スウェーデントーチとバーベキュー
「皆さんは大富豪なのが、よーく分かりました。そんなに御金を持っていても、使い道ないですよね。私に任せる気はないですか。有意義に豪遊して、使いきってさしあげますけど」
人脈=金脈。
人生一発大逆転。
これを使わない手はない。
異世界司書になって良かった気がしてきた。
人間の思い込みは、実に恐ろしきもの。
「私立異世界博物館の世界は、税金とか会費がないんだよ。その代わりに、あたし達みたいな財閥とか国王や国の代表が集まって会議するの。資産状況に合わせて、この世界の整備資金を出し合っているんだよ。だから、使い道には困ってないんだ」
ティンク様、残念で貴重な御意見、どうもありがとう御座いました。
「ささ、キャンプの準備をしましょう」
エポナさんが何時にも増して、元気で明るく乗り乗りだー。
「僕のお城出していいですか」
ダメに決まってるだろ。キャンプだぞ。
「だめだよー。今日はテントで寝るのー」
珍しくティンクが本気だ。
湖の対岸にある管理棟でテントと薪や寝袋からランタンまで、キャンプに必要な物が総て借りられた。
手ぶらでキャンプができるのは、なかなか宜しいシステムだ。
管理棟から少し離れた所に、とても豪華なテントが張ってあった。
「いいなーあれ。自分はあのテントが良いです」
ベルゼが反則発言をすると、エポナさんが口元で人差し指を横に振って「チチチチ」とやる。
「管理棟の近くに張ってあるテントは、グランピング用のものですわ。あれは、時間に余裕がなくて御金が有り余っている【ド素人】の方がご利用になりますの。実はこれは内緒なのですけれども、私達のテントの近くには、わたくしのプライベート温泉がありますの。ベルゼ様だけ一人であちらに御泊りします?」
これを聞いては我を通せないベルゼ、リヤカーで一通りの荷物を運ぶ役を買って出た。
「ガレージに入れて瞬間移動すれば楽なんじゃないっすか」
ベルゼが途中から不満顔になってきた。
リヤカーを引く足取りが重い。
「それではキャンプの醍醐味がなくなってしまうのだよ。分るかなベルゼ君」
リヤカーの荷台に乗って楽ちんしているルシファーが、キャンプ気分を満喫している。
直火OKのサイトに陣取り、それぞれのテントを張る。
一人一張り。
慣れ不慣れがはっきり仕上りに現れる。
エポナさんはオーナーだけあって、テントはしっかりきっちり張れている。
流石に焚火の段取りも綺麗で、ランタンを置く場所にまでこだわっている。
ルシファーは少しばかりテント設営の経験があったのか、若干の歪みはあるものの、それらしく出来上がっている。
ただ、焚火は魔法でやりくりしていたらしく、エポナさんのを見よう見真似だ。
ベルゼはまったくの素人。
一からエポナさんに教わりながら四苦八苦。
テントの形になってはいるが、どことなく不安定な仕上りだ。
焚火にいたっては、そっくりエポナさんにやってもらった。
ティンクは自前のテントがあるとかで、サイトに生えている白樺の樹の上へ、器用に吊り下げ型のテントを張った。
「下に張ると、暗闇の中で踏み潰されちゃうもんねー」
ごもっともな言い分である。
樹上なので焚火はないが、ティンクにしてはめちゃくちゃ大きなカンテラをぶら下げた。
あたり一帯が照らされ、丁度いい街燈になった。
私はというと、実のところテントを張るのは始めて。
ベルゼと一緒に、エポナさんのテント張り講習を受けての設営。
誰からも【なにぶん初めてなもので】が見て取れる出来栄えになった。
でも、焚火の準備は自分だけでやり切った。
少しだけ充実感。
出来栄えはいまいちだけど、一晩だけだし。
これもキャンプの楽しみ方の一つだよね。
テントの設営が終わったら、次は調理で使う火の準備だ。
このキャンプ場では薪を売っているけど、場内の林にある枯木は、自由に薪として使っていい事になっている。
着火剤には白樺の皮を使う事にして、倒木を探して薪づくりが始まった。
魔法を使うのが当たり前の生活だし世界だから、ノコギリやナタを使って薪づくりはやったことがない。
特に、ベルゼとルシファーは道具に魔力を込めて使っている。
効率は良いけど、反則技の連続だ。
ノコギリは自動で動くし、ナタは宙を舞っている。
「ねえ貴方達、それじゃあ何もやっていないのと同じでしょ。キャンプは全部自分でやるものなの。魔法禁止」
私の威圧的な御願いを素直に受け入れてくれたのは有難いけど、今度はまったく作業が進まない。
ノコギリもナタも使った事以前に持った事もないどころか、見たのが初めてだと言い張っている。
始末に悪い悪魔共だ。
それでも、ああでもないこうでもないと二人で笑いながらやっているのを見るに、魔法禁止令は正解だったと思う。
焚火の準備が終わった所で、とりあえず温泉。
サイトから林の中へちょっと入ると、背丈の三倍はあるだろう大きな岩が転がっている。
周りには芝が生えていて、冬だというのに小さな花まで咲いている。
「温泉の熱が、この辺り一帯を暖かくしていますの」
エポナさんが岩に手を触れると、岩の真ん中がなくなって洞窟になった。
ランタンの灯りを頼りに、そろりそろり奥に進む。
男湯・女湯の暖簾が下がった温泉の入口に辿り着いた。
「普段は誰も来ないんですよね」
「ええ、わたくしだけの温泉ですから」
男湯・女湯の暖簾は必要ないよね。
扉を開けて中に入ると脱衣所があって、その先の扉向こうに露天の湯舟があった。
湯舟は自然の岩づくりで、周りには四季折々に色付く木々が植えられている。
「ふあー、生き返るよー」
ティンクが何時ものように湯舟でチャプチャプやりだした。
「ちょうど良い湯加減ですね。調整しているんですか」
これは絶対に誰かが普段から管理しているに違いない。
「いいえ、普段は放置していますわ。今日は分身達が手入れしましたけど」
いいなー、分身の術。
私も覚えたい。
一方その頃男湯では「ルシファー様、自分は今すんごく幸せっす。ついてきて良かったっす」
「僕も実感しているよ。まさかこんな日が来るとはね。異世界司書団万々歳だなー」とか話していたらしい。
温泉から上がったら、湯冷めしないようにしっかり着こんで夕餉の仕度。
エポナさんが大きな丸太を一本転がしてきた。
サイトの真ん中に置いて、上から十字にノコギリで切り目を入れると、着火剤を使って火を点ける。
「スウェーデントーチでございます」
とってもキャンプしてるって雰囲気になって来た。
スウェーデントーチを囲むようにテントが張られていて、テントの前には各自の小さな焚火がある。
すでに辺りはすっかり暗くなっている。
ランタンをテントの前と調理台にセットする。
この灯りで料理の準備を始めると、自分が自然に溶けていくのが分かる。
焚火の周りに石を並べ置いて、石の上に大きな焼き網を乗せれば準備完了。
ここに、何時でも直ぐ焼けるようにと、普段からエポナさんが仕込んである串打ち肉や野菜を乗せれる。
串焼きバーベキューの始まりー。
バーベキューで私が一番困るのは、同じ大きさの肉が串にささっているってやつ。
ミックスグリルとか言って、一本の串に色んなお肉が刺さっていたらもう大変。
焼かれてしまうと、どれが何の肉だか分らなくなっちゃう。




