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エポナとティンクの温泉開発教室

 ベルゼは、テントやランタンといったキャンプギアを一式揃えてあるから良いだろうけど、突然の事なので私達には何の準備もない。

「どうしようかなー、寝袋もテントもないよ」

 最後まで今夜のキャンプに反対していた私。

 潔く諦めるべき不便なんだけど、ホームレスとキャンパーは違う。

 そのへんの線引きはしっかりしないと、昔に帰ったみたいで惨めになってくる。

「テントでしたら私がお出ししますわ」

 言うが早いか、十人は入れるだろう巨大なグランピングドームテントが、ベルゼテントを威圧するように出現した。

 忘れていた。

 エポナさんは広大キャンプ場のオーナーになるような人だった。

 これくらいの事は簡単にやってのけて当然だ。

「ベットは僕の城のを使いましょう」

 瞬間、テントの中に四つの大きなベットが、ドンドンドンドンと並ぶ。

「ルシファー様ー、そりゃないっすよ。お城の物使ったらキャンプっぽくないじゃないですかー」

 ベルゼのキャンプギアが、徐々に影を薄くしていく。


「あたしはランタンを出すね」 

 飛びながらランタンを、一つ一つテントの天上に吊り下げていく。 十個も下げたから、テントの中はとても明るい。

 ティンクって、ランタンのコレクターだったのか?

 これが止めとなって、ベルゼのテントはすっかり立場を失ってしまった。

 失意の真っ只中にいるベルゼが可哀そうになって、キャンプファイヤーとスウェーデントーチとバーベキューの薪は、ベルゼのテント前に設えた。


 火を熾すにはまだ早いので、芝生でゴロゴロをやっていたら「ちょっと余興で温泉でも出しましょうか。ティンクちゃん、手伝ってね」

エポナさんがおやつのチョコレートをテーブルに置くる

「いつものあれだね」

 ティンクが羽をブンブン言わせ、超高速移動の準備をする。

 分身を出して広場に散らばっていくエポナさん。

「エポナさんはねー、温泉の出る所を、特別な嗅覚でかぎ分ける能力を持っているんだよ」

 ティンクがの言ってるけど、本当かいな。


 一人の分身が大きく手を振ってティンクに合図すると、勢い付けたティンクがズッポリ。

 土砂を吹き出しながら地面を掘り進んでいく。

 堀ったその場から、エポナさんが空洞になった縦穴の回りを魔法でコーティング。

 せっかく掘った穴が崩れないようにしている。

 程なくして、ティンクが飛び出してきた直ぐ後から、ブッシューと白いお湯が吹き上がってきた。


「それでは、僕が湯舟を作りましょう」

 ルシファーが断崖の方から適当な岩を魔法で飛ばしてくる。

 たちまち岩づくりの露天風呂が二つ完成した。

「自分が脱衣所とか風呂の塀を作るっす」

 ベルゼは近くのジャングルに生えている木を、これまた魔法でずっこん伐根して製材する。

 分身を出して建築工事を完了させた。

 こいつ、分身の術が使えるのか。

 ちょっとだけ見直したぞ。


 出来たばかりの温泉に入ると、私達しかいない島の解放感もあるのか、エポナさんが裸のまま芝生の広場に飛び出していった。

 ティンクも後に続く。

 子麒麟はずっと裸のままだ。

 私はちょっとだけためらったけど、元気に飛び出してやった。

 さすがのダブル悪魔も、これには大いに慌てた様子。

「どうしたんすか。化け物でも出たっすか」

 ベルゼが大声で私達を心配する。

「服、持っていきましょうか」

 ルシファーが湯舟から出てあたふたしている。

 お前も裸なのを忘れたか。

 チラチラ変な物が揺れているぞ。

「二人には見られても大丈夫ですわよ。肝心な所は魔法でモザイクをかけていますから」

 エポナさんのちょっとした悪戯だった。

 再び私達は露天に入って、ゆったりしてからあがったが、悪魔の二人はそれどころではなかったみたいだ。

 私達の湯上り姿を見て、顔を真っ赤にしている。

 純情な悪魔じゃのー。

  

 お決まり、ここでもやはりとりあえず生で乾杯。

「今日は鮃と鮪と伊勢海老と毛蟹とタラバガニと鮑にホタテとサザエもありますわよ」

 そんなにたくさんの海産物、いったい何時仕入れたんだ。

「どうしたんですか、この超大きな伊勢海老」

 もっとあるなら、隣のおばさんに御土産で持って行ってあげたい。

「あたし達が潜っていた時に、エポナさんの分身が獲ってたよ」

 ロバ、海に潜れるのか……。

「御隣の分は分けてありますから、存分にどうぞ」

 海鮮バーベキューだー。

 お刺身の盛り合わせだー。

 超嬉し美味しいです。


 エポナさんが食後の片づけの時に「あと二三日したら、黄麒麟様が御帰りになるそうですの。一度皆さんで、地球にある黄麒麟様のお店に行きましょう」と言い出した。

 しずちゃんから、エポナさんに連絡が有ったのだ。

 その日には博物館の重役四人衆も店に行くとかで、なんだか重要な話でも出てきそうな雰囲気だ。   

 私達の休暇も、もうすぐ終わりかなー。

 残り少ない休暇と思い、これでもかと言うほど無人島ライフを楽しんで二日。

 暫くは来られないだろうルシファー島をあとにして、海辺のカフェに飛んだ。

 

 お店には貸し切りの看板が出されているけれど、私達が来るのは知らせてある。

 私達で貸し切りという意味だ。

 特に問題なし。

 皆で一緒に入ってみれば、既に四人衆と黄麒麟さんが揃っていて、和やかな雰囲気になっている。

 緊急事態ではなさそうだ。

「おおー、久しぶりだねー。そっちの黒い服の人がバアル・ゼブル君かな? お初ですー」

 初対面にしては、ベルゼに対して随分と馴れ馴れしい挨拶をしてくれる黄麒麟さん。

「始めまして。本名で呼ばれるとくすぐったいんで、ベルゼでいいっす」

 こちらもまた物怖じしない返答だ。


 今日は大人数での集まりだからと、テーブルを寄せて一つにしてある。

 回りを囲うようにして椅子が置かれているから、誰からも全員の顔が見られる。

「本日皆様に御集り頂いたのは、これからの対応と新しいメンバーについてでありまして、飲食を共に楽しみながら進めさせて頂きたいと思います」

 ズーボラさんが今日の司会だか幹事のようで、一言挨拶が終わると、奥の厨房からシェフが料理の乗ったワゴンを押してきた。

 子麒麟にまたがったティンクがフワフワ浮かんじゃってるし、エポナさんは無限生ビールサーバーでお酒出してる。

 地球の一般人で、異世界については小説とか漫画とかゲームでの事としか認識していない人が、この会議に同席しちゃていいのかな?


「初対面の人もいるから紹介しようね。この店の専属シェフになってくれた神仙武しんせんたけしさん。こっちの事情は既に話してあるから、隠し立てする必要はないよ」

 隠し立てもなにも、包み隠さず曝け出していますけど……。

「神仙武です。黄麒麟さんから事情を聞いた時はびっくりしましたけど、こうして会ってみると皆さん普通の人なんですね」

 おい、ティンクを見なさい。

 子麒麟が見えないか。

 んー、ティンクは人間には見えないんだった。

 一緒にいる子麒麟も見えていないのか。

「ティンク、私達が普通の人に見えるんだって。後から驚かれても困るだけだから、今の内に挨拶しておきなよ」

 私がこう言うと、ティンクばかりではなく皆が本来の姿になった。

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