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配当は3000万円か?

 エポナさんは中身の確認もせず、麻袋を自分のクローゼットに放り込んだ。

「ところで、なんですかこれ」

 私は麻袋を指さして、ルシファーの目をじっと見る。

「そうか、なっちゃんは始めてだものね。異世界司書団への報酬ですよ」


 理解不能。


「報酬?」

「そう、滞納していた会費は払ってあるから、全額配当分です」

「だから、その配当とか報酬って」

「異世界司書さんのアルバイトですよ。会費の回収以外に何等かの問題解決に協力すると、その国から報酬が出るんです。今回は話が四界にまたがっている大事だったので、四界の長が集まってからの協議で支給額の決定に時間がかかっちゃいましたけど、普通は解決した時点で即金払いが原則になってます」

 ずっと以前、エポナさんが言っていた「そのうちに分る」ってアルバイト。これの事だったのか。


「なっちゃーん、元気になったー」

 気を使って静かにしているのかな。

 ブーンをゆっくりにして、部屋に飛んでくるティンク。

「うん、もう元気。心配してくれてありがとうね。浄化結界を運んでくれたんだね。ご苦労様」

「精霊界は気持ちよく協力してくれたよ。元々、命の樹はいっぱいあるんだけど、魂が宿るのには千年くらいかかるから、それに比べたら浄化結界の方がずっと早いんだよ」

「その、命の樹ってどんなものなの」

「えー、知らないであの指示出してたのー」

「と言われても、あの時の記憶が途中からないのよ」

 これにはティンクも以外といった顔つきだ。

「命の樹はね、それこそ私達の命なの。命の樹の数だけ精霊がいて、命の樹と一緒に成長するの」

「それって、生死を共にするとかっていう感じのやつ?」

「違うよ。命の樹が枯れたら、私達は別の樹に乗り換えるだけ。命の樹がいっぱいあればあるほど、活動できる精霊が増えるの。樹に乗れない精霊は休眠中なんだよ」


 そうこう話していると、ルシファーがティンク分の配当を持って来た。

「はい、これ配当ね」

「うっわー、いっぱいあるね。ありがとう」

 早速ガレージにしまい込む。

 さすがに、精霊の箱庭に置いておくのは俗っぽいわね。 

「しずちゃんは何時頃に帰ってきますかね」

 ルシファーが、部屋の壁にもたれかかっている大きな古時計に目をやる。

「配当が入ったと呼べば、お酒を放り投げてすぐに来ますわ」 

 エポナさんが、やけにはっきり言ってくれる。

「しずちゃーん、配当だよー」

 ルシファーの念話が届いた途端、しずちゃんが現れた。

「ルシファー、あんられも良いころするろねー」

 置かれてあった麻袋をクローゼットに放り込む。

「これで全員集合だね。別室で話があるんだけど、一時間くらいしたら集まってくれるかな」

「黄麒麟様いないよ」

 ティンクが不思議そうにする。

「その件も含めて、今後の事を話したいんだ」

 こう言ってルシファーは部屋から出て行った。


「ところで、配当って幾らくらい入ってるんですかね」

 私には始めての異世界アルバイト収入。

 とっても気になる。

 エポナさんがヒョイと麻袋を持ち上げる。

「小金貨で300枚ほどでしょうか。金庫に入れておきましょうか」

 300枚×100000円=3000万円‥‥。

「御願いします」

 慌ててクローゼットを出した。

 ところで、私ってば金庫なんて持ってなかったけど。

「エポナさん、金庫にしまうって、私金庫なんか持ってないですよ」

「支度金の入っていたケースを、耐火金庫に作り変えましたわ」


 寝る前にやる事は一通り済ませ、指定された部屋に行くと、そこには炬燵が置いてあった。

 部屋のつくりが私のと一緒で、二・三歩で何処へでも移動できる辺りまで似通っている。

 広い城を持っているのに。

 わざわざ狭い日本家屋の間取りを真似しなくてもいいよね。

 炬燵部屋の隣には、壁なしで台所がある。

