緊急会議と思いきや
ティンクが人間にも見えるようにして、子麒麟と中空を遊覧飛行。
エポナさんはロバになって、ベルゼが大きな蝿へと変身。
ルシファーがサタンになって、しずちゃんはアークデーモンの姿へと変わった。
シェルティーさんは可愛いシェットランドシープドックの子犬になって「シェルティーです。シェリーって呼んでね」
この人は本性晒していないよね。
黄麒麟さんが黄色い麒麟になると、ズーボラさんはフェイになった。
ズーボラさんて女の妖精だったのー! とっても意外だわ。
ブツクサさんが長い髭のおじいさんに変わったけど……。
「あんた、何者」
「オーディンですわ。オージンじゃありませんよ」
そして、私は変わらない。
「ヒック、ははは、普通の人じゃないですね。ヒック」
神仙さんのひゃくりが止まらなくなった。
「シェフ、自分のお店はどうしたんですか。せっかくいい店だったのに、ここの専属になっちゃったら、あっちは続けられないじゃないですかー。もったいないですよ」
「ヒック、その事ならだヒックいじょうぶだよ。甥っ子が引き継いでくれたからね」
それなら良かった。
自宅に帰った時、食べに行ける。
でも、転移魔法で瞬間移動できる今となっては、こっちに来るのも一瞬だから、やっぱりここに来ちゃうのかな。
「本題に入りますね」
皆さんお店での飲食に不都合な姿から、人間の姿に戻って会議再開。
「僕ね、引退するんだよ」
黄麒麟さんが、突然の引退宣言。
こちらの宇宙に黄麒麟不在の非常事態発生か?
「引退と言ってもね、こっちの宇宙には居るから問題はないんだけどね。反宇宙に何時でも直ぐに行けるようにしておかなきゃなんないからね。そんなわけで引退って事なんだ」
今までも、殆ど引退していたのと変わらない状態だった。
今更どうこう騒ぐ事でもなさそうだ。
ここは軽く受け流してやろう。
他の皆も同じ考えのようで、特に質問も何もないまま話は終わった。
「そんな事より、この子に名前つけてやってよー」
そんな事って、ティンクちゃん。
黄麒麟さんは重大発表だと思って言ってるんだから、もう少し気遣った言い方できないかな。
「そんな事って、あー、僕の一大決心を発表したのに、心折れるなー」
ほら、傷ついちゃった。
「あのーヒック、私も発言していいですか」
神仙さんが申し訳なさそうに手を上げている。
「どうぞ、もう仲間なんですから、遠慮なさらずに」
議長の許可が出た。
「では。子麒麟の名前と言うか、黄麒麟さんて、名前を付けるの苦手と言いますか、出来ない人みたいですよ。だって、このお店の名前も未だに付けてないくらいですから」
このお店、何十年やっているのか知らないけど、看板には【洋食・カフェ】としか書かれていない。
「昔は、僕のお店には名前があったんですけどね、このお店に倣って、僕のお店の名前も消したんですよ」
今気づいた。
神仙シェフの店の看板も【洋食・カフェ】だった。
「神仙シェフの言う通り! 僕は名前を付けるのが超苦手です」
変な所を自慢するんじゃない。
「とりあえず子麒麟なんで【コキ・リン】でいいんじゃないの」
しずちゃんが少しばかり酔ってきたか。
投げやりな言い方だ。
「コキ・リン……リンちゃんだね。いいんじゃない、あたし賛成」
ティンクがそれでいいなら、仮名としてのコキ・リンでいいんじゃないかな。
特に反論もないようだし、なんとなくの流れで子麒麟の名前はリンちゃんに決定した。
「そうだ、なっちゃん。この店にもネットが入ったヒックんだよ」
それはそれは、とってもいい事を思い出してくれた。
感謝しますわよ。
これでネットが無料で使いたい放題だわ。
そうと分かれば、こんな所でモタモタしてはいられない。
さっさと緊急でもない会議なんか終わらせて、家に帰るわよ。
と言ってはみたけど、今はクローゼットに仮住まいの私。
何時でもすぐそこが御家なのね。
飲み食い組はお店。
ネットゲーム組は私の部屋に別れてダラダラ。
会議と称した飲み会が始まった。
気分転換には、近くの海岸に出て軽く散歩とか素潜り漁なんかしちゃったりして。
お店の貸し切りは三日三晩続いた。
普段の仕事を忘れ、皆で面白おかしくやっていると、ブツクサさんに緊急連絡が入ってきた。
修復前の本を貸し出してしまったらしい。
一報があって急遽、魔法で酔いを醒ましたブツクサさんは、図書室へと飛んで行った。
緊急出動かと思って、ブツクサさんが出て行ってから五分位は緊張していた。
連絡がないのを理由に、たいした事件でもないと勝手に決めつけてドンチャン・チャカポコの続きを始める。
詳しい状況を聞き取ってから戻って来ると言っていたけど、この日は連絡なし。
ブツクサさんは帰ってこなかった。
翌朝「そろそろ御開きにしましょうよ」と言う神仙シェフの提案で、私達は実家の上空へ移動した。
しずちゃんは博物館に帰って、シェルティーさんも経理の仕事に戻った。
神仙シェフも黄麒麟さんの加護を授かったと言っていたけど、三日も四日も店に入り浸りの人間じゃない客を相手にしていたら、精神的に疲れただろうな。
黄麒麟さんは、神仙シェフとの話があるとかで店に居残った。
どれだけ二人で話をすれば気が済むのだろう。
黄麒麟さんは、あのまま御店に居座るつもりだわ。
だって、他に行く所がないんだもの。
緊急ではないみたいだけど、その後の状況がどうなっているのか気になる。
総出で図書室に顔を出してみた。
「博物館に展示していた図鑑を、修復の為に図書室へ持ってきていたんですけどね。間が悪い事に、現在の預け主になっていたテポウス王国の国王が借りに来て、規定に従って貸し出しちゃったんですよ」
私達の顔を見るなりブツクサさんが、愚痴にも似た台詞で訴えかけてきた。
貸し出したなら何時かは返ってくるし、修復ならその後でも良いように思える。
たいした事態でなくて良かった。
「ここまでならよくある事なんで、心配はしないんですけどねー」
続きがあるのかよ。
「実は、あの本は預けられた時に、当時のカイクノロス王国の国王から、門外不出に指定されていて、次代の代表が借りに来ても、この図書室から外に出してはいけないと言われていた図鑑だったんですよ」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。
ここはしらばっくれて、迅速においとましましょ。
全員が一歩後ずさり。
回れ右して帰ろうとした瞬間。
「緊急出動を要請します!」
何で今頃なのよ。
昨日言えば良かったでしょう。
否応なしの転送室直行ですわ。
「回収して頂く本はですね、四百年前に精霊と悪魔のハーフ魔術師が作り出したもので、念獣を記録した図鑑です。これが写真です」
黒い表紙には何も書かれていなくて、知らない人が見たら本を広げなければ内容の想像さえできない。
「貸し出した方も分かっていますし、在所も分かっています。飛んで行って回収するだけなのですが、一つだけ問題がありまして……」
ここまで話しておいて黙り込んだ。
「あちらへ回収にうかがう事は連絡してありますから、あとは回収してきてからお話しますね」
いきなり転送。
出た先は、城の中にある転送室。
周囲には魔導士や魔法使いがいて、正面にこの国の王らしき人物が待っていた。
「これはこれは、ようこそおいで下さいました。異世界司書様がわざわざ引き取りに来て下さるとは、恐縮です」




