得意なのは時間魔法と結界魔法
「僕はルーキフェル・ディアベル、奈都姫さんの護衛と剣士やってるよ。愛称はルシファー、ランクはトリプルS。宜しくお願い致します」
シェルリルの刀を抜いて見せ、さやにゆっくりと納める。
ギルドカードを旅行バックの中から丁寧に出して見せると、これまたゆっくりしまう。
他のメンバーと同じランクのカードが、とても嬉しいって言ってた。
「自分はいろんな名前があるけど、とりあえずバアル・ゼブルっす。ルシファー様の下でなっちゃんの護衛と剣士やってるっす。ランクはトリプルS。この槍が自慢っす」
槍をドンと立てて、ギルドカードをモイラに見せる。
「えー! みんなトリプルSって、最強軍団じゃないの。モイラも仲間入りって、凄くない。凄い事よね。関心していいわよ」
おい、人の褌で相撲を取るんじゃない。
「奈都姫様、リンちゃんは黄麒麟様から加護をいただきましたので良いのですが、鑑定しましたらこの子、モイラには加護が付いていませんわ。魔物狩りともなれば危険な事も多々ありますから、加護を付けておいた方が宜しいかと」
「そうなんですか。では、ちゃっと付けちゃいますか。ちっょとごめんね」
モイラの肩に手を乗せて「加護つーけた。ハイ、もうこれで安心だよ」
モイラが自分の体を撫でまわしてキョロキョロする。
「お姉さん、加護付けまでできるの、凄すぎるよ」
「おねえさんじゃなくて、なっちゃんでいいわよ」
「わかった。なっちゃん、ありがとう」
生意気だけど、素直な所もあるね。
まだまだ発展途上って所かな。
この子の親はどうしたのかな、気になる。
大切な娘さんを預かるんだから、挨拶くらいしておきたい。
「お父さんやお母さんは来てるかな」
「来てるけど、今は会えない。幽霊だから」
亡くなっていると解釈して良いようだ。
「ごめんね、いけない事聞いちゃったね。気にしないで」
「大丈夫、慣れてるから」
良かった、この子に拗ねられては今後の念獣捕獲が面倒になってくる。
「寮に行ってからお話しよ。モイラが案内するね」
この子は寮の在処を知っている。よかったー。
私達の答えを聞く前に、歩き始めたモイラの後に続いてぞろぞろ。
場所さえ分かっていれば瞬間移動できるのに。
「モイラは強力な魔法使いなんだよね。転移魔法って使えるよね」
「そんなに遠くないから大丈夫、お城が見えてるでしょ。あれが寮になってるの」
……うっそー。
寮の門前に転移すると聞かされていたけど、放置された石柱を見て、間違ってもあれは寮じゃないと決めつけた。
お城全部が寮。
驚ける。
寮とされている城は王都を見下ろす高台にあって、王城より強固な城壁に囲まれていた。
道の両側に立っていた石柱から先が、この城の敷地になっている。
この世界では、ここが私立異世界博物館の寮だと広く知られている。
革命の時も、外部からの干渉を受けずに済んでいた。
避難民の収容所になっていた歴史がある。
「ここにいれば、世界中の何処からも攻撃されないから安全なのー」モイラが自慢する。
寮について直ぐ、職員から「中へどうぞ」と案内された。
外見ばかりでなく、内装も今の時代に合った家具が置かれ、使いやすそうで豪華になっている。
銭あまりの私立異世界博物館、やる事が無駄遣いだ。
異世界博物館とは常時連絡できる状態で、転送室もあるから気軽に行き来できるようになっている。
出張している感が薄れて、精神的に救われた。
「ちょっと待っててね、モイラの本を持ってきてー、色々と説明するね」
応接間のような部屋に通され、待たされること五分。
「大事な本がなくなっちゃったの」
モイラが照れ笑いしながら戻ってきた。
「大事な本て、どんな本なの?」
「作り出した念獣を取り込む事ができる図鑑なの、扱えるのはモイラだけなの」