 エポナさんが使いやすいって言った、システムキッチンも同じにしている。

 懲りようが尋常じゃないな。


「皆さん御集りですね。では始めます」

 ルシファーが一言言う間に、エポナさんは台所にあった端材を使って、ちょっとした肴をサッと作り出す。

 しずちゃんは、どこからともなくお酒を引っ張り出してくる。

 人様の家だという意識をこの二人からは感じ取れない。


「まず黄麒麟様ですが、神界での話し合いが終わってから、異世界博物館へ戻って、ズーボラさんに色々引き継いでから旅立たれました」

「えっ、黄麒麟様、死んじゃったの」

「テーィンク、ひろの話はれんぶ聞きなさいよー。その旅だったじゃなくれー、ろこかへ行ったの旅立ち」

 とか言ってるしずちゃん、人の話がまともに聞ける状態じゃないだろ。

 酷い酩酊ぶり。

 意識がどっかへ行っちゃってる。

「どこへ行ったかと言いますと、反宇宙の方に向かわれました」

「始まったのですか?」 

 台所からエポナさんが小走りで五歩、炬燵に足を入れると心配そうな顔で質問する。

「まだ、そこまでは行ってないようですが、怪しい動きがあるとかです。したがって、黄麒麟様はパーティーから離脱しました」

 ルシファーが一息入れる。


 ティンクの前にチョコレートがあるのを発見。

 エポナさんの持ち込みお菓子ー。

「いいなー、それ」

「ダメ、あげないよ」

 そんな事より、私には知らなければならない事がある。

「何が始まったんですか」

 この中で、黄麒麟さんが反宇宙とかいう所に行った理由を知らないのは私だけだよ。

「長くなりますので、あとで私がお教えいたしますわ」

 エポナさんが別で話してくれるという事は、この場で話すには不向きなほど長い話になるって事で。

 知らないままでも良いかな。

「あと、今回こちらに来ていただく前からの決定事項でありました、しずちゃんの昇進ですが、本日只今付けで辞令が交付されます」

 ポッと中空に、筒状のリボンで縛った書簡が現れる。

「これで、今日からしずちゃんが異世界博物館の館長です」

「ちっとまれよ、お前と勝負して勝ったらの話りゃなかっらか、それっれ」

 しずちゃん、寝ちゃった方がいいと思う。

「今の僕が、貴方に勝てるわけないでしょ」

 ルシファーの意見はもっともだけど、それは素面の場合だ。

 今なら勝てる。

 

「黄麒麟様が旅の途中なら、辞令は誰がお出しになられたのです」

「はい、黄麒麟局のズーボラさんです」

「さようでございますか。しずちゃん、これから百年は貴方が館長ですわね。期待していますわよ。ほほほほ」

 エポナさん、人が悪い笑顔だよ。

「ちっょと待て」

 しずちゃんがねクローゼットの中から刀を取り出した。

 酒癖悪ー。

 危険だよ。

「これ、私にはもう不要だわ。あんたにあげる」

 ルシファーに抜いた剣先が向いている。

 とても友好的なプレゼントには見えない。

「いいんですか、酔っていたからとか言って、後で返せはなしですよ」

「私に二言はない!」

 鞘に収められた刀が、ルシファーに渡される。

 一安心、刃傷沙汰は回避された。 


「と言う訳で、僕は今から、なっちゃんと同じパーティーの一員となります。どうぞよろしくお願い致します」

 深々と頭を下げるルシファー。

「お城はどうするのー。もったいないなー、あたしにちょうだい」

「ティンクには大きすぎるでしょ」

「んー、それもそうだね」

「城は後を引き継ぐ者が管理するでしょう」

「後継者はお決まりですの」

「いえ、そのうちに決まりますよ。力尽くの世界ですから」

 戦争とか始まらなければ良いけど。

「これで、私からの連絡事項は総て終わりました。皆さんご苦労さまでした」

「ホーイ、私は寝るよ」

 しずちゃんが一抜けした。

「あっ、もう帰還してもいいんですけど、どうします」

「あたし帰るー」

 ティンクは正直だ。

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