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「何となくベルゼビュート」の心臓なんだわ

 この先どうなるか私にも予想できないけど、一応忠告はしたからね。

 後悔しても知らないよ。

「では、私立異世界博物館付属図書室所属異世界司書の職務権限をもって、反抗的な貴方を地獄に突き落とさせていただきます。地獄では、貴方が作り出した人々の絶望や悲しみの総てを受け、永遠に苦しみ続けて下さい。貴方のような大莫迦者には、地獄の亡者が一番お似合いです!」

 言いたい放題言ってやった。


 アレースが消えた。


 私、本当に地獄に送る気なかったし、送る方法も知らなかったんですけど。

 どうしちゃったのかな?

 ルシファーが前に出て行く。

「天界の者達に告ぐ、汝等の力は既になきに等しいまで衰退した。それもこれも、信仰してくれる人間を蔑ろにし、数千年もの長きにわたり食い物にしてきた報いである。アレースと同じ目に会いたくなければ、今ここで五千年に及ぶ諍いを鎮めよ。天界の罪を恥じて、人間界の繁栄に尽力せよ。私立異世界博物館の年会費未納分を潔く収めよ」

 横に居たベルゼビュートが槍を高く掲げる。

「うおおおおーー」魔界の軍団が雄叫びをあげる。


 一頻りの雄叫びが止むと、静々と一柱の女神が私の前に進み出て来た。

「十二神が一柱、アテーナーに御座います。異世界司書様にお尋ねいたします。未納会費はいかほどでございましょうか」

 エポナさんと親し気にしていた女神が交渉役かー。

「滞納分に対する利息が利息を生んで、その利息がまたまた利息を生む十一複利の雪だるま計算によりますと、未納分年会費は今や神界の有り金全部です」

 予定通り、これ以上ないまで吹っ掛けてやった。

「承知いたしました。即刻ご用意いたします」

 早や!

 いかに根回しが済んでいるとはいえ、尋常ならざる準備。

 ミカエルは黙って見ているだけだ。


 大量の金貨が運ばれてくると、エポナさんが自分のガレージに放り込む。

 ルシファーの荷物で一杯だったんじゃないのか。

 クラーケンの時はそう言ってたよね。

 それとも何かい、金貨は別腹ってか。


 ほんの一部をバイト代としていただいて、年会費と報奨金を引いた残りは、戦争被害の復興資金に充てる事にした。

 復興財団の運営は、魔王アスタロトと地獄の番人になった蠅騎士団に任せた。


 一段落ついて落ち着いた所で、ベルゼビュートがルシファーの従者として、異世界司書団に参加したいと言い出した。

 断る理由もない。

 この夜、送別会を兼ねて、仕事が上手く仕上がった祝いの宴を魔界の王城で催した。


 肝心な時にいなかったのに、今まで何処で何をしていた。

 誰から宴の情報を仕入れた。

 フェンリルが堂々と、宴席の真ん中に座っている。

「まったく手伝いもしないで、今まで何処にいたのよ」

「サラタンが出たというのでな、ドンビキ村に戻って狩ってやったら宴に招かれてのー。居心地がよかったので、つい長居してしまった。それより御主等、やっている事が盗賊と一緒であるな」

