肉の安売り王ベルゼ
「えへへ、ばれちゃったか」
「なになに、なになに」
近くにいた悪魔二人組も、私達の話を聞く気になっている。
「んーとね、精霊界では工芸品とか御土産作りの材料を、冒険者ギルドの会長がやってるお店から仕入れているんだけど、これからは、今回私達が討伐した魔獣の分、つまりー、私の持っている材料を使うようにしたのー」
「なるほど、なるほど」
悪魔兄弟の方が、私よりもずっと熱心に聞いている。
「そうしてー、何時ものお店の売上を激減させるの。この後に『あの店そろそろ危ないよ』ってデマ流して、風評被害から資金繰りを悪化させてー、シェルティー&エポナ銀行からの借入を起こさせてー、私達精霊は、利息の三分の一をもらうの」
「ティンク怖い」
こうしてティンクは、全宇宙の精霊界でただ一人、双頭のサタンから恐れられる存在となった。
「それとね、エポナさんの持っている魔獣の肉をね、精霊達が冒険者に変身して、ギルドへ売りに行ってるの。この売り上げは半分こっこなんだよ」
政治に無関心な精霊達が、こんなトラップを仕掛けていようとは、思ってもいないだろうという狙いだとか。
銭の亡者だわ。
データーを取るという目的だったので、もっと長い事宿屋業を続けるのかと思っていたら、一ケ月とちょっとで実験的営業は終了した。
この間に【異世界の冒険者で魔獣鑑定眼のない者は、精霊界に行って狩りをしてはならない】とした法律が人間界で作られた。
立法の裏には、黄麒麟局々長・ズーボラさんの圧力があったと噂されている。
これに合わせてるようにして、精霊界でも魔獣鑑定眼を持たない冒険者の受け入れを禁止した。
これらの立法によって、この世界の冒険者ギルドに所属していない冒険者の殆どは姿を消した。
新法の噂は事前に人間界に流れていた。
魔獣肉を扱っている店では不足する魔獣肉の値上がりを見越して、何時もより多めの在庫を抱えるようになった。
特に大量の在庫を抱えたのは、御宿で配った魔獣肉が流れていった先の商業ギルド会長の店だった。
この店、シェルティー&エポナ銀行からの借入が、数億円にのぼっている。
「ベルゼ様、売り時ですわよ」エポナさんの一声。
待ってましたとばかり、ベルゼの肉屋を新装開店。
商業ギルド会長の店とは、道路を隔てた真ん前の仮店舗。
嫌がらせにしか見えない位置関係だ。
品不足と売り惜しみから値上がりが続いていた魔獣肉。
これを破格で提供している安売り店の噂は、見る見るうちに人間界に広まっていった。
観光客ばかりか、一般の客も押し寄せる大繫盛店になった。
この状況に危機感を持ったのが、在庫を抱えていた魔獣肉販売業者達だ。
決断の早い業者は、ベルゼの肉屋が開店した翌日から在庫一掃激安セールを始めた。
幾らでも出て来るベルゼの安売り魔獣肉は、他の業者に対する戦線布告も同然。
脅威そのものだったのだ。
ベルゼの肉屋の真ん前で震えていた商業ギルト会長の店も、仕入れ価格を割る値段で売り出しを始めたが、時既に遅し。
競争となれば、ベルゼの肉屋にかなう者はない。
元値は零だし、在庫は無尽蔵といってもいい。
いくらでも安くできる安売り競争は、瞬く間に人間界規模の現象へと発展していった。
完全に値崩れを起こした魔獣肉は、もはや業者にとって邪魔物にまで成り下がってしまった。
業界は大混乱。
ここに登場したのが、シェルティー&エポナ銀行。
値崩れで困っている小売の肉屋や肉の元売り業者に、返済期間無期限・超極低金利の緊急融資を始めた。
毎日のように融資を受けに来る肉屋で、臨時の窓口は長打の列。
