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タイムレコーダーの秘密

 私達からの結果報告としずちゃんの話は、これで終わったと思った。

 しかーし、世の中だかしずちゃんだかは、そんなに甘くなかった。

「あとー、残るのはバイト代の分け前かなー。ベルゼビュートの件では色々とその何よ。これからなんだかんだあるからねっ。ねっ」

 袖の下の手がグーパーしている。

 しずちゃん、御育ちが分かるわよ。

 袖の下か、賄賂か、ピンハネか、上納金か、口止め料か、貢物か、付け届けか、奉納か、泥棒の上前をはねる気か。

 なんて悍ましい女なんだ。 


 しずちゃんへの報告を終え、図書室の事務所に帰ったばかりでバタバタしている時、黄麒麟局々長のズーボラさんがやってきた。   

 帰還の挨拶もそこそこ「迷子になっていたところを君達が保護した麒麟の子ねっ、ねっ。黄麒麟局で預かってーの、徹底的に調べーるのするから。すぐに引き渡してください」

 ティンクがふくれっ面になった。

「絶対に嫌だよー。この子を一人にしたら可哀想だよ。麒麟はね、一人になって寂しい日が続くと、泣きすぎて、水分不足になって、枯れて死んじゃうんだよー」

 どこかで聞いた事がある話だけど、それを言うなら死んじゃうのは兎だし、元ネタはまったくのガセだ。

 ティンクが頑なに反対し続けたけれど、宇宙の存続に関わる一大事とあって、こればかりは私達の意見を聞いてもらえなかった。

 今まで一緒にいさせてくれたのが、ズーボラさんの精一杯せめてもの温情だった。

 涙目のティンクに言って聞かせ、麒麟の子をズーボラさんに預けた。


 決して乗り気ではないのだが、一仕事の後の定例行事と言えばタイムカードの刻印である。

 帰ってタイムレコーダーにカードを入れれば、定時退社の17時。

 私は、これがこの世界の原則だと信じて疑わなかった。

 しかし、この世界に住んでいない職員は私だけ。

 転移魔法で瞬間移動しているのに、通勤手当まで出ている。

 私の住む地球は、この世界から見れば異世界になる。

 シェルティーさんから貰った地球時計と同時に、地球という異世界の時間が経過していく。

 一旦タイムカードを押して、異世界なる自分の世界に帰ったらば、その時点で勤務時間の一日が過ぎるという設定にされているとしたら‥‥。

 私は気づいてしまった。


 タイムカードを押さないで、自分の世界へ帰らなければ、一仕事の終わりは一日として記録されない。

 タイムカードさえ押さなければ、私立異世界博物館の世界にいる限り、何日経っても記録上は時が停まった状態だよ。

 もっとはっきり言ってしまうと、出勤はしている。

 指示された本日分の仕事は終わった。

 でも、まだ退社していない。

 これって、残業手当こそ出ないにしても、休みたい放題なんだわ。

 永遠の休暇だって可能になるよ。

 私だけならの但し書きがつくけど。

 私は正直者だから、この事をブツクサさんに言ってみた。

「前例がありませんからねー。上の者に聞いてみます」

 話が終わってしまった。

 結果が出るまでには何日もかかるだろう。

 それまでは、暫定的措置と自分で判断して、特別休暇に突入。


 始めてこの世界に来た時は、異世界司書としてあちこち引きまわされて、忙しい思いしか記憶に残ってない異世界一周旅行。

 もう一度、私立異世界博物館の全世界を旅して回るのもいいかなー何て、皆に言ったら反応はそれぞれだった。

「私は奈都姫様のお世話が本来の仕事ですので、奈津姫様がお休みの日もお仕事の日も、変わりなく勤めさせていただくだけですわ」

 宇宙でナンバーワンの医療魔法使いなのに、なんて謙虚な人なんだろう。

 とっても尊敬しちゃいました。エポナさん。

「あたしは何時でもなっちゃんと一緒だよ」

