせると、リンちゃんと一緒になってテントを張り出した。
ルシファー島で起きた【ベルゼの突然キャンプ事件】で得た教訓から、エポナさんがキャンプギア一式を持ってきていた。
一緒にキャンプ泊をすると言い出したモイラは、私達が使っているクローゼットやガレージに大感激している。
「旅行バックしか持っていないの。ガレージもクローゼットも高くて、モイラ買えないの」
「大人になったら買えますよ」
ルシファーが子供にやさしいくしている。
悪魔らしさがだんだん薄れてきたな。
「モイラね、ルシファーの刀とかベルゼの槍も欲しいの」
子供だというのに、危険な思想だか趣味に傾いてきている。
「モイラに刃物はまだ早いから、あたしがシェルリルの棍棒を作ってあげるよ」
ティンクが転送室に飛んで行って三十分。
金属性の小さな棍棒に、シェルリルをコーティングして持ってきた。
「はい、これでみんなと一緒だよ」
棍棒をモイラに差し出すティンク。
「モイラ、今夜はティンクとリンちゃんのテントで寝るの」
喜んでもらえたようだ。
この国に入ってから三日。
モイラの本に変化が現れた。
何も書かれていなかった本の1ページ目に、念獣に関する情報が浮き出したのだ
【明日の夜明け、スメティー村にあるセガルド湖に、液体念獣アグワテスが出現。水を自由に操り、水分を含む物質の性質を変化させる能力を有している。水によく溶けるので、水中に逃げられると発見するのは困難。炎での退治は不可能。蒸気となった後に冷えれば、元の姿に戻れる。水質浄化能力あり。水中の毒素を捕食して成長する。主な生活圏を淡水とし、海水には馴染まない。不足する塩分を大変好む】
「もう夕方っすよ。今から行った方が良いんじゃないっすか」
賞金も付いていない魔物狩りなのに、ベルゼからやる気のある発言。
「お前は湖のほとりでキャンプしたいだけだろ」
双頭のサタンと言われただけある。
ルシファーは合い方の考えをお見通しだ。
「理由は色々ですけれども、早めに現地で見張っていた方がよろしいでしょうね」
エポナさんは湖の魚を料理したいんだよね。
何はともあれ、早めの準備に越したことはない。
「セガルド湖ってどこにあるんですか」
魔導士の髭爺さんに聞いたら「転送した方が早いですじゃ」
転送室からの転移で、私達はいきなり湖キャンパー。
ぐるっと一周しても二キロ程の小さな湖の畔に出た。
季節的には秋口なのかな。
湖畔の木々が、ちらほら色付いている。
日が沈むと、うっすら寒いくなってきた。
急いで焚火を熾す。
火を囲んでの夕食は好きだが、念獣の出現待ちとあっては落ち着いていられない。
「美味しい。モイラ、こんなの初めて食べる」
この子は、キャンプでの串焼き料理が初めてか。
「これからいくらでも食べられるから、慌てなくていいよ」
和やかな一時を過ごしていると「何か来ますわね」ひょいと出したロバの耳で、音の方に向くエポナさん。
その先は、湖を囲うように広がっている森の中。
「ググ・グボガギャー・グエッ・グワッ」
不気味な唸り声が聞こえてきた。
「これから念獣が出て来るってのに、邪魔じゃないっすか」
ベルゼがめんどくさそうな顔つきになる
ドスン・ドスン。
地面を揺らし、巨大な生物が近付いてくる。
「鬱陶しいんで、この辺の魔獣は狩っておきますか」
ルシファーが刀に手をかけた。
「あたしは賛成ー。リンちゃんはここで待っててね」
ティンクが飛び出そうとすると「ティンクちゃん、精霊界の魔獣討伐の時に使った魔獣地図、ここでも使えますの」
エポナさんが名案を提案。
地図に浮き出た魔獣は十二匹ばかり。
恐ろしく魔獣が多い地域だ。
「この辺は良質な魔素が多いから、アグワテスが一番だったのね」
「魔獣のみなさん、昼間は巣の中に籠っていたみたいですわね」
エポナさんが包丁をチラチラさせている。
殺る気満々だ。




