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今夜はキャンプ場に泊まるよー

 私に出来る唯一の抵抗は、先を急ぐ事しかない。

「早く、次に行こうよ」


「ここがね、凶悪魔獣の巣って呼ばれているエリア。ここだけは結界が二重で、放し飼いじゃないんだよ。魔法が効きにくくて危ないのが入っているからね」

 今までのは何だったんだ。

 危機感てんこ盛りだったわよね。

 シュールだなー。

 ヒュドラーがいるじゃないの。

 あらら、キマイラだわよ。

 おっと、オルトロスだし。

 なんと、グリフォンまで。

 きっとあれは、メタルリザード。

 どれが餌でどれが魔獣なのかしら。

 ここって、リアル感過剰よ。

 

 動物園とくれば、次はお決まりの水族館だ。

 カルキノス・クラーケン・グランガチ。

 小さなレモラの群れは、青白くてとても綺麗。

 だけど、規模が大きすぎる。

 クラーケンを入れてある水槽だけでも、東京ドームくらいの大きさだもの。

 東京ドーム行った事ないから、本当の広さは分からないけど。

 やはり、ここでも餌はどうしてるか気になる。

 他人事ながら心配だ。


 私立異世界博物館で一番のマイナー地区、麒麟公園前カフェテラスで休憩。

 広場の真ん中に五体の銅像が立っているだけ。

 周りに飲食店が数件あるのみの質素この上ないエリアだ。

 一番人気がないのもうなずける。


 動物園を見て終わった後に、これから遊園地へ行こうと言い出したティンク。

 入口まで行くには行ってみたけど、もう直ぐ夕暮れだというのに混み具合が上限値を超えた200%。

 それ以前の問題で、どうして博物館の中に遊園地まであるの。

「ティンクー。貴方の遊園地好きは知ってるけどー、私達はついていけないから。別の日にしようよー、もっと空いてる日がいいよー」

 皆さんも同じ意見で、うなずき方が凄まじい。

「良い事がありますわ。ティンクもこれなら納得するかと」

 エポナさんがティンクよりも館内事情に詳しいとは思えない。

「良い事って、何か別の面白い所とかですか」

「シェルティーさんの遊園地で遊びましょう」

 シェルティーさん‥‥遊園地まで持ってるんかい。

「そうだね。もうすぐ暗くなるから、シェルティーさんの遊園地は明日にしよう」

 遊園地では譲らないと思っていたティンクが、やけに素直に意見を受け入れた。

 博物館らしからぬ所ばかり見て回り、遊園地に着いた時には遠くの空と大地の間に、赤いオーロラが広がっていた。

 これからの事を考えると、今日の見学はここまで。


「今夜はキャンプ場に泊まるよー」

 瞬間移動で、ティンクが近くだか遠くだか分からないキャンプ場へ案内してくれた。

「ここも博物館の中なのかなー」

 どう見ても建物の中とは思えないほど広い。

 樹木も自然のままに生えていて、目の前には湖がある。

「ここは屋外ですわ」

 エポナさんが教えてくれた。

「何を隠そうにも隠し切れない、ここはエポナさんが持っている牧場の一角にあるキャンプ場でーす」

 何でティンクが自慢げに説明するんだよ。

 牧場の一角とか言ってるけど、本当かいな。

 見渡せば小さな湖を囲むようにサイトが広がっていて、その奥はけっこう深そうな森林。

 管理棟が真ん中にあるものの、どこにも牧場らしき建物は見当たらない。

 それに、この世界も私が住む世界もまだ冬なのに、ここだけやけに暖かい。


「へー、エポナさんは土地をいっぱい持ってるって、ここの事だったんですか」

「はい【ここも】ですけど」

 何だろう【ここも】というのが気にかかる。

 喉の奥に引っかかった魚の小骨みたいで、ちょっとやそっとでは取れそうにない。

 暗くなってしまう前に、ちょいと牧場とやらの全景を確認してみようかな。

 フワッと飛んで上空から湖を見る。

