アスカロン・シェルリルの槍
クラーケンを肴に、無限生ビルサーバーで大盤振る舞い。
宴の参加者に、若者の姿はない。
「みんな兵隊に取られてしもうてなー。魔獣を退治する者もいなくなってしもうて、どこもかしこも廃村じゃぁ。ここはかろうじて海から漁があるからのー。みんなして、この村に寄り添って生きてるですだ。今日は皆さんのおかげでー、楽しい夜になりました」
感謝されるのは気分がいいけど、なんだかやるせない話になって来た。
お爺さん、クラーケンをくちゃくちゃやりながら泣いてるし。
宴のはずが徐々に、湿っぽい飲み会になってきた。
気分を変えようと松明を手に、ベルゼビュートが耕した畑を見に出た。
種は撒いたとのことだが、収穫はいつになる事やら。
ぼんやり眺めていると、ベルゼビュートが畑に恵の雨を振らせる。 ルシファーが一帯の季節を早送りする。
二・三分で穀物が実って収穫できる状態になった。
「奇跡じゃー。ベルゼビュート様が村に恵の奇跡をくださった」
見ていた村人がベルゼビュートを拝み倒す。
ローカルスターだねー。
「この村では、ベルゼビュートは神様以上だね」
私の発言にフェンリルが反応した。
「それだ。ベルゼよ、これからお主はこの国を巡り、戦禍に苦しむ民を救って回るのだ」
「流石にフェンリル様。僕もその手で行こうと考えていました」
ルシファーが賛同する。
「自分が人助けの旅っすか」
ベルゼビュートは、彼らの計略に気づいていない。
私達は気付きましたよ。
「悪いようにはしないから、今は僕達の言うとうりに人助けだ。事を急いで早死にするなんてのは愚か者のやることだよ」
ルシファーがなだめるようにベルゼビュートを説得する。
「よく分からないっす。でも、ルシファー様がそう言うなら間違いないっすね。自分は従うまでっす」
「良かった。明日から忙しくなるぞー」
さっきまでの薄暗い雰囲気が一気に吹き飛んだ。
とことん楽しく過ごす夜は、あっという間に過ぎてしまうものだ。
村人も一人二人、広場から家路についた。
村人にはそれぞれ沢山の土産を持たせた。
残った食料を、丁寧に木箱へと詰めているエポナさん。
これは宴の後の儀式のようなもので、今までも後片付けの度にやっていた。
私はこの様子を別段疑問には思っていなかった。
「ねえー、エポナさんは、いつもそうやって木箱に食べ残しを詰めているけど、それどうしてるのー」
ティンクは不思議に思っていたみたい。
「これはね、気が向いた時に私がいただいてますの。普段は、何もしなければ牧草だけで十分なのですよ。今は分身がいっぱい働いていますので、その分のエネルギー補給が必要ですの。ぜーんぶ私がいただいてますわ」
ここで一番の大食いは、フェンリルでもルシファーでもなく、エポナさんだった。
そうこうして、ああだこうだ・すったもんだ、ベルゼビュートの人助け世直し旅が始まってから、かれこれ早いもので二週間が過ぎた。
私達はこの旅に付き添う従者という設定になっていて、村の周辺にはびこる魔獣を退治したり、調理したり、宴会の準備をしたり、食べまくったり、毎日楽しく働いている。
ベルゼビュートの御助け旅は噂が噂を呼び、行く先々で何時も歓迎のお祭り騒ぎだ。
その度に恵の雨を振らせ、実りの奇跡を起こし、ベルゼビュート教の信者は加速度的な右肩上がり。
嘆いてばかりいた村人の顔にも笑みが戻り、深く感謝されての旅は実に気分が良い。
動き回っているのに疲れを感じないでいられる。
随分と有難い毎日だ。
今夜も村で奇跡の収穫祭兼ベルゼビュート様御一行歓迎会。
良い気分になっていると、馬車から麒麟の子が起き出してきた。
