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魔界の女王ヘルが、振袖で御出迎え

 魔界から迎えの馬車が来ている。

 私達が仕度を終えた時には、御城の正面で待機していた。

 馬車としたけど、引いているのはドラゴンだから龍車かな。

 こちらから無理を言って伺うのに、すっかり賓客扱いだ。

 別世界の魔界では、こんな訳にはいかない。

 概ね別世界では、魔界は神界と対立関係にある。

 神の活動エネルギー源である人間界とも、良好な関係とは言えない。

 魔素の組成を組み替えてくれるので、魔界と精霊界は持ちつ持たれつの関係を保っている。

 精霊達は四界の中で中立の立場をとっているが、たいした武力を持っていない。

 他界からの侵略には非常に脆弱な体質だ。

 この問題を解決するため、精霊界は常から、強い魔力を持った魔界に守られている。

 こんな事情から、神界のエポナさんと精霊界のティンクに加えて人間界の私が、悪魔に連れ添って魔界を訪問するのは異例。

 異世界だとしたら、よほどの事情がない限りあり得ない珍事だ。

 

 魔界城に着けば着いたで、城の前でフェンリルと振袖姿のヘルが私達の到着を待っていてくれた。

 後にフェンリルから聞いた話だが、この時にヘルが振袖だったのは、足をみせたくなかったからだった。

 私達を出迎えるにあたり、腐敗している下半身を客人に見せるのは失礼にあたるとして、足を隠せる衣装にしていた。


 魔界となってはいるが、おどろおどろしい景色ではない。

 芝生の庭先に白いお城があって、庭には池や小川に花壇まである。

 シェルティーさんの庭園ほどではないにしろ、けっこう丁寧に作られた庭だ。

 池には亀や白鳥。

 芝生の上では、兎や山羊がのんびり過ごしている。

 これらの生物が、食用であるか否かは不明だ。


「ようこそおいでやす。兄のフェンリルがえらいお世話になったそうで、歓迎いたしますわぁー」

 魔界の女王ヘルのイメージとは裏腹、当たりの柔らかい言葉遣いでほんわかする。

 以前会った時は、もっと肩肘張った感じだったが、本当はこっちの方が素なのだろう。

 以前とは段違い。

 今の方がリラックスしているように見える。

「よく来たのー。お主達には随分と馳走になったからの、今夜はわしが厳選した食材でもてなすぞ」

 フェンリルの厳選食材は、私にとっての大ゲテ。

 早めに歓迎の宴を抜け出さないと、飢えて気が遠くなるのが確実だ。


 以前来た時に聞いているから、私は魔界の食事情を知っている。

 魔界には家畜という考え方がまったくない。

 何故なら、魔界は魔獣で溢れかえっているから。

 それを狩って食えば事足りる。

 魔獣の肉は、魔界だけでは消費しきれず、人間界にまで輸出されている。

 野菜は殆ど食さない種族で、家庭菜園程度で十分足りている。

 大がかりな畑はない。

 ただ、珍しい野菜や果物は、人間界からの輸入に頼り切っている。

 結構な貴重品となっているのは否めない。


 晩の宴は、私の思い描いていたままだった。

 蛇・蛙・蜥蜴・蜘蛛・蝙蝠・蠍といった小型食用魔獣の博覧会。

 いつもならエポナさんの手料理で、味付けの妙技に胡麻化されて食べている物でも、ここでは姿のままそのまま。

 原型を留めた丸焼きが基本だ。

 酔った勢いに任せても、触る事すら出来ない。

 それに、テゲーラを出されたのでは酔う事もできない。


「すみませーん、生ビール飲む人は手をあげてー」

 せめて、飲み物だけでも真面な物にしたい私。

 しずちゃんから貰った無限生ビールサーバー稼働に、一縷の望みを託す。 

「はーい」

 この場にいる全員。

 フェンリルからの基礎知識があったのか、ヘルまで振袖であるのを忘れて大きく手をあげている。