 確かに牧場だ。

 あまり高い所は怖いから、精々十メートル位の高さに飛んだと思うけど、キャンプ場になっている。

 湖があちこちに点在している。

 湖と湖の間は川でつながっていて、遥かな先ははっきり見えない。

 ただ、一部はゴルフ場のように見えなくもない。


 Tグランドとグリーンらしき場所が確認できる。

 もっとよく千里眼を使って見る。

 ズーボラさんとブツクサさんとシェルティーさんとしずちゃんが、四人でクラブを持って走り回っている。

 集音マイクで彼らの周囲に響く音を聞くと「ファー・ファー・ファー・ファー」会話どころではない。

 極めて危険な飛行物体が、第三者に対して破壊的進路をとっている状況を、端的なゲーム内共通専門用語に変換してから、大声で周囲に知らしめている。

 始めてズーボラさんに会った時に見たゴルフ場って、ここだったのかな?


 上から確認しても、見える範囲は限りなく緑の平原。

 遠くにクラブハウスらしきものが霞んである。

 一番の問題は、平原が果てしなく続き、その上に真っ暗な闇の一帯があって、更にその上が青空。

 緑・黒・青の帯がぐるっと360度。

 こはエポナさんに聞いてみるのが一番早いかな。

 地面に足を付けて「この牧場って、どのくらいの広さあるんですか?」

「さあ、まだ未調査の地域もありますから。分りませんの」

 そうなんだ、自分の土地の広さ、知らないんだー。

「エポナさんの土地は、ここだけじゃないんだよ。この世界の土地は全部エポナさんが持ってるの。そんでもってね、海もエポナさんのものなんだよ」

 いくらなんでも、そりゃなにいよ。

 話の規模が桁違いだ。

 簡単には理解できない解説になっている。

 気絶するほど高価な電気製品の、親切過ぎる取り扱い説明書のようなものだ。


「全部って、空も入ってるの」

「空は地上から五十mまでですわ」

 エポナさん。

 しれっと言いのけてくれたけど、とても責任を持った発言とは思えない。

 早い話が、私をからかっているのね。

「冗談ですよね」

「いいえ。わたくしが、この世界総ての土地と海と上空に関する所有権を行使しております。漁業権料や地代とか低空飛行料がわたくしの主な収入源になっておりますの」

 ティンクがさっき「あたしよりもエポナさんの方がお金持だよ」とか言ってたのを思い出した。

 あれって、本当の事だったのかよ。

「そんなに土地が有るんだったら、ルシファーの御城をどこかに建てさせてあげてくださいよー」

 美男子悪魔二人との同居生活は、他所様の目を気にしてばかりで何かと疲れる。

 ここは何としてでも、世界総ての土地持ちに頼み込んで、二人を私とは別の世界へぶん投げたい。

 平穏な日々を取り戻すチャンス。


「土地はわたくしの名義ですけれども、すべて利用している方がいらっしゃいますから。適当な空き地もありませんしー、実はわたくしも家は持っていませんのよ」

 家は要らないでしょう。

 永久にホテル住まいできるでしょう。

 城に住むのは二人とも悪魔なんだから、牧場の隅っこみたいな多々辺鄙な所で十分ですう。

 未調査で、魔獣うじゃうじゃ危険なデンジャラス地域なら、食べ物に不自由しないから尚更歓迎ですう。

 何処へ放り投げても大丈夫ですからー。

 ちょっとだけ土地貸してくれてもいいじゃないのー。

 地代はきちんと毎月末に支払わせるからー。

 けちー。


「ルシファー様とベルゼ様は奈津姫様の警護役として、これからも奈津姫様の家に同居していただきます」

 きっぱり言い放ってくれるエポナさん。

 そうですか、こうなったら考え方を変えよう。

 こんな幸運に巡りあえるとは、何が人生に影響するか分からない。 こう思い込めば、たいして悪くない状況だ。

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