エポナさんの分身を使っても足りないほどだ。
及ばずながら、私も事務手伝いで何日か臨時窓口に通った。
実はこの融資、ベルゼが半分を取った売上金を流用している。
まさに悪魔の金融計画。
この窓口に、商業ギルド会長が顔を出した。
この時はシェルティーさんとエポナさんが二人で対応した。
小売の肉屋や肉の元売り業者に限った融資だったので、総合商社のような会長の店に緊急融資は出されなかった。
それどころか、今までの貸付金の返済を要求していた。
「うりゃ、貸した金返せや」
エポナさん、般若の形相。
「返せなんだら、心臓買う医者紹介したるぞ」
シェルティーさんの鬼顔、始めて見た。
晴れた日に傘を貸しておいて、雨が降り出したら取り上げる。
どしゃ降りになったら、着ている雨合羽まで剥ぎ取るのが銀行だって、破産した口の悪い元実業家が言っていた。
真偽のほどは定かでないが「よっ! 銀行してまんなー」
こうして、商業者ギルド会長は店を失い、元会長の肩書だけが残った。
お店がシェルティー&エポナ銀行の管理物件になった後、元会長の姿を見た者はいない。
溶かされて下水道に流されたらしい噂が、巷に流れたのは最近になってからだ。
この倒産劇は、冒険者ギルドの会長にまで影響を及ぼした。
異世界からの冒険者が減った上に、魔獣肉の暴落で売上が激減したのだ。
これに加えて、今まで一番の上得意だった精霊界からの買い付けが、一切なくなってしまった。
業界は蜂の巣を突いたような大騒ぎ。
「もうすぐあの店飛ぶよ」
ティンクの仕掛けたデマが呼び水になって、騒動は最悪のシナリオを書いていく。
冒険者に売っていた防具や武器の信用買いはできなくなる。
工業ギルドへの支払いは迫られる。
店舗の維持費や倉庫代、従業員の給料やら冒険者への支払いやらで、貯えてあった運転資金は一気に底を付いた。
ここにやって来たのが、シェルティー&エポナ銀行の臨時営業マンとなったルシファー。
彼は得意の魔法で冒険者ギルドの会長に、この借入はとっても御得と思い込ませ、とうてい返済できないほどの資金を貸し出した。
ただし、この契約には最後の方に【利子及び元本の返済、今月末】との約定が数日後から浮き出るように書いてある。
ほぼほぼ詐欺の手口と言える貸出しだが、契約としては成立しているから違法とは言えない。
まさに悪魔のやりそうな悪徳融資だ。
貸し出したのが月中で、シェルティー&エポナが回収に行ったのは約款どうりの月末。
融資から僅か二週間で、店はあっさり倒産。
このお店もシェルティー&エポナ銀行の管理物件になった。
後日、冒険者ギルドの元会長は異世界に行って、とっても危ない冒険者になったと風の噂に聞いた。
狩りの最中、魔獣に頭から丸ごと食われて、骨の欠片も残らなかったと知ったのは最近になってだ。
短期間でこれ程の大騒ぎを引き起こしておいて、一切のお咎めなしとは、ティンク+シェルティー&エポナ、随分と凄まじい仕事師だなーと関心するやら、やり口と結果に怖くなるやら。
この恐怖を操る三姉妹から、ルシファーと私は呼び出されてしまった。
場所は黄麒麟局々長室。
局長のズーボラさんも同席している。
「お待たせしました。ルシファーさんへの配当です」
ズーボラさんが、かしこまっていたルシファーに目録を手渡す。
ここに来て、御仕事終了後の配当ですか。
思ってもいなかった展開だ。
「ルシファー様には、冒険者ギルドの会長だった方が経営していた冒険者紹介所の権利と、簡易城を広げられる土地所有権の目録ですわ。これで、ルシファー様はこの世界で二人目の土地持ちになりましたのよ」




