お金持は危険がお好き
シェルリルと言えば金より高価な希少金属だ。
何もシェルリルである必要はないだろう。
「それって、シェルリルでなくちゃいけないの。もったいないよ」
「他の金属だと、混ぜる比率が多くなっちゃうの。金より高価なシェルリルが混ぜ物だから、ここの金貨は安定した価格というかー、全宇宙の基準貨になれるんだよ」
エポナさんがティンクの自慢話に、尾鰭背鰭胸鰭腹鰭を付け加えてくれる。
「シェルリルを金に混ぜて硬貨にできるのは、ティンクと他に数名の妖精だけなのですよ」
「へー、ティンクって凄い妖精なんだね」
とりあえず褒めておくか。
「それでね、金を分離した後の不純物が、あたしたちの取り分なの」
ちょっと待てー。
「さっき、混ぜ物には銀や銅が使われるって言ってたよね。それじゃあ、出てきた銀や銅は、全部ティンク達の物になるの?」
「半分だけだよー。銀貨や銅貨にしてから、毎年それを出来高でもらうんだ。それからみんなで等分して、時々使う分だけカードに入金するの」
「等分ね。何人でやってるのー」
「今は五人だよ」
五人で毎年この世界の銀貨・銅貨の半分を丸儲けってか、あってはいけない話ですよねー。
「ティンクって、お金持なんだね」
「うふふ、エポナさん程じゃないよ」
もっと上がいるんかい。
私の身近にいるんかい。
「エポナさんて、そんなにお金持だったんですか」
「いいえ、御金はあまり持っていませんわ。ちょっと広めの土地があるだけですの」
「どれくらいの広さですか」
「もうすぐわかりますわ」
なんだか、御金・御金って必死にしがみ付いてきた自分が情けなくなってきた。
まさか、あの人までとんでもない富豪なんて、いやいや、そんな御無体あり得ない。
「まさか、しずちゃんまで大富豪なんて事はないですよね」
「しずちゃんなら実家が酒屋さんですわ」
良かった、妥当な所に不時着してくれた。
「お酒とか調味料とか乾物とかー、世界中の保存食品の殆どを、しずちゃんの実家で作ってるんだよ」
ティンク、余計な情報要らないから。
落ち込んだまま浮上できそうにない。
あんたらみんな、化け物大富豪だわ。
危ないし、忙しいしの異世界司書団になんか入っている必要ないだろ。
一気に疲れが出てきたわ。
あっ、肝心な人を忘れていた。
「黄麒麟さんは、どんだけ資産持ってんのよ。だんだん腹立って来たわ」
もはや銭金の話をオブラートに包んで聞く気は失せた。
「黄麒麟様は何も持っていませんわ。強いて一つあげるとしたら、海岸のカフェくらいかしら」
「えっ、それだけですか」
「そうだよー。黄麒麟様は何も持っていないけど、全部持ってるから資産なんて関係ないんだよ。あたし達も同じようなもんだけどね」
ティンク、その言葉って慰めになっていないし、棘が沢山あるから。
本当の金持ちは、自分がどれだけ資産を持っているか知らないって言うけど、広い世の中にはマジでそんなふざけた族がいるんだ。
ものごっつ腹立つ勉強になったわ。
常識的な御金の話が通じない連中の事は忘れて、目の前にいるのは別人。
一般的経済観念を持ち合わせた人達。
自分に思い込ませよう。
人生全て思い込み。
私なら出来る。
自己暗示でこれまでもこれからも、自分はこの人達と同じ世界に住んでいたし、同じ世界で生きていくの。
己の精神と格闘する事十数分。
私は格差社会の精神的苦痛に打ち勝った。
ひとまず、私立異世界博物館見学で何もかもリセットしてやる。
博物館を総て見て回ると、一般的な見学コースでも十日くらいかかるって話だった。
いつまで休暇が続くかは分からないけど、十日も話がまとまらないとは思えない。
