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念獣退治の冒険者旅始めます

 ルシファーに向かって言っている。

 見た目の雰囲気からして一番偉そうにしているけど、違うから。

 私が異世界司書の菜花奈都姫ですから。


 王がルシファーに借りていた本を渡すと、私達は魔法陣から出る暇もなく私立異世界博物館の転送室に戻された。

「回収完了。でいいのかな」

 あっけにとられている私に代わって、ティンクがブツクサさんに問いかける。

「はい、完了です」

 ルシファーから図鑑を受け取ったブツクサさんが、本のページを一枚一枚めくって損傷部の確認。

「じゃあ帰りますよ」

 使い走りで緊急出動要請をするんじゃないと言いたかったものの、安心して力が抜けたのと馬鹿らしさで怒る気になれない。

「待ってください。これからが本格的な出動ですよー」

 どうしたんだ。

 本は無事戻ってきたのに、ブツクサさんが泣き出しそうな顔になっている。

「残念なお知らせですけど、しっかり聞いてください」

 やばそうだ、そんなお話なら聞きたくない。


「本の中を確認しましたら、全てのページに声を出して読まれた痕跡がありました」

 それがどうした。

 どうして分かるんだ。

 声を出して本を読む人なんて大勢いるし、図鑑だったら子供に読んで聞かせたかもしれない。

「何か問題でもー」

 ルシファーが脅すように問いかける。

「元は白黒だった図鑑の絵に色がついてるんです。これは読んでしまったという証でして、大問題なのですよ」

 いかん、この語りっぷりからして緊急出動確定だべさ。

 ベルゼはまだ、私達にとって好ましからざる状況であることを理解していない。

「何っすか、大問題って」

「先ほど行っていただいた世界に、狂暴で凶悪な未知の魔獣が多数解き放たれてしまいました」

 ブツクサさんが青くなって頭を抱える。

「ひょっとして、本の中に封印されていたのかな? その魔獣とやらは」

「ルシファーさん、その予想はかなり近いです」

 ブツクサさんが本を丁寧に閉じて木箱の中に入れると、修復係に手渡す。


「あの本は、念獣と言う魔物を作り出すための道具なのです。ですから普段は道具扱いで、博物館の方に展示保管してあるのですけれども、とても古い書籍ですから修復が必要になってきたのです。本の修復は学芸員ではできないので、技術者のいるこちらに回ってきていたのですよ」

「そんなことはどうでも良いからー、何でその念獣とかいうのが解き放たれちゃったのー」

 珍しく、何時もニコニコティンクが苛立っている。

「お会いしたと思いますけど、あの国の王が困った奴なのですよ。国内外で自分の立場や影響力が弱ってきているので、自分の力を世界中に誇示したくて念獣を作り出そうとしたのです。三十ページ全てを読み上げてしまったのですよ。何も出てこなかったので返すと、昨日の夜に連絡があったのです」

 何も出てこなかったのに、解き放たれたとは奇怪な。

「何も出ていないのですわよね。問題ないですわよね」

 エポナさんに限らず、全員が変な話だと思っているわよね。


「実験段階で出現した念獣は、成長して狂暴化する前に滅してあるのですが、異世界博物館の結界から出してあの本を開くと、図鑑に載っている念獣を具現化できるのです。方法はとても簡単で、その国の代表となった者が、必要とする念獣のページを開いて、書かれている文言を読めばいいだけなのですよ」

「でも出てこなかった」

 ルシファーが今回の事件をなかった事にして、この場から逃れようと話の矛盾点をつく。

「念獣によって魔素の吸収率が違っていまして、具現化するまでにはそれぞれ異なった時間がかかるのです。だから、直ぐには現れなかったのです。この事をあの国の王は知らなくて、全ての念獣を呼び出してしまったのですよ。本人は気づいていないのですけどね」

 念獣を作ろうとしている異世界の魔素濃度によって異なるが、博物館に残されていた記録によると、図鑑を読み上げて初めての念獣が現れてから、全ての念獣が出現するまでには一か月程の時間差があるらしい。

 これらの情報整理に時間がかかって、ブツクサさんは私達に連絡できないでいた。


「念獣が三十匹、あの世界に出現するんですか」

 どんな奴かはまだ分からないけど、いきなり市街地に魔獣が出現したら、とんでもない被害が出るのは確実だ。

 そうと知ってしまったら、出動しないわけにはいかない。

「はい、三十匹の念獣が、あと何日かしたら現れだします。図鑑を著した魔法使いの子孫の方が、転送先で待っています。今から合流してください。詳しくて正確な情報が得られるようにしてあります。図鑑を使って念獣を呼び出してしまった王の責任も免れないところですが、内政に関わる事ですので、その辺りは今回追及しません。念獣の出現で住民を動揺させてはいけないですし、事を公にできないので、あちらには冒険者として入界していただきます。あと、あの世界には、王都近くに博物館の寮があります。何かと好都合ですから、寮を拠点に討伐活動をしてください」

 

 誠に不本意ではあるが、こうして私達の冒険者旅が始まった。


 転送された先は、さっき行って帰ったばかりのテポウス王国。

 王都外壁から出て直ぐ近くにある、私立異世界博物館職員寮の前とされている場所だ。

 二股になっている道路の一方には、傾いた石の柱が両側に立っていて【カイクノロス王国・私立異世界博物館職員寮】と書かれてある。

 しかし、寮らしき建物はなくて、道の遥か向こうの丘の上にお城が見えるだけ。


 十年前、革命による政権交代があって、国名が変わったとは聞いていたけど、表札を変えずに放置しているあたりからして、どんな具合の寮かはあらかた想像がつく。

 いまにも朽ち果てそうなあばら家に違いない。

 ここで、図鑑を書いた魔法使いの子孫に会う予定になっている。

 寮を探すのは、子孫さんと出会えてからにしよう。

「お姉さんが異世界司書さんですか」

 可愛いお嬢ちゃんが声をかけてきた。

 私が異世界司書だと知っているという事は、この子が魔法使いの子孫で、詳しくて正確な情報源って話になってきた。

 子供用にしては大き目の棍棒を持って強がっているけど、だいぶ頼りないなー。


「私はカイノ・モイラ、みんなからはモイラって呼ばれてる。父上が悪魔と精霊のハーフで、母上が人間と神のハーフ。だから私は悪魔と精霊と人間と神のクオーター。この世界では超強力な魔法使いで通っています。冒険者ランクはSなの。凄いでしょ。Sだもの、驚いてくれていいわよ」

 可愛いけど生意気だ。

 ちょいと鼻っ柱をへし折らせてせていただきますわよ。

「私達も自己紹介をしましょう。私は異世界司書で、この司書団々長の茗花奈都姫。全宇宙・全種ギルドでのランクがトリプルSよ」

 虹色に輝くギルドカードを見せてあげる。


「わたくしは医療魔法使い兼・奈都姫様の御世話係で、ラビットホースエポナ、皆さんからはエポナさんて呼ばれてますわ。私も全ギルドトリプルSですわ。よろしくね」

 ギルドカードを提示してにっこり。


「あたしは斥候のソロキャンプピクニックだよ。ティンクって呼んでね。それからこの子はコキ・リン。麒麟の子だよ。リンちゃんって呼んでる。あたしのランクもトリプルSだけど、この子はまだ小さいからランク無し。可愛がってやってね」

 ちらっとカードを見せて直ぐにクローゼットへしまい込む。

 ティンクには並みサイズギルトカードが大きすぎて、扱い難そうだ。

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