 あんただって異世界を股に掛け、好き放題破壊しまくっているでしょ。

 諸悪の根源に言われたくないわ。

「義賊と言ってちょうだい」

 フェンリルの大きな口に、チスイウサギの丸焼きを投げ入れてやる。


 問題が残っていないわけではない。

「こいつの心臓、どうしよう」

 私が、ベルゼビュートの胸を指さす。

「もう嫌ですよー。自分の心臓を差し出す気はありませんからね」

 やはり、ベルゼビュートに自首する気はない。

「フェンリル様。ヘル様のコレクションは、今どのようになっていらしゃるのでしょう」

 エポナさんが突拍子もない質問をしている。

「そうさなー、ヘルなら随分と集めているぞ。わしが手伝っているものでな。増える一方じゃい」

 何が増えているのかなー。

「一つ分けておくれ」

 ティンクまで意味不明になっている。

「なるほど。そういう事であれば、美味いメシの礼に協力はいとわんぞー」

 だから、何。

「ヘルよ、聞こえるか」

 フェンリルがヘルと交信している。

 すんごく離れているのに通信障害がまったく出ないなんて、スマホなんかには到底真似のできない優れ物。

 魔法の威力、凄・恐ろしかー。


「御兄様、お久しぶりです。何か急な御用でもお有りですか?」

「実はな、一つ頼まれてもらいたい事があるのだが聞いてくれるか」

「はい、どのような事で御座いましょう。できる事であればお手伝いいたしますわ」

「でかい蠅の心臓が一つ欲しいのだが、余分に持ってはいないだろうか」

「ベルゼビュートの心臓などいかがでしょう。只今五つほどコレクションに加えてあります。それで宜しいでしょうか」

 嘘。ヘルって心臓コレクターだったの。

 グロ。

 それに、ベルゼビュートの心臓が五つって、気持ち悪いよ。

「今すぐ一つばかりここへ送ってはくれまいか」

「はい、少々お待ちください。コレクションを確認してまいります」

 ものの五分で、瓶詰心臓が送られてきた。

 ドクン・ドクンて動いてるし。


「どうしてベルゼビュートの心臓が何個もあるの」

 不思議だと思うのは私だけ。

 誰の頭上にも疑問符が表れていない。

「ベルゼビュートは自分の本名じゃはなくて、ミカエルが地獄送りした時に付けられたっす。蠅の王って意味っす。そんな訳で、世界にはベルゼビュートが大勢いるっす」

 こんなのが大勢いるってか、まさに蠅だな。

「じゃあ、貴方の名前は」

「今はベルゼブブで、仲間内からはベルゼって呼ばれてますけど、本当はバアル・ゼブルっす。天界で天使やってたましたけど、一応その前は神やってたんで。天使からなかなか神に昇進できないでいたミカエルがひがんで、自分の格を魔獣に落として地獄へ送ったんすよ」

「皆さん、どうして今までこの事実を、誰も私に教えてくれなかったんですか」

 皆に向かって怒ってやる。

「その件に関しましては何も聞かれませんでしたし、ベルゼビュートの心臓盗難事件として手配されていましたので、ベルゼで統一しておりました」

 ルシファーが苦しい言い訳をする。

「ひょっとして、初めからベルゼビュートの心臓を異世界博物館に納入する気で動いてたのかなー」

「いえいえいえ、決してそのような企みは」

「してたわよね」

「はははは」

 笑って胡麻化された。

 まあいいか。


 帰り際、魔界からの餞別として魔獣の肉を沢山もらった。

 皆は大喜びだけど、私はあまり嬉しくない。

 帰ったらルシファーに頼んで、今度は伊勢海老をとってきてもらおうかな。

 密漁になっちゃうのかな。

 タラバガニでもズワイガニでもいいし。

 毛蟹も捨てがたいなー。

 やはり密漁になっちゃうのかな。

 とかなんとか悩んでいたら、異世界博物館の転送室に到着した。


「お帰りー」

 しずちゃんが、にんまり待っている。

「はい、お土産。ベルゼビュートの心臓とー、命の封印」

 心臓の瓶詰と命の封印が入った旅行バックを渡す。

 だけど、ルシファーの横に槍を持ったベルゼが立ってるのよね。

「ちょっと、なっちゃん。あそこに突っ立っている木偶の棒は誰なの…‥‥まあいいか。ベルゼビュートの心臓には違いないんだものね。未納会費も随分と多めの利息込みで受け取ったって、シェルティーさんから報告がきてるわね。あと、命の封印だけど、なっちゃん達が必要と判断したら、何時でも何処へでも送れるように保管しておくわ。使いこなせればの話だけど。新しい旅行バックも手配しておく。本当に今回はご苦労様でした」

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