それは一大事だ。
急いで探さなければとは思うが、城内不案内につき協力してあげられない。
「大丈夫だよ。本がなくなった時まで戻って、本の行先を見てくるから、もうちょっと待っててなの」
戻ってとは、いかなる意味なのかな。
エポナさんが、すんごくビックリ顔になっている。
「モイラちゃん。貴方、時間の魔法が使えるの」
「はい、モイラは過去に戻って色々と観察できます」
言い終わると、私達の前から消えた。
待つこと五分。
手には探し当てた本を持っている。
「分かったー。ピクシーが悪戯して、本棚の一番上の本の裏側に隠していたの」
「ねえねえモイラちゃん、私達も一緒に昔に戻ることって出来るの」
本の話を聞く前に、エポナさんが時間魔法に食いついた。
「できますよ」
「凄いわね。それで、戻った時に、そこにいる人達とお話とかできるの」
「それはできないの。見られるけど触れないの」
エポナさん、ここでガックリ肩を落とした。
「どうしたんですか」
近くにいたルシファーが、エポナさんの様子を伺う。
「時間魔法は、使える魔法使いが希少なのです。昔に戻ってその場で色々と過去を変えられるのなら、国王に本を貸し出す前に戻れば一件解決と思ったのですが、甘かったですわよね」
そんな手があったか。
でも、それって反則技に思えるのだけど、歴史を書き換えても良いのかな。
未来が変わっちゃうよね。
「モイラちゃんは、未来も見えるの?」
この先の自分がどうなっているか、とっても興味をそそられる。
「まだ出来ていない未来には行けないよ」
そういう事か、残念だ。
「エポナさん、時間魔法ってどうやるのー」
ティンクが何か気づいた。
「光より早く、光が進む方向に向かって飛びますの。その時に光の帯を辿っていけば、その場の過去にいけるのですわ」
「あたしにも出来るかな。光より早く飛べるよ」
「ティンクには、光の帯が見えないからできませんよ」
「なーんだー、残念」
ひょっとしてもしなくても、モイラってば、本当に凄い魔法使いだったりしてー。
「最初の念獣が出現するまでには、まだ何日もあるの。出る日が近くなったら、どんな念獣かこの本が知らせてくれるの」
本のおかげで予知ができるのは有り難い。
念獣出現まで、少の間はゆっくりしていてられる。
時間に余裕が出てきた。
広い城内を散策していて気づいた。
職員がいない。
どこに隠れちゃってるの。
「モイラちゃん、職員の人達は何処にいるの」
「今は、異世界司書団の歓迎会をやる準備で、みんな外にいるよ」
どこから私達の宴会好きを聞いたの。
きっとしずちゃんだな。
嬉しい話が聞けた。
今日は宴会だー。
「準備が整いましたので、こちらにどうぞ」
職員が、城外に設えた会場へ案内してくれる。
草原の真ん中に椅子とテーブルが置かれ、テーブルの上には花が飾られている。
料理は、近くに設置された屋外キッチンで作られていて、調理の様子が私達からよく見える。
エポナさんが料理する姿は例外として、ここの調理人の腕は確かなものだ。
動きに無駄がなくて、出来上がってくる物はどれも美術品のように美しい。
味にいたっては、エポナさんがレシピを聞きに行くほどの絶品だ。
満足のいく料理に【ポンポンポンポン】舌鼓を打ちまくっていると、快晴だった雲行きが怪しくなってきた。
それでも、ここにいる職員達に慌てる様子はない。
いくらもしないで、会場に強めの風が吹き込んできた。
大粒の雨が、テーブルを濡らし始める。
突然の雨で会場は水浸しー、かと思いきや。
周囲はちょっとした嵐のようになっているのに、ここだけ雨風がなくなった。
「モイラが結界でお城を囲ったから、もう大丈夫だよ」
まだ幼いのに、城の周囲全てを結界で包み込むとは、末恐ろしいお子ちゃまや。




