ウェディングドレスと喪服
こちらの希望をガイドに告げると、御城の入口に職員一同ずらり並んでのお出迎え。
なんだかとっても照れくさい。
直ぐに城内へ案内されたものの、やる事がない。
グテーっとぼんやりのんびり、ロビーで外の噴水を眺めていると、案内係がやってきた。
「夜にはイルミネーションや花火などのイベントがありますから、それまで御部屋でゆっくり成されたらいかがでしょうか」
案内されるまま部屋に入る。
「まさに、ゴージャスですね」
地獄や魔界での生活が長く、ゴージャスとは縁遠いルシファーが、感慨深げにソファーを撫でまわす。
「エーレーガーンートーっす」
これまたエレガントとは無縁のベルゼが、骸骨模様の自分の羽とレースのカーテンを見比べている。
「ぶったまげだわよ」
私の率直な感想です。
「お泊りは始めてー」
何度もオーナーと遊びに来ているのに、泊まった事がないってか。
これまでは、すっ飛び妖精らしく忙しない遊園地だったのね。
「素敵ですわねー」
異世界博物館の美術担当監修ホテルに感銘を受けたエポナさん。
私達の中で最も学識の有りそうな感想を言うかと思っていたら、有触れた・平凡な・よくある・当たり障りのない感嘆の声。
広い部屋が扉を隔てて二つ。
ベットがそれぞれ二台。
赤ちゃん用のベットが一台。
私達の人数に合わせたようにセッティングしてある。
外見より窓は大きく開放的で、煌びやかなカーテンが掛けられている。
四隅に置かれた大きな花瓶には、華麗な花を絶妙なアレンジで飾っている。
妙々たる持て成しを散りばめた部屋に関心していると、ティータイムセットが運ばれてきた。
ティファニーのティーカップ。
有田焼のコーヒーカップ。
紅茶はマリアージュフレール。
コーヒーがブラックアイボリー‥‥‥絶対に飲まない奴だな。
チョコレートが今日のお菓子なのか。ゴディバってか。
豪華過ぎて洒落に成らないわ。
「こちらはカップも含めて、アメニティーとなっております」
とか何とか言ってるけど、本当に持ち帰ってもいいんですか。
どれだけ御金余ってるんですか。
賓客って、いつもこんなに良い思いしてるんですか。
貧富の差って何ですか。
貧乏って言葉知ってますか。
国賓の国に貧者はいないのですか。
あーあー。馬鹿らしくなってくるわ。
貧者をなめるなよ。
旅行バックに部屋ごと全部詰め込んでやる。
カップはオークションで売ってやる。
長者の万灯より貧者の一灯じゃ。
御茶した後は、暫く勝手気ままにお城の中を探索。
してはみたものの、黄麒麟さんやルシファーのお城を見慣れているせいか、たいした感動もなく部屋に戻る。
暇だ。
お昼寝。
気づいたら外は真っ暗。
寝すぎたわ。
程無くして、夕食が運ばれてくるであろう気配。
キター‼
はてさて、どんなもんでしょう。
アミューズ・オードブル・スープ・ポワソン・ソルベ・アントレ・サラダ・チーズ・アントルメ・フルーツ・カフェ・プティフール‥‥‥フレンチのフルフルコースかな?