「な、な、な、何だその生き物は、麒麟ではないのか」
フェンリルがびっくり仰天、腰を抜かしてあたふたする。
「はい、子麒麟で御座います。フェンリル様は初めての対面でしたわね。迷子になっていたのを私達が保護いたしましたの」
「黄麒麟には伝えたのか」
「今は反宇宙に行っていますので、私達から連絡する事はできません」
「そうであったな。奴め、これを見たら腰を抜かすぞ」
腰が抜けたのはフェンリル、貴方です。
「黄麒麟様からの定期連絡の際に報告していただくよう、しずちゃんに頼んであります」
「ふははは、それは楽しみよのう」
こんな宴の最中、酔ったベルゼビュートが自慢げに一本の槍を持ち出してきた。
「ルシファー様、覚えてますか。ルシファー様からいただいたアスカロンの槍ですよー。これは今でも自分の宝っす」
そう来られたら、私達にも自慢しなければならない御宝がある。
私とルシファーで二本のシェルリル刀、エポナさんのシェルリル包丁、そしてティンクが持っているシェルリル針剣。
これを掲げて四人が並んでポーズ&記念撮影。
何でフェンリルがバックに写り込んでるのよ。
「あと、シェルリル短剣を黄麒麟様が持ってるよ」
特に作者のティンクは誇らしげだ。
シェルリル針剣て、いったい何に使うんだ?
「‥‥‥いいなー、それ」
これまで威勢の良かったベルゼビュートが、しぼんだ風船のようにしゅんとなって項垂れてしまった。
「そうだ、しずちゃんとシェルティーさんに連絡して、シェルリル剛を持って来てもらってよ。そしたら、あたしがアスカロンの槍にシェルリルを巻いてあげる」
「アスカロン・シェルリルか。驚異的な槍になるね」
私も完成品を見てみたい気持ちはあるから、励ましの意味を込めて共感した。
持って来てもらうより、送ってもらった方が早くないか。
「なんという有難い申し出、感謝いたします」
ベルゼビュートではなく、ルシファーが有難がっている。
ベルゼビュートに関係して良い事があると、ルシファーは自分事のように喜ぶ。
エポナさんが、しずちゃんに連絡してから三日が過ぎた。
夕食時だけ手土産の魔獣を持って現れ、腹いっぱいになると帰ってしまうフェンリルが、珍しく長尻している。
今日は熱かったので、生ビールが一際美味しいようだ。
ゲップが出る度に周りを見回す。
ゲップが恥ずかしいんだな。
鼻先が赤く色付いているのは、酔っているからだけではないと見た。
毛むくじゃらで顔の色合いはよく見えないけど、たぶん鼻先より赤くなっている。
ここへ休日返上のしずちゃんが、超高価なシェルリル剛を持ってきてくれた。
誰が代金を支払ったんだ。
金の出所は不明のままだ。
慌てたのはベルゼビュートだ。
隠れようにも広場の真ん中で、祭壇の上に祭られているからどうする事も出来ない。
私達もあたふたしたけど、そこは気心が知れたしずちゃん。
私達の最終目的を知ってか知らずか、ベルゼビュートを無視してフェンリルとビールの飲み比べを始めた。
この戯れを良い事に、ベルゼビュートは祭壇から下りて私達と一緒に飲み始めた。
自分はベルゼビュートではないぞといった顔をしているけど、骸骨の模様入り四枚羽がしっかり名刺代わりになっている。
この日、しずちゃんが持って来たのはシェルリル剛だけではなかった。
黄麒麟さんが博物館に置いて行った短剣も持ってきていて、これは、まだ素性の知れていない子麒麟に託された。
ティンクは職人芸を披露しながら、シェルリルとアスカロンを組合わせ、驚異的な槍を作り出した。
披露しながらとしたけど、正直言って動きが速過ぎた。
誰も何も見えなかった。