 この状態は私にとって歓迎すべき現象だ。

 生ビールはテゲーラよりも美味いのだよ。

 というか、何でテゲーラなんか飲むの。

「奈都姫様、お刺身食べますか?」

 エポナさんが気遣ってくれる。

 しかーし、ここに有る物ではどうにもならない。

「ゲテの生はお腹壊すから、いただきません」

 誰にも聞かれないように、念話で答える。

「ルシファー様が獲って来たマグロがありますわよ」

「大歓迎です」

 何も食べないでビールばかり飲んでいる私の為に、大きな船盛が出されてきた。

 制作総指揮はエポナさん。

 

「ほー、こら見事なものでございますなぁー」

 ヘルが関心して最初に箸をつけた。

「お主等と一緒に旅した時は、これは食しておらんな。どれどれ」

 続いてフェンリルが箸をつける。

 兄弟して箸使いが上手だ。

「これでは、どちらがおもてなししているのか分からしまへんなぁー」

 ヘルの表情が和みっぱなしだ。

 これでようやく私も食事にありつける。

 ティンクの前には生チョコも置かれた。

「おっ、ティンクは特別に生チョコもあるのか。少しでいいからわしにも出してはくれぬか」

 フェンリルが、よだれをちょっと垂らしておねだりする。

「流石にフェンリル様、舌が肥えていらっしゃいますこと。少々お待ちくださいね。皆様の分も今直ぐにご用意いたしますから」

 いったいどれだけ生チョコの在庫持ってるんですか、マジ気になるわー。


「ところで奈都姫様、ルシファー様。命の交換では病気や老衰でのうなった方の蘇生はできしまへんやろ」

 異世界での宴会時に、フェンリルがヘルについて自慢していたのを思い出した。

 ヘルはその魔術で、病気や老衰で死んだ人を生き返らせられるのだそうだ。

「はい、おおまかに言いますと、直接の関係ではありませんが、一定の領域内で残虐行為に及んだ者の命を、被害者となった者に与える事しか出来ません」

 ルシファーが答えてくれた。

「しずちゃんから聞いたんどすけど、命の結界が余ってますわねー」

「そうです。生き返らせた人達よりも外道の方が多くて、随分と多く命の結界が余っています」 

 今度は私が答えた。

「その命の結界、使い方を伝授いたしますわ」

 無関係に見えても、命の交換は遠まわしに加害者と被害者の関係が成り立っていないと上手くいかない。

 それだから、余った命の結界には使い道がなかった。

 そんな厄介な代物が、有意義に使えそうな話になって来た。


「うちがやってる蘇生魔術も、源を辿れば命の交換に似たようなものどす」

 ヘルの説明では、地獄に落ちた亡者で、命あるまま送られてきた者の命と魂を分離。

 命だけを、蘇生させようとする者に与える。

 これが、ヘルの行っている蘇生魔術の正体だった。

 地獄では、魂だけが無限の苦しみの中に閉じ込められればいい。 

 不要となった命は、自由に使える。

 ヘルのやっている死者蘇生魔術は、私達のやった命の交換に酷似している。

「どうやったら、戦場のような同じ場所での経験がない、互いに無関係の命と魂を融合させられるのですか」

 私には、生きていてほしいと願っても、助ける事の出来なかった人がいっぱいいる。

 今になって、その人達を生き返らせようとは思わないけど、これから先こんな仕事を続けていたら、不運にも命を落とした人達に出会うのは確実だ。

 そんな時、少しでも不幸になる人を減らしたいとの願いから、私はヘルに教えを乞うと決めた。

「奈都姫様とルシファー様なら、死者蘇生魔術など何の苦ものう会得できますわぁ」

 ヘルが宴席を中座して自室に行く。

 この後「宴会を途中でちょっとだけ抜けてください」と御呼びがかかって、私とルシファーはヘルの部屋へ案内された。

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