コーヒーは飲まないわよ。
フレンチはあまり好まないのよね。
出来れば和食がよかったんだけどなー。
海鮮丼とか海鮮丼とか海鮮丼とか。
後でカップ麺のシーフードを、ルシファーに分けてもらおう。
食事が終わって一休みしたら、庭園に出てイルミネーションを楽しむ予定が組まれていた。
私達だけの為に、二千万球の電飾を使ってあるとか。
「昼間見て回った時は、配線とか電球にまったく気づかなかったのねー」係の人に言うと「昼間は魔法で隠してありました」
思うに、魔法で二千万球を飾り付けているのであって、とてもではないが、ここのスタッフが手作業で出来る装飾ではない。
四季の花が一斉に見られる庭園での夜。
イルミネーションが至る所に散りばめられ、一方で桜の花をライトアップしているかと思えば、他方では藤棚に満開の紫花を照らしている。
紫陽花にチューリップにグラジオラス。
向日葵から朝顔・菖蒲や牡丹に芍薬だ椿だと、四季の花が一挙に咲き乱れている。
昼間は咲いていなかった。
絶対に魔法で咲かせている。
しかし、なんて情緒のない咲き方なんだ。
春夏秋冬・花鳥風月の欠片も見当たらない。
でも、イルミネーションは感動物のキラキラだよーん。
アトラクションは少ないけど、ここは国賓をもてなすという目的だかシェルティーさんの趣味だかで、大人の遊園地になっている。
庭園の中心にあるのが価格不明のメリーゴーランド。
これまで歩いてきた庭の電飾と違って、一つ一つの電球が大きくて点いたまま。
一際明るい空間になっている。
回転する木馬はペガサスであったりユニコーンだったり。
エポナさんがロバの姿になって、皆で記念撮影。
ルシファーが白いよそ行きに見える寝巻姿で、ベルゼは礼服に見える黒い寝巻姿。
どんな時でも二人は寝巻が特別な服だ。
手間がなくていい。
眩しい程の光の中で、白いルシファーと黒いベルゼが木馬に乗ってはしゃいでいる。
何百歳だか何千歳だか知らないけど、今の姿を見る限り二人ともまだまだ子供だ。
「ウエディングドレスと喪服みたい」
ティンクが呟く。
エポナさんが手を合わせている。
昨夜聞いた【喪服のメリーさん】を思い出してしまった。
もうすぐ花火が打ち上げられるとかで、私達は御城の最上階にあるカクテルラウンジへ案内された。
思い思いのカクテルを頼んで、何処に打ち上げられるのかな。
ワクワク・ワクワク。
ドッカ―ン❢
大砲並の凄まじい音が、ラウンジに響き渡った。
花火はラウンジ真下のテラスから、庭園に向けて斜めに打ち上げられた。
ラウンジから見た庭園の真ん中で、打ち上げ花火が咲く仕掛けになっている。
「玉屋ー」
「鍵屋ー」
W悪魔め、どこでそんな掛け声を覚えた。
テレビか。
そんな屋号の花火師が打ち上げてるんじゃないから。
長い時間ではないが、派手に数百発は打ち上げられた。
町内会の花火大会より、数段賑やかな打ち上げだった。
部屋に帰って一休みしているとき。
「自分ー、明日から魔界のフェンリル様の所に行くんですけど、一緒に行きませんか」
ベルゼは心臓の件で便宜を計ってもらったのを大層恩に感じていて、ヘルとフェンリルに礼をしたいと常から言っていた。
こっちに来てからその機会を探っていたようで、黄麒麟局を通して魔界に連絡してもらっていた。
その返事がついさっき届いたので、この提案となった。
博物館は何時でも見られるし、フェンリルは夕飯で何時でも釣れるけど、魔界の女王ヘルには一度会ったきり。
そうそう簡単に会える相手ではない。
ベルゼのお礼参りに便乗して、魔界へ行ってみるのも一興だ。
この先、長い休暇のとても良いアクセントになる事間違いなしだ。 と、この時は思った。
「良いわよ、私は一緒に行く」
いつもならば他のメンバーの出方を見てから決めるけど、今回は私が真っ先に同行を宣言した。
「あたしも行くー」
「私も御一緒いたしますわ」
こうしてベルゼビュート様御一行に、私とティンクとエポナさんが加わった。
ルシファーは、話が出る前から魔界に行くのを決めていた。
しっかりヘルへの土産を用意してある。
国賓用遊園地の御城で一晩過ごし、軽い朝食を済ませると、失礼のない様に身形を整えてから正面の入口に向かった。
ベルゼとルシファーは相変わらず。
白黒寝巻のままだ。
ヘルの怒りを買って、業火を浴びせられても助けてやらない。