ここは博物館を非常によく知っている、元私立異世界博物館々長・現黄麒麟局々長のズーボラさんに案内してもらうのが一番いいんだけど、そうもいかないわよねー。
「案内はあたしに任せて。もう千回以上見て回っているから、ぜーんぶ知ってるもんね」
灯台下暗し。
私ったら、何を心配していたんだろう。
ティンクのように光速移動が可能なら、私達のように何日もかけなくとも全部見て回れる。
「そうですわね。この世界で一番博物館を見て回った記録保持者ですものね。ティンクに任せておけば間違いありませんわ」
ならば、ティンクに完全攻略ガイドを御願いするとしよう。
いよいよ本格的な博物館見学会の日がやってきました。
「で、何処から見て回るの」
「動物園ー!」
本当にこいつに任せていいのかよ。
いささか疑問の生じる展開になって来た。
異世界の動物園とはいかなるものか。
その前に、博物館の中に図書室までは許せるとしても、動物園はいかんでしょうというのが私の見解だ。
しかし、不案内な館内を闇雲に見学するのは、愚の骨頂である。
千回以上も見て回っている完全攻略ガイドさんの意見を信じて、ただ只管後ろについて回るしかない。
小さいティンクがブンブンと、三角の黄色い旗を持って先導するあたり、いかにも御団体様的な見掛けで恥ずかしい。
なんとかならないか。
「ここが鳥達の広場だよ」
鳥と言ったら、一般的地球人の常識からすれば、インコとか孔雀とか白鳥とか。
ここにいるのは、ロック鳥とか双頭の鷲とかカラドリウスって。
これで良いのか。
それに、広場では全部の鳥が放し飼いにされている。
驚きだ。
ティンクに聞いてみる。
「ここの鳥って、逃げないの」
「エリアごとに結界が張られてるから、絶対に逃げられないんだよ」
ひょっとしてもしなくても、出入口以外からは鳥も見学者も出入り出来ない状態だ。
もしもの時に被害者になるであろう見学者も、捕食者となりうる鳥達も、同じ条件下に存在している。
「でも、放し飼いって危なくない?」
「危害を加えないように訓練して、人畜無害の魔法も掛けてあるから大丈夫だよ。動物園の生き物は、ほぼ全部放し飼いされてるよ」
餌はきちんとあげているのか、いくら魔法を掛けてあるとはいえ、空きっ腹に勝る魔法などあり得ない。
それくらいの常識は、この世界について無知な私にもある。
「絶対に危ないよ。次に行こう」
怖がり屋の私。
名誉ある戦略的撤退をすべき場面だと判断した。
皆様やけに聞き分けが宜しくて、私の言うまま次の見学場所へ移動。
「ここは爬虫類の広場だよー」
おい、いい加減に嫌がらせはやめろ。
やめてくれ、やめてください、御願いしますティンク様。
「上に飛んでいるのがワイバーンで、一番大きいのが地龍。それから、向こうの丘で山羊を食べているのがコカトリスだよ」
ここも放し飼いかい。
魔獣達の桃源郷。私には魔宮殿。
「どれもこれも料理し甲斐のあるものばかりですこと」
エポナさんにかかれば、あれもこれもそれもどれも、新鮮な食材になってしまう。
「自分は、コカトリスの唐揚げが大好きっす」
うん、うん、唐揚げなら私も大好きだ。
ベルゼは、なかなか優れた味覚の持ち主と見た。
「僕はワイバーンのステーキですかねー」
ルシファーよ、その手があったか。
ステーキなら牛でもワイバーンでも持ってこいだ。
「あたし、地龍の串焼きが好き」
串焼き=バーベキュー。
あああー、今直ぐ食べたい。
見事に好みが分れましたね。
私は和牛が一番好きです。
ここでは放し飼いにされていません。
高価なので、餌にはなっていないな。