 何時でも元気に簡潔明瞭なティンク。

 ブンブンチョロチョロ飛び回ってる。

「僕は他に行く所がないので、なっちゃんの家に住まわせて貰えれば他の事はどうなってもいいです」

 ルシファーは、今のところ正式な契約が済んでいない。

 異世界博物館から給料が出てないんだよね。

 アルバイトの収入と貯えだけでの生活になるから、私が休もうが働こうがどうでも良い事か。


 ところで、ルシファーの従者になったベルゼは、これからどこに住む気なのかなー。

「ベルゼー。あんた、どこに住む気?」

 困った答えが返ってくるのは分り切っているが、一応聞いてあげた。

「はい、自分はルシファー様と一心同体であります」

 しっかり体育会系してるけど‥‥‥やはり聞いた私のお馬鹿さん。

「決して御迷惑はおかけいたしません。住まう場所もティンク様より狭くて平気っす。なんと言っても自分、今は自由自在の変化で蠅になれますから」

 始めて会った時からベルゼは、黒ずくめの衣装でちょっと影はあるけど、ルシファーと対等くらいの美男子姿でうろちょろしている。

 ルシファーの白い衣装とベルゼの黒い衣装で、地獄では双頭のサタンとまで言われていたのが納得の見掛けになっている。

 このまま私の住む世界に二人を放り出すのは、地球の女子全員を失神の危機に貶める重大犯罪。

 テロ行為だと蔑まされても、今の私には反論するだけの理由も技量もない。

 一般ピーポーから頂いた御意見を、跳ね返すだけの地位も名誉も金もコネもない。


「貴方がそうしたいと言うならそれでも良いけど、蠅のままで飛び回っていたら蠅叩きで秒殺だわよ」

 親切な私はベルゼに、地球に住んでいる蠅の危機的現状を教えてあげた。

「そ、そこまでは考えていなかったっす。どうしよう」

 まさか豹の姿でいてもらうわけにもいかず、困った事態が目の前でうろうろしている。

「そうだったよねー。ルシファーとベルゼは、誰からも加護授かってないんだよね」

 ティンクが、すっかり忘れていた事を穿り返してくれる。

 そんなの思い出してどうする気だ。

「そうですわねー。加護があれば蠅叩きの二・三十発食らっても、滅する事はございませんわね。見た目が少しだけ不気味になりますけれど。それでさえ直ぐに治りますから。それがいいですわ。加護をいただきなさいな」

 あてもなく、エポナさんが二人に誰かから加護を授かるように勧めている。


「それは貰えるものなら加護は欲しいですけど、僕らにそこまで親切にしてくれる人なんて、この世界にいますかね」

「自分も同感っす。人生の途中から悪魔になって、人様から嫌われるのには慣れましたけど、加護となるとその真逆ですから妙な感じっす」

 二人がやらかした天界と地獄での大暴れ、何年前の話かは知らないけど、人生に多大な影響を及ぼしているようだ。

 自分の行動には責任を持ちましょう。

 誤った行動が一生を台無しにしてしまう事だってあるのです。

 私、自分に言い聞かせます。


 いきなり改まって、エポナさんが私に頭を下げてきた。  

「奈都姫様、私から御願いが御座います」

 何事?

「あたしからも御願い」

 ティンクも、いつになく低姿勢だ。

 だから、何事。

「ルシファー様とベルゼ様に、加護を御与え願えませんでしょうか」

「ねっ、良いでしょ。二人に加護付けてやってー」

 やばい話になってないか。

「私が加護ですか」

「はい」

「うん」

 二人とも、おつむが熱帯夜になっちゃったよ。

 完全に脳みそ蒸されてるわ。


「私がどうやって二人に加護を付けるんですか。私、加護のつけ方なんて知りませんし、そんな能力ないですよ、きっと。どう考えても、私に加護の力なんてある筈ないんですよ。黄麒麟さんから加護授かっている身ですよ」

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